米製造業の雇用創出に貢献する日本企業、独自の人材開発プログラムも

2026年4月6日

米国にとって日本は、6年連続で最大の投資元国だ。米国進出日系企業は100万人を超える雇用を創出し、地域経済に貢献している。しかし、進出日系企業の経営課題として、人材不足の悩みは根強く聞かれる。解決策の1つとして、企業独自の人材育成プログラムや地域との連携を通じた労働力開発に取り組むケースが増えている。日本企業が米国市場で中長期的に成長するために、戦略的な人材育成への取り組みが選択肢となり得る。

日本企業による対米投資が雇用を創出

日本企業の海外戦略において、米国市場は不可欠だ。ジェトロが毎年実施する「海外進出日系企業実態調査(北米編)」において、2025年に「今後1~2年に米国で事業を拡大する」と回答した割合は約半数の48.3%で、第2次トランプ政権の政策変更がもたらす不確実性を織り込みつつも引き続き重要な市場と位置付ける企業が多い。日本企業にとって米国は主要な投資・輸出先の1つで、製造業、サービス業を問わず、多くの企業が進出している。

米国側から見ても、日本企業の存在感は大きい。米国の対内直接投資残高において日本からの投資は、2024年は前年比3.3%増の8,192億ドルで、2019年から6年連続で国別首位を維持している(2026年1月19日付地域・分析レポート参照)。雇用創出数で見ても、2023年に前年比6.4%増の102万6,400人で、英国に次いで2位の多さだ(注1)。製造業に限ると、英国の倍の57万4,500人(2023年)の雇用を生み出し、外国企業の中で最大の雇用主となっている(表1参照)。

表1:対米直接投資額上位国による雇用創出数(2023年)(単位:1,000人)注:対米投資額(2024年)の多い順に記載。
国名 全業種 製造業
製造業
合計
食品 化学品 金属加工 一般機械 電子機器・
部品
家電、
電気機器
輸送用
機器
日本 1,026.4 574.5 22.5 54.5 33.4 48.7 44.3 7.8 240.7
カナダ 970.1 166.2 29.8 8.1 5.6 7.8 2.8 1.5 48.6
ドイツ 925.1 322.4 3.3 76.8 20.9 25.5 30.3 7.0 93.9
英国 1,301.4 287.6 16.7 55.5 13.6 11.2 13.5 1.3 54.8
合計 8,661.8 3,000.3 360.8 430.6 185.9 259.7 206.9 130.8 656.8

注:対米投資額(2024年)の多い順に記載。

出所:商務省経済分析局(BEA)から作成

分野別では、自動車など輸送用機器、医薬品を含む化学品のほか、一般機械などで雇用者数が多い。雇用者数を全米50州に分布すると日本企業が生み出す雇用の特徴が分かりやすい。特に人口の多いカリフォルニア州やテキサス州で多いことに加えて、中西部や南東部など製造業企業の集積が多い地域で雇用への貢献が顕著であることを示している(図参照)。

図:日本企業による州別雇用創出数
米国の50州における日本企業の雇用創出数を州ごとに記載。雇用者数5万人以上を赤色、3万~4万9,000人を橙色、1万~2万9,000人を薄緑色、1万人未満を青色に色分けした地図。人口が大井カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州のほか、製造業が集積する中西部、南東部で雇用創出数が大きい。

注:最終的な実質所有者(UBO)が所在する国を基準とした集計値。
出所:米国商務省経済分析局(BEA)からジェトロ作成

トランプ政権の労働力開発はワーカー育成を重視

2025年1月に発足した第2次トランプ政権は、重点政策の1つに製造業の国内回帰(リショアリング)を通じた雇用創出を据え、さまざまな税優遇や関税措置の導入と併せて労働力開発を促す施策を打ち出している。同年4月には、「米国人の未来の高賃金技能職に備える」と題する大統領令(EO14278)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに署名し、連邦政府の労働力開発プログラムを新興産業や企業の労働力ニーズに対応できるよう見直してアップデートすることに着手した(2025年4月30日付ビジネス短信参照)。トランプ氏は第1次政権期(2017年1月~2021年1月)にも、労働力不足や技能ギャップの問題の解決に向け「登録実習プログラム(Registered Apprenticeship Program)」(注2)を立ち上げる大統領令(EO13801)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに署名しており、2期目に入りEO14278で、同プログラムの拡大を指示している。

