中国と諸外国を結ぶ鉄道輸送網の動向運行本数は拡大傾向、品目も多様化(中国)
中欧班列の10年(前編)

2024年3月8日

「一帯一路」構想は、提起されてから10年という節目を2023年に迎えた。2023年10月に発表された「一帯一路」構想に関する報告書「一帯一路の共同建設:人類運命共同体構築の重大な実践外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」では、一帯一路の成果として経済のグローバル化を推進したとされており、「中欧班列」は一帯一路の目玉プロジェクトと位置付けられている。

中欧班列の累計運行本数は2024年1月までに約8万4,000本にのぼった。運行本数の推移をみると、2011年から2022年にわたって、運航本数と輸送貨物量は一貫して増加傾向にある。本稿では、前編と後編に分けて、中欧班列の10年の歩みを取り上げる。前編では、中欧班列の運行ルートや運行本数の推移、輸送品目に着目し、約10年にわたる中欧班列の発展状況について概観する。後編では、中欧班列の発展を支えた要因として、ロシア向けの貨物動向や補助金政策について分析する。また、環境負荷低減や輸送中の振動といった、ユーザー視点から見る中欧班列独自のメリットについても分析する。

運行ルート:中国各地と欧州25カ国 200以上の都市を結ぶ

中欧班列は、中国各地と欧州を結ぶ貨物列車であり、欧州の25カ国200以上の都市を結んでいる。ルートは、東ルート、中ルート、西ルートの3種類がある。東ルートは、主に中国華東、華南、東北地域から、内モンゴル自治区の満洲里や黒龍江省の綏芬河、同江の口岸(注1)を通じて、ロシアや欧州各国へ至る。中ルートは、主に中国の華中、華北地域から、内モンゴル自治区の二連浩特(エレンホト)の口岸を通じて、モンゴル、ロシアを経て欧州各国へ至る。西ルートは、主に中国西南、西北、華中、華北、華東地域から、新疆ウイグル自治区の阿拉山口(アラシャンコウ)、霍爾果斯(ホルゴス)の口岸を通じて、カザフスタンを経由してロシア、欧州各国へ至る(表1参照)。

中国政府は2016年、中欧班列の整備計画についてまとめた「中欧班列建設発展規画(2016-2020)(中国語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.58MB)」を発表した。同規画5ページにおいて、中欧班列の各ルートの整備計画についてまとめた地図が掲載されている。

表1:ルートでみる中欧班列
ルート名 起点~経由地~終点
東ルート 華東・華南・東北など~満洲里・綏芬河・同江~ロシア~欧州
中ルート 華中・華北など~エレンホト~モンゴル~ロシア~欧州
西ルート 西南・西北・華中・華北・華東など~アラシャンコウ・ホルゴス~カザフスタン~欧州

出所:「中欧班列網」などを基にジェトロ作成

前述の3ルートのうち、運行本数が最も多いのは西ルートであり、東ルート、中ルートと続く(注2)。特に中国内陸部を発着する列車の運行本数が多く、例えば西安市を発着する中欧班列は、2023年の運行本数が前年比15.3%増の5,351本となり、2013年の運行開始以降の累計運行本数や累計貨物輸送量が全国1位となった。また、成都市と重慶市を発着する中欧班列は、2023年の運行本数が合計5,300本を超えた。ジェトロが中国に拠点を持つ、複数の日系物流企業にヒアリングしたところ、内陸部を起点もしくは経由する運行が増加した背景として、中国政府の「西部大開発政策」によって西部地域の経済が発展し、工場が増え、生産能力が向上したことで、貨物量自体が増えたことを挙げた。また、日系物流企業は、列車の経済的メリットについて「西部地域から欧州への輸出コストを考えると、中国沿岸部の港までの陸送費が比較的高額であり、海運費を加えると、鉄道輸送費を大幅に上回る。さらに、鉄道輸送はリードタイムが海運の半分以下となる。空運と比べても、運賃が比較的安価である」と述べている。

鉄道輸送は、その運賃と所要時間の両面において、空運と海運の中間に位置する輸送方法となっている。顧客の8割以上が日系企業の中国系物流企業が中国・瀋陽~ドイツ・ハンブルク間の輸送方法を比較したところ、表2の結果になった。同社は、「中欧班列が、従来の輸送方法である空運と海運に第3の選択肢として加わったことで、クライアントに対して新たなサービスを提供することができ、非常にありがたい」とコメントした。

表2:瀋陽~ハンブルク間の輸送方法の比較(-は値なし)
輸送方法 距離 所要時間 運賃 その他の特徴
空運 8,500km 3~7日 重量やサイズ制限あり
鉄道 10,214km 14~21日 CO2削減効果が高い
海運 20,000km 35~42日

出所:物流会社のヒアリングからジェトロ作成

運行本数の推移:コロナ禍などでも安定的に運行本数を拡大

中欧班列は2011年から、重慶とドイツのデュイスブルクを結ぶ貨物列車の開通をもって、運行開始した。2014~2016年の運行本数はそれぞれ前年比3.9倍、2.7倍、2.1倍と3年連続で大幅増になった。さらに、2017年には年間運行本数が3,673本にのぼった。2018年、2019年はそれぞれ前年比73%増、29%増だった。

