特集:変化する中国の自動車産業各論(3)華南の地場メーカーの躍進

2018年6月1日

華南地域では、中央政府の自動車産業推進政策等を背景に、企業の業態等により対応が一様ではないものの、新エネルギー自動車(新エネ車:NEV)関連の研究開発から量産化まで、さまざまな取り組みが展開中だ。

自社ブランド乗用車の躍進

華南地域で最大の自動車メーカーである広州汽車集団(以下、広州汽車)は、2017 年の自動車販売台数が約200万台、前年比21%増であった。中国汽車工業協会によると、中国全体の2017年の自動車販売台数が前年比3%増と小幅な伸びだったのと比べて、広州汽車はおおむね好調な伸びを持続した。販売総数200万台のうち、ほぼ全量が乗用車(約199万7,000台)で、商用車(日野自動車との合弁生産)は約4,000台である。グループ内の主な企業別販売台数は、最大の広汽ホンダ(約71万台)をはじめ、自社ブランド生産の広汽集団乗用車が51万台、広汽トヨタ44万台、広汽フィアット・クライスラー21万台、広汽三菱12万台等となっている。

広州汽車の自動車販売は、2013年に100万台を突破後、4年間で2倍の200万台を達成したことになる。販売総数200万台のうち、自社ブランド車が50万台と4分の1を占め、同36.7%増と全体の伸びを大幅に上回った。自社ブランドであるトランプチは、2018年3月の「全国両会」(中国の国会に相当する全国人民代表大会および人民政治協商会議)ではニュース取材車として提供された。

広汽集団零部件は、トランプチの販売急増の要因について、シート回りの安全基準を他社よりも高く設定するなど、開発・企画段階で品質と技術を最優先させたこと、消費者の好みを考慮し、すぐれたデザイン開発に相当の年数を費やしたことを指摘する。また、広汽研究院は、積極的な研究開発の成果であるとともに、中国の消費のレベルアップ(高価でも質の良いものを求める傾向)等を販売増の理由にあげる。

車種別では、スポーツ用多目的車(SUV)が前年比40.7%増の113万台と急増した。今やSUVは中国の消費者の一番人気の車種ともいえる。


広州汽車の自社ブランド車、トランプチ(ジェトロ撮影)

戦略提携で相互補完をめざす

新エネ車の関連分野では、広州汽車グループ内研究所における研究開発、新会社の設立、IT系企業等との協力関係構築等を推進中である。開発の焦点は、新エネルギーとIT技術を駆使した次世代型の自動車が中心である。

2017年に広州汽車が公表した対外協力案件の事例をみると、6月には、華為との戦略合作協定を締結し、車のインターネット・プラットフォームやスマート運転技術等の研究開発、新エネ車動力部品の業務協力等を展開予定だ。

9月には、テンセント(騰訊)との戦略合作枠組み協定の締結により、スマート・コネクテッド・カーに関するサービス、クラウド・プラットフォーム、スマート運転、ビッグデータ等の業務協力、新エネ車等の領域の資本協力等を定めている。両社は11月、広州汽車・テンセント戦略合作発表会で、iSPACEスマート・ネット電動概念車を披露した。この車は、テンセントの安全、コンテンツ、ビッグデータ、クラウド、AI等のプラットフォームを利用して、広州汽車が初めて自主開発したもので、2018年内に量産開始を予定しているという。

また、11月にデンソーと締結した戦略合作備忘録の中には、新エネ車部品の技術交流・合作、自動運転技術交流・合作の検討等も含まれている。

さらに、広州汽車は12月、上海蔚来汽車有限公司(以下、蔚来)と戦略合作備忘録を締結した。

同備忘録では、双方の協力モデルとして、広汽新能源汽車への株式参加、双方が設立する合弁企業によるスマート新エネ車の研究開発・販売・サービス等があげられている。また、できるだけ社会資本を導入して車両レンタル・カーシェアリング、キーパーツ(動力系、スマート電子・電器)の研究開発と製造、自動車ソフトの開発・スマート自動車の研究・インターネット自動車の応用分野等で協力を強化する旨も定めている。

広州汽車、広汽新能源汽車、威来等が設立予定の合弁企業(暫定企業名:広汽蔚来新能源汽車)は、予定投資総額12億8,000万元、登録資本5億元で出資比率は広州汽車と広汽新能源がそれぞれ22.5%、蔚来と湖北長江蔚来が合計55%とする。初期登録資本2億元のうち、広州汽車と広汽新能源が4,500万元ずつ出資予定だ。

蔚来は新エネルギー自動車・部品の技術開発、技術サービス、コンサルタント、自動車部品等の輸出入、自動車販売を主要業務とする企業で、2014年に設立された。なお、蔚来は、広州汽車との備忘録締結に先立つ2016年4月に江淮汽車と戦略合作枠組み協定を交わし、2017年4月には長安汽車と戦略合作協定を締結済みであり広州汽車は3社目の協力関係構築となる。江淮汽車とは同年5月に製造合作枠組み協定を締結し、当初年間5万台の新エネ車生産計画等を取り決めた。長安汽車とは、合弁企業の設立、研究開発、生産、販売、サービス等の全領域で協力する意向を確認している。

IT系の新規自動車参入企業は、大手IT系企業やインターネット関連事業者、投資会社等からの投融資を主な資金源とし、IT技術を駆使した次世代型新エネ車の量産化段階に入ろうとしている。

広州で代表的な小鵬汽車は、2014年に設立後、IT系、既存自動車系それぞれを出身母体とする専門人材を結集し、研究開発を進めてきた。例えば、元広汽研究院、第一汽車、テスラ出身の技術専門家が小鵬汽車の副総裁ポストで活躍しているようだ。

2017年5月、小鵬汽車は、肇慶市で完成車生産工場の建設に着工した。予定総投資額は100億元規模であり、第1期計画では年産10万台を予定している。10月には、鄭州の海馬汽車に委託生産した量産車の第1号が披露された。

新エネ乗用車普及のネックの一つといわれる割高な価格問題の改善に向けたチャレンジも相次ぐ。蔚来は2017年12月、7人乗りSUVタイプのEV車であるES8の販売を正式に開始した。標準仕様の価格は44万8,000元であり、テスラModelXの価格(約83万元から)と比べると大幅に低い価格で話題となった。航続距離は、時速60キロの等速で最長500キロ、NEDC基準で355キロである。

また、威馬汽車が公表したSUVの電動自動車EX5は、最長航続距離600キロメートル、販売予定価格は20万元からで、2018年からの量産を予定している。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査
加藤 康二(かとう こうじ)
1987年、ジェトロ入構。日本台湾交流協会台北事務所(1990~1993年)、ジェトロ・大連事務所(1999年~2003年)、海外調査部中国北アジア課長(2003年~2005年)などを経て2015年から現職。