中国と諸外国を結ぶ鉄道輸送網の動向中国ラオス鉄道の現状と発展の見通し

2024年3月8日

中国西南地域と東南アジアを結ぶ「中国ラオス鉄道」の運用が本格化している。中国内陸部にある雲南省、四川省、重慶市、貴州省とラオス、タイ、ベトナム、ミャンマーなどの東南アジア諸国が鉄道で結ばれるだけでなく、欧州から中国西部地域を通じて東南アジアへ至る物流ルートが構築されつつある。本稿では「中国ラオス鉄道」の最近の政策動向や最新の利用事例について紹介する。

中国西南地域を基点とした中国ラオス鉄道

東南アジア諸国向け貨物鉄道「中国ラオス鉄道」は2021年12月に運行が始まった。中国国営メディア「新華社」は中国国家鉄道集団(中国鉄路)から得た情報として、「中国ラオス鉄道」の貨物輸送量は開通から2周年を迎える2023年12月2日時点で累計2,910万トンに達したと報じている。同鉄道は開通当初、1日に2本の国際列車が運行されていたが、現在は1日に14本の国際列車が運行されている。また、雲南省を中心として、中国の全省・直轄市・自治区とラオス、タイ、ベトナム、ミャンマーなど12カ国を結ぶ物流ルートで活用されているという(「新華社」2023年12月2日)。雲南省商務庁によると、雲南省からラオスへは自動車や機械、工業設備、通信機器など、ラオスからはタピオカや樹脂、鉱石などが運搬されている。

雲南省では「中国ラオス鉄道」を利用した、ラオスをはじめとする東南アジア諸国との貿易が拡大している。2023年の中国ラオス鉄道の国際貨物輸送量は前年比94.9%増の421万7,700トンに達し、2022年10月に策定された「中国ラオス鉄道沿線の3年行動計画」で示された目標値(年間240万トン以上)を大幅に上回った。また、中国税関の呂大良報道官は、2022年の中国と東南アジアの鉄道を通じた貨物輸送のうち、中国ラオス鉄道を経た貨物の比率は44.7%に上り、同鉄道の開通によって鉄道による対ASEAN貿易が約3倍になったことを明らかにした。

2022年12月には「中国ラオス鉄道」によるラオス産やタイ産の生鮮農産物の一貫輸送が開始した(2022年12月16日付ビジネス短信参照)。東南アジアの果物を同ルートを利用して中国西部まで鉄道で輸送し、その後、従来ルートの長江物流を通って主要消費地の沿海地域へ輸送するルートが実現した。中国ラオス鉄道の果物専用列車の運用も着実に本格化している。雲南省の物流会社によると、2023年6月までに中国ラオス鉄道の果物専用列車の輸送量は4万トンを超え、貿易額は9億元(約189億円、1元=約21円)を超えるという(「雲南網」2023年7月1日)。さらに、同果物専用列車によりリードタイムが大きく短縮され、例えば、タイから昆明までドリアンを輸送する際、これまで約1週間かかっていた必要日数が約3日間へと短縮でき、より鮮度を保持することが可能となった。中国内陸部でも質の高い商品へのニーズが高まる中、これらの輸送方式で消費者ニーズに応じていくことも期待されている。

今後拡大が予想される複合輸送ルート

雲南省発展改革委員会と雲南省交通運輸庁は共同で2019年10月、「雲南省物流ハブ建設規画(2019~2035年)」を公開した。同規画では、昆明市を基点とした東南アジアへの国際貨物ルートとして、「中国~ミャンマー」、「中国~ミャンマー~インド」、「中国~ベトナム」、「中国~ラオス~タイ」の4ルートが提起されており、2025年までに雲南省で中国、南アジア、東南アジア間の物流ハブを建設するとしている。2035年までには雲南省の鉄道貨物輸送比率を35%に引き上げるといった目標を掲げている。さらに、雲南省の昆明、大理、徳宏、紅河、西双版納(シーサンパンナ)を国家物流ハブ都市として建築するとしている。

2023年11月には雲南省人民政府は「中国・昆明国際陸港建設実施プランの通知」を発表した。同通知では、昆明市から主に東南アジア諸国へとつながる輸送ルートの整備に関する全体計画を定めている。通知では、複数の路線を組み合わせた輸送ルートを整備するとした上で、その例として、「滬昆線(注)+中国ラオス鉄道」「中国ラオス鉄道+中欧班列」「中国ラオス鉄道+西部陸海新通道」といった複合ルートを明記した。これらの3つの輸送ルート間の連動性、輸送インフラや物流拠点の整備などが盛り込まれている。さらに、2025年までに昆明市のコンテナヤード「昆明国際陸港」を経由する国際列車の運行数を1,500本に増便、2030年までに2,100本に増便することや、貨物取扱量を2025年までに110万TEU(1TEU=20フィートコンテナ換算)、2030年までに160万TEUにするといった目標を掲げている。

実際に、中国ラオス鉄道は中国西南地域以外と東南アジアを結ぶ物流ルートでも活用が進んでいる。2023年10月、上海市から昆明市を経由し、ラオス・ビエンチャンまでをおおむね4~5日で運行する「滬滇·瀾湄線」の運行が開始した。同路線を利用して、東南アジア諸国の果物やゴム、雲南省の砂糖や金属ケイ素などが輸送され、冷蔵庫、農業機械、洗濯機などが東南アジアへ輸送されている。また、中欧班列との連結も進んでおり、2023年12月にタイ・ラヨーンと成都を結ぶ貨物列車の運行が開始した。同路線は、タイ・ラヨーンからラオスを経由し、中国ラオス鉄道を経て成都市に通じる新たな物流ルートで、タイの農産品や日用品の輸出を促進し、同ルートを通じて成都へ輸送された貨物は、さらに欧州やロシアに向けて運ぶことができるという(「中国新聞網」2023年12月15日)。

今後の雲南省物流ハブの展望

中国内陸地域にある雲南省は、東南アジア向けの物流ハブとして注目が集まっている。雲南省政府は2023年9月11日、日系物流企業を対象とした「現代物流企業交流会」を昆明市で開催した。交流会では、雲南省政府などが、対外貿易を支えてきた中国から東南アジア諸国を結ぶ鉄道、トラックの輸送物流網の構築に当たっていまだ課題が数多く残るが、今後も積極的に取り組んでいくとの姿勢を示した。また、昨今では陸路の物流ルートを活用し、タイ、マレーシアなどの東南アジア諸国から農産物、鉱物資源を輸入するとともに、東南アジア諸国に向けて電子部品や自動車部品などを輸出する事例が見られる。

現在、中国ラオス鉄道を活用する日系企業は少ないが、今後の活用に関心を持つ企業もある。成都市に進出する日系物流企業の関係者は「現時点でこのルートを活用することはほとんどないが、海上輸送よりも早く、航空輸送よりも安価な点に強みがあることから、今後これらの物流ルートの中心地の中国西南地域でどのようなインフラ整備がされていくのか、さらに、物流ルートを軸としてどのようにサプライチェーンの構築ができるのか、引き続き動向を注視していく必要がある」と述べた。


注:
上海と昆明の間を結ぶ鉄道路線。
執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
王 植一(おう しょくいち)
2014年、ジェトロ入構。2014年11月よりジェトロ・成都事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
高 文寧(がお うぇにん)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、ジェトロ・マドリード事務所、ジェトロ名古屋、ジェトロ・大連事務所などを経て、2023年11月から現職。