ポーランド2027年秋総選挙に向けた政治展望、専門家に聞く
2026年5月20日
ポーランド政治は2000年代半ば以降、「市民連立(Koalicja Obywatelska。以下、KO)」と「法と正義(Prawo i Sprawiedliwość。以下、PiS)」を中心とする2大政党対立を基軸に展開してきた。KOは親EU・中道リベラルを志向し、都市部や高学歴者層を主要な支持基盤とする一方、PiSは国家主権重視で社会保守主義を掲げ、地方部や高齢者層から安定的な支持を得てきた。両党の対立は、政策論争を超えて、国のあり方や価値観の相違を伴う構造的な分極化を特徴としている。
しかし近年、この二極構造には変化が生じている。2023年の政権交代過程では、中道・中道保守の受け皿として「ポーランド2050」と「ポーランド農民党(PSL)」の連合政党「第3の道(Trzecia Droga。以下、TD)」が一時的に存在感を示したが、構成政党間の政策の違いや支持基盤の弱さを露呈し、同連合は2025年6月に解消された。その後、両党の支持率は低迷している(図参照)。
一方で、自由主義的経済政策と急進的ナショナリズムを組み合わせる極右政党「自由と独立同盟(Konfederacja Wolność i Niepodległość。以下、同盟)」が支持を拡大し、さらに「同盟」から分派した「ポーランド王冠同盟(Konfederacja Korony Polskiej。以下、王冠)」も一定の支持を集めている。中道勢力の弱体化と相まって、2大政党に不満を持つ有権者の票や一部の浮動票が右派・急進勢力に流入しているとみられ、従来の2大政党中心の構造は維持されつつも、右派内部での分化と再編の兆しがみられる。
注1:「左派」は、「新左派」「左派と共に」「労働連合」による連合同盟。
注2:「第3の道」の2023年12月の支持率は、前身の「ポーランド2050」およびPSLの支持率を使用。
出所:調査機関IBRiSの情報を基にジェトロ作成
主要政党の動向
2023年10月の議会選挙では、KOを中心とする連立政権が発足し、親EU路線への転換や、「法の支配」の回復が主要政策目標として掲げられた(2025年2月27日付地域・分析レポート参照)。連立内では、その一角を占める政党「新左派」のヴウォジミェシュ・チャジャスティ議員が同年11月に下院議長に就任するなど議会運営上の安定性は保たれているものの、連立内の政策の違いに加え、大統領による拒否権行使の可能性もあり、政策決定には大きな調整負担を伴っている。
一方、PiSは野党に転じた後も、2025年大統領選で勝利し(2025年6月3日付ビジネス短信参照)、大統領拒否権を通じて政権を牽制している。さらに2027年総選挙を見据え、首相候補を明確化(元教育科学相のプシェミスワフ・チャルネク下院議員)するなど政権奪還に向けた体制整備を進めている。
「同盟」は、既存政党への不満を背景に若年層を中心に支持を広げ、右派陣営再編の中核として将来的に多数派形成のカギを握る勢力となる可能性が高まっている。一方、「同盟」から派生した「王冠」は、2025年大統領選挙に向けた候補者選定を巡る対立を背景に分離した極右政党で、より急進的・反体制的立場を明確にすることで、妥協を嫌う右派支持層を吸収している。党首のグジェゴシュ・ブラウン氏は過激な言動で物議を醸すことも多いが、右派票の分化と先鋭化を促す存在として、右派再編を押し進める要因の1つとなっている。なお、両党の大統領候補は2025年大統領選挙の第1回投票で、合計2割強の得票率を記録しており、これらの票が決選投票に向けた勢力図に影響を与え、結果としてカロル・ナブロツキ大統領の当選を後押ししたとみられる(2025年5月22日付ビジネス短信参照)。
以上のように、ポーランド政治は2大政党対立を基調としつつも、中道勢力の弱体化と右派勢力の台頭という構造変化に直面している。こうした動きが今後の政党再編や連立の行方、さらには対EU関係や経済環境にどのような影響を及ぼすのかについて、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの仙石学教授に聞いた(取材日:2026年4月7日)。

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの仙石学教授へのヒアリング
- 質問:
- 2023年の政権交代およびその後の中道再編を踏まえ、現在の政党体制をどう見ているか。
- 答え:
- 政権交代後しばらくは、KO、PiS、「左派」、TD、「同盟」の5政党が、ある程度安定して併存していたが、直近で状況はかなり変わってきている。特に大きいのは、かつて中道・中道保守の受け皿だったTDが弱体化・解消し、ポーランド政治で中道が空洞化しつつある点だ。その結果、不満を持つ有権者の票や浮動票が、より右側、すなわち「同盟」や、同政党の分派である「王冠」に流れている可能性がある。
- 「同盟」は若年男性層を中心に一定の支持基盤を持っており、単なる一時的な抗議票の受け皿にとどまらず、持続的な政治勢力として定着しつつある。一方で、より過激でパフォーマンス色の強い極右政党「王冠」については泡沫(ほうまつ)政党だとみていたが、直近の世論調査で支持率が10%前後に達している以上、制度上は議席獲得が可能であり、無視できない存在だ。
- 全体として見ると、従来のKOとPiSによる二極構造というよりも、中道が細り、右派で再編が進んでいる過程にあると考えるのが妥当だ。
