中東産LPGの供給不安を受け、関心が高まるCNGへの転換(ベトナム)
2026年7月1日
ベトナムでは中東情勢の悪化を受け、輸入依存度の高いLPG(液化石油ガス)の供給不安と価格上昇が顕在化している。ホルムズ海峡周辺の航行リスクを背景に中東からの調達が滞ったほか、代替調達によるコスト上昇も重なり、産業用燃料市場は不安定化した。一方、国内ガス生産の減退を背景に、同国ではLNG(液化天然ガス)の本格導入が進みつつあり、エネルギー構造の転換点を迎えている。本稿は、ベトナムで産業用・商業用顧客向けに天然ガスの供給や屋根置き太陽光発電などのエネルギーサービスを展開するSojitz Osaka Gas Energy(以下、SOGEC)へのインタビューに基づく。同社は、工場の熱源を、重油・軽油・石炭・LPGから、CNG(圧縮天然ガス)を使用する高効率なガスだきボイラーへ転換することで、CO2排出量の削減に貢献する事業提案を行っている。同社の青山芳朗ゼネラル・ディレクターと藤本幸央最高執行責任者(COO)に話を聞いた(取材日:2026年5月21日)。
輸入依存のリスク顕在化とガス供給構造の変化
ベトナムでは中東情勢悪化の影響により、LPGの供給不安と価格上昇が発生している。2026年3月には、ベトナム国営石油・ガスグループであるペトロベトナム傘下のペトロベトナムガス(PVガス)が、LPG供給について、災害などの場合に販売先への供給義務が免除される「フォースマジュール(不可抗力条項)」の適用を宣言するなど、一時的にLPG供給が逼迫した。国内のLPG生産だけでは不足し、輸入に大きく依存しており、輸入の約70%が中東地域(カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)など)から供給されていた。中東情勢悪化を受けた2月末以降は、ホルムズ海峡周辺の航行リスクなどの影響から、中東産LPGの積み出し遅延が発生した。このため、PVガスは米国・豪州などから代替調達を進めたものの、アジア市場全体でスポット需給が逼迫し、輸送費や上乗せコストが上昇した。5月時点では供給の安定化が徐々に進み、価格高騰も沈静化の傾向にある。
ベトナムのガス産業は、1995年にホーチミン市南東沖にあるバクホー油田からの随伴ガスが陸上に送られ、ホーチミン市(旧バリア・ブンタウ省)のバリア発電所で使用されたことに始まる。その後、ホーチミン市南東沖のナムコンソン盆地にあるランタイ・ランドーガス田が2002年に生産を開始し、東南部工業地帯およびガス火力発電向け供給の中核となった。2000年代以降、天然ガス生産量は増加を続け、2015~2016年頃には年間約100億立方メートル規模に達した。国産ガスは分離プラントで天然ガス、LPGなどに分離され、このうち約85%が火力発電向け燃料として利用され、残りは肥料原料や、工場熱源として供給されている。
しかし、近年は既存ガス田の生産減退と新規大型ガス田開発の遅延により、国内供給は減少傾向にあり、2025年の生産量は約51億立方メートル規模とされている。現在は、ブロックBガス田南部アンザン省沖)(注1)の開発が進められており、2027年第3四半期に生産開始予定だ。完成後は、日量約1.5億立方メートル規模の供給能力が見込まれている。
こうした供給制約を背景に、ベトナムではLNG(液化天然ガス)やCNG(圧縮天然ガス)の活用拡大が進められている。2025年12月には、南部ドンナイ市で国内初のLNG火力発電所であるニョンチャック第3・第4LNG火力発電所が稼働を開始した(2026年1月5日付ビジネス短信参照)。改定版の第8次国家電力開発基本計画(PDP8)では、2030年までにLNG発電を総発電容量の約9.5~12.3%とする目標が掲げられ、国内各地でのLNG発電所計画が進められている(2025年5月7日付ビジネス短信参照)。中東依存の高いLPG市場が不安定化する中、LNG・CNGの活用への関心が高まりつつある。
SOGECに聞くベトナムのガス供給と市場動向
- 質問:
- 貴社の概要について。
- 答え:
