中国と諸外国を結ぶ鉄道輸送網の動向ロシア向けが増加、環境面でも優位(中国)
中欧班列の10年(後編)

2024年3月8日

中国において、中欧班列の運行本数が年々増加している。昨今はロシア行きの需要が拡大し、各種インフラ整備も進んでいる。また、中国の地方政府による利活用促進策として、補助金による支援も行われた。ユーザーは、CO2(二酸化炭素)排出量の少なさや振動の少なさを中欧班列のメリットとして挙げる。本稿では、運行拡大に貢献しているロシア行きの動向や、地方政府による補助金政策の動向、そしてユーザー視点から見る中欧班列のメリットについて分析し、運行拡大の背景を探る。

中国とロシアを結ぶ列車が相次いで設定、インフラ整備も進む

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧州各国を結ぶ中欧班列の貨物輸送量は減少した。2022年の中欧班列の貨物輸送量をみると、中国~イタリア間は2021年比91.6%減、中国~チェコ間は同79.8%減、中国~オランダ間は同62.1%減となった。また、中国~ポーランド間は同21.9%減の19万5,736TEU(20フィートコンテナ換算)、中国~ドイツ間は同38.8%減の17万1,868TEUといずれも前年比で減少した。

一方で、中国とロシアを結ぶ中欧班列は積極的に運行されている。中国の物流業者は現地メディアの取材に対し、2022年の欧州向けの運行本数は前年比で減少したとみられるが、ロシアを発着する列車が増加したことを受け、2022年の中欧班列全体の運行本数はプラス成長になった、と説明している。また、四川省の物流業者は同取材に対し、同社が取り扱う欧州線とロシア線の比率は、以前は80:20だったところ、2023年4月時点では20:80の割合に変わってきた、と明かしている(「第一財経」、2023年4月25日)。

ロシアを発着する中欧班列は、西安や成都など比較的、中欧班列の運行本数が多い都市のほか、中国各地でも発着しており、中国とロシア両国の津々浦々を結んでいる。2023年にも新しい路線が相次いで新設され、2023年3月には、北京とモスクワを結ぶ中欧班列が運行された。モスクワ行きの第1便には、自動車部品や建築材料、家電、家具などの貨物55FEU(40フィートコンテナ換算)を約18日かけて輸送した。また、同年4月には湖北省武漢市とロシア・タタールスタン共和国のニジネカムスクを結ぶ中欧班列が運行(2023年4月17日付ビジネス短信参照)、6月には河南省鄭州市とサンクトペテルブルグを結ぶ中欧班列が運行されている。

両国を結ぶ鉄道のインフラ設備投資も進んでいる。2022年には「同江鉄道橋」が開通した。同江鉄道橋は、中国・黒竜江省同江とロシア・ユダヤ自治州ニジュネレニンスコエを結ぶ全長2.2キロの橋であり、両国を隔てるアムール川(黒竜江)に初めてかけられた鉄道橋である。中国メディアによると、2023年1~10月の同江口岸(注)の貨物輸送量は261万トンに及び、中ロ間の協力により24時間の通関が可能となった。輸送効率も、当初の2日に1本から、1日に最多5本の列車を取り扱えるようになった(「中国新聞網」、2023年12月13日)。また、ロシアメディアによると、ロシア鉄道は中国との国境沿いに新たに4つの鉄道口岸を作る予定であるという(「Sputnik」、2022年11月30日)。

政府による補助金を通じた利用促進策、昨今は見直す動きも

中欧班列の発展を支えた要因の1つとして、地方政府の補助金が挙げられる。中国国内では、この補助金は、中欧班列の市場開拓に重要な役割を果たしたとの評価がある(「一帯一路網」2020年3月19日)。中国の物流会社が現地メディアの取材に応じ、鉄道輸送は海上輸送と比べてコストがかかることから、中欧班列が運行を開始した当初、海運から貨物のシェアをシフトさせるために、各地方政府は財政補助を通じて、中欧班列の輸送費用を下げようとした、と語った(「中国経営報」2019年6月5日)。実際に、ジェトロが物流会社にインタビューしたところ、補助を受けた中欧班列の運賃は場合によっては海上運賃より安価となり、さらにリードタイムが海運よりも短くなるため、補助金の存在が利用インセンティブになっている、と述べた(インタビュー日:2023年9月11日)。

また、中欧班列に対する補助金の効果について、補助金によって安定した輸送量を確保し、安定的な物流サービスを整えることで、物流ターミナルにより多くの企業が進出するようになり、新たな企業集積地が形成されていった、との指摘もある(「南方日報」2020年6月4日)。

