変貌する世界の半導体エコシステムマイクロン新工場着工、先端半導体への投資進むNY州中部(米国)

2026年2月6日

ニューヨーク(NY)州経済開発公社(ESD)傘下の半導体産業推進専門機関GO-SEMIによれば、NY州内への2022年以降の新たな半導体産業投資は1,240億ドルに上る。中でも、米半導体メーカー大手のマイクロンテクノロジー(以下、マイクロン)が1,000億ドル規模の新工場建設を発表したNY州中部は、近年、成長著しい半導体エコシステムとして注目を集める。マイクロンの第1ファブは2026年1月に起工し、今後のNY州のエコシステムの中核を担う大型拠点稼働に向けた第一歩を踏み出した。本レポートでは、2025年10月にジェトロが主催した米国半導体ミッションおよび関係者へのインタビューに基づき、NY州半導体エコシステムの最新情報をまとめる。

成長するNY州中部の半導体エコシステム

GO-SEMIによると、NY州には2025年10月時点で150社超の半導体および関連企業が集積し、約3万3,000人が従事する成長途上の製造・研究開発エコシステムが形成されている。今後稼働を予定する大型案件には、マイクロンによる最新DRAMメモリーの生産工場新設、グローバルファウンドリーズによる300ミリメートル半導体の生産工場新設や自動車向け半導体の製造能力拡張などがある。後者は2025年1月には、先端パッケージングとテストを行う新施設への投資も発表した(注1)。半導体の国際業界団体SEMIの予測によると、両社が製造を開始すると、将来的に米国チップの25%がアップステートNY(同州の北部、中部、西部一帯)の半径563キロメートル圏内で製造される見込みだ。また、最先端の半導体研究開発支援機関NYクリエイツ(NY Creates)に加え、州内の大学や企業による研究開発プロジェクトも多く集積する。

米国初の高NA EUVリソグラフィーセンターが竣工(しゅんこう)

NY州における研究機関としては、NYクリエイツがエコシステムの中核を担い、300ミリメートルの研究開発として北米最大の最先端施設である「オールバニ・ナノテク・コンプレックス(the Albany NanoTech Complex)」を主要拠点として運営(2024年7月4日付地域・分析レポート参照)。同施設には、過去20年間にわたり官民合わせ250億ドル以上、今後さらに総額100億ドルが新規拡張のために投じられる。NY州によると、この拡張計画には、同州が10億ドル、NY州と連携する半導体関連企業が少なくとも90億ドルを投資すると発表している(2023年12月13日付ビジネス短信参照)。

拡張計画の要が、10億ドル規模の最先端の高NA極端紫外線露光(High NA EUV Lithography)センター、「ナノファブ・リフレクション外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の新設だ。この施設は米国初かつ唯一の公営の高NA EUVリソグラフィーセンターで、オランダの半導体製造用露光装置大手ASMLの高NA EUV露光装置(注2)「TWINSCAN EXE:5200」を導入し、5万平方フィート(約4,645平方メートル)のクリーンルームも備える(2025年10月15日付ビジネス短信参照)。最先端のEUV露光技術の活用により、2ナノメートル以下の技術開発の推進を目指す。2025年12月8日には、キャシー・ホークルNY州知事立ち会いの下で、建物の上棟式が行われた(注3)。NYクリエイツによると、同センターは2026年半ばまでに露光装置を搬入、装置の据え付けや試験を行い、本格稼働に向けた準備が年内には整う予定だ(注4)

また、この新施設は日系企業との新たな提携も進めている。2025年12月には、日本の半導体製造装置メーカーSCREENホールディングスが「ナノファブ・リフレクション」施設内にSCREEN Advanced Technology Center of America(ATCA)の設置を発表した(注5)

マイクロンメガファブ着工、サプライヤー向けインセンティブも整備

NY州の半導体エコシステムにとって試金石となるマイクロンの大型投資が始動した。2026年1月16日に、第1ファブの起工式が行われた(注6)


マイクロンの起工式(ESD提供)

マイクロンファブの完成イメージ(ESD提供)

マイクロンは、2022年10月にNY州中部オノンダガ郡クレイに1,000億ドル規模の投資を行うと発表(2022年10月6日付ビジネス短信参照)。先端DRAMメモリー生産量全体に占める米国産の割合を40%まで引き上げることを目指す。ESDによると、これらのメガファブ複合施設が稼働すると、米国史上最大の半導体製造拠点となる見込みだ。

