栄養スコアとの区別が課題
食品環境ラベル、欧州でルール化へ(2)

2022年5月19日

食品の環境スコア表示ルール化が欧州でどう進んでいるのか。前編「食品環境ラベル、欧州でルール化へ(1) 気候変動などスコア表示も」では、欧州での政府・消費者などの動きと、それに対するアジアなどでの反応を紹介した。

続く本稿では、欧州小売業で環境ラベルがどのように試験導入されているのか、そこから得られた消費者の反応が企業目線でどう受け止められているのか、を取り上げる。あわせて、食品輸出に取り組む日本企業へのヒントを探る。

気候変動以外を含むスコア化や商品包装への直接表示を求める声

前編では、食品の環境ラベルを試験導入するプロジェクトについて取り上げた。当該プロジェクトは18件あり、欧州の小売りなど民間企業が参加している。また、プロジェクト期間終了後も、期間中に準じて消費者の反応をみることができる(試験導入プロジェクトに未参加企業も同様)。そうした企業の中には、環境ラベルの試験導入時の消費者からの反応や、それに基づく気付きなどを自社ウェブサイトで紹介するところがある。

フランスの小売り大手カルフールが、その一例だ。自社プライベート・ブランド「カルフール」(注1)などの食品にエコ・スコアを試験導入(2021年6月)し、消費者からの反応について発表した(2021年11月)。消費者の意向はアンケート(注2)と個別ヒアリングで把握された。

エコ・スコアに基づくスコア表示の印象について尋ねたところ、回答者の88%が「良いアイデア」と評価した。また、エコ・スコアによる、食品による環境へのインパクトに関する情報の種類については、54%が「(気候変動への影響だけでは)不十分」との回答だった。分析対象に加えるべき情報としては、「農薬(の利用状況)」「動物福祉(アニマルウェルフェア)」などの回答が目立つ。さらに、見やすくスコア表示する上で適切な場所としては、「(直接)商品パッケージ(に表示)」(84%)の回答が最も多かった。この回答は、「カルフールの電子商取引(EC)サイト」(24%)や「専用アプリ(の新設)」(18%)を大きく上回った(複数回答)。同社はこれらの結果を受け、別途実施しているプラネット・スコアの試験導入を進めていく。その上で、最終的には今後政府が制定する環境ラベルを導入するとしている。

表示複雑化の弊より、消費者に提供する食品情報の多様性を優先

環境スコア表示の試験導入プロジェクトに参加したのは、カルフールにとって何が懸念材料で、結果として何が得られたのだろうか。

フランスでは、栄養スコア表示制度「ニュートリ・スコア(Nutri-Score)」を2017年から導入済みだ。これに対応し、同社は食品のパッケージに緑・黄・赤をベースとした5色の栄養スコアを表示させている。また、同社のECサイトには、料理レシピアプリ「イニット」(Innit、注3)も導入していた。このアプリ上で栄養成分やアレルギーなど原材料に関する条件を入力しておくことにより、利用者の特性や食生活などに合わせて表示スコアをカスタマイズでき、利用者ごとに最適な調理方法を提案する。そのカスタマイズされたスコアが、同アプリ登録者の同社ECサイトの商品ページに直接表示される仕組みだ。そこにエコ・スコアを導入すると、1つの食品に複数のスコア情報が表示されることになってしまう。それが消費者を混乱させてしまうのではないかとの懸念が当初、同社にあった。

しかし、同社が消費者から意見を集約したところ、消費者がそれぞれの食品の環境負荷(インパクト)情報に強い関心を持っていることがわかった。そのため、消費者が異なる複数のスコアを見分けなければならないとしても、食品に関する豊富な情報を消費者に提供する必要があると考えた。実際、栄養スコアが高くエコ・スコアが低い食品もあれば、その逆もある。「栄養」と「エコ」のどちらの高スコアを重視するか、食品によって消費者の購買行動が異なることもあった。エコ・スコアの導入により、そういうことがあぶりだされてきた。

