在印日系企業2026年の平均昇給率見込みは9.5~9.7%
人件費高騰、離職率、新労働法対応などが課題

2026年5月18日

ジェトロはインド日本商工会(JCCII)とともに、在インド日系企業を対象として「2025年度賃金実態調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を実施した(調査対象企業:インド全国の日本商工会、日本人会に所属する会員企業1,334社、調査実施期間:2025年11月3~28日、有効回答率は31.0%)。本調査は2007年度から毎年実施しており、今回は19回目の調査となった。

在インド日系企業の2025年昇給率はスタッフで10.0%、ワーカーで9.8%

本調査の結果、日系企業の昇給率は、2025年(暦年)実績でスタッフ(製造業・非製造業を問わず、オフィスや間接部門に従事する従業員)が10.0%(前年実績10.2%)、ワーカー(製造業で、工場など現場での作業に従事する正規従業員)が9.8%(同10.1%)と、前年の調査からわずかに低下したものの大きな変化はみられなかった(表1)。2026年の昇給率見込みについては、2025年をわずかに下回った。

表1:在インド日系企業の昇給率
項目 2025年実績 2026年見込み
スタッフ 10.0% 9.5%
ワーカー 9.8% 9.7%

出所:ジェトロ・インド日本商工会(JCCII)「2025年度賃金実態調査」

本調査は、コロナ禍で調査を実施できなかった2020年を除いて、2007年から毎年実施されてきた。これまでのスタッフ、ワーカーの昇給率および消費者物価指数(CPI)上昇率の推移は図1のとおりだ。在インド日系企業ではこの約20年間、ほとんどの年でCPIを超える高い水準での賃金上昇が続いている。また、スタッフとワーカーで比較すると、2006年から2008年にかけてはスタッフの昇給率がワーカーの昇給率を大きく上回る時期が続いていたが、それ以降では差が縮まり、2012年から2018年にかけてはワーカーの昇給率がスタッフのそれをわずかに上回った。コロナ禍以降は、差はほとんどなくなり、両者とも10%前後での昇給が続いている。

図1:在インド日系企業の昇給率およびCPI上昇率の推移
図1は、在インド日系企業の各年の昇給率をスタッフとワーカーに分け、2006年から2025年までグラフで記載したもの。但し、2020年はコロナ禍のため調査を行っていない。スタッフの昇給率は、8.o%から18.0%の間で推移。ワーカーの昇給率は、コロナ禍の2019年に6.0%弱まで低下した以外は、8.0%から14.0%の間で推移。同じグラフ上に、2006年から2025年までのCPI(消費者物価指数)も重ねて表示しており、こちらは2.0%から13.0%の間で推移している。

注:2021年度から調査の実施タイミングを変更したため、2020年分についてはデータが欠損している。
出所:ジェトロ・インド日本商工会(JCCII)「2007年度~2025年度賃金実態調査」、IMF推計

2025年の昇給率を州別に比較すると、バラつきがみられる。スタッフとワーカーの双方で、北部ハリヤナ州のグルガオンを除く地域や、西部マハーラーシュトラ州プネでの昇給率の高さが目立った(表2)。他方で、北部ウッタル・プラデシュ州や南部タミル・ナドゥ州などでは平均値よりも低い水準となった。南部カルナータカ州は、スタッフでは平均レベルの昇給率である一方、ワーカーでは全体平均を大きく下回る結果となった。

表2:在インド日系企業の昇給率(州・地域別)注:回答数が2件以下の地域は個社の特定を避けるため非表示。
地域 スタッフ ワーカー
2025年
実績
回答数 2026年
見込み
回答数 2025年
実績
回答数 2026年
見込み
回答数
北部 デリー準州 9.3% 47件 8.9% 45件 10.0% 3件 10.3% 3件
ハリヤナ州(グルガオン) 9.9% 128件 9.7% 124件 9.9% 25件 10.2% 25件
ハリヤナ州(その他) 11.1% 30件 10.9% 29件 11.0% 22件 11.1% 21件
ウッタル・プラデシュ州 9.8% 9件 8.5% 9件 8.5% 4件 9.0% 4件
ラジャスタン州 10.7% 27件 10.1% 26件 10.7% 25件 10.0% 25件
東部 西ベンガル州 7.9% 3件 7.6% 3件 1件 1件
西部 グジャラート州 8.8% 16件 9.4% 17件 7.4% 13件 7.6% 13件
マハーラーシュトラ州
(ムンバイ)
10.6% 21件 9.8% 21件 1件 1件
マハーラーシュトラ州
(プネ)
12.3% 12件 11.5% 12件 12.8% 7件 12.8% 7件
マハーラーシュトラ州
(その他)
9.1% 5件 8.8% 5件 2件 2件
南部 テランガナ州 8.8% 3件 2件 1件 0件
アンドラ・プラデシュ州 9.5% 9件 9.2% 9件 8.2% 6件 10.5% 7件
タミル・ナドゥ州 9.3% 47件 8.8% 47件 9.5% 21件 9.0% 20件
カルナータカ州 10.2% 41件 9.3% 43件 8.6% 13件 8.0% 13件
合計 10.0% 398件 9.5% 392件 9.8% 144件 9.7% 142件

