ベトナムに相次ぐ日系外食の進出、人材育成と標準化で多店舗展開

2026年7月6日

ベトナムの消費市場の成長を背景に、日系企業による外食店の新規進出が相次いでいる。日本国内で勤務経験があるベトナム人を現地店舗で登用する事例もみられ、日本式のサービスや味を現地で再現しようとする動きが広がっている。

他方、多店舗展開や複数都市での店舗運営に至る日本食レストランチェーン(以下、日系チェーン)はまだ限定的で、事業基盤の構築に向けた課題も多い。

本稿では、ベトナム外食市場の現状と課題、日系チェーンが事業拡大を図る上での人材育成やオペレーション標準化の観点からの示唆を考察する。

近年は日系の有名店・チェーンが進出

ベトナムでは近年、人口増加と都市化の進展、中間所得層の拡大を背景として、消費市場が着実に成長している。中でも外食市場は、若年層を中心とした外食志向の高まりや食文化の多様化、ショッピングモール開発の進展などを追い風に拡大しており、日系企業にとっても有望な進出先として注目を集めている。こうした食生活の変化は、2014年から2024年までの10年間における1人当たり食品消費量の推移にも表れている。コメの消費量が減少する一方、肉や卵の消費量は着実に増加しており、ベトナムの食生活が従来の主食中心から、より多様な食材を取り入れる方向へ変化していることがうかがえる(2025年6月9日付ビジネス短信参照)。

かつては来客のほとんどが日本人駐在員や出張者だった日本食店でも、近年はベトナム人客の比率が高まっているとの声が、現地経営者から聞かれる。特に都市部では、日本食に対する認知度が高まり、外食時の選択肢として日本食を選ぶベトナム人消費者が増えつつある。 2024年以降でも、サイゼリヤ、味仙、松屋、中華蕎麦とみ田、ロイヤルホールディングス、鳥貴族など、日本国内で知名度の高い日系チェーン(企業)による新規出店が相次いでいる。また、これまでは商都であるホーチミン市への出店を先行させ、その後に首都ハノイ市へ展開するケースが一般的だった。しかし、近年は中華蕎麦とみ田や鳥貴族のように、ベトナム初出店の地としてハノイ市を選択する事例もみられる。これは、ベトナムにおける日本食需要の拡大や潜在力の高まりを捉えた判断といえよう。

日本での就労経験を持つベトナム人の登用進む

こうした直近の新規進出事例で注目されるのは、日本での勤務経験を有するベトナム人材の採用・登用だ。鳥貴族は、日本の店舗でアルバイト経験のあるベトナム人材を活用しているほか、松屋、中華蕎麦とみ田も、日本の店舗勤務経験者を多く採用しており、日本で店長を経験した人材らも登用している(2025年4月18日付地域・分析レポート2025年9月30日付ビジネス短信参照)。

進出後に店舗展開を拡大していく上では、現地幹部の育成や権限移譲が不可欠とされる。

ベトナムの鳥貴族を運営するエターナルホスピタリティグループのベトナム法人エターナルホスピタリティベトナムの社長を務め、そのほか複数の業態・ブランドを運営する永露仁吉氏は、オンラインメディア上で、ベトナム人幹部の育成に注力する時期を設け、権限移譲を進めたことが、店舗展開のスピードの加速につながったと話す。また、日本での在留期間を終えた技能実習生などの帰国後の就職先として、外食産業が受け皿になるという期待も示した。一方で、帰国後の実習生のキャリアについては、就労サポートが不十分なこと、希望する給与と在ベトナム日系企業が提示する給与に差があること、日本で習得した技能を生かせる仕事が見つかりにくいことなどが要因となり、実習生の経験が在ベトナム日系企業への就業に結び付いていないことが、課題だ。

しかし、日本での生活や勤務を通じ、日本の食文化や接客、品質管理に関する考え方などを理解した人材は、ブランド価値を損なわず、サービスや味の水準を維持する上でも重要な役割を担うことが期待される。

日本で就労経験を持つベトナム人の活用は、今後の日系チェーンのベトナム展開において、多店舗展開を支える人材基盤として有効な手法の1つとなりそうだ。

多店舗展開には制約も

一方で、ベトナムの外食市場は依然として発展途上にあり、日本市場と同様のスピードや規模での多店舗展開が可能な環境が整っているとは言い難い。複数の都市にまたがる多店舗展開に至っている事例は限られる。