コロナ禍でも安定的に運行を続け、2020年は運行本数が前年比51%増の1万2,406本、2021年は同22%増の1万5,183本となった。コロナ禍の中欧班列は医療物資の輸送の役割も担い、2021年末までに輸送された医療物資は10万5,000トンに及び、中国から欧州にマスクや手袋、消毒液、防護服などが輸出された。中国国家鉄道集団(中国国鉄)の担当者は、空運と海運に比べ、中欧班列は区間ごとに乗務員を変えて運送を行っており、乗務員の検疫が不要の利点があると述べた。また、2021年3月にスエズ運河において座礁事故が発生した際には、中欧班列は代替の輸送手段として注目された。河南省鄭州市の物流会社の担当者によると、スエズ運河の座礁事故を受け、海上輸送から中欧班列にシフトする問い合わせや予約が増え、復路の列車では予約数が3割以上増加したという(「河南日報」、2021年4月2日)。

2022年の中欧班列の運行本数は、前年比9%増の1万6,562本となった。中国発は8,881本、中国行は7,681本の運行となり、往路と復路の割合はほぼ半々になっている(図1参照)。また、2023年の運行本数は約1万7,000本で、前年比6%増となった。

図1:中欧班列の列車本数の推移(2015~2022年)
2015年は中国発が550本、中国着が265本で合計815本。2016年は、中国発が1,130本、中国着が572本で合計1,702本。2017年は、中国発が2,399本、中国着が1,274本で合計3,673本。2018年は、中国発が3,696本、中国着が2,667本で合計6,363本。2019年は、中国発が4,525本、中国着が3,700本で合計8,225本。2020年は、中国発が6,982本、中国着が5,424本で合計1万2,406本。2021年は、中国発が8,364本、中国着が6,819本で合計1万5,183本。2022年は、中国発が8,881本、中国着が7,681本で合計1万6,562本。

出所:「中欧班列網」を基にジェトロ作成

輸送品目:多様化の傾向

中欧班列の貿易額は、2016年は80億ドルだったが、2020年には560億ドルまで増え、約7倍に増加した。また、2023年9月に行われた中欧班列国際協力フォーラムにおいて中国国家発展改革委員会の叢亮(そうりょう)副主任から、中欧班列の貿易額は過去10年間の累計で3,400億ドルまで拡大したとの発表があった。貨物輸送量をみると、2023年の輸送量は190万TEU(20フィートコンテナ換算)と、前年の2022年を超える記録になった(図2参照)。

図2:貨物輸送量の推移(2015~2023年)
2015年は6.9万TEU、2016年は14.6万TEU、2017年は31.8万TEU、2018年は54万TEU、2019年は72.5万TEU、2020年は113.5万TEU、2021年は146.4万TEU、2022年は161.4万TEU、2023年は190万TEU。

出所:政府発表ならびに中国鉄路の発表を基にジェトロ作成

輸送される品目も多様化の傾向が見られる。中国の国家発展改革委員会傘下の「一帯一路」建設工作領導小組弁公室が2021年に発行した「中欧班列発展報告(2021)」によると、中国から欧州に輸送される品目は、当初は携帯電話やコンピュータなどのIT製品が主流だったが、完成車、機械設備、建材、衣服、電子産品など約5万種類にまで拡大した。また、欧州から中国に輸送された品目も、木材や自動車、自動車部品が中心だったが、機電産品、食品、医療機械、機械設備、酒類などにまで広がった。

各種品目に特化した専用列車の運行も行われている。中国では、2022年に新エネルギー車の鉄道輸送が解禁されたことを受け、中欧班列を通じた新エネルギー車輸出が行われている(2023年3月16日付地域・分析レポート参照)。2023年1~8月の新疆ウイグル自治区の税関を通じて輸出された新エネルギー車は、前年同期比4倍の約1万台にのぼった。例えば、2022年10月には河南省鄭州市から新疆ウイグル自治区アラシャンコウを経由し、ベラルーシ・ミンスクまでを結ぶ新エネルギー車専用列車が運行され、紅旗や小鵬(Xpeng)などの中国産ブランドの完成車が輸送された。同自治区ホルゴス鉄道税関は、海上輸送と比べた際の中欧班列の利点について、線路の状態が良く、車の損傷や腐食を起こしにくい点や、運行本数や停車駅が多く、自動車企業にとっての選択肢が豊富である点を指摘している。

また、中欧班列ではコールドチェーン列車も運行されており、低温輸送が求められる製品の輸送も行われている。例えば2022年10月には、福建省アモイ市からモスクワを結ぶ低温輸送専用列車が運行され、計3,000万元(約6億円、1元=約20円)相当の海産物や野菜が輸送された。中国国鉄の担当者によると、中欧班列の低温輸送は、トラックでの輸送に比べて運べる量が多く、運べる距離も長く、効率的に輸送することが可能だ。

中欧班列は、運行本数や貨物輸送量など各種指標において右肩上がりの伸びを示しており、約10年にわたって運行規模を拡大させてきた。また、鉄道輸送の独自の優位性を発揮して、コロナ禍の安定的な輸送手段や海上輸送の混乱時の代替的な輸送手段としても重要な役割を発揮した。さらに、輸送品目も多様化され、各種専用列車の運行を含めた多様なサービスが展開されている。


注1:
税関が2国間の国境などに設置した検問所。
注2:
2023年1~6月の統計で、西ルートは前年同期比19%増の4,324本、東ルートが7%増の2,754本、中ルートが24%増の1,563本となっている。

中欧班列の10年

  1. 運行本数は拡大傾向、品目も多様化(中国)
  2. ロシア向けが増加、環境面でも優位(中国)
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
廣田 瑞生(ひろた みずき)
2023年、ジェトロ入構。中国北アジア課で中国関係の調査を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
高 文寧(がお うぇにん)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、ジェトロ・マドリード事務所、ジェトロ名古屋、ジェトロ・大連事務所などを経て、2023年11月から現職。