ルーマニア、ウクライナ復興ビジネスの実行拠点としての可能性

2026年3月13日

ウクライナと614キロにわたる国境を共有するルーマニアは、欧州、アジア、中東・アフリカの中間に位置し、黒海における欧州最大の港であるコンスタンツァ港を擁する地政学的要衝だ。さらに、EU・NATO加盟国として高い制度的安定性を有することから、ウクライナ復興を支える重要な拠点として位置付けられている。

ウクライナ復興に関連し、ルーマニアではEU基金を活用したインフラ、エネルギー、デジタル分野の大型投資案件が進展している。同国をウクライナ復興ビジネスの拠点とすることは、日本企業にとって、EU法制度の下で政治・制度リスクを抑えつつ、EU基金や国際金融機関の枠組みを活用した復興事業に参画できる点が大きな利点だ。

本稿ではウクライナ復興に関してルーマニアが担う役割と有望分野を整理し、日本企業のビジネス機会を探る。

地理的・制度的・経済的強みを活かしてウクライナ復興の実行基盤を強化

「ウクライナ・ファシリティー」(2024年2月6日付ビジネス短信参照)をはじめとするEU主導の復興支援プログラムに基づく融資は、EU法制度に沿ったプロジェクト形成を前提とする場合が多い。ウクライナと国境を接するEU加盟国ルーマニアは、EU資金へのアクセスや法制度面との整合性を備え、これらのプログラムの実行を支える立場にある。

ルーマニアは黒海に面するコンスタンツァ港、ドナウ川の内陸河川路、道路や鉄道を組み合わせた国際輸送ネットワークを有し、ウクライナ向け物流の多経路化と強靱(きょうじん)化を支える役割を担っている。

エネルギー分野では、国境を越えたエネルギーインフラの構築、送電網の連結、黒海における海底ケーブルなどの重要インフラ保護などを通じて、地域のエネルギー安定性に寄与している。

さらに、NATOやEUの安全保障関連の拠点やミッションを配置することで、地域全体の抑止力を高めており、ウクライナ復興プロジェクトの実行における安定性や地域間協力を促進する役割を担う。

こうした役割を背景に、ルーマニア政府はEU基金を活用し、復興関連需要を取り込むための投資環境整備を進めている。輸送分野では、欧州横断輸送ネットワーク(TEN‑T)中核回廊への接続強化を目的に、高速道路、鉄道、港湾への投資を加速する。エネルギー分野では地域全体のエネルギー安全保障を意識した投資が進展する。デジタル分野では、行政や物流のデジタル化を通じて、EU基準への整合と国際物流の効率化が図られている。表1は、コンサルティング大手アーンスト・アンド・ヤング(EY)・ルーマニアが、ウクライナ復興支援において、ルーマニアが発揮するビジネス環境の特徴をまとめたものだ。

表1:ウクライナ復興においてルーマニアが発揮するビジネス環境の特徴
項目 内容
資金調達
  • 「InvestEU」枠組みにより輸出信用保証(約4,375万ユーロ)を確保し、ウクライナ向け機械・建築資材・技術輸出を支援
  • ウクライナのエネルギー・物流網の耐久性強化に向けた欧州投資銀行(EIB)の6億ユーロ支援パッケージに参画。大規模インフラ事業を支援する「ウクライナFIRST」の枠組みでプロジェクトの準備を進める
  • 国債で43億レイを調達。ウクライナ関連の投資への投資家の強い関心を示唆
制度・ガバナンス強化
  • EU基準に沿った法制度
  • OECD加盟に向けた改革を推進(投資案件スクリーニング、ガバナンス、反贈賄制度の改革など)
物流 2023年にウクライナとルーマニアの両政府は、国境インフラ改善、連帯レーンのキャパシティー増強に関する覚書(MoU)を締結
産業・防衛生産基盤
  • 欧州安全保障行動(SAFE)プログラムで167億ユーロを獲得し、防衛設備を近代化、生産設備を拡充
  • ドイツの防衛装備大手ラインメタルの5億ユーロ規模の弾丸発射火薬工場をブラショフ県に誘致。 ルーマニアの産業基盤およびNATOの弾薬供給を強化
  • 軍民両用品の生産拡大によるウクライナ支援および地域安全保障への貢献
規制・制度構築支援
  • ウクライナ復興フォーラムを複数回開催し、復興政策と強靭な制度形成を支援
  • シンクタンクの新戦略センター(NSC)や軍需産業団体パトロミルなどがコンプライアンス、規制の整合性に関する取り組みを主導
  • EUとウクライナの政策面の橋渡し役を果たし、制度改革や能力構築を支援
国際連携・パートナーシップ
  • EU・欧州投資銀行(EIB)・欧州投資基金(EIF)など欧州機関との連携強化
  • モルドバのEU基準への適合も支援。地域全体の安定化に貢献

