特集:変化する中国の自動車産業各論(1)変わりゆく中国の自動車産業政策
「自動車大国」から「自動車強国」

2018年6月1日

中国政府は2025年をめどに、自動車産業の高度化を図っている。中でも力を入れているのは新エネ車の普及だ。2019年から、企業の平均燃費と新エネルギー自動車(NEV)の販売に対しクレジット制を導入し、自動車メーカーによる生産・販売促進を図る。日系企業は、NEV市場、ガソリン車市場の両面から戦略を立てることが求められている。

各種政策で自動車産業の高度化を推進

中国政府は自動車産業を重点産業分野の一つに据えている。中国汽車工業協会(CAAM)によると、2017年の自動車販売台数は前年比3.0%増の2,887万9,000台、生産台数は同3.2%増の2,901万5,000台と、生産、販売ともに9年連続で世界一となった。

政府は自動車産業の発展をさらに推進するため、2017年4月に「自動車産業中長期発展規画」を公開し、2020年および2025年までの自動車産業の重点目標や支援措置などを発表した(表1)。

表1:「自動車産業中長期発展規画」が定める目標
規画目標 2020年まで 2025年まで
コア技術の取得・躍進 世界トップ10の新エネルギー車(NEV)企業、スマート車企業を育成する 全世界に影響力があるNEVの基幹企業が市場シェアを一層拡大し、スマート車が世界トップレベルに入る
全産業チェーンの安全なコントロールの実現 1,000億円規模の自動車部品企業集団を複数形成し、コア技術領域の部品で国際競争力を強化する 世界トップ10に入る自動車部品企業集団を複数形成する
中国ブランド自動車の全面的な発展 世界で知名度の高い自動車ブランドを複数作り、商用車の安全性能を大きく高める 複数の中国ブランド車企業の生産・販売量が世界トップ10入りする
新型産業エコシステムの形成 スマート化レベルを上昇させ、アフターマーケットおよびサービス業がバリューチェーンに占める割合を45%以上とする 重点領域のスマート化を実現させ、アフターマーケットおよびサービス業がバリューチェーンに占める割合を55%以上とする
国際発展能力の引き上げ 中国ブランド車の先進国への輸出の実現 中国ブランド車の世界への影響力のさらなる強化
グリーン発展レベルの大幅な上昇 新車の平均燃費を5.0 ℓ/100km、エコカーの平均燃費を4.5ℓ/100km とする
商用車のエコ性能を先進レベル、「国6」排出基準を実施し、NEV のエネルギー効率を先進レベル、車のリサイクル率95%を達成する
新車の平均燃費を4.0 ℓ/100km まで引き上げる
商用車のエコ性能を世界トップレベルに、排出を先進レベルに、NEV のエネルギー効率を世界トップレベルに、車のリサイクル率を先進レベルにそれぞれ引き上げる
出所:
工業・情報化部

中国政府が近年特に力を入れているのが、新エネ車の普及と環境規制だ。2017年9月28日、2度のパブリックコメント(意見公募)を経て、「乗用車企業平均燃費・新エネ車クレジット同時管理実施法」を公布した。2019年に、乗用車の平均燃費とNEVのクレジット制度を導入する。

NEVクレジット制度には、パブリックコメント案からの変更点が二つある。まず1点目は導入時期。パブリックコメント案では2018年から導入予定だったが、これを2019年からとして導入時期を1年遅らせた。また、導入初年(2019年)に限りNEVクレジットの余剰・不足分を翌年(2020年)と合算することを認めた。ただしNEVクレジットの目標値は、2019年が生産・輸入台数の10%、2020年は12%相当と、パブリックコメント案から据え置きとなった。

2点目は対象企業の範囲。導入時期を1年遅らせる一方、対象範囲は拡大した。NEVクレジットの対象は、パブリックコメント案の段階では「年間の生産、輸入台数の合計が5万台以上」の企業となっていたが、これを「3万台以上」に対象を拡大した。

