中国と諸外国を結ぶ鉄道輸送網の動向中国西南地域発着の中欧班列と西部陸海新通道の動向

2024年3月8日

これまでは中欧班列の概要や運行状況、最近のトレンドなどを取り上げたが、本編では、中欧班列の累積運行本数が全国の40%以上を占める中国西南地域の成都市と重慶市を基点とする列車(注1)について、運行状況や政策動向、実際の利用事例を紹介するとともに、運行を担当する現地機関へのヒアリング結果を報告する。とりわけ重慶市発着の貨物は、東南アジアと結ぶ西部陸海新通道(注2)の利用が盛んになっていることから、西部陸海新通道の概要と運行状況についても併せて紹介する。

成都市発の中欧班列、ロシア向けが活発

成都市発着の国際列車の運行や物流インフラ整備を主に担っている成都国際鉄路港投資発展と、貨物の集積地となっている鉄道ターミナル「成都青白江鉄路港(以下「青白江港」、注3)」を運営している中国(四川)自由貿易試験区成都青白江鉄路港片区管理局に話を聞いた(2023年9月7日)。

質問:
成都市発着の貨物路線の概要は。
答え:
現在、成都市からの貨物路線は、東、西、南、北の4ルートに分かれている。
  1. 北ルート:
    成都~黒竜江省満州里~ロシア~ベラルーシ~欧州(一部)
  2. 西ルート:
    成都~新疆ウイグル自治区アラシャンコウまたはホルゴス~欧州
  3. 南ルート:
    成都~広西チワン族自治区欽州~東南アジア
    成都~広西チワン族自治区南寧~同自治区憑祥~ベトナム
    成都~雲南省昆明~同省モーハン(磨憨)~ラオス~タイ
  4. 東ルート:
    成都~浙江省寧波~上海~韓国、日本
    成都~山東省青島、日照~韓国、日本
質問:
成都市発着の列車ルートと貨物のそれぞれの特徴と現状は。
答え:
北ルートは現在、1日に2~3本の列車(往復)が運行されている。主な輸送品目は自動車で、1本の列車(片道)ごとに55台ほどが輸送されている。運行されている列車のうち、現在はおよそ3分の1が欧州行き、3分の2がロシア行きとなっている。欧州への主な輸出商品は大手自動車メーカーBMWの電気自動車(EV)が多く、輸入商品は主に高級シルク、赤ワイン、家具などが多い。また、ロシアへの主な輸出商品は完成車や衣類、輸入商品は主にパルプ、木材などである。加えて、北ルートにはリファーコンテナ路線があり、欧州とロシアから肉やアイスクリームなど、低温輸送が求められる品目の輸入が実現できている。
西ルートは、ロシアのウクライナ侵攻前、1日2~3本の列車(往復)が運行されていたが、紛争の影響や米中対立、経済制裁の関係で現在は大きな制約を受けている。代わりの輸送ルートとして、欧州から海上輸送で寧波に到着し、鉄道で成都市に輸送される遠回りのルートになっている。
南ルートは、鉄道と海運の複合一貫輸送が特徴である。2021年末に開通した中国ラオス鉄道では、現在、成都市が昆明市と協力し、ラオスのビエンチャンから成都市までのリードタイムを3日間、さらに1列車につき15台の車両輸送が実現されている。また、成都市からラオスへの主な輸出商品は、農業機械、工業用品、化学バルク製品が多く、輸入される商品は主に果物、鉱物、キャッサバ粉などとなっている。中国政府は中国ラオス鉄道を、東南アジアから果物を中国に輸入するための定期輸送ルートとして指定している。また、広西チワン族自治区の南寧を経由してベトナムまで運行する、中国とベトナムを結ぶ「中越班列」も路線としては存在するが、貨物量が比較的少ないため、まだ運行が実現できていない。当初の計画では、電子製品の輸出入が予定されていたが、米国による対中輸出規制などが原因で実現には至っていない。もし開通すれば、成都市から南寧市を経由してベトナムまで4日以内に輸送することが可能となる。
東ルートは、日系企業では主に日系の大手自動車メーカーが利用している。同社の新型車は成都の工場で生産されるが、その部品は日本から東ルートを通って成都市に運ばれており、主に同社と関連する大手日系総合商社が輸送を行っている。
質問:
成都市発着の中欧班列に対する政府の補助金は。
答え:
中国~欧州間の定期航路の補助金の基準は財政部が定めており、全国一律である。海上輸送のコストが上昇し、鉄道の利用が増加したコロナ禍の時期は補助金がなく、現在はコロナ禍前水準にの補助金は戻っていると聞いている。補助金政策の具体的な内容には地域差があり、成都の場合、中欧班列は、国際列車の運営と管理を行う国有企業の成都国際鉄路班列が取りまとめている。
質問:
成都市発着の中欧班列の貨物受け付け方法は。
答え:
中国全体としては、全国8つの鉄道局がそれぞれの地域の貨物を請け負っている。成都地区では、中国鉄路成都局集団が運行を請け負っている。同社は通常、フォワーダーと提携しており、日系のフォワーダーは数社利用したことがある。また、BMWや中国の電器メーカーTCLのような、大型貨物を定期的に出荷するメーカーや工場とは直接契約し、貨物の受け付けをしている。また、現在一般的な運送メニューには、大口顧客のニーズに合わせてオーダーメイドできる「カスタマイズ班列」と一般貨物のみ受け付ける「パブリック班列」の2種類があり、価格設定は運営会社が行う。

