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特集 変化する中国の自動車産業

2017年11月から2018年1月にかけ、中国の大連、瀋陽、武漢、成都、重慶、広州の6都市において、日系および中国地場の自動車関連メーカー、地方政府の自動車産業所管部署へのヒアリングを行った。自動車業界関係者の発言を基に、中国における自動車関連メーカーのビジネスの今後の方向性について考える。

2018年6月1日

日系自動車関連メーカーの現状

2017年の中国の新車販売台数は2,888万台で過去最高を更新し、9年連続世界第1位となったが、増加率は前年比3.0%増と2016年(13.7%増)を大きく下回った。前年も自動車減税が行われていたこと、2017年は減税幅が縮小したことなどが鈍化の原因とみられる。しかし日系ブランド車の販売は好調であった。2017年の乗用車販売全体が1.4%増にとどまる中、日系ブランド車は10.9%増とドイツ系(7.5%増)や米国系(2.8%増)を上回った。

ヒアリングを行ったころ、現地の日系自動車部品メーカー各社には、土日も出社というところが少なくなかった。主要顧客である日系完成車メーカーは、従来から得意とするセダンのみならず、近年中国で人気のスポーツ用多目的車(SUV)も販売が好調だったためである。2017年はセダンの販売が1.4%の減少(1,185万台)となったが、SUVは13.3%増加し、台数(1,025万台)でセダンと肩を並べつつある。

しかし日系自動車部品メーカーの多くは、納品先である日系完成車メーカーの今後について楽観はしておらず、設備投資については慎重であった。また投資をするにしても、資金は現地の売り上げと銀行借り入れで賄っているため、本社からの投資は2000年以降ないという企業もあった。

このように投資には慎重な各社であったが、売り上げについては増やしていきたいとの意向であった。短期的には日系完成車メーカーからの発注への対応で手一杯の状況だったが、中長期的には取引の大半が日系企業である現状を改め、中国地場企業や非日系外資企業との取引を拡大することを考えていた。

力をつけた地場企業

電装品を中国で生産するある日系メーカーは地場企業について、近年は製品の品質が向上し脅威となってきていると語った。別の日系部品メーカーも、納入先である大手セットメーカーに自社以外の取引先が30社ほどあり、10年前は競合他社といえば日系企業だったものが、今では地場系が競争相手になっているという。中国地場の完成車メーカーに部品を納入する地場系メーカーを訪問した際、その工場の省人化の進展に驚いたとのことだった。

地場系の完成車メーカーや部品メーカーは従来、低価格が競争力の源泉だったが、近年は技術レベルも上がってきている。地場系完成車メーカーの6万元(約100万円)ほどのSUVは、デザインもまずまずでエントリーユーザーに人気だという。

日本や米国の製品は確かに技術が高く性能もよい。ある日系メーカーは、例えばエンジンや静音技術は今でも日本の方が上だと言う。しかし購入者がどこまで静音技術にこだわるものか、初めて自動車を購入する層が多い中国で、顧客がまず重視するのは低価格、次にデザインで、品質はその次だとも漏らす。

自動車産業の政策の方向性

中国の自動車市場で人気車種がセダンからSUVに変化する中、政府が電気自動車(EV)化を推し進めている様子は、省エネや環境保護の観点からすれば一種のねじれ現象にもみえる。

2017年の新エネルギー車の販売は77万7,000台、前年比は53.3%と前年(53.0%増)に続き高い伸びであった。うち純電動車は前年比82.1%増(46万8,000台)、プラグインハイブリッド車は前年比39.4%増(11万1,000台)と高い伸びを示している。しかし新エネ車全体でみても市場シェアは2.7%に過ぎず、今のところ消費者が選ぶのは新エネ車ではなくガソリンエンジン車である。政府関係者を別とすればEV購入にまだそれほどの勢いはないとの声もある。EVはバッテリー性能の限界から航続距離が短く値段も割高で、充電ステーションのネットワークも現時点では十分とはいえない。ユーザーに支持されているガソリンエンジン車が早々に市場から消えるということは考えにくく、日系のエンジン部品メーカーも、「EVシフトが進めば苦しいのは事実だが、まだ10~20年は大丈夫」と語っていた。

EV車の普及は補助金に後押しされてきたが、新エネルギー車の発展計画で定められた数年後の目標が前倒しで達成されたこともあり、2020年に中央政府の補助金は終了する。「新エネルギー車は補助金が無くなればガソリン車との価格競争に負けて売れなくなる」「優れたガソリンエンジン技術を持つメーカーほどEVシフトに消極的」との声も聞かれる。

しかし中国において環境保護や省エネの流れは不可逆的と言ってよい。中国政府がガソリンエンジン車からEVへのパラダイムシフトにより外資優位の自動車産業の構図を一気に変えようとしているというのは、衆目の一致するところだ。また、補助金によるEV支援は終わるにしても、今後はEVの使用環境整備が政策的に進められるものとみられている。

現在、外資系完成車メーカーは1社につき2社の中国合弁企業しか作ることができないが、純電動車製造であれば2社という制限はない。4月17日の国家発展改革委員会の発表によれば、新エネルギー車および特殊用途車は2018年に出資制限がなくなる(商用車は2020年、乗用車は2022年)。

また完成車メーカーは、SUVばかり生産していては企業平均燃費規制をクリアできなくなるため、EV、PHV(プラグインハイブリッド車)の生産に向かわざるを得ない。現状、交通渋滞の激しい大都市ではナンバープレート規制(特定のナンバーの車が走行できない日を設ける規制)が行われ、物流車含めガソリンエンジン車は通行が制限されているが、EVはそうした制限の対象から外れているのが普通であり、規制回避の点からもEVはユーザーが着実に増えていくと考えられる。

