パキスタンでのスズキの取り組み-トリプルインパクト望むバイオガス
2026年3月4日
スズキは、1982年に国民車構想の下インドに進出し、現在同国でトップシェアを握ることで有名だ。しかし、実はそれに先んじて初めて海外で四輪生産を開始した国はパキスタンであった。スズキは今後さらなる成長が見込めるパキスタンで、同国の社会経済の発展とカーボンニュートラルの達成に向けた事業を推進する。スズキのパキスタン子会社、パックスズキモーター社(以下、パックスズキ)の河村浩志社長に、同国市場やバイオガス事業の取り組みについて聞いた(ヒアリング日:2026年2月2日)。
今後さらなる拡大が見込まれる注目市場
スズキのパキスタン進出は、1975年。地場のナヤ・ダウル・モータースをパートナーに四輪の生産を開始した。これはスズキにとって初めての海外での四輪生産となった。2025年で50周年を迎え、同社のパキスタンとの歴史は長い。直接進出のきっかけは、当時パキスタンでは自動車関連企業の国有化が進められていたところ、自動車産業の統合母体である国有企業が国民車生産の事業パートナーを募集。これにスズキが応募し、後に合弁会社パックスズキを作ることになった。
1983年の会社設立以降、40年以上にわたり、自動車販売シェア1位を維持しており、現在は市場の約4割を占める。販売網も広げており、98都市に171拠点を持つ。手頃な価格の小型車を主力として製造しており、年間の生産能力は約15万台だ。90年代に国有企業との合弁を解消し、現在はスズキ独資となっているが、これまで築いてきた地場サプライヤーとの関係を強化しながら生産販売を行っている。
河村社長にパキスタン市場の魅力を聞くと、「世界5位の人口を有し、若年人口の層が厚い。現在の自動車保有台数はインドの半分、インドネシアの3分の1にとどまっており、今後の都市化や女性の社会進出の加速などが期待され、自動車需要のさらなる拡大が見込まれる」との答えが返ってきた。

マルチインパクトが期待されるバイオガス事業
スズキは2050年までに、新車四輪車が排出するCO2「2010年度比90%削減」を目指している。こうした中、同社は特定技術に依存せず、車両としては電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)、燃料としては圧縮天然ガス(CNG)、エタノールやバイオガスなどを地域や環境によって最適に組み合わせる「マルチパスウェイ戦略」を採用している。同戦略の下、社会課題の解決とカーボンニュートラルを同時に達成する事業として、牛ふんなどの農業廃棄物を利用したバイオガス事業をインドで展開し始めた(2023年9月19日付ビジネス短信参照、2026年1月20日付地域・分析レポート参照)。それをパキスタンでも実施する予定だ。
パキスタンの国家経済を見てみると、石油や液化天然ガス(LNG)などのエネルギー製品が輸入全体の約4分の1を占める主要輸入品となっており(2024/2025年度:2024年7月~2025年6月)、外貨準備高をひっ迫させる要因になっている。国民の生活に着目すると、人口の6割強は農村に住んでいるといわれており、電気の通っていない家庭も2割程度あるといわれている。環境面に目を向けると、家畜頭数は世界で6位程度と、牛の放牧などで有名なインドと比較すると人口当たりの牛の数はパキスタンの方が多いなど、酪農大国の一面を持つ。その半面、牛ふんが放置され、発生するメタンなどによる環境汚染の課題も抱えている。
こうした中、スズキはパキスタンで、牛ふんなどの農業廃棄物を活用した自動車向け代替燃料となるバイオガスと、有機肥料の生産事業に取り組んでいる。農業廃棄物や食品廃棄物を収集し専用設備で発酵させ、メタン濃度を高めたガスを精製すれば、CNG車の燃料にできる。また、この精製の過程で有機肥料が副産物として生まれる。これを化学肥料と組み合わせて利用することで、収穫量が増加するとの研究結果が出ており、農家にとっては新たな収入源の獲得と作物の増産を同時にかなえられる。パキスタンで同事業を実施することにより、まさに「三方よし」のマルチインパクトが期待できるという。国家経済にはエネルギー代替による輸入量減に伴う外貨流出の抑制、農家には新たな収入源と雇用機会およびクリーンガスの供給、環境面ではメタンガス削減による温室効果ガス対策の効果だ。同事業はインドで先行実施しているが、パキスタンはインドに比べ、土地改革が進んでいないため大規模な土地を持つ地主が多く、農業をビジネスとして捉える向きが強いという。有機農法や肥料について理解を示す傾向にあり、「インド以上にビジネスモデルとして効果的なのではないか」と河村社長はみている。
カラチで先行、ラホールでは2026年7月以降に稼働予定
パックスズキは現在、パキスタン東部パンジャブ州の州都ラホール近郊のマンガマンディでこのバイオガス事業の実証パイロットプラントを建設中で、2026年7月までに工事を終え、それ以降の稼働を目指している。同事業は単なる実験ではなく、原料収集・発酵・精製・物流・販売までを通した商業モデルの確立を目的としている。これに先駆けて、同国南部アラビア海沿いの最大都市カラチにあるパックスズキの工場隣接地で、ラホールのものより小規模なプラントの運用を2026年1月から開始している。牛ふんの他に、同地で多く自生するイネ科の植物であるネピアグラスと、カラチ工場の食堂から出る食品廃棄物を原料としており、発酵・精製後、バイオガスが発生するとともに肥料と水が出てくる。ガスはより生産能力が大きくなれば、天然ガスを利用している食堂のエネルギー源として代替できる予定だ。現在は1日100立方メートルのガスを精製しており、ガス貯蔵庫から食堂までのパイプラインが今後設置されれば、実用化が進むことになる。河村社長は、「事業はまだ開始したばかりだが、今後は提携する農家や投資家を募集し、ビジネスとして推進していきたい」と語った。

- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
古屋 礼子(ふるや れいこ) - 2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・カラチ事務所長
糸長 真知(いとなが まさとも) - 1994年、ジェトロ入構。国際交流部、ジェトロ・シドニー事務所、ジェトロ・コロンボ事務所を経て、2024年9月から現職。






閉じる