ロシアとの貿易の動向については、税関総署の発表によると、2023年1~11月の中国とロシアの貿易額は 2,181億7,600万ドルを記録し、両国が2019年に合意した「貿易額を2,000億ドルまで拡大する」という目標を上回った。前述の通り、ロシア・ウクライナ情勢を受け、欧州に向かう中欧班列の運行が減る中、ロシアとの貿易拡大を背景に、中ロ間の中欧班列の運行が急増している。さらに、中国鉄路武漢局集団の担当者はロシアメディアの取材に応じ、「目下、武漢市を経由する中欧班列の8割以上はロシア行きである。2023年上半期の往路の運行本数は合計128本で、そのうち100本近くがロシア向けだった。中国からの往路で輸送される製品は、主に完成車、電子部品、液晶ディスプレイ、電子ディスプレイ、衣服、靴、帽子などの日用品である」と述べた(「Sputnik」、2023年8月1日)。また、ジェトロが成都市の大手日系物流会社にヒアリング(2023年9月11日)したところ、2020年まで同社を通じて中欧班列を利用する日系企業の顧客は多かったが、ロシアによるウクライナ侵攻後にほぼなくなったという。一方、「顧客の2割を占める非日系企業は、スポット貨物について引き続きニーズがある」とコメントした。

重慶発の貨物は西部陸海新通道を利用し東南アジアへ

重慶市では、とりわけ西部陸海新通道の利用が増加傾向にある。西部陸海新通道とは、2017年に開通した、重慶市をはじめとする中国内陸の都市と東南アジアを結ぶ陸海複合輸送ルートである。国家発展改革委員会は2019年8月、「西部陸海新通道全体規画」を発表した。規画では、重慶市および四川省成都市を基点として、北部湾(トンキン湾)までの鉄道輸送を整備し、そこからさらにASEANなどへとつながる海上輸送を組み合わせた輸送ルートの整備を計画している。

主な輸送ルートとして、(1)重慶市から貴州省貴陽市、広西チワン族自治区南寧市を経て北部湾へ、(2)重慶市から湖南省懐化市、広西チワン族自治区柳州市を経て北部湾へ、(3)四川省成都市から同省の瀘州市および宜賓市、広西チワン族自治区百色市を経て北部湾へ通じる3つのルートが予定されている。これら3つの輸送ルート上にある沿線都市間の鉄道、道路などの輸送インフラや、物流拠点の整備・拡充が計画されている。同規画の実施期間は2019年から2025年までであり、2025年までに主要な鉄道および道路の建設を完成、国際港として役割を果たす北部湾の深水港の基本的な建設を完了し、2035年には「西部陸海新通道」の全面的な整備を完了する方針だ。

重慶市を発着する中欧班列および西部陸海新通道の運行状況について、重慶市発着の貨物と列車を主に管轄している重慶両江新区自由貿易弁公室と、貨物の集積地となっている重慶果園港の運営会社の重慶果園港国際物流枢紐建設発展に話を聞いた(2023年9月8日)。