出所:EYルーマニアからの情報提供を基にジェトロ作成

インフラ、エネルギー、デジタル、製造業でプロジェクトが進展

ルーマニアがウクライナ復興に関連して注力する分野には、インフラ、エネルギー、デジタル、製造業の4分野が挙げられる。それぞれの動向や具体的プロジェクトは以下のとおり。

インフラ

  1. コンスタンツァ港開発:
    ルーマニア政府は2023年9月、コンスタンツァ港の近代化に向けた総額約2億5,400万ユーロの投資計画を閣議決定した(2023年9月12日付ビジネス短信参照)。同港はウクライナ穀物の最大の代替輸出ルート。道路、上下水道、配電設備などの既存インフラの近代化、岸壁の延伸や鉄道線路の新設、持続的な運用に向けたデジタル化・エネルギー効率化を進めている。
    同港の主要なオペレーターであるアラブ首長国連邦(UAE)のDPワールドは、ルーマニアを欧州貿易の重要なハブとして位置付ける(2026年2月17日付ビジネス短信参照)。2024年以降、1億3,000万ユーロを投じ、同港に5ヘクタールのプロジェクト貨物ターミナル、年間最大8万台の自動車を扱うRO-ROターミナル、マルチモーダルプラットフォームを、ルーマニア中部の工業中心地アイウドにインターモーダル物流ハブを整備した。
  2. スリナ運河の近代化:
    ウクライナの黒海輸送ルート寸断時に代替機能を担ったスリナ運河は、航行補助施設の近代化により船舶の夜間航行が可能となり、復興関連貨物の処理能力を支える基盤が整備された。運河沿いの護岸改修や既存構造物の補強など追加のインフラ改善も進められている。
  3. 道路輸送網:
    ルーマニア北西部のシゲトゥ・マツマティ近郊では、ウクライナとの国境を形成するティサ川を横断する橋梁(きょうりょう)建設が進む。2023年10月に建設に関する政府間合意がなされ、2025年初頭に建設が始まった。ウクライナの輸送戦略センターによると、橋梁の荷重試験は完了し、2026年初頭に開設予定だ。
    ブカレスト近郊のプロイエシュティからウクライナとの国境(シレト)近くのパシュカニを南北につなぐ319キロのA7モルドバ高速道路の整備も進む。「欧州の安全保障行動(SAFE、2025年9月16日付ビジネス短信参照)」「コネクティング・ヨーロッパ・ ファシリティー(CEF)」と「2021~2027年運輸プログラム」などの複数のプログラムを通じてEU基金で賄われるルーマニア史上最大の道路プロジェクトだ。TEN‑Tおよび連帯レーンとの連結性を強化する役割を担い、民生・安全保障の両面で同国の輸送機能を強化するとして重要視される。

エネルギー

ルーマニアは天然ガスや再生可能エネルギーなどのエネルギー生産の増加に加え、ウクライナやモルドバなど国境を越えた送電網接続を拡充し、地域的なエネルギーレジリエンスの強化に貢献している。

  1. 天然ガス:
    欧州最大級の海底ガス田プロジェクトであるルーマニア沖黒海のネプチューン深海(Neptun Deep)が進展。オーストリアのエネルギー大手OMVのルーマニア子会社OMVペトロムとルーマニア国営ガス企業ロムガス(Romgaz)が共同で最大約40億ユーロを拠出する。推定可採埋蔵量は約1,000億立方メートル。2025年3月に最初のガス生産井の掘削が発表された(2025年3月31日付ビジネス短信参照)。EU内でのガス供給能力拡大、ウクライナ・モルドバ向けのガスの安定供給への貢献が期待される。
  2. 再生可能エネルギー:
    国家復興・レジリエンス計画(PNRR)およびロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)に基づいて、送電網の近代化や発電・蓄電設備の建設、再エネ加速エリア(注)の整備が進む。2025年には、欧州復興開発銀行(EBRD)が実施した差額決済契約(CfD)オークションで、太陽光・風力で4.2ギガワット(GW)の新規容量の事業が落札され、国内目標(3.5GW)を上回る導入が実現する。
  3. 原子力エネルギー:
    チェルナボダ原子力発電所においてルーマニア国営原子力発電会社のニュークリアエレクトリカと韓国水力原子力(KHNP)が取り組むトリチウム除去施設の建設や、KHNP率いるコンソーシアムが実施する第一原発の原子炉の更新といった安全性向上投資が進む。
    南部ドイチェシュティでは小型モジュール炉(SMR)建設プロジェクトが進展している(2024年7月26日付ビジネス短信参照)。OMVペトロムによるペトロブラジ製油所での55メガワット(MW)のグリーン水素プラント建設など、産業の低炭素化を支える取り組みも広がる。

