中国、新エネルギー車を中心に自動車輸出が急拡大

2023年3月16日

中国では、新エネルギー車(NEV)を中心に、自動車輸出が拡大している。2022年に中国の自動車輸出台数は日本に次いで世界2位となった。本稿では、中国企業の欧州市場開拓、自動車専用搬送船や国際貨物線「中欧班列」の利用、中国政府の中古車輸出の推進策などについて考察する。

世界2位の自動車輸出国に成長

業界団体の中国自動車工業協会(CAAM)の発表によると、国外での供給力不足と中国企業の競争力向上もあり、2022年の中国の自動車輸出台数は前年比54.4%増の311万1,000台に達した。うち、NEVの輸出台数は前年の2.2倍(67万9,000台)と急増した。メーカー別の輸出台数をみると、上海汽車(90万6,000台)、奇瑞汽車(45万2,000台)、テスラ(27万1,000台)が上位3社だった。比亜迪(BYD)はトップ10に入らなかったが、2022年12月単月の輸出台数は1万2,000台と、安徽江淮汽車集団と同率の8位となった。

表:中国の自動車輸出台数の推移(単位:万台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
輸出台数(合計) 新エネルギー車
台数 伸び率 台数 伸び率
2018年 104.1 16.8 n.a.
2019年 102.4 △ 1.6 n.a.
2020年 99.5 △ 2.9 7.7
2021年 201.5 2.0倍 31.0 4.0倍
2022年 311.1 54.4 67.9 2.2倍

出所:中国自動車工業協会(CAAM)

中国の自動車輸出は2018年から2020年まで約100万台にとどまっていたが、2021年には200万台、2022年には300台と倍増した(表参照)。現地メディアは「2022年の輸出台数はドイツを上回り、日本に次いで世界2位になった」としたほか、「数年以内に日本を上回る可能性がある」と報じた(「環球時報」2023年1月17日、2023年1月20日付ビジネス短信参照)。

2023年に入っても、中国の自動車輸出の勢いは止まらない。CAAMによると、1月の自動車輸出台数は前年同月比30.1%増の30万1,000台に達した。うち、NEVは同48.2%増の8万3,000台だった。メーカー別の輸出量では、上海汽車は同25.7%増の6万9,000台で、全体の22.8%を占めて最も多く、続いて奇瑞汽車(5万2,000台)、テスラ(3万9,000台)の順になっている。BYDは前年同月比24.1倍の1万2,000台と8位に食い込んだ。

大手証券会社の中信証券は「世界各国で実施している購入補助金や低関税率などの電気自動車(EV)普及政策で、中国メーカーの国外進出の黄金期をもたらした」と分析している。「国外での中国メーカーの自動車販売台数(輸出を含む)は2025年に300万台、2030年には550万台と増加し、EVの国外販売台数も2030年に250万台に達する」と予測した(「中国証券報」2022年12月6日)。

欧州市場を積極的に開拓

ここ数年、中国自動車メーカーが特に力を入れて取り組んでいるのは欧州市場の開拓だ。欧州のNEV市場は中国に次いで2番目に大きく、BYDや浙江吉利控股集団のほか、新興EVメーカーの上海蔚来汽車(NIO)などが相次いで進出している。

BYDは2021年のノルウェーを皮切りに、2022年にはデンマーク、スウェーデン、オランダ、ベルギー、フランスなどでNEV乗用車の発売を開始した。2023年には英国、ドイツ、スペイン、イタリア、オーストリア、ルクセンブルク、フィンランドなどでの店舗販売を計画している。浙江吉利控股集団は2023年上期にもハンガリー、チェコ、スロバキアの欧州3カ国で傘下のEVブランドを初めて販売する予定だ。NIOは2021年にノルウェー、2022年にドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデンで納車を開始、2025年には世界25以上の国・地域の市場への参入を目指す。

CAAMの陳士華副秘書長によると、「欧州にNEVを輸出する中国企業は10社に迫り、現地のNEV販売シェアの10%を占める」という(「中国証券報」2022年11月7日)。

上海海関(税関)の発表によると、2022年の上海市外高橋港区海通埠頭(ふとう)から輸出された自動車は101万5,000台と、2019年の約4倍に拡大した。上海汽車やBYDなどが生産するNEVは輸出の主流となりつつあり、主要輸出先も、従来の新興国から欧州や米国、オーストラリアなどの先進国にシフトしているという。NEV輸出額の上位3地域はEU、英国、オーストラリアだ。テスラなどを除いた中国ブランド車に限ると、ベルギー、英国、スロバキア向けの輸出額がいずれも前年の2倍以上に増えたという。