- 当社は双日グループと大阪ガスグループの合弁会社として、2019年10月に設立された。本社はホーチミン市(旧バリア・ブンタウ省)のフーミー3特別工業団地に所在し、同工業団地内のテナント工場への天然ガス供給を主力事業としている。PVガスから原料を調達し、食品・製紙・金属などの製造企業に対し、工場内のボイラー、工業炉、コージェネ(熱電併給システム )などの設備向けに24時間体制で天然ガスを供給している。また、パイプラインが通じていない地域向けには、CNGをローリー車で輸送・供給する事業も展開している。
- 代表的な燃料転換事業としては、エースコックベトナムの北部フンイエン工場および南部ビンズオン工場において、石炭を燃料とするボイラーを高効率な天然ガスボイラーに転換した。本取り組みは、環境省の「二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism:JCM)資金支援事業」のうち、設備補助事業(注2)にも採択されており、10年間で約76,300トンのCO2削減を見込んでいる。
- また、当社は2021年10月、LOOOP社との合弁会社SOL Energyを設立し、ドンナイ市のロンドウック工業団地などで産業用顧客向けの屋根置き太陽光発電事業も展開している。
- 質問:
- 中東情勢悪化以降、ベトナムのガス価格はどのように変動したか。
- 答え:
- ガス価格の動向は、LPGとCNGで異なる特徴がみられる。
- まずLPGについては、供給不安を背景に代替調達の動きがあり、価格は大きく上昇している。LPG価格は一般に、サウジアラムコ(注3)が月次で公表するContract Price(以下、CP。LPGや中東原油の基準価格)に、輸送費や保管料、人件費、金利などを加えた形(プラスα)で決定されるが、CP自体が従来の1トン当たり約500ドルから6月は約800ドル程度まで上昇している。さらにプラスα部分も拡大しており、2026年初め(1~2月頃)はタンクローリー輸送で「CP+150ドル」程度であったものが、5月のスポット調達では「CP+300~400ドル」まで上昇した。この背景には、中東依存からの代替調達(米国・豪州など)があるが、これらは相対的にコストが高く、全体の価格押し上げ要因となっている。
- 一方、CNGおよびパイプラインガスについては、短期的には比較的供給が安定的に継続されている。これは国内供給比率がLPGに比べて高いことが影響しているとみられるが、価格は原油価格(ブレントなど)に連動するため、上昇傾向にある。
- 企業側では調達方針の見直しを進めているものの、どの調達手段にシフトするかは引き続き検討段階にある企業が多いとみられる。
- 質問:
- 中東情勢悪化以降、LPGの供給難により、CNGを使用するボイラーへの転換の相談は増加したか。
- 答え:
- LPG供給不安を背景に、CNGへの燃料転換に関する問い合わせは増加している。中東情勢悪化以降、食品・飲料、鉄鋼・非鉄、製薬など幅広い業種の企業から、10~20件の問い合わせがあり、実際にCNGの導入に至った企業もみられる(バックアップ用途を含む)。
- 質問:
- CNGを使用するボイラーへ移行するメリットと、移行までの所要期間は。
- 答え:
- CNGへの移行メリットは、LPGと比較してCO2排出量の低減が期待できる点だ。また、燃料価格や調達条件によっては、ランニングコストの低減につながる可能性がある。ただし、LPGも比較的クリーンなガス燃料であるため、重油などからの転換時のように「燃焼残渣の削減」をメリットとして強調するよりも、CO2排出量、燃料費、供給条件、設備改造費などを含めて総合的に評価する必要がある。
- 燃料転換にあたっては、CNG受け入れ設備、減圧装置、配管などの整備に加え、既設ボイラーの仕様に応じてバーナー調整・交換、消防・工事関係を含む関係当局への届け出・確認などが必要となる。移行期間は、既設設備の状況、工事範囲、各種届け出・事前確認の要否、操業停止期間の確保状況などにより大きく異なるため、一概には言えない。具体的な期間は、既設設備の仕様、CNG供給・受け入れ設備の構成、必要な工事範囲を確認した上で、個別に見積もる必要がある。
- 質問:
- ガス供給の優位性や電力供給の安定性などに、地域差はあるか。
- 答え:
