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カリフォルニア州サプライチェーン透明法の概要と執行状況
「サプライチェーンと人権」に関する主要国の政策と執行状況(1)

2021年6月10日

米国では近年、人権の観点から輸出規制や輸入規制を強化する動きが活発化している。トランプ前政権時には、中国の新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由とし、関係団体を輸出管理規則(EAR)に基づくエンティティリスト(EL)に追加して輸出規制を強化した。さらに2021年1月からは、新疆ウイグル自治区での強制労働を理由に、同自治区に由来する綿製品、トマト製品の輸入が全面的に留保されている状況だ(202年1月15日付ビジネス短信参照)。前政権につづき、バイデン政権も2021年3月に発表した通商政策方針で、強制労働に基づく製品の輸入を認めず、企業の説明責任を高めると記載し、人権を重視する姿勢を明確にしている(2021年3月3日付ビジネス短信参照)。

こうした流れに先駆け、カリフォルニア州では、サプライチェーンにおける奴隷労働および人身売買に関するリスク評価・対応のための監査などを企業に義務付けるカリフォルニア州サプライチェーン透明法[California Transparency in Supply Chains Act of 2010(CTSCA)]が2010年に成立し、2012年1月1日から施行されている。本稿ではCTSCAの内容と執行状況について概説する。

CTSCA の概要、対象事業者

CTSCAは、大規模な小売業者や製造業者が、(1)自社のサプライチェーンから奴隷労働や人身売買を根絶するための努力に関する情報を消費者に開示し、(2)責任を持ってサプライチェーンを管理している企業が製造した商品を販売していることを知らせ、(3)これにより奴隷労働や人身売買の被害者の生活を改善することを目的としている。

CTSCAの規制対象となる事業者は、(1)カリフォルニア州で事業を行い、(2)全世界で年間総収入1億ドル以上を得ている、(3)小売業者と製造業者である。「カリフォルニア州で事業を行う」とは、経済的・金銭的な利益を目的とした取引を積極的に行うことを意味し、具体的には以下のいずれかに該当する場合をいう。

  1. カリフォルニア州で設立されたか、あるいは、同州内に商業上の住所を有する
  2. カリフォルニア州における売上高が50万ドル、あるいは、総売上高の25%を上回る
  3. カリフォルニア州における不動産や有形資産が5万ドル、あるいは、当該事業者が所有する有形不動産合計の25%を上回る
  4. カリフォルニア州における従業員への給与総額が5万ドル、あるいは、事業者が支払う全従業員への給与総額の25%を上回る

ホームページ上での情報開示が義務付け

CTSCAの規制対象となる小売業者と製造業者は、少なくとも以下の各項目について実行の有無と程度を情報開示しなければならないとされている。

  1. リスク評価
    人身売買や奴隷労働のリスクを評価し、対処するために、製品のサプライチェーンの検証を行う。検証が第三者によって行われていない場合は、その旨を明記する。
  2. 監査
    サプライチェーンにおける人身売買と奴隷労働に関する会社の基準に対するサプライヤーのコンプライアンス順守譲許を評価するために、サプライヤーの監査を実施する。独立した抜き打ち監査でなかった場合は、その旨を開示の際に明記する。
  3. 法令順守の証明
    製品に組み込まれる材料が、事業を行っている国の奴隷労働と人身売買に関する法律を順守していることを証明するよう、直接のサプライヤーに要求する。
  4. 社内基準・手続き
    奴隷労働と人身売買に関する会社の基準を満たせない従業員や請負業者に対して、社内で説明責任を果たすための基準と手順を維持する。
  5. 社内教育
    サプライチェーン管理に直接責任を持つ会社の従業員および経営陣に、特に製品のサプライチェーン内のリスクを軽減することに関して、人身売買および奴隷労働に関する教育を提供する。

CTSCAに基づく情報開示は、小売業者または製造業者のインターネット・ウェブサイト上に掲載されなければならない。また、必要な情報へのリンクは、当該事業者のホームページ上で目立つように、かつ容易に理解できるように設置されなければならない。小売業者または製造業者がウェブサイトを持っていない場合は、消費者から書面による開示要求を受け取ってから30日以内に、消費者に書面による開示を提供しなければならないとされている。

実際に、ウォルマートやターゲットなどの大手小売業者、トヨタやユニクロなどの大手製造業者のホームページでは、CTSCAに基づく情報開示が行われている。

CTSCAのエンフォースメントの実態

CTSCAのエンフォースメント(執行)については、カリフォルニア州司法長官が管轄する。同州司法長官は、CTSCAに違反した企業に対して裁判所への強制履行命令(Injunctive Relief)の申し立てをすることができる(注1)。ただし、司法長官の権限は裁判所への強制履行命令(Injunctive Relief) の申し立てのみとなっているため、CTSCAに違反したことに対する金銭的な罰則規定は存在しない。

具体的なエンフォースメントの事例として、司法長官は2015年4月、小売業者や製造業者に対してCTSCAに基づく開示を促すレターを送付した。同レターの概要は以下のとおり。

  • カリフォルニア州司法省は、小売業者や製造業者によるCTSCAに基づく情報開示のコンプライアンスレビューを行っている。
  • 本レターは受領者のCTSCAの順守状況や違反を判断するものではないが、本レターの受領者はCTCSAの適用対象となる可能性がある。カリフォルニア州で事業を行い、全世界で年間総収入1億ドル以上を得ている小売業者と製造業者はCTCSAに基づき情報開示をしなければならない。
  • 本レター受領者は、CTSCAに基づく情報開示を行っている場合はその内容とホームページのリンクを、情報開示を行っていない場合は開示対象外であることを示す情報を本レターの発行日から30日以内に司法省に報告しなければならない(注2)。
  • 司法省は今後数週間のうちにCTSCAを順守するうえで考慮すべき推奨事項を記載した情報リソースガイドを発行する予定(注3)。

CTSCAが施行された2012年1月から現在に至るまでの同州司法長官によるエンフォースメントの実態について調査したところ、前述のレター以外にエンフォースメントの行動が取られた事実は確認されなかった。

しかしながら、バイデン政権下で人権重視の流れが加速する中で、今後、同州司法長官がCTSCAの積極的な執行に乗り出す可能性もある。カリフォルニア州で事業を行う日系企業は、自社がCTSCAの適用対象に該当するか否か検討し、該当する場合は速やかにCTSCAに基づく開示を行うことが求められる。


注1:
司法長官は、CTSCAに違反している企業に関する通報窓口外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを設け、情報提供を受け付けている。
注2:
司法長官は、CTSCAに関する企業からの報告を受け付ける報告窓口外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを設け、通年で運用している。
注3:
2015年4月13日にCTSCAの情報リソースガイドPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(915.78KB)消費者への警告文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(155.29KB)が公表された。
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所
永田 光(ながた ひかる)
2010年、財務省入省。2020年8月からジェトロに出向、現職。

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