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児童労働規制が先行、より広範な人権デューディリジェンス法案の審議へ(オランダ)
「サプライチェーンと人権」に関する主要国の政策と執行状況(7)

2021年6月11日

オランダでは、世界、特にEUによる人権デューディリジェンスの法制化の流れを受け、その国内法制化に向けて動いている。

児童労働の撤廃に向けた法制化が先行

オランダ政府は、2014年ごろから産業界に対し、企業活動を通じて人権や環境に関する悪影響が起きないよう、ビジネス行動責任協定〔Responsible Business Conduct (RBC) Agreements〕外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを市民社会組織や労働組合、政府と結ぶよう奨励している。協定は、衣料品、繊維、銀行、食品を含む9つのセクターで締結されている。政府は、企業に説明責任や負担を負わせることについて、協定への参加は任意とする。義務として要求するのではなく、奨励し自主的に行動させようという伝統的なアプローチ方法をとっている。オランダ企業は必ずしも積極的に人権擁護や環境保護に取り組む企業ばかりではなく、負担が大きいと消極的な企業も少なからずあった。しかし、政府のアプローチはおおむね成功している。一方、法的強制力がないことから、限界もみえている。

そうした中、最初に着手されたのは、児童労働の撤廃に向けた「児童労働注意義務法(Child Labour Duty of Care Act/Wet Zorgplicht Kinderarbei)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の法制化だ(表1参照)。それでも、産業界の中からは、先述のRBCで十分、もっと時間をかけて同法は導入すべき、という意見が多かった。しかし、チョコレート製造販売業のトニーズ・チョコロンリー(Tony’s Chocolonely)を筆頭に、ハイネケン(ビール)やABNアムロ銀行など大手40社が賛成の意思表示を行ったことが後押しし、同法案は可決成立。2019年10月24日に公布された。2022年1月1日施行予定とされるが、現時点では施行日は確定していない。児童労働注意義務法の対象企業は、オランダ市場に製品やサービスを提供・販売する全ての企業(その法的形態、事業規模、資金調達方法は関係ない)と定められている。オランダに進出している日本企業だけでなく、オンライン販売などでオランダ市場に事業展開している日本企業も対象となる可能性がある。企業に対して、サプライチェーン上における児童労働の問題を特定し、児童労働を防止するために当該企業が適切なレベルのサプライチェーンにおけるデューディリジェンスを行ったことを示す表明文を、法律施行から6カ月以内に提出することを義務付ける。在オランダ進出日系企業も、該当する場合は調査対象となる可能性がある。調査の結果、児童労働が確認できた、あるいは「合理的な疑い(redelijkvermoeden)」が想定される企業には、防止するための行動計画(plan van aanpak)の作成を義務付ける。企業は必要に応じて、規制当局と共同でその内容を検討することも可能となっている。違反企業には罰金刑(6段階で最高87万ユーロまたは年間売上高の10%、2020年1月改定)、悪質な企業には、役員に対して2年以下の懲役や罰金を規定している。ただし、対象企業の詳細、罰則の規定などは、一般行政法、刑法、経済犯罪法、刑事手続法など法律名と条項が記載されているだけにとどまる。当該法律は今後、改正されたり監督当局が任命されたりする可能性があり、現時点では詳細が明確とは言えない。