- 質問:
- 2027年選挙後の連立シナリオについて。
- 答え:
- 現在の支持率動向を前提にすると、連立の選択肢は以前よりかなり狭まっている可能性がある。PSLや「ポーランド2050」がキャスティングボートを握るという構図は、もはや考えにくい。
- 現実的なシナリオとして、1つはKOを中心に「左派」を組み込む連立が継続するケース(現政権)であり、もう1つは、PiSが第1党に返り咲き、「同盟」などの右派勢力と連携するケースだ。特に「同盟」が10%前後の支持率を維持できれば、連立交渉における大きな発言力を持つことになる。
- 過去の中・東欧諸国の事例を見ても、小党が「組まない」ことで影響力を失うケースは少なくない。その意味で、「同盟」が姿勢を軟化させ、PiSとの連立を選択する可能性は十分にある。したがって、2027年選挙後の政権は、KOおよび「左派」かPiSおよび「同盟」という2つのブロックのいずれかになる可能性が高い。
- 質問:
- 2027年総選挙で有権者に最も影響する争点は何か。
- 答え:
- 経済や安全保障の重要性が高まっていること自体は間違いない。ただし、それが選挙における最大の決定要因になるとはいえない。
- ポーランドの政治では、これまでも政権が経済を争点化しない対応を続けてきた。直近のKO政権による燃料費抑制策(注1)などはその典型であり、コロナ禍においても当時のPiS政権下でバラマキ政策が採られていた。その結果、経済政策の細かな違いが有権者の投票行動を決定付ける状況は生まれにくい。
- 引き続き争点となるのは、価値観やアイデンティティの問題、つまりリベラルか保守か、EU志向か主権重視か、ジェンダーや家族政策をどう位置付けるかといった社会・文化的な選択であり、「どのようなポーランドであるべきか」という国のあり方そのものを巡る認識だ。安全保障や経済の議論が増えたとしても、選挙の最終局面では、従来型の価値観対立が引き続き前面に出てくる可能性が高い。
- 質問:
- EUとの関係は、政権によってどの程度変わるか。
- 答え:
- 親EUであるKO政権が継続した場合、EUとの関係が改善方向に向かうこと自体は間違いない。一方で、PiSが政権に復帰し、さらに「同盟」などの右派勢力が連立に加わる場合、EUとの緊張関係が再び強まる可能性は高い。ただし、この点については、ポーランド国内の動きだけで判断するのは難しく、実はハンガリーの選挙結果が非常に大きな影響を持つと考えている。
- 仮にハンガリーで親EU政権発足が実現した場合(注2)、ポーランドにおいても「EUとの全面対立路線」の現実性は相当程度低下すると考えられる。2027年のポーランド総選挙でPiSを中心とする右派勢力が政権を獲得したとしても、EUとの関係は緊張をはらみつつも枠内での調整にとどまる可能性が高い。
- 他方、ハンガリーでオルバーン・ビクトル政権が維持され、あるいは選挙結果を巡る混乱が生じれば、ハンガリーに同調するかたちでポーランドでもEUとの摩擦が先鋭化する可能性は否定できない。
- もっとも、ポーランドはEUにおいて最大級の受益国であり、EU離脱が現実の選択肢になるとは考えにくい。焦点は離脱の是非ではなく、EUの枠内でどこまで自律性を主張するかにあり、このバランスは政権の性格だけでなく、中・東欧全体の政治状況、とりわけハンガリーの動向に左右される。
- 質問:
- 日系企業にとってのリスクと機会は何か。
- 答え:
- 短期的なリスクは、政権運営の不安定感や、大統領拒否権による政策決定の遅れといった政治面の不確実性にある。ただし、政権が交代したからといって、ポーランドの経済政策が根本から変わる可能性は低いと考えている。
- ポーランドでは、与野党を問わず、外資誘致、インフラ整備、エネルギー転換を軸に成長していくという認識が広く共有されており、政治的対立が激しくても、経済運営の基本的方向性には大きな連続性がある。
- 実際、政治とは切り離された次元で、ポーランドは米国やEU、日本を含む外資との協力を重視しており、受け入れ姿勢は一貫している。こうした点を踏まえると、ポーランドは引き続き有望な投資先であり、日系企業にとっても中長期的な機会は多いだろう。
- 注1:
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2026年3月26日、中東情勢に伴って高騰する燃料価格を抑制する対策として、ポーランド政府はガソリンとディーゼル燃料に対する付加価値税を、23%から8%に引き下げる方針を発表した。
- 注2:
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取材後、2026年4月12日に実施されたハンガリーの選挙では、マジャール・ペーテル党首率いる新興野党ティサが3分の2以上の議席を獲得し、憲法改正が可能な多数を確保し、政権交代を実現した(2026年4月16日付ビジネス短信参照)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ワルシャワ事務所
金杉 知紀(かなすぎ ともき) - 2024年からジェトロ・ワルシャワ事務所で勤務。ポーランドの政治・経済・産業動向に関する調査を担当。





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