注:回答数が2件以下の地域は個社の特定を避けるため非表示。

出所:ジェトロ・インド日本商工会(JCCII)「2007年度~2025年度賃金実態調査」

2026年の在インド日系企業の昇給率見込みは、スタッフで9.5%、ワーカーで9.7%となっているが、日系企業以外の状況はどうだろうか。人事コンサルティング会社エーオンは2025年10月7日、45の産業の1,060の企業を対象として実施した「2025年度インド昇給・離職動向調査」の結果を発表した。それによると、インドの2026年の昇給率の見通しは平均9.0%となっており、2025年の平均昇給率実績(8.9%)と比較すると0.1ポイントの上昇となった。また、2026年4月5日に大手会計事務所デロイト・インディアが発表した調査においても、2026年のインド企業の平均昇給率は9.1%と見込まれており、2025年の実績値(9.0%)を0.1ポイント上回った。日系企業の昇給率は、インドの産業全体と比較すると高水準であるものの、インド全体でも9.0%前後の高い水準での賃金上昇が見込まれている。この数値はあくまでも平均値であり、大企業や外資系企業ではさらに高水準での昇給を実施しているケースもあると考えられ、人材確保のための昇給競争が過熱している。

また、インドの主な職種別賃金水準(平均月給、諸手当込み)は表3のとおりとなった。職種ごとのばらつきが大きく、内訳を見ると企業ごとの差も大きかった。

表3:在インド日系企業の職種別賃金水準

(ルピー、平均月給・諸手当込み。1ルピーは約1.7円)(単位:ルピー)
全業種共通
職種 2025年実績
役員級 611,233
部長級 378,670
課長級 178,840
係長級 101,329
営業 103,155
サービスエンジニア 73,790
購買・調達 73,465
人事総務 84,900
財務経理 88,825
法務・CS 101,613
一般事務 57,451
日本語通訳者 95,148
ITエンジニア 85,750
製造業
職種 2025年実績
工場長級 330,537
製造・設計部長級 320,257
製造・設計課長級 150,671
エンジニア(上級職) 68,808
エンジニア(一般職) 47,346
ラインワーカー
(正規従業員)
37,073
ラインワーカー
(派遣その他)
19,603

出所:ジェトロ・インド日本商工会(JCCII)「2007年度~2025年度賃金実態調査」

賞与については、月額基準の支給とした企業が45.2%、評価による支給とした企業が28.0%、定額支給とした企業が6.4%、その他が20.4%だった。月額基準の場合の平均支給月数は1.6カ月分で、前回調査を0.2カ月上回った。

また、初任給(月額)の平均は、高等教育卒業(日本の高校卒業程度)レベルで1万9,709ルピー(約3万3,505円、1ルピー=約1.7円)、大学卒業レベルで3万4,010ルピー、大学院修了レベルで3万9,496ルピーであった。

ワーカー以外の離職率は改善傾向、中途採用時の昇給率は上昇傾向

インドでは離職率の高さについても、日系企業の間で課題として挙がることが多い。本調査の労務課題の自由記述欄でも、離職率の高さに関するコメントが目立ち、特に転職を繰り返しキャリアアップを目指すことが多い若手や、ライフステージの変化に影響を受けやすい女性の離職率の高さについて指摘があった。また、社内のキーパーソンが離職することにより周辺メンバーも一緒に離職するケースや、スキルのある人材の離職についての懸念も挙げられた。

一方で、離職率については、ワーカーでは2023年以降上昇傾向にあるものの、トップマネジメント、管理職クラス、スタッフ、エンジニアでは、2022年以降下降傾向にある(図2)。前述のエーオンによる調査でも、インド全体の2025年の離職率(17.1%)は過去2年と比較して低下したことが示された。職種ごとの状況は異なるものの、全体としては定着率に改善傾向がみられる。

図2:職種ごとの離職率の推移(2022~2025年)
図2は、トップマネジメント、管理職、スタッフ、エンジニア、ワーカーにおける2022年度から2025年度の離職率を比較した棒グラフ。トップマネジメント、管理職、スタッフ、エンジニアでは離職率が減少傾向にある一方、ワーカーの離職率は上昇している。