こうした施政からうかがえるトランプ政権の労働力開発の特徴は、より仕事に直結した人材育成に傾注する姿勢といえるだろう。2025年4月のEO14278に、企業のニーズに対応する、4年制大学の学位の代替となる資格や評価方法を特定すると記載したことも一例だ。バイデン前政権(2021年1月~2025年1月)においても、新型コロナ禍からの経済再建に向けた要の政策として、製造業の国内回帰と中低所得者層の底上げのための雇用創出が重視された。2021年11月に成立したインフラ投資雇用法(IIJA)、2022年8月に成立したインフレ削減法(IRA)、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)を通じ、110万人を超える雇用が創出される枠組みを設け、特にCHIPSプラス法は総額2,500億ドルが半導体分野の労働力開発に振り向けられる設計にされた。大規模な製造業人材の需要を作り出したバイデン前政権が、受給ギャップを埋められないままに第2次トランプ政権に遺産を引き継いだかたちといえる。

そのほかにも第1次トランプ政権下の2018年には、民間企業も巻き込んだ「米国労働者のための誓約(Pledge to America's Workers)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」プログラムを立ち上げ、1,600万件を超える新たな職業訓練機会を提供する誓約を企業から取り付けた。バイデン前政権でも2023年5月に、商務省、労働省、教育省が共同で外資系企業向けの労働力開発プログラム「セレクトタレントUSA」を立ち上げ、日本企業を含む外国企業に対して技術支援・採用支援・労働者育成支援を提供し、米国での事業展開を後押しする枠組みを開始している(2024年6月28日付ビジネス短信参照)。労働力開発を連邦・州政府が一方的に提供するものと位置付けるのではなく、民間企業にもコミットメントを求めるかたちで必要な人材を育成する点は、トランプ、バイデン政権で共通した傾向であることがうかがえる。

戦略的に人材育成に取り組む日本企業

労働力開発への積極的な関与は党派を問わず、常に優先的に取り組まれてきた施策といえる。しかし、前述の『海外進出日系企業実態調査(北米編)』で、米国に進出する日系企業が共通して直面する課題として労働力確保や賃金上昇といった点が、懸念事項として常に上位に挙げられており、米国での人材戦略が事業成長の鍵となっていることが示唆されている。労働力の需要と供給のギャップが埋まらない事態は、単なる人手不足ではなく、求める技能や経験を持つ人材の確保が難しいという構造的な課題といえる。製造業や高度な技術領域では熟練技能者や特殊技能を持つ人材ニーズが高い一方で、米政権はワーカーの育成を優先する政策を取っている。また、高齢化に伴う労働力の減少、若年層の技能職離れ、他社との人材獲得競争の激化といった米国内の要因も考えられる。

こうした事態を1つの背景として、米国に進出する日系企業の中には、独自の人材育成プログラムや地域連携を通じた労働力開発に取り組むケースが増えている。地域の教育機関と連携するものが多く、数十年にわたり実施しているもの、最近立ち上げられたものなど、新旧さまざまな取り組みが見られる(表2参照)。