質問:
重慶市発着の列車と貨物のそれぞれの特徴と現状は。
答え:
重慶市では、中欧班列の出発駅は「団結村」と「果園港」の2つがある。中でも、果園港は重慶市で最大の貨物集積センターである。中欧班列は現在、ほぼ往路も復路も満載の状態であり、最大発車本数は1日3〜4本に及ぶ。一般的には、月初にその月の運行計画を立て、中旬に実際の運行列車に積載できる貨物のキャパシティと貨物の状況に応じて計画を調整する。重慶市と欧州・ロシアを結ぶ中欧班列の主な貨物は、往路では機械や自動車部品、日用品であり、復路では自動車部品や家具などの日用品、高付加価値商品などである。現在、重慶発の中欧班列は、ロシア・欧州までいずれも片道20日程度の日数がかかっている。欧州のターミナルはポーランドのマラシェヴィチおよびドイツのデュイスブルクであり、ロシアのターミナルはモスクワである。欧州からの貨物を東南アジア向けに複合一貫輸送(欧州~重慶市~東南アジア)を行う場合、約30日かかる。
質問:
近年、運行が増えている「西部陸海新通道」の運行状況は。
答え:
2022年には、中欧班列と「西部陸海新通道」がそれぞれ半分の割合で、重慶市から合計1,000本以上の列車が発車されている。1本の列車につき平均110TEU(20フィートコンテナ換算)を載せて運行している。中欧班列で使用されるコンテナは通常40フィートで、「西部陸海新通道」は通常20フィートである。集荷形態は直接顧客からの集荷と、物流会社を通じての集荷の2通りがある。また、重慶市はシンガポールとは協力関係にあり、2019年には両者を結ぶ「国際陸海貿易新通道(ILSTC)」が運用開始となった(2019年4月8日付地域・分析レポート参照)。こうした背景から、重慶市政府は「西部陸海新通道」の利用を促進している。例えば、重慶市から上海市まで長江を通り、そこから東南アジアまで海上輸送する従来のルートは通常1カ月かかるが、「西部陸海新通道」を利用すれば半月で済む。コストは海運よりもさほど高くはなく、費やした時間に比べれば利点があるため、重慶市政府側としては積極的にPRしていきたい。

西部陸海新通道は、開通した2017年から2023年末までの間に、合計9,300本以上運行され、運行本数は開通当初の52倍に拡大している。また、貨物輸送量は86万1,000TEUに達しており、前年比13.8%の増加となった。西部陸海新通道建設の効果もあり、重慶市のASEAN諸国との貿易額は2017年の794億元(約1兆5,880億円、1元=約20円)から2022年には1,266億元へと60%の増加を実現した。

重慶市を発着する中欧班列および西部陸海新通道の日系企業の利用動向について、ジェトロが重慶市の大手日系物流会社にヒアリング(2023年9月11日)したところ、「欧州向けの中欧班列はロシアを経由するため、日系の保険会社の保険が場合によってはかけられないことが多く、日系企業の中国西南地域から欧州向けの輸出をほぼ取り扱っていない。一方で、欧州から中国西南地域への輸入は原材料が多く、中国企業は独自で保険をかけるので、中国企業に対する輸送業務を一部取り扱っている」とコメントした。また、東南アジア向けについては、「重慶からの貨物なら、タイ向けの商品が多い。現在は欽州市経由の西部陸海新通道を利用しているが、今後は新たに開通された中国ラオス鉄道についても期待したい」と述べた。

ほかにも、ジェトロが日系大手総合商社にヒアリング(2023年9月11日)したところ、「西部陸海新通道および中国ラオス鉄道の開通により、東南アジアへのアクセスが良くなり、物流のリードタイムも短縮されるので、今後の沿線プロジェクトへの出資や投資の可能性を検討したい」とのコメントがあった。

中欧班列や西部陸海新通道などの誕生により、輸送の選択肢が増え、鉄道と海運の複合一貫輸送を含め、物流会社としては顧客に対し多様な提案ができるようになった。一方で、西部陸海新通道は、まだ実際に活用している日系企業が少なく、インフラ整備といった課題も存在しているものの、中国を発着する鉄道輸送がユーラシア大陸におけるサプライチェーンを支える存在となる可能性を秘めている。


注1:
2022年7月1日付「新華社」報道による。
注2:
中国西部地域から、広西チワン族自治区を経由して、東南アジアへ至る新たな陸海輸送ルート。
注3:
成都市中心部から北北東に約40キロ、車で約1時間の場所に位置する鉄道ターミナル。詳細は2018年8月23日付地域分析レポート参照。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
高 文寧(がお うぇにん)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、ジェトロ・マドリード事務所、ジェトロ名古屋、ジェトロ・大連事務所などを経て、2023年11月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
王 植一(おう しょくいち)
2014年、ジェトロ入構。2014年11月よりジェトロ・成都事務所勤務。