表1:児童労働注意義務法の概要
法律名 児童労働注意義務法(Child Labour Duty of Care Act/Wet Zorgplicht Kinderarbeid)
施行時期 2019年10月24日公布。2022年1月1日施行予定。
対象企業 オランダ市場に製品やサービスを提供・販売する全ての企業。オランダ国内に拠点がなくても、オンラインでオランダ市場に製品を提供・販売する企業も含まれる。企業の定義は、2007年商業登記法第5条の下、登記された「経済活動を行う事業体」であり、その法的形態、事業規模、資金調達方法は関係ない。
目的 サプライチェーン上における児童労働の問題を特定し、児童労働を防止するために当該企業が適切なレベルのサプライチェーンにおけるデューディリジェンスを行ったことを示す表明文を提出することを義務付ける。
児童労働の定義 (1)義務教育を受けている人、または15歳未満の人が行う雇用形態の有無に関係なくあらゆる形態の労働。
(2)18歳未満の人が雇用形態の有無に関係なく行う健康、安全または道徳を危険にさらす労働。
(注)ただし1973年の「最低年齢に関する条約」の第7条(1)で言及されている、13歳以上の人が週に最大14時間行う「軽い活動」を意味するものではない。
内容 対象企業は法律施行から6カ月以内に、全てのサプライチェーンにわたって児童労働を使用して商品やサービスが生産されているかどうかを調査し、調査したと宣言する声明文を規制当局に宛てに提出しなければならない。新規にオランダ市場に製品を上市した、あるいはサービスを提供した企業は、それから6カ月以内に全てのサプライチェーンにわたる人権デューディリジェンスを実施したと宣言する声明文を規制当局に宛てに提出しなければならない。また、調査の結果、児童労働が確認できた、あるいは「合理的な疑い(redelijkvermoeden)」が想定される企業には、防止するための行動計画(plan van aanpak)の作成を義務付ける。企業は必要に応じて規制当局と共同でその内容を検討することも可能。
罰則 刑法23条に基づき罰金刑(6段階で最高87万ユーロまたは年間売上高の10%、2020年1月改定)。5年以内に2回、同じ役員の経営下で罰金対象となった場合、3回目以降、経済犯罪法に基づき、当該役員に対する最高2年間の懲役刑または2万1,750ポンドの罰金。
規制当局 未定。施行前に任命される予定。
担当官庁 貿易・開発協力省

出所:オランダ官報

より広範囲な人権デューディリジェンス法案を国会に提出

児童労働注意義務法の施行を待つ2021年3月11日、社会党(SP)、グリーンレフト(GL)、労働党(PvdA)、キリスト教民主同盟(CU))の4党が「責任ある持続可能な国際事業活動に関する法案(Bill for Responsible and Sustainable International Business Conduct/Initiatiefwetsvoorstel Verantwoord en duurzaamPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(62.52KB)」を国会に提出した(表2参照)。児童労働にとどまらず、より広範囲な人権デューディリジェンスが盛り込まれた。なお、法案提出日は、オランダ総選挙(2021年3月19日付ビジネス短信参照)の1週間前に当たるタイミングだった。

この法案の特徴は、対象を大企業に絞ったことにある。「大企業」とはオランダまたは海外オランダ領籍の企業で、(1)従業員数250人以上、(2)貸借対照表の総額2,000万ユーロ以上、(3)年間売上高4,000万ユーロ以上の3つの条件のうち2つ以上が当てはまる企業を指す。オランダに籍を置く多国籍のペーパーカンパニーも対象となる。法律の内容は、デューディリジェンスの対象をサプライチェーン上のより広範な人権への悪影響(奴隷労働、児童労働、不当労働、人身売買、差別、環境被害を含む)とし、そのデューディリジェンスと対策を企業に義務付けるというもの。義務化の実施方法や罰則は児童労働注意義務法とほぼ同様だが、毎年の声明を義務付け、違反した場合には罰金や役員の懲役などを含む。法令文は、既存の法律に言及するだけとなっており、監督当局などの詳細はこれから決まる。なお、本法案に先立ち、トニーズ・チョコロンリーを筆頭にイケアなど50社が2020年6月25日、外国貿易・開発協力相に対し「児童労働に限らず、さらに広範なサプライチェーンの透明性と平等を確保するための、デューディリジェンスの法的枠組みを支持する」との書簡を提出していた。

