富山×インド連携のこれまでとこれから
地方発インドビジネス支援例

2026年4月22日

富山県は、産業別就業人口割合に対して第2次産業の占める割合が全国トップで、日本海側屈指のものづくり県だ。この産業集積を背景に、経済分野での国際交流が盛んに行われている。中でもインドとは2015年に南部のアンドラ・プラデシュ(AP)州と交流・協力に関する覚書を締結し、連携を深めてきた。2024年12月には新田八朗県知事を団長とするインド経済訪問団を派遣し、経済、文化、人的学術交流にデジタル分野を加えて同州との覚書を更新した(2024年12月24日付ビジネス短信参照)。また、AP州に隣接するタミル・ナドゥ(TN)州チェンナイで現地企業と商談・交流を行い、インド側から連携に期待する声があがっている(2024年12月24日付ビジネス短信参照)。

こうした機運の高まりを受けて、富山発インドビジネスのさらなる展開へつなげようと、ジェトロではさまざまな取り組みを実施している。本稿では、近年ジェトロが実施したインド関連事業の内容や成果を踏まえ、富山県とインドの連携に向けた今後を展望する。注目が高まるインド事業に対する地方発の取り組み事例として参考になれば幸いだ。

富山県とインドのつながり

インドが世界最多の人口を抱えていることはいうまでもないが、ヒンディー語以外にも21の公用語を持つなど「多様性の国」としても知られる。住民の気質を取ってみても、地域ごとに特色がある。南インド地域の人たちは一般的に穏やかであるとされ、デリー首都圏とは違うインドの面を見ることができる。

またインド南部は製造業が盛んであり、主要都市であるカルナータカ州ベンガルールやTN州チェンナイ周辺はいずれも自動車メーカーをはじめ日系製造業の拠点が多く立地しているほか、かつて東インド会社が交易していた歴史的経緯から、TN州やAP州には喫水の深い船舶が入港できる、日本の円借款によるアクセス道路も整備された良港が多い。

富山県は医薬品を主要産業とするAP州に着目し、2010年代から経済、文化、人的交流などで関係を深めてきた。AP州は2024年6月にナラ・チャンドラバブ・ナイドゥ氏が州首相に返り咲いて以降、中央政府との良好な関係を背景として投資誘致やビジネス環境改善に動き出している。

自治体と連携したインド展開支援

インドに対する富山県企業の関心の高まりを受け、インド経済訪問団の派遣を具体的なビジネス支援につなげるべく、ジェトロは2025年4月、富山県庁と連携して、インドビジネスの相談対応や現地情報の収集・発信を行う窓口である富山県・インド経済デスクを開設した。インドビジネスに関する相談対応窓口として、情報提供や現地企業とのマッチングなどをサポートしている。開所式に出席した新田八朗知事は、訪印した際の印象を踏まえ「インドは新たな販路となる可能性がある。県としてサポートしていきたい」と述べた。


富山県・インド経済デスク開所式に出席した新田知事(中央)ら(富山県提供)

また、ジェトロは2025年8月に「インドビジネスセミナー」を富山県および富山県新世紀産業機構と共催した(2025年9月2日付ビジネス短信参照)。インドでのビジネス展開と高度人材をテーマとした本セミナーでは、中小企業がインドでビジネスを始めるきっかけづくりや、市場展開のコツなどが解説された。AP州の大学に通う学生を採用した富山大扇工業(本社:富山県中新川郡)は自社の取り組みを紹介し、「県内の高校では1人あたり200~300件の求人があるといわれる。新卒人材確保に苦慮する中、日本のものづくりを学びたいと話すインドの学生を採用できたことは大変ありがたい」と述べた。

商談機会の提供と協業の提案

インドは、地域ごとで所得層やターゲットとなる市場、商習慣が異なることなどから、一般的に参入障壁の高い市場とされる。ハードルが高いインド市場を開拓するため、ジェトロでは商談会や協業機会の提供を行っている。