表2:地域の労働力開発に貢献する日本企業事例
日本企業 連携先 概要
東京エレクトロン マイクロン
米国6大学、日本5大学
(ニューヨーク州、アイダホ州など)
マイクロンが製造拠点を置くアイダホ州、ニューヨーク州、バージニア州、広島などに立地する大学とパートナーシップを締結し、半導体の人材養成拠点の形成、研究開発を強化するUPWARDSプログラムを2023~2028年の5年間実施。
富士フイルム テキサスA&M大学
(テキサス州)
テキサス州に製造拠点を有する富士フイルム米国子会社フジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ(FCDI)がテキサスA&M大学と再委託契約を締結。卒業生の採用、人材育成プログラムの提供などを実施。
リコー ノースカロライナ州立大学
(ノースカロライナ州)
積層造形の技術指導・労働力開発プログラムを学部・院生に提供するほか、インターンシップも提供。
ダイキン カルフーン・コミュニティー・カレッジ
(アラバマ州)
同カレッジに対し、産業用プロセス制御に関わる技術者育成を目的とした返済不要の奨学金を提供。1994年から同州ディケーター市の工場でフッ素化学事業を展開し、就労機会も提供。
ホンダ(本田技研工業) オハイオ州立大学
(オハイオ州)
2000年に覚書を締結し、共同研究開発、車両試験機関の設立、奨学金支援、インターンや卒業生の採用など、研究開発とエンジニア人材の育成に貢献するプログラムを実施。
日産自動車 テネシー州応用技術大学
(テネシー州)
テネシー州の日産スマーナ工場隣接地に、テネシー州政府と北米日産による出資で2017年に日産トレーニングセンターを開校。高度な実習設備と実践的な教育プログラムを提供。
ジェイテクト クレムソン大学
(サウスカロライナ州)
同大の国際自動車研究センター(CU-ICAR)に拠点を置き、学生と共同で研究開発をすることで人材育成、産学連携に貢献する取り組みを実施。
カワサキモータース ネブラスカ大学
(ネブラスカ州)
同大リンカーン校への寄付で1992年、カワサキ・リーディング・ルームを校内に設置。リンカーン工場は州内で最大の製造事業者。インターンシップの提供、卒業生の雇用のほか、地域の高校生向けに製造業人材育成プログラムを提供。

出所:筆者によるヒアリング、ビジネス短信、企業発表資料などから作成

自動車産業を中心とする日系製造業では、地元コミュニティーカレッジや技術系大学とパートナーシップを結び、インターンシップや技能訓練コースを共同運営する事例が多い。学生が現場経験を積みやすくなるだけでなく、日本企業側も将来的な採用候補者との接点を強化できる。また、研修課程のカリキュラム設計に協力することで、企業ニーズに即した技能教育を提供する動きが見られる。こうした連携は、現地労働市場における技能ギャップを埋める上で重要な役割を果たしている。単に人材を確保するだけでなく、地域にとっては地域経済や教育機関との相互連携を強化し、日本企業にとっては社会的責任(CSR)や地域共生戦略として評価される効果が期待できる。

米国市場において日系企業が競争力を維持・拡大する上で、労働力の確保と育成は不可欠な経営課題だ。単なる採用活動にとどまらず、政府の支援制度を活用したり、地域の教育機関・自治体と連携した人材育成プログラムを構築したりすることで、企業自身の成長と地域の労働市場の発展を同時に実現することが期待できる。トランプ政権下における対米投資政策は、製造業の国内回帰と雇用創出を重視する一方で、日系企業が直面する労働力確保という課題に対し正面からの解決策となるか、一定の疑問も残る。トランプ政権の1期目、2期目の動きを見ると、労働力開発に民間企業を巻き込む手法を志向する傾向がうかがえる。この機会を捉え、日系企業は必要な人材の獲得を独自の目線で取り組む人材戦略を推進することが、米国での長期的な成功の鍵となるのではないだろうか。


注1:
商務省経済分析局(BEA)、Data on activities of multinational enterprises、2025年12月5日に2023年計データが公表された。 本文に戻る
注2:
業界主導型の教育訓練制度で、企業の将来の労働力の教育訓練、労働者の実務経験・資格取得を支援するもの。 本文に戻る
注3:
トランプ政権の関税措置詳細はジェトロ特集ページ「米国関税措置への対応」参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課長
伊藤 実佐子(いとう みさこ)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部米州課、対日投資部(北米・大洋州担当)、サンフランシスコ事務所を経て2023年8月より現職。2010年5月、米国ペンシルベニア大学大学院修了、公共政策修士。共訳書に『米国通商関連法概説』(ジェトロ、2005年)。