ベトナムにおいて、一定の多店舗展開に成功している日系チェーンとしては、日本人創業のPizza 4P’s、ゼンショーが展開するすき家が代表例として挙げられる。フランチャイズ(FC)モデルでは、地場のロータスフードがCoCo壱番屋、丸亀製麺、吉野家、ちよだ鮨など、Takahiro Foodグループがぼてぢゅうや牛繁などを展開する(表1参照)。

これらの事例からも、日系チェーンがベトナムで事業を拡大する際に、現地パートナーの存在が大きいことが分かる。ただし、現状は主に上記2社が複数の有名ブランドの展開を担っており、パートナーの選択肢が必ずしも豊富とはいえない。

表1:ベトナムで複数店舗を展開する主な日系外食店(〇はあり、×はなし)
店舗・ブランド名 店舗の所在有無 店舗数 運営形態
ハノイ市 ホーチミン市
Pizza 4P’s 35 直営
すき家 × 25 直営
ビアードパパ 19 FC(北部は日本製品の小売事業を行うSakuko、中部・南部は地場で給食事業などを行うKizuna JSCが運営)
丸亀製麺 18 FC(地場ロータスグループが運営)
牛繁 13 FC(地場Takahiro Food関係会社のHinokoが運営)
ペッパーランチ 12 FC(シンガポールの投資会社JEBS Investment Vietnamが運営)
一番軒 11 FC(地場Takahiro Foodなど複数のフランチャイジーが運営)
いねや × 8 直営(ロイヤルホールディングス、双日の2社合弁で展開。店舗数は複数業態の合計)
ぼてぢゅう 8 FC(地場Takahiro Foodが運営)
BASTA HiRo 7 FC(地場Takahiro Foodが運営)
CoCo壱番屋 6 FC(地場ロータスグループが運営)
名代宇奈とと 6 直営およびライセンス
町田商店 × 5 FC
松屋 × 4 直営
一風堂 4 ライセンス(Pizza 4P’sが運営)
吉野家 × 3 FC(地場ロータスグループが運営)
サイゼリヤ × 3 直営

出所:各社ウェブサイトなどを基にジェトロ作成(2026年5月時点)

また、多店舗展開における制約として、立地の課題を挙げる外食関係者も多い。都市鉄道などの公共交通網が発展途上であるベトナムでは、日本の都市のように駅前立地を軸にした店舗展開は容易ではない。ショッピングモールは増えているものの、集客動線を有する好立地の物件数は限られる。路面店の場合は、外国企業による土地使用権の取得や物件の自社開発には制約があり、既存物件の賃借が中心となる。このため、厨房(ちゅうぼう)スペースやインフラ設備、客席面積、ブランドイメージとの整合性などの条件を満たす物件を個別に探す必要がある。また、不動産オーナーとの交渉も個別対応となるため、一定の条件下での出店モデルを構築しにくい。土地の再開発やオーナー事情などによるテナント契約の中途解約が発生する可能性もある。

他の外資系チェーンを見ても、店舗数が多いチェーンは、メニューやオペレーションが比較的シンプルで、厨房設備などの制約を受けにくいカフェ・ファストフード業態に限られている。店舗数が多い外資系チェーンとしては、ミーシュー(MIXUE、蜜雪冰城、中国系)が1,000店舗超と推計され、続いて200店舗超のロッテリア(韓国系)、ジョリビー(フィリピン系)、100店舗超のKFC、ピザハット、スターバックス(いずれも米国系)など、ファストフード・カフェ業態が挙げられる。

一方で、世界的に知名度のあるファストフードチェーンでも、事業拡大に苦戦を強いられる例は少なくない。マクドナルドは2014年の初進出以降、約50店舗にとどまっている。バーガーキングは2026年4月にハノイ市内の店舗を全て閉鎖し、ホーチミン市に4店舗を残すのみとなった。

地場チェーンでも多店舗展開は容易ではない

地場の外食チェーンを見ても、多店舗展開に成功した企業は限られる。最大手のゴールデンゲートグループは、同社の発表によると、焼き肉や鍋料理、日本食などを中心に40以上のブランド・600店舗規模を展開するなど、ベトナムの外食業界で突出した存在だ(表2参照)。同社は、店舗の開発・運営、人材育成、食材の調達や物流を一定程度内製化し、事業基盤を構築していると考えられる。ただし、事業展開は基本的に自社ブランドによる展開を志向しているとみられ、過去に日本企業との協業や合弁、FCの可能性を議論した経緯もあるが、現時点では外資との連携に積極的とは言い難い。