しかし、過度な補助金に対する懸念も提起されており、昨今は補助金政策を見直す動きもある。補助金は各地方政府の財政負担になっているだけでなく、中欧班列を運行する各都市の間で価格競争が起きているとの指摘がある(「中国経済時報」2023年10月18日)。中央政府レベルでも補助金を見直す動きが広がっている。中国メディアによると、財政部は地方政府に対し、2018年から中欧班列の補助金を減らすように要求しており、2018年には輸送費の50%を、2019年には40%を、2020年には30%を超えないように要求した(「中国経営報」2019年6月5日)。2020年に、財政部は中欧班列に対する補助金をさらに減らすように要求する文書を出し、2021年には輸送費の30%、2022年には20%を超えないという上限を定めた。

グリーンの観点からの優位性

ユーザーの視点からみると、中欧班列は環境にやさしい輸送方法である。中国と欧州間の鉄道輸送を調査する「ユーラシア鉄道連合指標(ERAI)」が公表したデータによると、2023年上半期(1~6月)において、ベラルーシ、ロシア、カザフスタンを通過した中国~欧州間の鉄道貨物輸送におけるCO2排出量は約1万2,600トンだった。同じ条件下で他の輸送方法の排出量と比較すると、海運は約6万トン、トラック輸送は約32万4,600トン、空運は約363万4,600トンであり、他の輸送方法と比べて大幅に低い水準となっている。

ジェトロがヒアリングした大手日系物流企業は、航空便と比べて鉄道輸送の方がCO2排出量も少ないため、環境対策の観点から、自社としては今後、顧客のニーズに応じて積極的に提案していく予定だと述べた。また、別の大手日系物流会社は「内陸物流の特徴は複数の輸送ルートを選択肢として持っているところにある。最近はESG(環境・社会・ガバナンス)や環境を考慮し物流手段を選ぶ顧客が増えている。従来のリードタイムやコストよりもCO2の排出量が重要になる時代になったため、今後は積極的に顧客に紹介していきたい」とコメントした。

輸送中の振動の影響は限定的

中欧班列の輸送に当たって、鉄道独自の輸送環境を考慮する必要がある。輸送中の振動については大きな支障はないと考えられるが、台車交換による振動や温度変化といった輸送環境には注意が必要だ。

実際に、ジェトロが大手日系物流会社にヒアリングしたところ、同社が中欧班列の振動に関するテスト運行を行った際、走行中の振動はあまり大きくなかったという。同社は「海運は波があり、トラック輸送は道路の舗装が十分に整っていない場合がある。他の輸送方法と比較しても、鉄道輸送中の振動はほぼ無視できる」と述べ、他の輸送方法と比較しても、鉄道輸送中の振動は限定的である、との見方を示した。同社は、フランス産のワインを中欧班列で中国を経由して日本まで輸送した実績があり、ほとんど振動の影響を受けずに輸送できたという。

一方で、一部の国境で必要となる貨物の積み替え作業による貨物への損傷には注意が必要だ。中欧班列は、一部の国境では直通運転ができない。中国の鉄道の軌道幅は1,435mm(ミリメートル)(標準軌)だが、隣国のロシア、カザフスタン、モンゴルは1,520mm(広軌)となっている。また、欧州に輸送する場合、ベラルーシとポーランド間でも軌道幅が異なり、これらの国境では台車交換や貨物の積み替え作業が生じる。前述のテスト運行では、最も振動が発生したのが貨物の積み替え作業が行われる国境だったとのことで、同社は、国境における台車交換時の揺れや積み替え作業の丁寧さが改善されれば、損傷リスクはかなり軽減されるとの見方を示した。

ロシアによるウクライナ侵攻や、海運と比較した時の高い運送費が指摘される中でも、中欧班列は運行を拡大させていった。その背景には、ロシア行きの需要増加や、補助金政策を通じた鉄道輸送の市場開拓がある。さらに、振動の少なさや環境対策といった観点は、他の輸送方法と比較したときの中欧班列の優位性として挙げられる。


注:
税関が2国間の国境などに設置した検問所。

中欧班列の10年

  1. 運行本数は拡大傾向、品目も多様化(中国)
  2. ロシア向けが増加、環境面でも優位(中国)
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
廣田 瑞生(ひろた みずき)
2023年、ジェトロ入構。中国北アジア課で中国関係の調査を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
高 文寧(がお うぇにん)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、ジェトロ・マドリード事務所、ジェトロ名古屋、ジェトロ・大連事務所などを経て、2023年11月から現職。