加えて、NY州は州内半導体エコシステムへの投資を検討するサプライヤーの誘致を目的に、新たなインセンティブパッケージを発表、申請受付の準備段階にある(注7)。ESDによると、主なインセンティブの内容は以下のとおり。GO-SEMIは、これらのインセンティブパッケージは「米国で最も野心的で広範にわたる」と強調する。

  1. 給与、投資、その他コストを含む適格支出に対する拡大税額控除(10年間)
  2. 熟練労働者育成のための新規雇用・職場内訓練に係る費用に対する税額控除プログラム
  3. 大型の研究開発投資を行い、NY州の先端半導体イノベーションエコシステムへの参入を目指す企業に対し、適格投資に対して最大15%の税額控除

なお、マイクロンの新工場に隣接するかたちで、サプライヤーの入居を想定した工業団地、ホワイト・パイン・サイエンス・テクノロジー・パーク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも整備される。工業団地を開発・運営するオノンダガ郡産業開発局(OCIDA)によると、2026年から2027年にかけてサプライヤー向けの用地の選定・開発、工場を建設し、マイクロンの第1ファブ稼働前の2028年に稼働を開始する想定だ。OCIDAは、サプライヤーに対し、固定資産税、売上・使用税、抵当権登記税などの減免といった追加的な金銭的インセンティブを提供する(注8)

オノンダガ郡のライアン・マクマホン郡長によると、2025年7月にトランプ大統領が署名した「大きく美しい1つの法案(One Big Beautiful Bill Act)」によって、投資税額控除が10%追加拡充され、「マイクロンの控除率は計35%に上る」という(注9)。控除額としては数十億ドル相当におよび、プロジェクトの加速が期待できる。また、マクマホン郡長は、マイクロンがクレイに投資を決めた背景には、「インフラ基盤、地域の成長戦略、大規模な土地が確保できる点などが評価された。同社による投資はNY州にとってのゲームチェンジャーとなる」と期待を込めた。

マイクロンは2030年には第1ファブ、2041年には4つ全てのファブの稼働を目指す。ジェトロの半導体ミッションに参加した日系企業関係者は、「第1ファブは着工から3年あれば稼働は可能とみている。第2ファブ以降の計画も含め予定通り実行されるかどうか注視したい」と話す(注7)。周辺地域への日本企業の進出は、この第1ファブ建設の進捗がカギと言える。

企業と教育機関が連携し、人材育成に取り組む

マイクロンによると、NY州における工場新設により、同社に9,000人、建設に4,500人に加え、間接的に4万人の雇用が創出される見込みだ(注10)。マイクロンは、2022年10月にESDとの地域投資枠組みに合意。人材育成、教育、地域社会への支援などを目的とした5億ドル規模の「グリーンCHIPS地域投資基金」を設置、NY州中部の最先端半導体製造を支える人材への高度な技術習得のための施策を約束した(注11)。人材育成におけるキープレーヤーは、地域の教育機関であるオノンダガ・コミュニティ・カレッジ(OCC)とシラキュース大学だ。NY州の戦略人材開発局も後押しする。

OCCは、州内の64の教育機関を総称した大学グループであるニューヨーク州立大学(SUNY)傘下の2年制大学だ。2025年10月1日には、学内にマイクロン・クリーンルーム・シミュレーションラボが開所した(2025年10月9日付ビジネス短信参照)。同ラボには、マイクロンが500万ドル、オノンダガ郡とNY州が同額の500万ドルを拠出した(注12)。半導体およびマイクロエレクトロニクス産業でのキャリアを目指す学生に実践的なトレーニングをする施設で、3,000平方フィートのラボ内にはマイクロンが世界各地の製造工場で使用していた装置が設置された(注13)。また、OCCは同ラボの開所に先立ち、2023年8月にマイクロン関連の「電気機械技術学位課程外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を新設した。OCC学長のウォーレン・ヒルトン博士は開所式において、2025年5月には最初の卒業生として、12人が準学士号、5人が認定学位を取得し、うち5人がマイクロンに入社、卒業後は現時点で同社拠点があるアイダホ州ボイジーで勤務していると発表(注14)。OCCによると、卒業生のうち少なくとも85%は域内で就職。人材の定着率が高い傾向にあり、「(ファブ完成を見据えて)マイクロンが同地域で人材育成をする意義は大きい」と話す(注15)


マイクロン・クリーンルーム・シミュレーション・
ラボが設置されたOCC内のキャンパス棟
(2025年10月1日、ジェトロ撮影)

企業担当者によるラボ内の製造装置に関する説明(2025年10月1日、ジェトロ撮影)