出所:ジェトロ・インド日本商工会(JCCII)「2022年度~2025年度賃金実態調査」

他方で、中途採用時の前職からの昇給率は上昇傾向にある。2025年度は、「20%超~30%以下」の回答割合が45.0%と最も高く、この割合は前年度から9.1ポイント上昇した(図3)。これに対して、「0%超~10%以下」の回答割合は前年度の23.5%から13.6%に縮小した。中途採用時における昇給競争が過熱しており、人材を確保するために必要となるコストが上昇していることが見て取れる。

図3:中途採用時の前職からの昇給率
図3は、中途採用時の前職からの昇給率を2024年と2025年で比較したもの。昇給率は20%超から30%未満の割合が最も高く、2025年では45.0%で、この数値は2024年度の35.9%から大きく上昇している。一方で昇給率が0%超から10%未満の割合は2025年は13.6%で、2024年の23.5%から減少している。

出所:ジェトロ・インド日本商工会(JCCII)「2024年度~2025年度賃金実態調査」

インド人従業員の増強を図る企業が約7割

ジェトロが実施した「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」では、在インド日系企業の81.5%が「今後1~2年間で、事業を拡大していきたい」と回答しており、この割合は全世界の国々の中で最高となった。このように、事業拡大に取り組む日系企業が多い中、各社は人員の増強が求められている。今後の人員体制を尋ねた設問では、昨年に続き、インド人従業員の増員による人員強化を図る企業が目立った(図4)。インド人従業員については、67.8%の企業が「増員」、30.8%が「現状維持」、1.5%が「減員」と回答した。他方で、日本人駐在員や日本人現地採用者については、「増員」と回答した企業の割合はそれぞれ26.8%、10.9%となり、過半数は「現状維持」と回答した。

図4:今後の人員体制
図4は、在印日系企業における人員動向を、2024年と2025年で比較したものである。インド人従業員は両年とも約7割が増員を予定しており、強い採用意欲が継続している。一方、日本人駐在員は約3分の2が現状維持で、増減は限定的である。日本人現地採用者については、2024年は約8割が現状維持、2025年には8割超に拡大し、増員意向は低下している。全体として、現地人材の拡充が進む一方、日本人配置は抑制傾向にある。

出所:ジェトロ・インド日本商工会(JCCII)「2024年度~2025年度賃金実態調査」

人件費高騰、高い離職率、人材不足、新労働法への対応が日系企業の課題

自由記述で尋ねた労務課題としては、前述に挙げた人件費高騰、離職率の高さに加えて、人材不足、新労働法への対応などが主に挙げられた。

人材不足に関しては、特に遠隔地や、大規模工場の進出が急速に進む工業団地での人材確保が課題として挙げられた。インドでは、製造拠点が都市部から車で2時間以上かかる遠隔地に設けられることも珍しくない。その場合、都市部からの通勤が難しいため、特に技能や専門性のある人材の確保が難しくなる。製造業を含め多くの産業が拡大期にあるインドにおいては、経験を積んだ熟練人材の数が需要に対して十分でなく、人材の取り合いが発生している。

2025年11月に施行された新労働法(2025年12月4日付ビジネス短信参照)への対応に関しても不安視するコメントが多く上がった。新労働法では、これまで統一されていなかった賃金(wages)の定義が整理され、賃金は全支給額から各種手当・拠出金を除したものであり、各種手当は全支給額の50%まで(超過分は賃金としての取り扱い)と定められた。これによって、賃金が全支給額の50%を上回ることになる。インドではこれまで慣習的に、基本給を下げ、手当の割合を高くすることでPF(退職積立金)やグラチュイティ(退職金)などの積立額が低くなるように調整していた企業も多かったが、社会保障関連費の算定基礎である賃金の割合が拡大することにより企業負担は大きくなる。そのほかにも新労働法の施行により、労働環境や女性労働者、契約労働者などに関わる各種コンプライアンス対応が求められる。

また、最低賃金についても中央政府が定める最低賃金(floor wages、2026年4月時点で未公表)が設定されたことで、州政府はこれより高い水準での最低賃金の設定が求められる。これにより、最低賃金は全体的な引き上げにつながると考えられ、特にワーカーなど賃金水準の低い職種向けの賃金においては影響が出るとみられる。実際に2026年4月には、日系企業が最も多く集積する州であるインド北部ハリヤナ州で、新労働法の下で初めてとなる最低賃金の発表が行われ、従前と比較して35%引き上げられた(2026年4月16日付ビジネス短信参照)。またこれに起因して近隣のウッタル・プラデシュ州、ラジャスタン州では、最低賃金の引き上げを求める労働者による労働争議が多発した。

安定した事業経営のために、適切な賃金、評価制度、福利厚生制度などの設計による従業員の安定確保に加え、コンプライアンス関連対応の重要性が高まっており、日系企業は情報収集と併せて具体的な対応を進めていく必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
丸山 春花(まるやま はるか)
2021年、ジェトロ入構。企画部情報システム課、ジェトロ・ムンバイ事務所を経て、2024年7月から現職。