2025年10月30~31日に開催された富山県ものづくり総合見本市(T‑Messe)2025では、海外バイヤーを招へいした個別商談会を実施した(2025年11月7日付ビジネス短信参照)。商談会では、富山県内企業を中心に34社がインドから来日した5社のバイヤーと商談に臨んだ。商談前には、商談先企業を事前に訪問することでバイヤーの製品に対する理解を深めるなど工夫し、参加企業からは「インドのティア1企業と有効な商談ができ、自社製品についても一定の評価を頂いた」「人脈形成ができてよかった」という声が寄せられた。来日企業の中には、AP州からのバイヤーも含まれ、同社は新田知事との面会を実施するなど、インドと富山県の国際交流が促進された一面も垣間見えた。


商談の様子(ジェトロ撮影)

AP州からのバイヤーの説明を受ける新田知事
(ジェトロ撮影)

ジェトロは2025年 10月にインドとの連携の糸口とするべく、ディープテック(注)など技術革新を促進するスタートアップ支援機関の担当者を招へい。インドとの協業・技術連携・人材育成の可能性を探る場を提供した。

協業や技術連携は、海外への現地法人設立やM&Aでの進出とは異なり、ガバナンスをインド側に任せることになる一方で迅速な事業立ち上げが可能とされる。なじみのないインド市場で地場企業のネットワークを生かした販路開拓ができる点や、技術の組み合わせによってインド市場の展開可能性を探ることができる点で、協業・技術連携は1つの選択肢となる。

ただ、そのためには連携先のパートナーが信頼できるかがポイントとなる。また、富山県に多い産業財メーカーの商談は、即座に成約につながることは少なく、仕様の確認から試作品の試験などさまざまなプロセスを経る必要がある。ジェトロでは、2025年9月~2026年2月に対面商談を実施したインドバイヤーとのフォローアップ商談をアレンジするとともに、現地コーディネーターを窓口としてインド進出のパートナー候補を探すための支援を行った。2026年以降も、中長期的なインド企業との関係構築ができるよう、「富山県・インド経済デスク」をハブとして、日本企業との連携ができる地場企業の紹介や、継続的な商談機会の提供につなげる予定だ。

そのほか、県内製造業とインドの結びつきを深めるため、2026年3月には富山県庁と協力して、「インドセミナー―製造業とインド人材・技術の連携可能性―」を開催した。インドのスタートアップ企業を支援するアクセラレーターの担当者が、富山県の製造業とインドの連携可能性について講演した。富山県庁および企業のスタートアップに関する取り組みは始まったばかりだが、変化の激しいインドの状況を継続的にアップデートし、富山県企業に対してインドと向き合う端緒を提供していきたい。

南インドにおける富山のプレゼンス向上

これらの活動により、既に新たな成果が生まれている。2025年8月のインドビジネスセミナーに参加した企業の中から、新たにAP州内の大学から高度外国人材の採用を決定した企業、2025年度内に新たに首都ニューデリー近郊に駐在員事務所を開設する企業などが出ている。そのほか、地場企業が有する販路を生かして、海外市場展開を見据えたインド企業との協業を発表した企業もある。

2025年には両国・地域間で複数の往来があった。インド側から、2025年5月29日にAP州の高官が富山県を訪問したほか、同州で開催されたインドの投資誘致サミット”CII Partnership Summit”(2025年11月19日付ビジネス短信参照)のジャパンセッションでは、ジェトロから富山県内のインド事業の取り組みと展望をPRするプレゼンを行った。

2026年には富山県内の経済団体から高度人材の採用を目的としたインド訪問団の派遣が既に発表されており、今後ますます両地域の連携深化が見込まれる。

富山県としても、2026年4月から県職員をジェトロ・チェンナイ事務所へ派遣し、県を挙げてインドビジネスへの意欲を持つ企業を支援する方針だ。ジェトロは引き続き自治体など関係機関と連携しながら、新興国インドにチャレンジする企業へのサポートを続けていく。


注:
ディープテックとは、量子コンピューターやバイオテクノロジー、細胞培養肉や自動運転など、社会や産業界に革新的な変化をもたらす可能性のある先端科学技術分野の技術を指す。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・富山事務所
村上 久(むらかみ ひさし)
1996年、ジェトロ入構。ジェトロ鹿児島、ジェトロ・モスクワ事務所、ジェトロ・ロンドン事務所等を経て、2022年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
田村 健(たむら けん)
2019年、富山県庁入庁。外務省(出向)などを経て、2025年ジェトロ富山、2026年4月から現職(出向)。