グジャラート州、「産業政策2026」を発表(インド)

2026年7月16日

インド西部グジャラート(GJ)州政府は6月15日、ブペンドラ・パテル州首相やハルシュ・サンガビ州副首相出席の下、「先進グジャラート産業政策2026」(以下、産業政策2026)を発表した。本政策は、幅広い業種・規模の企業を対象に、固定資本投資に対する資本補助をはじめとする柔軟な投資インセンティブを提供するとともに、研究開発拠点の誘致、産業・環境インフラの整備、地域開発、人材育成などを盛り込んだ総合的な産業政策となっている。本政策は2026年6月1日から5年間を対象として、「インドの発展をグジャラートの発展が支える」というビジョンを掲げ、2047年までに経済規模3.5兆ドルの達成を目指す。


記念式典であいさつするブペンドラ・パテルGJ州首相(ジェトロ撮影)

GJ州の産業政策の変遷

まず、近年のGJ州の産業政策の変遷を簡単に振り返りたい。州政府は2020年に「グジャラート産業政策2020」(以下、産業政策2020、2020年8月19日付ビジネス短信参照)を発表し、その後「自立したグジャラート産業支援策2022」(以下、産業支援策2022、2022年10月24日付地域・分析レポート参照)を導入した。これらに加え、「繊維政策2024」(2024年10月23日付ビジネス短信参照)などの分野特化型のインセンティブ制度も導入し、産業振興に取り組んできた。

産業政策2020では、15の重点分野の設定や大規模投資への資本補助のほか、政府用地の産業向けリース、中小零細企業(MSME)支援、研究開発支援、環境インフラ整備支援などが掲げられている。

続く産業支援策2022では、10の重点分野を設定した上で、企業規模(投資規模)に応じて(1)中小零細企業(MSME)、(2)大企業(Large industry)、(3)大規模企業(Mega industry)に区分し、それぞれに異なる補助率・適用条件のインセンティブを設けている。例えば大企業に対しては、10年間にわたり固定資本投資額の最大75%までの州GST(SGST)を還付するほか、固定資本投資額の12%を上限とする利子補助を付与するなどの支援策を打ち出している。

このように、産業政策2020で固定資本投資に対する資本補助が導入された一方、産業支援策2022でSGST還付方式へと回帰した。一方で、繊維政策2024のような分野特化型政策では、固定資本投資に対する資本補助がインセンティブの中核となっている。

広範な重点分野

産業政策2026では重点分野が幅広く設定されており、対象となる投資家も起業家からスタートアップ、大規模投資プロジェクトまで幅広い。まず、その特徴の1つである「広範性」を確認したい。

16の重点分野(Thrust Sector)は、産業政策2020や産業支援策2022、および個別の分野特化型政策で設定された分野を踏襲しつつ、重要鉱物の加工・精製・抽出、超高純度化学品・ガスといった半導体関連、原子力発電設備などを新たに加えた。

さらに、特に優先的に取り組む分野として5つの特定重点分野(Selected Thrust Sector)が新設され、スポーツ用品・機器製造、玩具製造、履物製造、ロボット製造、ドローン製造が選定されている。ロボットやドローンなど経済安全保障に関連する分野が並ぶ一方、スポーツ用品・機器製造については、同州アーメダバードへの招致を目指している2036年夏季オリンピックを意識したものと考えられる。

表1:産業政策2026の重点・特定重点分野(ーは記載なし)
分野区分 分野 対象
重点分野
(Thrust Sector)
1.グリーン・エネルギー・エコシステム グリーン水素・グリーンアンモニア、電解槽、再エネ設備、蓄電池、燃料電池
2.モビリティー 自動車・自動車部品、航空関連製造、宇宙関連製造
3.資本設備 電気機械・設備、産業機械・設備、通信関連機械・設備
4.繊維・アパレル 繊維、テクニカル・テキスタイル、アパレル、衣料品
5.重要鉱物の加工・精製・抽出、金属、鉱物、セラミックス
6.サステナビリティー 都市固形・液体廃棄物リサイクル設備の製造
7.化学品
8.農産物加工 農産品・食品加工
9.ヘルスケア バルク医薬品、原薬(API)、主要出発原料、医療機器、医薬品
10.半導体産業の関連分野(超高純度化学品、超高純度ガスなど)
11.原子力発電設備(小型モジュール炉(SMR)を含む)
12.廃車解体施設
13.電子廃棄物リサイクル
14.繊維廃棄物リサイクル
15.輸送コンテナ製造
16.大型土木機械(クレーン製造、トンネル掘削機、掘削機など)
特定重点分野
(Selected Thrust Sector)
17.スポーツ用品・機器製造
18.玩具製造
19.履物製造
20.ロボット製造
21.ドローン製造