- ベトナムにおけるガス供給および電力供給の状況は、地域差がみられる。国内ガス田は北部にも存在するものの、供給規模や関連インフラの集積という点では南部に大きく偏っている。特に南部では、ホーチミン市およびドンナイ市周辺を中心に天然ガス・LNG関連インフラが整備されており、PVガスが周辺の発電所や工業団地向けにパイプラインガス供給網を構築している。また、国内初のLNG輸入基地であるチーバイLNG基地もホーチミン市(旧バリア・ブンタウ省)に位置している。北部にも天然ガス供給インフラは存在するが、南部と比較するとその規模や供給先は限定的だ。
- 電力供給についても地域差がある。北部は水力および石炭火力発電への依存度が高く、乾季や猛暑時には供給が逼迫しやすい傾向にある。これに対し、南部は天然ガス火力や再生可能エネルギーの導入が進んでおり、電源構成の面で相対的に選択肢が多い。今後のエネルギー供給においては、LNG火力発電が重要な役割を担うと見込まれるが、現時点では、ニョンチャック第3・第4 LNG火力発電所のみが稼働している段階にとどまっている。今後、北部における電力需要の増加や乾季の需給逼迫への対応という観点から、LNG火力発電による供給力の確保が課題となる。
- 2025年4月に承認された改定版PDP8では、2030年に向けて太陽光発電および風力発電を大幅に拡大する方針が示されている。これに伴い、天候に左右される再生可能エネルギーの出力変動に対応するための調整力の確保が一層重要となる。一方で、中東情勢の不安定化などを背景にLNGの価格変動リスクも残ることから、LNG火力発電、蓄電池、デマンドレスポンス(注4)などを含む調整力全体の中でLNG火力発電をどのように位置付けるかを整理する必要がある。
- 注1:
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Block Bプロジェクトは、三井石油開発(MOECO)、ペトロベトナム、ペトロベトナム探査開発会社(PVEP)、PVガス、タイ国営石油ガス会社(PTTEP)が参画。
- 注2:
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優れた脱炭素技術などを活用して、途上国などでの温室効果ガス(GHG)排出量を削減する事業を実施し、測定・報告・検証(MRV)を行う事業。途上国などのGHG削減とともに、JCMを通じて日本やパートナー国のGHG排出削減目標の達成に資することを目的とする。優れた脱炭素技術などに対する初期投資費用の2分の1を上限として補助を行う。なお、この事業はベトナム政府と日本政府の協力の下で実施されている。
- 注3:
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サウジアラビア政府が株式の8割超を保有する国営系エネルギー会社。原油・天然ガス・LPGの生産・輸出を手掛け、同社が毎月公表するLPGの契約価格(CP)は、アジア向けLPG取引の主要な価格指標として用いられる。
- 注4:
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電力需要が高まった際に需要家が電気の使用量を調整し、需給のバランスを保つ仕組み。再生可能エネルギーの普及やエネルギーコストの高騰に伴い、デマンドレスポンスによる電力供給の安定化と効率的なエネルギー活用の重要性が増している。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所 ディレクター
新田 和葉(にった かずよ) - 民間企業勤務を経て、2019年、財務省大阪税関入関。 財務省関税局を経て、2023年8月から現職(出向)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所
小林 真龍(こばやし しんりゅう) - 2014年、福島県庁入庁。 2024年、ジェトロ中堅中小企業課、2025年4月から現職(出向)。





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