その上で、以下3点について認識できたことは、同社がプロジェクト実施前には想定していなかった「収穫」だったとした。

  • 追加導入により、(複数種類のスコアが並び)確かに複雑になった。しかし、同様の表示としてニュートリ・スコアが先行導入されていただけに、エコ・スコアの仕組みにも消費者の理解が早かった。
  • 食品の生産地を重視する人や、販売店までの輸送手段を重視する人など、人によって重視する基準が異なる。このように、環境インパクトの評価は従来、ばらばらだった。それを数値化することにより(1つの基準で)わかりやすく定義できるようになる。
  • 消費者は、スコア表示の信頼性(第三者によるスコア化)を重視している。

環境負荷大の食品ECだからこそ、環境スコア表示を要導入

カルフールは食品などでEC事業を展開する。同社が目指すのは、オンライン販売のグローバルリーダーだ。そのため、消費者による購入から配送までEC事業全体で、2030年までにカーボンニュートラル(注4)を実現する目標を掲げる〔同社「デジタル販売戦略2026」(2021年11月発表)〕。他方、「EC(の利用)は、調達、倉庫(での保管)、配送、販売までのバリューチェーン全体への環境負荷が非常に大きい」(同社情報)。そのため同社は、イニシアチブ「持続可能なEC」を立ち上げた。政府、企業、消費者などのステークホルダーとともに、EC販売でカーボンフットプリントを減らす対策を検討してきたわけだ。その対話の中から出てきた最も有効な対策の1つが、食品による環境負荷のスコア表示導入だった。

カルフールの温室効果ガス(GHG)排出は、その98%がスコープ3(注5)で発生する(2019年時点)。そのうち72%は、店舗で販売する商品やパッケージに由来する。同社はサプライヤーから排出される二酸化炭素(CO2)を、2030年までに20メガトン削減する目標を設定している。同社は2022年2月、ペプシコ(米国)や20社以上のグローバル・サプライヤーとともに共同開発したオンラインプラットフォームを発表。このプラットフォームを通して、すべてのサプライヤーの排出削減の取り組みの進捗を可視化して、削減につなげるねらいだ。食品サプライヤー(による生産、輸送、包装など)で排出削減が進むと、カルフールで販売される環境スコアの高い食品の選択肢が増えることになる。

環境スコアの高さ、購入の決め手に

同様の食品の環境スコア表示の試験導入は、他国でも進められている。リドル(ドイツのディスカウントスーパーマーケット)は2021年6月から、ドイツ・ベルリンでエコ・スコアを試験的に導入済み。その対象は、コーヒー、茶、乳製品、牛肉、ピザなど約140商品だ。あわせて、それら消費者にアンケート調査(注6)を実施。その結果を2022年2月、発表した。

エコ・スコアのラベルを認識している人は全体の29%いた。そのうちの49%がエコ・スコアを(同様に、色別に5段階でスコア評価される)栄養スコア表示のニュートリ・スコアと区別し、正しく理解していると回答した。ただ、エコ・スコアを認識している人の34%は「栄養スコア表示と混同した」と回答。そのため、リドルは「(色別5段階スコアという)基本コンセプトは維持しつつも、ニュートリ・スコアとの混同を避けるため、それとは大きく異なるデザインにすべき」と提案している。また、「スコア表示の評価項目やその構成に関する情報が明示されていないことを指摘する消費者がいた」とも指摘。それらについて、わかりやすい説明が必要ともした。

また、エコ・スコア、価格、商品そのもの(の品質やブランド)など、購入要素を尋ねたところ、エコ・スコアがB以上(注7)の商品では、(スコアC以下の同品目に比べ)エコ・スコアが購入選択にあたっての決め手になる傾向が顕著に表れたという。ただし、購入時に商品そのものや価格を重視する消費者にとっては、購買行動にエコ・スコアがほとんど影響を及ぼさないこともわかった。エコ・スコアは特に、子供を持たない若い世帯や39歳以下の若い世代の消費者の購買行動に最も大きな効果があったとまとめている。

