特集:変化する中国の自動車産業各論(5)中国自動車産業の近未来
注目集めるIT企業の参入

2018年6月1日

石油需要と環境負荷の増大への対応としての新エネルギー車

広東省新エネルギー車産業協会の周発涛事務局長によると、中国政府が新エネルギー自動車(NEV)の推進を重視する要因としては、環境問題とエネルギー問題があるという。ガソリン車から排出されるガスは、環境に悪影響を及ぼす一因となる。また、現在の中国の石油依存度は高く、国内で使用する石油の3分の2を輸入に頼っており、さらにその3分の2が自動車に使用されているという。一方、中国は現在のところ、他国と比較すると車の保有率が低い。先進国の平均保有台数を見ると、米国では1,000人当たり790台、日本では578台となっているが、中国では140台にとどまる。今後も、経済発展や所得水準の向上などにより自動車の需要増が見込まれることから、石油需要と環境負荷がより高まると考えられる。「この問題の有効な解決策の一つとして、中国政府は目下新エネルギー車の発展を加速させようとしている」と、周氏は強調する。

新エネ車シフトへの課題

一方、NEVは広がりを見せているが、NEVへの本格的なシフトに際しては課題もあるとした。周氏は、(1)ガソリン車メーカーが電気自動車(EV)シフトに必ずしも積極的とはいいがたいこと、(2)充電ステーションのネットワークが十分に整備されていないこと、(3)価格がガソリン車より割高であることの3点を課題として挙げた。価格が高くなる要因は、大半がバッテリーの製造コストによるものである。バッテリー価格が安くなれば、新エネルギー車の価格を下げることは可能だという。

IT系企業が自動車業界に進出

自動車のスマート化やEV化に伴い、IT系企業による自動車業界進出が相次いでいるが、既存の自動車企業はこの動きをどう捉えているのだろうか。

自動車産業以外の企業が自動車業界に進出し始めることで、中国の自動車業界が変化しつつあると、広汽集団零部件の陳和平総経理兼高級エンジニアは指摘する。

広汽研究院の黄亜娟戦略研究・計画発展部副部長は、急成長する中国のIT系企業による自動車産業への参入が既存の自動車関連企業にとって脅威になるかどうかについて、「現時点でははっきりわからない」とした。IT系の自動車企業で上場している企業はいまだないため、判断材料が十分とは言えないことが理由のようだ。既存の自動車メーカーは、IT系企業が展開する自動車ビジネスには注目しているという。また、車本体の設計や製造は、従来のガソリン自動車の生産技術やノウハウを相当程度活用できると思われることから、その分野は従来の自動車関連企業が強みを発揮できるのではないかと同氏は予測する。

相互連携の可能性については、広汽集団零部件の陳氏も同様に、「自動運転などのスマート化された自動車では、インターネットなどのシステムを利用したソフト面だけでなく、設計や部品といったハード面も重要である。ソフト面はIT系企業に強みがある一方、ハード面では伝統的な自動車部品会社が強みを持っており、それぞれの強みを生かした連携も可能であろう」という。

IT系企業の現在と連携の可能性

近年、IT系企業は自動車の量産にも参入し始めている。広汽研究院の黄氏によると、部品などを生産する際、第三者に委託製造することもあれば、自社工場を建てることもあるそうだ。

また、同氏は既存の自動車関連メーカーとIT系自動車企業の関係は、互いに学び合う関係にあるという。既存の自動車関連メーカーは車の生産ノウハウを持っており、IT系の企業はITに高い専門性を持っている。双方の強みを互いに生かせば自動車産業はより大きな発展が期待できるため、IT企業の参入は歓迎するとしている。

このほか、主に自動ブレーキシステムを生産する広州瑞立科密汽車電子の黄万義董事兼総経理は、IT系企業から自動車業界への出資はガソリンから電気へのエネルギーシフトの中で生じたものあり、IT系企業は競合相手というより取引先になる可能性もあるとした。


広汽研究院の模型(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年4月、ジェトロ入構。同月より現職。