デジタル

ルーマニアは円滑な物流環境の整備にあたり、通関手続きの電子化に取り組む。また、モルドバやウクライナと連携し、調和したデジタル通関プロセスの構築やサイバーセキュリティーの強化による重要インフラの保護などを進める。

ルーマニアのデジタルエコシステムは、ウクライナのデジタルインフラ復興支援での活用の観点で注目される。ルーマニア北東部のヤシに所在する「5Gラボ」は、主に輸送分野における5G技術をベースにしたソリューションを開発・テストする環境を提供する。ウクライナへの国境を越えた技術移転やデジタル能力構築支援の拠点となりうる。

不動産開発のポートランドトラストによるブカレストでのデータセンター拡張は、ウクライナに対し、継続的なデジタルサービスの提供や、安全なデータ管理、周辺地域とのデジタル空間の統合などを支援可能だ。

製造業

ルーマニアにはウクライナ復興において需要の高い建設資材や産業用原材料・部品を製造する企業が拠点を構える。また、同国でワイヤーハーネスを製造する一部企業は、ウクライナの代替供給基地としての役割を担っている。

分野別動向を踏まえ、ウクライナ復興に関連したルーマニアのビジネス機会は表2のとおり。

表2:ウクライナ復興に関連したルーマニアのビジネス機会
分野 ビジネス機会
インフラ
  • 港湾設備の自動化・遠隔操作化、グリーンエネルギーの導入支援
  • デジタル港湾管理(統合監視・運行可視化)構築支援
  • 鉄道回廊の電化やデジタル信号システム、運行管理システムの設置
  • 複合物流や通関の最適化にかかる研修の提供
エネルギー
  • 太陽光、風力、水力発電プロジェクト参画、技術協力・設備供給
  • 送電設備の更新・拡張、スマートグリッドや高圧直流送電(HVDC)、蓄電池技術の提供
  • SMRの導入や近代化の協力、ウクライナへの展開に向けた三国協力
  • グリーン水素プラント建設など産業の低炭素化に向けた共同研究・開発
デジタル
  • 現地通信事業者と協力した5Gネットワークの展開、国境を越えた接続ソリューションの共同開発
  • 重要ITシステムを保護するサイバーセキュリティー強化
  • 現地データセンターとの連携によるウクライナ機関のクラウド移行や災害復旧の支援、強靭なデジタルインフラの共同開発
  • 電子政府サービスの共同開発
製造
  • 製造工程の自動化、無人化による生産性向上支援
  • 品質保証体系の高度化
  • IoTモニタリングと予知保全
  • ウクライナへの部品供給拠点および修理・保守拠点の確立

出所:EYルーマニア調査を基にジェトロ作成

各分野でウクライナの復興需要を視野に入れた基盤整備や投資が進んでいるが、ルーマニア企業が主体となり、外部の知見や技術を組み合わせてプロジェクトを進める傾向が見られる。日本企業が持つ技術が現地の取り組みを補完するかたちで活かされるプロジェクトの創出にも期待できる。ウクライナ復興を巡る事業環境は、EUの制度・資金枠組みの下で段階的に形成されていることを考慮すると、ルーマニアは日本企業にとって「復興関連ビジネスの実行拠点」として高い可能性を有している。


注1:
再エネ事業の許認可手続きを簡素化し、同事業を迅速に実施できる領域。再エネ導入加速のため、欧州委員会が2022年にEU加盟国に設置を求めた。各国は、気候変動対策に関連する計画や活用可能な資源、電力系統インフラ、EUの生物多様性戦略などを考慮して指定する。本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ブカレスト事務所
本吉 美友(もとよし みゆ)
2025年からジェトロ・ブカレスト事務所勤務。主に調査を担当。