同社はドイツ以外でも、エコ・スコアの導入を進める。2021年8~10月にはオランダの一部店舗でも試験導入。また、2021年10月からは、英国・スコットランドでも、コーヒー、茶、ホットチョコレートなど50以上の商品を対象に実施した。後者の契機は、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)だ(会議は、同地のグラスゴーで、2021年10月31日~11月13日に開催された)。さらに、フランスでは2022年に、牛乳、卵、牛肉、ジャガイモ、リンゴ、バナナ、砂糖の7品目の一部商品を対象に、プラネット・スコアを試験導入する予定という。

早めの対応で、リスク回避だけでなくビジネスチャンスに

既述の試験導入結果を踏まえる限り、今後導入される食品の環境スコア表示制度は、以下のようなイメージに近いのかもしれない。

  • 気候変動への影響は、食品のライフサイクル全体を通して排出されるGHG排出量などで評価される。
  • GHG排出量のほか、食品生産過程での農薬使用、動物福祉などについても加味される。
  • その総合評価がスコア表示され、その評価方法に関する説明を消費者が確認できる仕組みになる。

仮にそうなると、自社だけでなく、サプライチェーンを通じて排出されたGHG排出などの可視化が求められることになる。

この取り組みはフランスが皮切りになるとみられ、本格導入が2023年に予定されている。それまでまだ少し時間があるにせよ、早晩、他のEU加盟国やEU全体で一気にルール化が進む可能性がある。スコア表示など食品による環境ラベルは、独自に導入している企業にとっては、他社との差別化のツール、つまり「プラスアルファ」として捉えられていた面があるかもしれない。しかし、今後、制度として定着されると、欧州市場参入を果たす上で「必須条件」に切り替わることになる。

さらに、食品環境ラベルが欧州で制度化された場合、欧州以外の国で「欧州ルール」を「輸入」する国が現れるかもしれない。そして、試験導入した欧州小売りはグローバル展開済みのところも多い。そうしてみると、その経験やノウハウを欧州以外の店舗で共有しやすいことになる。つまり、アジアなど欧州以外の国・地域でも、消費者が導入を望みさえすれば、同様のルールが一気に整備される可能性があることを忘れてはならない。

食品を輸出する日本企業は、まずは欧州でのルール化の動きを注視する必要がある。その上で、試験導入した欧州事業者の現場での取り組みを参考に、進められる準備を少しずつでも進めるのが得策だ。「欧州ルール」にしっかりと対応することで、欧州市場から締め出される「リスク」だけは回避しなければならない。さらに(スコア表示で)高スコアを獲得できるようになると、自社のビジネスチャンスにつながるだろう。


注1:
プライベート・ブランド商品「カルフール」は、フランス国内でオンライン販売されている。
注2:
「カルフール」を販売するに当たって、オンライン上で実施。対象になった利用者1,171人。調査期間は2021年7月20~28日。
注3:
同アプリの開発者は、米国のスタートアップのイニット(Innit)。カルフールは同社と連携し、同アプリをカルフールのECサイトに導入。カルフールのECサイト利用者のうち、同アプリ登録者数は7万8,000人以上(2021年7月時点)。
注4:
グループ全体では、2040年までのカーボンニュートラル(スコープ1と2)が目標。
注5:
GHG排出量の算定・報告基準の1つ。 スコープ1では、事業者自らによるGHGの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)を対象にする。スコープ2では、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出だ。さらに、スコープ3では、スコープ1とスコープ2以外の間接排出(事業活動に関連する他社の排出)にまで踏み込む。
注6:
コーヒー、茶、牛乳のいずれかを購入した1,000人(8割がリドルの顧客)に対してオンラインで実施。調査実施時期は2021年夏。 なお、同社は実店舗で、消費者に専用の装置を装着して買い物時の視線計測(アイトラッキング)を行う調査なども併せて行っている。
注7:
具体的には、AまたはB。エコ・スコアは、Aを最上位に、Eまでの5段階で表示される。

食品環境ラベル、欧州でルール化へ

  1. 気候変動などスコア表示も
  2. 栄養スコアとの区別が課題
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。