一方、シラキュース大学は4年制の私立総合大学だ。2024年5月、学内に先端半導体製造センター(Center for Advanced Semiconductor Manufacturing:CASM)の設立を発表し、2025年10月に開所した(注16)(注17)。これは、同大学が今後5年間で進めるSTEM分野の戦略的変革と、工学・コンピューターサイエンス学部(College of Engineering and Computer Science)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの拡充のための1億ドル超の投資計画の一環で、同大学が1,000万ドルを投資、オノンダガ郡も同額の助成金を拠出している。

CASMでは、自動化ロボットや自律型の先端半導体製造フロアを再現し、半導体製造技術の発展、先端半導体製造分野における次世代の科学者や技術者の育成を目指す。同センターが新設される工学・コンピューターサイエンス学部は、2028年までに学部入学者数を50%増加させる予定だ。コール・スミス学部長は、同センターは世界中から多様な能力のある学生や研究者を惹き付け、域内での人材確保に貢献すると期待を示した。

ジェトロの半導体ミッションに参加した日系企業関係者からは、NY州中部地域に対する期待が示される半面、労働者確保への懸念の声もあった。現地教育機関関係者は、「2030年までにNY州全体で約7万1,000人の追加労働力が必要との試算がある」と述べ、域内での人材育成に加え、域外人材の流入加速も必要とした。また、こうした人材需要に対し、NY州は人材開発のために5億5,000万ドル超を投じる。この中には、2億ドル規模の「ON-RAMP人材育成イニシアチブ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が含まれ、マイクロンのメガファブに近接して、最先端の人材訓練センターを4カ所建設する見込みだ。GO-SEMIによると、「州内の人材開発イニシアチブは産業界パートナーと共同で構築し、企業ニーズに合わせたスキル習得ができるよう設計されている」と話す(注18)

オノンダガ郡関係者は、「昨今では、若者が製造業を敬遠しがちだが、半導体産業はOCCにおけるクリーンルーム施設の設置など、自治体、企業、教育機関の連携・努力により、少しずつイメージが変わってきている」と述べた(注19)

産官学の連携により、製造、先端パッケージ、研究開発の代表的な集積地として成長が進むNY州。本稿で見たとおり、世界水準の研究開発施設、先進的なインフラ、熟練労働者育成のための教育機関、広範におよぶ優遇措置、NY州による産業支援などが成長の原動力となっている。材料や、前工程で使用される半導体製造装置における日本のサプライヤーに対する期待も大きい。マイクロンやグローバルファウンドリーズの新規工場の建設・稼働の進捗に注目したい。


注1:
グローバルファウンドリーズプレスリリース(2025年1月17日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます本文に戻る
注2:
EUVはExtreme Ultraviolet(極端紫外線)の略。EUV露光技術は半導体回路の微細加工に不可欠で、露光装置のレンズ口径を表す開口数(NA)を高めることで、さらなる微細化が実現する。 本文に戻る
注3:
NY州政府プレスリリース(2025年12月8日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます本文に戻る
注4:
NY CREATES 担当者へのインタビューに基づく(2026年1月7日)。 本文に戻る
注5:
SCREENホールディングスプレスリリース(2025年12月16日付) 本文に戻る
注6:
NY州政府プレスリリース(2026年1月16日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
ジェトロのNY半導体ミッションにおけるオノンダガ郡ライアン・マクマホン郡長のスピーチに基づく(2025年10月1日付) 本文に戻る
注7:
NY州政府プレスリリース(2025年5月9日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますおよびESD担当者へのインタビューに基づく(2026年1月23日)。 本文に戻る
注8:
OCIDA資料に基づく。 本文に戻る
注9:
ジェトロ主催半導体ミッション参加者へのインタビューに基づく(2025年10月2日付)。 本文に戻る
注10:
マイクロンウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2025年12月12日閲覧)。 本文に戻る
注11:
マイクロンプレスリリース(2022年10月27日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます本文に戻る
注12:
オノンダガ・コミュニティ・カレッジプレスリリース(2025年10月1日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます本文に戻る
注13:
台湾、シンガポール、日本、米国のアイダホ州、バージニア州の製造工場から機械が提供された。 本文に戻る
注14:
OCC学長ウォーレン・ヒルトン博士による開所式スピーチに基づく(2025年10月1日)。 本文に戻る
注15:
注12に同じ。 本文に戻る
注16:
シラキュース大学プレスリリース(2024年5月16日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます本文に戻る
注17:
シラキュース大学CASMウェブサイト(2025年10月17日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます本文に戻る
注18:
ESD担当者へのインタビューに基づく(2026年1月23日)。 本文に戻る
注19:
オノンダガ郡関係者へのインタビューに基づく(2025年10月2日付)。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。

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