特集:変化する中国の自動車産業各論(2)中国自動車市場における日系企業の動向
商機と課題

2018年6月1日

近年、中国国内の売れ筋車種がセダンからスポーツ用多目的車(SUV)へとシフトしている。自動車の買い替え需要や電気自動車(EV)シフトによる影響が見込まれる中国自動車市場では現在、人脈構築やコスト競争、債権回収をめぐるトラブル、スピードや品質基準に対する考え方の違いなどの課題もある。本稿では中国へ進出した日系自動車関連企業へのヒアリングを基に、その商機と課題について考察する。

SUVブーム

本田技研工業(ホンダ)、日産自動車、トヨタ自動車、マツダの4社は、2017年の中国での新車販売台数が前年実績を上回り、いずれも過去最高を更新した。中でもホンダは144万1,307台、前年比15.5%増と最も高い伸びを示した。ホンダは中国完成車メーカーの東風汽車集団(合弁企業名:東風本田汽車、本拠地:武漢市)、広州汽車集団(広汽本田汽車、広州市)との合弁会社を有する。新車販売台数の内訳は、東風本田汽車が22.0%増の72万7,025台、広汽本田汽車が9.6%増の71万4,282台と、いずれも単年の販売記録を更新した。

東風本田汽車の販売台数をけん引したのは、セダン「シビック」で、前年比95.0%増(17万6,457台)と記録的な伸びだった。「カーオブザイヤーに選ばれたシビックは売れると言われている」(日系自動車部品メーカー)という。しかし東風本田汽車には、さらに売れた車がある。スポーツ多目的車(SUV)の「CR-V」だ。前年比は0.3%増だが、18万7,641台とシビックより1万台以上多かった。

中国汽車工業協会(CAAM)によると、SUVは2017年の中国における販売台数が1,000万台を突破した。前年比13.3%増の1,025万台で、乗用車市場の41.5%を占めた。2015年は52.4%増の622万台、2016年は44.6%増の905万台と、近年大幅な伸びを示している。メンツを重視する中国人に大きな車体が受けたほか、さまざまな道路事情に適応するSUVの性能が評価され、各完成車メーカーによる製品投入が急増した。

湖北省の省都・武漢市は自動車産業が集積し、「中国のデトロイト」「自動車城」とも言われる。本件に関するヒアリングを行った2017年11月時点では、武漢に進出した日系自動車関連部品メーカー(Tier1、Tier2)の多くは土日も出社というところが少なくなかった。特に東風本田汽車系列のサプライヤーは、「CR-Vのみならずシビックも好調なのはうれしい誤算。工場はフル稼働状態」とのことだった。日系完成車メーカー幹部は「SUVは今後もさらに伸びる」と自信を示し、新型SUVをはじめとする多種多様な車種を展開し顧客の幅広いニーズに応える構えだという。

買い替え層に商機

中国公安部交通管理局によると、2017年末時点での中国の自動車保有台数は、前年比11.9%増の2億1,700万台だった。日系完成車メーカーからは、初めて自動車を購入する層がまだ大きい中国では、顧客がまず重視するのは低価格、次にデザインで、品質はその次だという声が聞かれる。実際に、地場系完成車メーカーのSUVは、価格が6万元(約100万円、1元=約17円)ほど、デザインもまずまずでエントリーユーザーからの人気を集める。地場系完成車メーカーは今後の戦略として「引き続きSUVのニーズに応えるとともに、若者をターゲットに定めるなどエントリーユーザーへのアプローチを強化する」という。

一方で、中国の自動車保有台数を地域別にみると(2017年末)、53都市で自動車保有台数100万台を超え、北京や成都、重慶、上海、蘇州などの24都市が200万台を超えた(表参照)。これらの都市では今後、買い替え需要への対応も重要となってくる。こうした買い替え需要が見込まれる地域に進出した日系自動車部品メーカーは「最近、走行時の騒音を気にする中国人消費者が増えた」と話す。今後は、徐々に静音技術やより高性能な自動車に関連する部品のニーズが高まることが予想され、日系企業のビジネスチャンスはさらに広がるものと期待される。実際に、トランスミッションやブレーキなど命にかかわる部品を製造する日系企業は商機と捉え、「中国市場が気にしているであろう分野に自ら旗を立てていく」と意気込む。