自前で自動車専用運搬船を展開する中国自動車メーカー

急拡大する自動車輸出に対応するため、自動車専用運搬船(以下、自動車船)を発注して自前の搬送手段を確保する自動車メーカーが増えつつある。

国有造船グループの中国船舶集団(CSSC)傘下の広船国際によると、BYDから7,000台積み自動車船2隻の受注があったという。自動車船は全長200メートル、幅38メートル、重油と液化天然ガス(LNG)が使用できる二元燃料エンジン搭載船だ。BYDにとって初の自社自動車船で、欧州向け輸出促進での輸送船不足というボトルネックを解消し、安定的なNEV輸出の確保を狙う。

中国船東(船主)協会(CSA)によると、奇瑞汽車の親会社の奇瑞控股集団は2023年1月28日、山東省威海市の造船基地建設について地元政府と合意した〔「中国船東(船主)協会ウェブサイト」2023年2月13日〕。造船子会社の蕪湖造船廠は撤退した韓国系造船所を活用、2023年内に造船に着手する予定。まずは、受注のあった7,000台積み自動車船3隻の建造に取り組むという。

奇瑞汽車は2022年12月、同じく安徽省に本部を置く自動車メーカーの安徽江淮汽車集団などと共同で、国外輸送サービスを展開する会社を設立した。同社はいち早く外国に進出を果たした代表的な中国ブランドとして、2022年の自動車輸出台数が前年比68%増と急伸した。外需は成長を牽引するエンジンとなり、海上輸送手段の確保の重要性が増しているという。

上海汽車傘下の物流子会社の上汽安吉物流も、自動車船の規模を急拡大している(2022年1月24日付ビジネス短信参照)。CSAによると、同社は2023年1月13日、新たな8,900台積み自動車船7隻の発注結果を公表した。いずれも中国系造船会社の受注で、金額は非公表だが、2026年3月末までに引き渡すと定められている。上海安吉物流は2000年8月に設立した中国最大の自動車輸送会社で、年間の自動車輸送量が約1,000万台に達する。同社は2022年1月に7,600台積み自動車船2隻、2022年5月に7,800台積み自動車船3隻を相次いで発注し、海外向け輸送業務を強化している。

中欧班列によるNEV輸出も開始

欧州で高まるNEVの需要に対応するため、中国自動車メーカーは海上輸送に加え、中国と欧州や「一帯一路」沿線国を結ぶ国際定期貨物列車「中欧班列」の利用も始めた。

中国国家鉄路集団は2022年9月17日、鉄道によるNEV輸送を解禁すると発表。これを受けて、陝西省西安市では2022年9月29日、初の「中欧班列(長安号)」を利用したNEV輸送を開始した。列車には、メルセデス・ベンツと吉利汽車との合弁会社が生産したEV「スマート#1」などを積載、16日後にドイツのディスブルクに到着した。同年10月20日には、四川省成都市で初めて、NIOが生産したNEV輸送を開始。NIOの関係者によると、「NEVの輸出はこれまで基本的に海上輸送を利用してきたが、鉄道輸送なら所要時間が短縮できる」とメリットについて言及。NIOは同年10月7日からドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデンでの販売を開始、鉄道輸送の物流ルートを増やすことは供給の安定性につながるとみている。現地メディアによると、「中欧班列(長安号)」はBYD、フォルクスワーゲン(VW)、NIO、トヨタ、小鵬(Xpeng)などのNEV輸送も展開しているという(「経済観察報」2022年12月16日)。

中古車輸出業務の取り扱い対象地域を拡大

中国政府は新車のほか、中古車の輸出に力を入れ始めている。商務部など3部署は2022年12月、中古車の輸出業務取り扱い対象地域の拡大に関する通知を公表した。遼寧省、福建省、河南省など14省・市が新たに認可され、対象地域は44カ所に拡大した。

中古車輸出は、2019年4月に北京市、上海市、広東省などの10地域で初めて認可され、同年7月に広東省が中国初の中古車輸出を開始していた。2020年11月には河北省唐山市など20地域が追加された(2022年12月12日付ビジネス短信参照)。

乗用車業界団体の乗用車市場信息聯席会(CPCA)の崔東樹秘書長は「中国の中古車市場はまだ初期段階だ。先進国の中古車取引台数は新車販売台数の2倍、中古車輸出量は国内取引量の10%以上から試算すると、中国の中古車輸出の潜在力は非常に大きい」と述べた(「上海証券報」2022年12月7日)。

執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
劉 元森(りゅう げんしん)
2003年、ジェトロ・上海事務所入所、現在に至る。