産学官連携による現場人材育成が築く産業基盤、米NY州半導体ミッション

(米国)

ニューヨーク発

2025年10月09日

ジェトロが2025年10月1~3日に米国ニューヨーク(NY)州に派遣した半導体分野の視察ミッション(2025年10月8日記事参照)では、州内の半導体産業人材の供給実態と課題、将来に向けた人材育成の取り組みの把握が、参加者の最大の関心事の1つだった。米国では、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)に基づく製造施設の新設・拡張や研究開発投資の増加により、10万人を上回る規模の新規雇用創出が見込まれる半面、技術者や技能者、ワーカーの不足が深刻化している(注1)。商務省は、米国内で2030年までに30万人のエンジニア人材、9万人の技術人材が不足すると予測している(注2)。今回のミッション参加者からも、「NY州内にマイクロンの1,000億ドル規模の投資や周辺サプライヤーの進出が増えても、人材不足が足かせになるのではないか」との懸念の声が複数聞かれた。

こうした事情を背景に、NY州では「NY SMART I-Corridor外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」プロジェクトを展開している。州北部から西部のバッファロー、ロチェスター、シラキュースなどを結ぶ約350マイル(約560キロ)の回廊で、半導体の製造・研究開発ならびに人材育成を一体的に推進する取り組みだ。そのうち、人材育成の柱となるのが、STEP UP(Semiconductor Talent and Employer Partnership Update)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますプログラムだ。マイクロンに代表される地域の企業が、周辺のコミュニティカレッジや大学と連携し、組み立て・加工、エンジニアリングなどの中・高技能職に対応した教育・訓練を提供する。

視察ミッションは10月1日、プログラムの中核を担うオノンダガ・コミュニティカレッジ(OCC)を訪問し、同日に行われたOCC施設内のマイクロン・クリーンルーム・シミュレーションラボの開所式外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに参加した。同ラボでは、OCCとマイクロンが連携し、実際の研究開発・製造現場に近い環境の中で、学生のトレーニングを行う。同施設には、マイクロンが500万ドルの資金提供を行い、オノンダガ郡とNY州が同額をマッチング支援している。

写真 OCC内のマイクロン・クリールーム・シミュレーションラボ(10月1日、ジェトロ撮影)

OCC内のマイクロン・クリールーム・シミュレーションラボ(10月1日、ジェトロ撮影)

視察ミッションが10月2日に訪問したシラキュース大学も、NY SMART I-Corridorの中核を担う。マイクロンから教育パートナーとして指定されており、地域の人材育成を支援するための教育・訓練プログラムとして「Future-Ready Workforce Innovation Consortium外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を設立。大学、地域労働組合、企業など50以上の機関と連携し、産業ニーズに直結した人材育成、技術訓練、軍人・退役軍人向けの職業訓練などを柱に、地域を支える人材基盤の構築を図る。

同日にシラキュース大で行われたパネルディスカッションに登壇した地元企業の代表は、マイクロンの進出による人材争奪への懸念はなく、「将来的に、適切な人材を持続的に確保できる自信がある」とし、NY州が他の州や地域と比べて人材面で優位にあることを高く評価した。

写真 シラキュース大学でのパネルディスカッション(ジェトロ撮影、10月2日)

シラキュース大学でのパネルディスカッション(ジェトロ撮影、10月2日)

(注1)米商務省の試算外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、CHIPSプラス法の施行により、国内で11万5,000人を超える新たな雇用が創出される見込み。

(注2)米商務省、Training a World-Leading and Diverse Manufacturing Workforce外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2023年10月)。

(伊藤博敏)

(米国)

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