出所:GJ州資料を基にジェトロ作成

柔軟な投資インセンティブ

次に、中核的なインセンティブである固定資本投資に対する補助を見てみたい。補助率や適用条件は、前述の重点分野への該否、投資規模、投資先の地域区分に応じて設定されている。資本補助、利子補助、電力料金補助といった3つのコンポーネントを、投資家が自らのニーズに応じて組み合わせることができる点が特徴だ。政策発表の記念式典では、「あなたのインセンティブを選んでください(Choose Your Incentive)」という表現で、その柔軟性が強調された。

最も優遇されるケースは、特定重点分野に該当する案件が後進性の高い地域に投資する場合だ。この場合、固定資本投資額の50%を上限として、固定資本投資額の35%の資本補助、7%の利子補助、電力1ユニット当たり2ルピー(約3.4円、1ルピー=約1.7円)の電力料金補助を組み合わせて活用することができる。

なお、重点分野・特定重点分野に該当しない一般分野であっても、大規模投資案件は固定資本投資に対する補助の対象になっている。また、特定重点分野に該当する場合は投資規模の大小を問わず、最も手厚い支援を受けることができる。

研究開発拠点への手厚い支援

研究開発拠点の誘致にも力が入っている。特に、投資額が30億ルピー以上の案件のうち先着の5案件については、建物や機械・設備などの設備投資額の50%の資本補助に加え、土地価格の25%の払い戻しを受けることができる。これは、既存の「グジャラート・グローバル・ケイパビリティー・センター(GCC)政策」(2025年3月27日付ビジネス短信参照)に基づくインセンティブ(例えば、設備投資に対する20%の資本補助)と比べても格段に手厚い。

さらに、研究開発拠点の誘致を促進する施策として、工業団地の開発・運営を担うグジャラート州産業開発公社(GIDC)は、共用ラボラトリーや試験・試作設備、プラグ・アンド・プレイ型のワークスペースを備えた「グジャラート・リサーチ・アンド・イノベーション・パーク」を整備する方針だ。

その他の主要支援策

最後に、産業政策2026に盛り込まれたその他の主な支援策を整理したい。

  • スタートアップへの支援:1年間、月額2万5,000ルピーの生活維持費を支給するほか、女性の共同創業者がいるスタートアップには月額3万ルピーを支給する。また、最大300万ルピーのシード支援を行い、高インパクト案件には追加で最大100万ルピーを支援する、など。
  • 女性起業家への支援:女性起業家を対象に、通常の利子補助に1%を上乗せするほか、5年間、年間30万ルピーを上限に賃料の75%を補助する制度を設ける、など。
  • 労働者向け住宅への支援:労働者向けの寮やホステルを整備する場合、4億ルピーを上限に費用の40~80%を補助する。
  • 産業インフラ整備への支援:産業インフラを整備する場合、4億ルピーを上限に費用の60~80%を補助する。民間工業団地を整備する場合、5億ルピーを上限に費用の25%を補助する、など。
  • 「プロジェクトT.H.R.I.V.E」:都市部の混雑緩和を目的として、都市部に立地する工場を郊外へ移転した場合、6カ月間にわたり、従業員1人当たり月額5,000ルピーの賃金を補助する、など。
  • 環境インフラ整備への支援:排水処理・リサイクル施設を整備する場合、7億5,000万ルピーを上限に費用の50%を補助する(リサイクル率70%以上の場合)。ゼロ排水(ZLD:Zero Liquid Discharge)システムを導入する場合、大規模、メガ、ウルトラメガ案件については、日量100万リットル(MLD)当たり7,500万ルピーを上限に費用の40%を補助する、など。
  • MSMEのグローバル化への支援:MSMEを対象に、企業規模や投資先の地域区分に応じて、固定資本投資額の25~35%の資本補助などを実施する。
  • 人材育成への支援:人材育成機関を設立する場合、1億ルピーを上限として機械・設備費の100%を補助するほか、運営費についても1億ルピーを上限として100%を補助する、など。

以上のインセンティブは、内資・外資を問わず活用可能だ。日本企業がインドでの投資や事業計画を検討する際、これらの制度を効果的に活用する視点が重要だ。制度の詳細や利用可能性については、州政府の投資誘致機関であるiNDEXTbに相談することも有効だろう。

執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
吉田 雄(よしだ ゆう)
2005年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ徳島、ジャカルタ事務所、ジェトロ茨城などを経て、2024年5月から現職。