表2:多店舗展開する主な地場レストランチェーン注:ファストフード業態も混在している。
企業名 店舗数 主要ブランド
Golden Gate Group 約600 Kichi-Kichi、GoGi House、Manwah、Ashima、iSushi、Sumo BBQなど
Goldsun Food 約170 King BBQ、Hotpot Story、ThaiExpress、Seoul Garden、Khao Lao、Sushi Kei、カプリチョーザ、Tasaki BBQ など
QSR Vietnam 約130
(注)
The Pizza Company、Aka House、Chang Modern Thai Cuisine、Swensen’s、Dairy Queen など
Takahiro Corporation 約40 Sushi Hokkaido Sachi、Basta Hiro、Som Tum Thaiなど
Hoang Yen Group 約30 Hoang Yen Vietnamese Cuisine、Hoang Yen Buffet、Hoang Yen Hotpotなど
Lotus Food Group 約30 丸亀製麺、CoCo壱番屋、吉野家など
King of Grilled Fish Restaurant Service 18 Vua Cha Ca
D1 Concepts 約10 San Fu Lou、Sorae、Sens、Di Mai

注:ファストフード業態も混在している。

出所:各社ウェブサイトなどを基にジェトロ作成(2026年5月時点)

また、フォーやバインミーといったベトナムの一般的なローカルフードにおいても、全国規模での多店舗展開に成功した事例は限定的で、中規模の展開にとどまる。例えば、フォー24は一時期、国内外70店舗超まで急拡大したが、現在は店舗網を大きく縮小した。背景には、オペレーションや品質管理面の課題や資本関係の変遷などがあったとみられる。

こうしたローカルフードは個人店や家族経営店が強く、価格競争力も高い。そのため、地域や店ごとの味の特色などが重視され、消費者がチェーン店を選択する必然性が高くないことも要因と考えられる。さらに、客足の絶えない有名店であっても、屋号やレシピ、商標権の整理が不十分なまま拡大を試みた結果、ベトナム人オーナー間でトラブルに発展するケースがある。こうした運営体制の標準化やブランド構築、ビジネスモデルの策定が不十分な点も、地場のチェーンの成長を抑制する要因といえそうだ。

オペレーション標準化にITやデータを活用

こうした状況を踏まえると、日系チェーンが品質を保ちつつ店舗を拡大するためには、現地事情に精通するパートナーとの提携やマネージャー人材の育成などの推進とともに、多店舗展開の基盤となるオペレーションの標準化に向けた仕組み作りが重要だ。単独・直営で多店舗展開しながらもオペレーションを標準化し、再現性を維持する事例として、Pizza 4P’sの取り組みは示唆に富む。

同社は、テクノロジーを積極的に活用することで「人がやらなくてもよい業務」を削減し、接客など「人にしか提供できない価値」の提供を重視する方針を採る。2024年に創業者の益子陽介氏と高杉早苗氏が同社の取り組みを紹介した講演によると、同社は約100億円の年間売上高に対し、ITチームの人件費に約1億円を投じ、飲食物の提供時間や冷蔵庫、デリバリー用バッグなどの温度、塩分濃度などもデータ化し、管理している。一連のデータにより、店舗や従業員のパフォーマンスも可視化される。「Make the World Smile for Peace」というミッションのもと、顧客満足度の向上を念頭に置いた取り組みだ。

ベトナムでは人件費が比較的低廉であるものの、属人的な運営に依存してしまうと、品質のばらつきやサービス低下を招きやすい。このため、マネージャー人材の育成とともに、ITやデータなどを取り入れることを視野に、オペレーションを標準化する仕組み作りが、多店舗展開を安定させる上での基盤となる。

ベトナム外食市場は成長が期待され、日本食に対する潜在需要も大きい。一方で、多店舗展開を前提としたビジネスモデルには依然として高いハードルが存在する。市場の成長性だけに着目せず、最適なオペレーションの構築、人材育成、適切な現地パートナーの選定などを入念に進めることが求められる。日本市場の成功モデルをそのまま移植するのではなく、現地で再現性のあるオペレーション設計が重要となる。これらの取り組みは、持続的な事業拡大と日本食のさらなる普及・定着を後押しする要因となろう。

執筆者紹介
ジェトロ調査部調査企画課課長代理
萩原 遼太朗(はぎわら りょうたろう)
2012年、ジェトロ入構。ハノイでの語学研修(ベトナム語)、対日投資部プロジェクト・マネージャー、ハノイ事務所調査ダイレクターなどを経て現職。