2017年4月に工業・情報化部、国家発展改革委員会、科学技術部が発表した「自動車産業中長期発展規画」は、2020年の新エネルギー車の年間生産・販売台数を200万台とし、2025年には新エネルギー車が自動車の生産・販売に占める割合を20%以上とする目標を掲げている。中国に進出している日系自動車メーカーの幹部は、新エネルギー自動車(NEV)規制もあり中国におけるEV生産・販売台数は2025年に400万台を超え、2030年には1,000万台に達するとみる。中国という市場は規模が大きいため、中国で乗用車市場に占めるEVのシェアが仮に数%であっても、台数でみれば日本の数倍といったことが起きることに目を向けるべきだという。

日本企業の商機

日系の部品メーカーは中国地場企業との取引拡大に苦労をしている。人を乗せ雨風もある屋外で長い距離を素早く移動する自動車という財には、高い安全性や耐久性が求められる。それでいて価格にもとりわけ厳しいのが中国市場だ。厳しい競争の結果としてあるサプライチェーンに途中から分け入ることには、他の業種にない難しさもあるものと思われる。

地域によって地場メーカーが調達に苦労する部品はないのか。この点については、内陸の都市では高品質な金型を製造している企業がないとの声があったものの、これは地場メーカーではなく日系の部品メーカーから聞いた話であった。

地場の部品メーカーに話を聞く機会が内陸の都市で一度だけあったが、特に調達に苦労している部品はなく、要望としてあったのは、経営管理、品質向上、人材育成、省人化などのノウハウの共有であった。一方で現地の日系自動車部品メーカーは、トランスミッションや、ブレーキなど命に関わる部品、環境に配慮したクルマの製造については優位性があると考えている。

買い替えるときはもっと良いクルマに乗りたい、というのがユーザーの心理だろう。買い換え層が増え、外観や燃費にとどまらずクルマに対する要求水準が上がることは、日系企業のビジネスチャンスが広がるということでもあるのではないか。

スピードが求められる中国市場

日系自動車関連企業の多くは中国企業との取引の拡大を考えているが、その際に日系自動車関連企業が意識しなければならないのは、中国企業のスピード感である。

欧米や日本の自動車部品の場合、発注者と受注者とが連携して図面の作成・すり合わせにあたり、規格を決め、発注という流れとなるが、中国企業はそれと異なり、受注者側が発注者に対し速やかに部品の試作品を提供することを要求される。提供して初めて、どのメーカーのどの車種に使われるのか分かるのだという。

人により言い方はさまざまだったが、「グローバル企業の場合、設計から生産開始までは2年かかるところ、中国企業の場合は1.5年」「欧州や日本企業の生産リードタイムが約2年であるのに対し地場系は3カ月~1年」など、中国企業の特長が経営のスピードにあることは確かだ。ある日系の部品メーカーは、地場系に卸す場合、日本の本社を通すと決定に1カ月くらいかかるので中国で対応し、先方のコンタクトから5日以内にサンプルを持っていくようにしているという。

そのような中国で日系完成車メーカーも、取引したい部品メーカーの要素として「地場系完成車メーカーとの取引があること」を挙げるようになっている。それだけ最近は、一部の中国完成車メーカーの部品メーカーに対する要求水準が高くなっている。

EV、スマートカーへの対応

ガソリンエンジン車からEVへのシフトが進んだ場合、そのサプライチェーンには今まで自動車を全く作っていなかった電池やモーターなどのメーカーが参入してくる可能性が高い。

今や製造面で大国となった中国において日系企業に期待されているのは、中国に足りないハイエンドな技術であり、自動車産業も例外ではない。EV用バッテリー(電池)はその最たる例といえるだろう。中国のEVバッテリーは、エネルギー比、エネルギー密度の点で劣り、質の高いものは供給不足だという。他方、質の低いものは供給過剰となっている。

今後の自動車のスマート化を見越し、IT企業が既に自動車業界から人材を集めているとの話もあった。在中国のある日系自動車メーカーの幹部は、中国は自動運転やコネクティッドカー、音声ナビ、カーシェアリングが世界で最も進んでいる国であり、世界で最も高性能かつ中国規格に合ったものを納入しなくては勝てないと言う。またコネクティッドカーの時代には、BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)と付き合えなければ成功は不可能との見方を示した。

日系自動車部品メーカーが中国において留意すべき三つのポイント

最後に、ある日系完成車メーカー幹部が、中国において日系自動車部品メーカーが留意すべきこととして指摘した三つのポイントを紹介し、本稿を終えたい。

第一に、中国は日本よりも遅れているとの見方を改めることである。自動車産業の話ではないが、アリペイ、ウィチャットペイによるキャッシュレス化の進展はその例といえるだろう。

第二に、開発や納品にかかるスピードを中国に合わせることである。日本のメーカーの場合、フルモデルチェンジは5年に一度程度だが、中国メーカーは毎年のように行うという。

第三に、品質追求と価格のバランスである。例えば日本では3カ月以内の車の故障が1000台のうち1台になるまで品質を高める努力を重ねるとすると、中国では1000台のうち10台程度までであり故障の発生もその分多いが、故障時の対応がきちんとしていれば大きな問題と考えないのが中国のユーザーだという。中国では品質向上に要するコストが販売価格に転嫁できるかどうかの見極めが、日本よりはるかに重要といえるようだ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課長
箱﨑 大(はこざき だい)
都市銀行に入行後、日本経済研究センター、銀行系シンクタンク出向、香港駐在エコノミストを経て、2003年にジェトロ入構。ジェトロ・北京事務所次長(調査担当)を経て、2014年より現職。編著に『2020年の中国と日本企業のビジネス戦略』(2015)、『中国経済最前線―対内・対外投資戦略の実態』(2009)がある。

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