表2:責任ある持続可能な国際事業活動に関する法案の概要
法律名 責任ある持続可能な国際事業活動に関する法案(Bill for Responsible and Sustainable International Business Conduct / Initiatiefwetsvoorstel Verantwoord en duurzaam internationaal ondernemen)
国会提出日 2021年3月11日
提出者 4党(社会党(SP)、グリーンレフト(GL)、労働党(PvdA)、キリスト教連合(CU))
対象企業 オランダ籍、海外オランダ領籍企業で(1)従業員数250人以上、(2)貸借対照表の総額2,000万ユーロ以上、(3)年間売上高4,000万ユーロ以上の3つの条件のうち2つ以上当てはまる企業。オランダに籍を置く多国籍のペーパーカンパニーも対象。
規制対象 サプライチェーン上のより広範な人権への悪影響(奴隷労働、児童労働、不当労働、人身売買、差別、環境被害含む)に対するデューディリジェンスを企業に義務付ける。
内容 対象企業は商品やサービスがどのように生産されているかどうかを全てのサプライチェーンにわたって調査し、調査したと宣言する声明文を規制当局宛てに毎年提出しなければならない。また、調査の結果、問題が確認できた、あるいは「合理的な疑い(redelijkvermoeden)」が想定される企業には、防止するための行動計画(plan van aanpak)の作成を義務付ける。企業は必要に応じて規制当局と共同でその内容を検討することも可能。
罰則 刑法23条に基づき罰金刑(6段階で最高87万ユーロまたは年間売上高の10%、2020年1月改定)。5年以内に何度も同じ役員の経営下で反則が繰り返された場合、経済犯罪法、刑事手続き法に基づき、当該役員に対する最高2年間の懲役刑または2万1,750ポンドの罰金。
規制当局 未定。施行前に任命される予定。
施行時期 一部を2023年1月1日に、完全施行は2024年1月1日を目指す。
担当官庁 貿易・開発協力省

出所:オランダ国会

本法案に対して、2021年夏に成立予定の新連立政権が対案を出す可能性もある。しかし、この法案はロビイング団体「持続可能で責任あるビジネスイニシアチブ(IDVO)」や外務省の助力を受けて作成したものだ。そのため、対案は出しにくく、出しても大きな違いはないとみられている。本法案には前述の児童労働も対象として含まれる。本法案が施行されれば、児童労働注意義務法は廃止される。また政府は、総選挙後の組閣に時間がかかっており、政府による対案が提出されるかどうかは2021年夏以降に判明する見込みだ。

今後の見通しは不明確な点も多く、注視が必要

オランダ企業の多くは、政府とのビジネス行動責任協定(RBC)を通じて、自主的に自社の経営リスクとして人権デューディリジェンスを捉えている模様だ。児童労働注意義務法が計画どおり2022年1月1日に施行されれば、大企業だけでなく中小企業も、2022年6月末までに児童労働に関する声明を出すことが義務付けられる。声明の提出先、形式などの情報がまだ一切公開されていないことから、混乱が予想される。また、声明の実施の有無は、企業監査などで確認される仕組みだ。

もっとも、中小企業の多くは企業監査サービスを利用していない。このあたりの実務的な混乱をどう解決するのかについては、政府からの情報がない。加えて、2021年3月に4党が提出した「責任ある持続可能な国際事業活動に関する法案」の第4条4項で、「本法成立とともに児童労働注意義務法は無効となる」との文言が挿入されている。そのため、この法案の進捗次第では、児童労働注意義務法の施行は先送りになる可能性もある。

トニーズ・チョコロンリー、ハイネケンなど大手企業の関心高い

オランダの人権デューディリジェンス法制化をリードしているのは、トニーズ・チョコロンリーの最高経営責任者(CEO)、ヘンク・ヤン・ベルトマン氏だ。同氏の呼びかけに賛同した企業40社が2017年10月に児童労働注意義務法を支持する声明を発表したほか、2020年6月には賛同した50社がさらに広範囲の人権デューディリジェンス法の制定を求める声明を発表した。ただし、児童労働注意義務法と広範囲の人権デューディリジェンス法の制定を支持した企業は完全には一致していない。前者に賛意を示した有力大手企業の一部(ハイネケン、ABN アムロ銀行、ラボ銀行など)は、後者の50社には含まれていない。

オランダ企業は人権デューディリジェンスについて、コメントを人権団体IDVOのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで発表している。例えば、「私たちは誰もがよりよく眠れる世界を夢見ている。世界は変化し、より持続可能になる必要があるからだ。野心的な法律がこれに貢献することができるのだ」〔ユメコ(Yumeko)、寝具〕、「企業はプラスとマイナスの両方の影響について責任を負う必要がある。多くの人がそうし始めているが、私たちはまだ必要な優れたビジネス慣行のレベルから遠く離れている。法律はそのプロセスをスピードアップし、私たちが地球をよりよくケアすることを確実にする」(スチューデントホテル)、「法制化は企業の連鎖を終わらせる唯一の方法だ」(トニーズ・チョコロンリー)、などが一例だ。

執筆者紹介
ジェトロ・アムステルダム事務所

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