表2:NEV規制の主な変更点
変更項目 パブリックコメント案 公布版
導入時期 2018年 2019年
規制対象 年間の生産・輸入台数の合計が5万台以上 年間の生産・輸入台数の合計が3万台以上
目標値 ガソリン車の生産・輸入台数に対して、
2018年に8%
2019年に10%
2020年に12%相当のNEVクレジットの獲得
ガソリン車の生産・輸入台数に対して、
2019年に10%、
2020年に12%相当のNEVクレジットの獲得
その他 なし 2019年に限り、翌年に余剰・不足分の繰り越しを可能とする
出所:
出所:表1に同じ

中国政府はこれらの政策により、自動車産業の高度化を図る。「自動車産業中長期発展規画」では、「世界トップ10に入る自動車部品企業集団を複数形成する」など中国地場系メーカーの影響力の拡大に関わる目標がいくつも定められている。また、時期は未定だが、外資系自動車メーカーが中国市場に参入する際の出資制限も緩和する見込みだ。現在は中国側持ち分について50%以上との制限があるが、2022年までに外資出資比率制限を撤廃する方針を打ち出した。これにより、外資メーカーの参入を促し、国内メーカーの技術力を向上させる狙いがあるとみられる。

新エネ車の消費喚起にも注力

政府は新エネ車の生産面で規制をかけると同時に、消費喚起にも力を注いでいる。政府は排気量1.6リットル以下の自動車の購入に対し2017年まで減税を行っていたが、これを廃止。他方、2014年9月以来の新エネ車の車両購入税の免税措置について2020年末までの延長を発表した。また、ガソリン車に対しナンバープレート規制をかけている大都市圏においても、電気自動車(EV)であればナンバープレート発給の申請後一定期間を経れば制限なしに発給できるなど、優遇策をとっている。

前述のとおり2017年の自動車販売台数は前年の2桁増から伸びは鈍化したものの、新エネ車に限れば同53.3%増の77万7,000台と、前年(53.0%増)に続き大きく伸びている。中国自動車工業会は2018年の新エネ車の販売台数を、前年比28.7%増の100万台と予測している。

他方、2017年の新エネ車の販売台数比率は全体の4%前後と、目標値にはまだ遠い水準だ。原因の一つに、消費者がEVに魅力を感じていない点がある。中国製のEVの航続距離は200~300キロメートルほどと、ガソリン車に比べてかなり短い。また、車載電池の劣化も早く、2年ほどで残量値が大きく減り、航続距離に支障をきたす。これらの技術的問題を解決しない限り、さらなる普及は難しいとの見方もある。また、車種が限定的で、消費者が好むデザインの車がないこともあるとの指摘もある。

政策や市場性の変化への対応がカギ

前述のようにEVには多くの課題がある。しかし政府は、既にNEVの普及を方針として打ち出している。「自動車産業中長期発展規画」では、2025年までに新車販売台数の2割をNEVにすることを目標としており、今後も生産・消費の後押しが行われる可能性は高い。

日系完成車メーカーも既にEVシフトに向け準備を進めている。中国ですでにEVの販売を行っている日産自動車に加え、本田技研工業、トヨタ自動車も現地でのEV開発・量産の準備を進めている状況だ。日系企業にとっては、今後より厳しくなる環境規制への対応が求められる。

他方、ガソリン車市場も、SUVを中心に引き続き堅調に推移するとみられ、地場系メーカーの生産はさらに拡大するだろう。進出自動車部品メーカーの中には、ここ数年地場系メーカーからの引き合いが増えた企業もあり、「ガソリン車向けビジネスは今後10~20年ほどは問題ないだろう」と楽観視する声もある。

中国のNEV規制に対する日本企業の見方はさまざまあるが、NEVとガソリン車の二つの市場をにらみつつ、今後の中国事業戦略を立てることが求められている。

執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
田中 琳大郎(たなか りんたろう)
2015年4月、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課を経て、2018年3月より現職。

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