表:2017年末時点での中国の自動車保有台数が200万台を超える都市
順位 都市名 台数(万台)
1 北京 564
2 成都 452
3 重慶 371
4 上海 359
5 蘇州 355
6 深セン 322
7 鄭州 304
8 天津 287
9 西安 271
10 東莞 263
11 武漢 261
12 石家庄 247
13 青島 246
14 杭州 244
15 広州 240
16 南京 239
17 寧波 229
18 佛山 228
19 保定 217
20 長沙 217
21 昆明 215
22 臨沂 215
23 濰坊 212
24 瀋陽 210
出所:
中国公安部交通管理局

人脈構築やコスト面などに課題

中国へ進出した日系自動車関連企業には課題もある。日系自動車関連企業へのヒアリングを基に、中国の自動車市場を開拓・拡大する際の日系企業の課題をまとめると以下の4点が指摘できる。

1点目は、人脈形成である。中国ビジネスの成否について人脈が重要と指摘する声は多いが、自動車業界においても例外ではない。中国において20年以上車載関連事業を展開する企業も「地場系完成車メーカーや部品メーカーを新たな取引先として検討する場合には、いかにキーパーソンを見つけられるか、どれほど取引先の情報に精通できるかという点で、コネクションが重要となる」と話す。

2点目は、コスト面での競争である。取引先の拡大において競合相手となるのは、圧倒的な低価格を売りにする地場系部品メーカーだ。在中国日系完成車メーカーからは、「近年は地場系部品メーカーが安かろう悪かろうから、安くてより良い品質の部品を製造するようになった」という意見が聞かれるなど、地場系メーカーの部品は低価格でありながら品質も確実に向上してきている。

3点目は、地場系完成車メーカーおよび部品メーカーとの取引開始後の問題として、納品や債権回収をめぐるトラブルがある。契約どおりの債権が回収できない、納期、納品量が守られないといった話を聞く。

最後に4点目は、在中国欧米完成車メーカーや地場系完成車メーカーおよび部品メーカーが、日系完成車メーカーおよび部品メーカーのスピードや品質基準とは大きく異なる要求をしてくることだ。

求められるスピードと品質

在中国欧米完成車メーカーや地場系完成車メーカーおよび部品メーカーと、日系の完成車メーカーや部品メーカーが要求するスピードや品質基準はどう異なるのか。まず指摘されるのは、開発から生産開始までのスピードである。例えばある部品メーカーは、「日本では一般的に2~5年であるのに対し、中国では1年半ほどが相場だ」という。これにはビジネススタイルの違いが関係している。日本では完成車メーカーとそのTier1が部品の図面を作成し、規格を事前にすり合わせた後に発注されるのが一般的だが、中国ではTier1が部品の試作品を持ち込み、完成車メーカーが採用するか判断を下すので、どのような車種に使用されるか等の詳細は、試作品を持ち込み採用されて初めてわかるという。結果、採用の有無にかかわらず、試作品を製造するコストがかかることになるため、日系の車載関連部品を製造する企業は「開発倒れにならないよう留意している」という。中国での部品の開発は高付加価値化よりスピードやコストが時には重要といえよう。

他方で、求められる品質がより厳しいケースもある。瀋陽市には独自動車大手BMWの工場があるが、取引先に要求する品質基準が厳格であるといわれる。部品は基準値からの誤差許容範囲がミリ単位で指定される。また、原材料などの調達先まで指定があるという。

在中国欧米完成車メーカーや地場系完成車メーカーおよび部品メーカーと取引をする際、求められる品質基準に違いはあるが、いずれにせよ部品を最速で納入する必要がある。このため、在中国日系自動車関連企業は現地化の動きを加速させている。権限を日本の本社から中国に委譲することで、意思決定にかかる時間を短縮し、要求されるスピードに合わせることが狙いだ。

今後はガソリンエンジン車からEVへ中国の自動車市場がシフトし、そのサプライチェーンには今まで自動車を全く作ってこなかった業種からの参入も考えられるが、中国自動車市場の開拓・拡大を検討する企業には、人脈形成やコスト競争、債権回収をめぐる問題に加え、異なる品質基準に対し、スピードとコストを踏まえ対応することが求められる。

執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
田中 琳大郎(たなか りんたろう)
2015年4月、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課を経て、2018年3月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
清水 絵里子(しみず えりこ)
2016年4月、ジェトロ入構。海外調査部海外調査計画課を経て、2017年6月より現職。