地域密着型商社、FTAを活用してサバやイナダをベトナムに輸出
ファーストインターナショナルの取り組み(青森県)

2022年4月18日

青森県八戸市の地域密着型の貿易商社として、冷凍水産物や生鮮農産物の輸出や、建築用木材の輸入といった海外ビジネスに取り組むファーストインターナショナル(本社:青森県)。同社の桜庭雅紀常務取締役に、同社の海外展開に関して、特に近年輸出が拡大しているベトナムとの貿易を中心に経緯や現状を聞いた。また、海外と貿易をする上での経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(以下、FTA)活用への取り組みについても聞いた(取材日:2022年3月24日)。

質問:
貴社の事業内容、海外展開は。
答え:
当社は1994年に八戸商工会議所青年部を中心に設立された地域密着型の貿易商社。1994年に東北地方で初めてとなる国際定期コンテナ航路が八戸港に開設されるにあたり、商社機能を持った地元企業がなかったため、地元で商社を作ろうとなったことが設立の契機である。現在では、ベトナム向けのサバ、イナダといった冷凍水産物のほか、リンゴ、ナガイモなどを中心に輸出し、また輸入は建築用木材(カナダ産など)、タマネギ、ワインなどを中心に取引している。

国内消費用の冷凍水産物をベトナムに輸出

質問:
輸出はベトナム向けが多いとのことだが、現状は。
答え:
ベトナムの水産卸企業(インポーター)に対し、冷凍サバ、冷凍イナダなど冷凍水産物を中心に輸出している。インポーターは、北部(ハノイ、ハイフォン)、中部(ダナン)、南部(ホーチミン)の複数の企業にそれぞれ輸出している。輸出量としては、ハイフォンとホーチミン向けが多い。輸出した商品はベトナム国内で消費されており、国内の小売りや工場の労働者向け給食用(サバ)として使用されている、とインポーターからは聞いている。

冷凍サバ
(ファーストインターナショナル提供)

イナダ(凍結前)
(ファーストインターナショナル提供)

リスク管理で輸出先の多角化を目指したことが契機

質問:
ベトナム向け輸出が始まったきっかけは。
答え:
ベトナムとの取引が始まったのは10年ほど前。当時、自社の冷凍水産物の輸出先の大半が中国向けだった。経営上のリスク管理として、輸出先が特定の1つの国に偏るのはよくないと考え、中国以外の国の開拓に取り組んだ。

取引先開拓は1社1社、地道にアプローチ

質問:
新規の取引先はどのように開拓したのか。
答え:
取引先探しの方法としては、自社で候補企業をネットで探し、直接コンタクトをとった。その他、県の事業でベトナムに出張し、水産を扱う会社を訪問するなどもあったが、ほとんどは自分たちで探し、1社1社、地道にアプローチした。
ベトナム以外にも、フィリピン、タイ、スリランカなどさまざまな国の会社にコンタクトをとったが、結果的にベトナムとの取引が増えた。ベトナムの企業の方が他国と比べてレスポンスの割合が多く、話がしやすかった。その他、ベトナムとの取引が増えた間接的要因としては、輸出統計上、日本からのサバやイナダの輸出単価が東南アジアのなかでは、比較的高いということもあると考えている。

輸出・輸入ともにFTA/EPAを活用

質問:
ベトナムを含めた貴社のFTA/EPAの活用状況について伺いたい。
答え:
FTAは輸出・輸入それぞれで活用している。輸出では、ベトナム向けで日ベトナムEPA(2009年10月発効)、フィリピン向けでは日フィリピンEPA(2008年12月発効)を活用。利用品目は、ベトナム向けは冷凍水産物(サバなど)、フィリピン向けも同じく冷凍水産物(イナダ)が利用品目に該当する。1カ月あたりの活用頻度としてはベトナム向けが最大だ。
一方、輸入では、カナダからの輸入でTPP11(CPTPP:環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定、2018年12月発効)、ドイツとギリシャからの輸入で日EU・EPA(2019年2月発効)、オーストラリアからの輸入で日豪EPA(2015年1月発効)をそれぞれ活用している。利用品目では、カナダ、ドイツは建築用木材と合板、ギリシャはワイン、オーストラリアはタマネギがそれぞれ該当する。活用頻度としてはカナダからの輸入が最大である。

カナダからの輸入製材(ファーストインターナショナル提供)
質問:
EPA/FTA利用のきっかけは。
答え:
貿易に関して、特にカナダからの輸入は20年以上前から行っているが、EPAの活用自体は比較的最近である。輸入に関しては、通関業者や輸出業者からの情報でその存在を教えてもらい活用し始めた。輸出に関しては、輸入業者からの要望に基づき活用し始めた。
質問:
FTA/EPA利用にあたって、一番のメリットは。自社のビジネスにとってEPAをどう位置付けているか。
答え:
一番のメリットは関税が下がり、価格が下がることである。これは、輸入に関しては、直接自社の利益に直結する。他方、輸出に関しては、自社の価格は変わらないので直接的な影響はないといえる。また、輸出に関しては、自社の取り扱う品目については国内の同業者もEPAを活用しているため、EPA活用の有無が、すぐに他社との差別化・競争優位要因に直結しにくい。ただし、外国で自社の取り扱い製品が売られる際に、価格面で他国産の競合製品との競争で有利になったり、その差が縮まったりなど、間接的な影響が生じるという認識だ。
さらに輸出においては、輸出者側のEPAの対応可否だけで商談が決まるということはなく、「青森産のリンゴが良い」「日本の魚が良い」など、まず、その商品自体の強みがあることによって海外に商品が売れている、と認識している。
質問:
FTA/EPA利用上の課題はあるか。
答え:
ベトナムのインポーターから、冷凍サバの輸出にあたり、日ベトナムEPAで適応されるHSコード(HS2007年基準)と、ベトナム側の現行のHSコードが異なるので特定原産地証明書に記載のHSコードを現行のものに一致させてほしいというリクエストがこれまでに複数回あった。同EPAは、あくまでもHS2007年基準に従うため、毎回その旨説明する必要があった。
その他、FTA活用については、第三者証明を活用する際、特定原産地証明書を日本商工会議所に発行してもらう必要がある。細かいところであるが、発行された証明書はレターパックで郵送してもらっているが、1件1件だと大したことではないが、全体ではコストが高くなる。
電子化など、もっと簡素化できれば利用者側としてはありがたいと感じる。
TPP11など、輸出者による自己申告制度が活用できる協定があるのは把握している。自社として、手続き面のコスト削減のため、輸入先にそういったEPAの活用は可能なのか、ひとまず聞いてみるというスタンスをとっている。ただし輸出に関しては、あくまでも輸入者側の要望に応じての活用になるというのが現状だ。

冷凍サバをコンテナに積み込んでいる(ファーストインターナショナル提供)
質問:
今後の海外展開戦略について
答え:
冷凍水産物の輸出に関しては、1カ国に依存している状況から脱しようとベトナムなどの市場開拓を進めたが、現在、ベトナムの比率が高まってきている。そのため今後は、ベトナム以外の国への輸出も拡大していきたい。冷凍水産物以外の商品も、輸出先の分散は必要と考えている。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
三木 貴博(みき たかひろ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部海外見本市課、ものづくり産業部ものづくり産業課、ジェトロ岐阜を経て2019年7月から現職。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。