オンラインゲーム市場と新法案への対応
拡大するインドエンタメ市場(3)
2026年3月30日
インドのオンラインゲーム市場は4.5億人以上が利用する巨大成長産業だが、2025年の新法施行により主要分野だったリアルマネーゲームが規制対象となり、企業戦略の大きな転換が迫られている。本稿では、インドを代表するゲーム企業2社へのヒアリングを基に、オンラインゲーム市場について紹介する。
4.5億人が楽しむインドのオンラインゲーム市場
インド商工会議所連盟(FICCI)と会計コンサルティングファームのアーンスト・アンド・ヤング(EY)が共同で2024年3月に公表したレポートによれば、2023年時点のインドのオンラインゲームユーザー数は4億5,000万人超、うち1億人以上がオンラインゲームを日常的に楽しんでおり、課金ユーザーは9,000万人以上に上ると推計される。市場規模については、非営利団体IEIC(Interactive Entertainment and Innovation Council)とモバイルゲームのプラットフォーム事業を展開するウィンゾ・ゲームズ(WinZO Games)が2025年5月に共同で発表したレポートによると、2024年時点で37億ドル規模、2029年までには91億ドル規模に拡大すると予測される。なお、オンラインゲームを楽しむデバイス環境については、ユーザーの90%以上がスマートフォンなどのモバイルを使用しているという(図参照)。オンラインゲームの収益モデルとしては、ゲーム内のアイテムへの課金や広告を収益源とするゲームのシェアは極めて小さい一方で、入金し勝敗に応じて賞金を獲得できる「リアルマネーゲーム(RMG)」の形式をとるゲームが全体の約86%を占める。インドにおける代表的なリアルマネーゲームのひとつは、いわゆる「ファンタジースポーツ」と呼ばれるもので、実在のスポーツ選手をゲーム上で起用して架空の試合を行い、その結果にユーザーがお金を賭ける仕組みだ。インドでは1億5,000万人超がファンタジースポーツを楽しんでいるとされ、最大手でクリケットのインドプレミアリーグの公式パートナーを務めたドリーム・イレブン(Dream11)
のユーザー数は、1億人以上に上る。他にも、MPL(Mobile Premier League)やウィンゾ・ゲームズといったインド企業が、オンラインゲーム上での対戦に現金報酬を付与するサービスを提供し急成長してきた。
出所:ジェトロからの委託によりNRI India作成
インドのオンラインゲーム市場を理解することを目的に、ジェトロはインドを代表するオンラインゲーム企業であるウィンゾ・ゲームズとジェットシンセシス(JetSynthesys)の経営層に対して後述するオンラインゲーム規制が成立する前の段階でヒアリングを実施、ビジネス戦略や将来のビジョンについて話を聞いた(ヒアリング日:2025年7月15日)。
ウィンゾ・ゲームズは2018年に創業したデリー拠点のスタートアップで、モバイルゲームのプラットフォーム事業を展開している(インドのコンテンツ産業市場調査
(2.9MB))。同社は、さまざまなオンラインゲームを自社アプリ上に集約し、ユーザー同士が対戦して勝者が賞金やクーポンを得ることができる、いわゆるリアルマネーゲームの大手となった。取り扱いゲームは100種類以上に上り、クイズやパズル、的当てなどから、インドで人気のカードゲーム「ラミー」まで多岐にわたる。同社のサービスの特徴は、多言語対応と小額課金モデルだ。ヒンディー語やベンガル語など15言語でゲームを提供し、利用者は最低3ルピー(約5円、1ルピー=約1.8円)程度から参加可能で、手頃な参加費で日常的に遊べる設計になっている。手頃な参加費と現金で賞金が受け取れる(銀行口座やデジタルウォレットに現金が払い戻される)仕組みが功を奏し、登録ユーザー数は2025年4月時点で2億5,000万人を突破する巨大プラットフォームに成長した。同社の共同創業者兼最高経営責任者(CEO)であるパーバン・ナンダ氏は、「インド国内のゲーム利用者を1億人規模で拡大し、2029年までに国内ゲーム市場9億ドル規模の収益化を目指す」と述べていた。
ジェットシンセシスは、西部都市プネを拠点とするデジタルコンテンツ企業で、ゲームおよびエンターテインメント(以下、エンタメ)分野で幅広く事業を展開している。同社は、1930年代にタイで創業した包装資材メーカーであるジェット・ライン・グループ(Jet Line Group)の傘下にあり、2010年代にエンタメ業界へ本格参入した。同社の代表的な事業は、ゲーム開発とオンライン配信だ。インド映画界を代表するボリウッド俳優のサルマン・カーン氏やクリケットの神様と呼ばれるサチン・テンドルカール氏など、インドの著名スターを起用したゲームを300以上提供するプラットフォームを運営している。
同社は、自社の知的財産(IP)の創出だけでなく他社の有力IPとの提携にも積極的で、日本企業と共同開発したゲームも扱っている。例えば日本のゲーム関連企業スクウェア・エニックス・ホールディングスとは、インド向けオンラインゲーム「ルド・ゼニス(Ludo Zenith)」を共同開発し、リリースした実績がある。これは、日本のゲーム会社がインド市場向けゲーム開発に乗り出した先駆的な事例の1つで、ジェットシンセシスがインド現地パートナーとして企画および開発、運営を担った。
ジェットシンセシスはゲーム以外にも、音楽・動画配信・ソーシャルコミュニティーなどデジタル娯楽領域に事業を広げている。米国の大手音楽関連エンタメ企業ワーナー・ミュージック・グループとの戦略提携で、インド国内における音楽レーベル事業でパートナーシップを締結、同社の音楽子会社グローバル・ミュージック・ジャンクションを通じてアーティスト発掘や楽曲配信を共同で行っている。
創業者兼CEOであるラジャン・ナバニ(Rajan Navani)氏はジェトロのヒアリングに対し、「今後のビジネス展開について3〜5年は、eスポーツ・ゲームIP・音楽事業を重点拡大することを明言している。日本企業との協業については、アニメ、マンガ、音楽IPをインド市場へ導入し、逆にインドIPを海外市場へ展開したい」と語った。
| 項目 | WinZO Games | JesSynthesys |
|---|---|---|
| ビジネスモデル |
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| ターゲット地域 |
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| 将来的なビジネス展開 |
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注:人口に加え、空港、病院、教育施設などの設置状況や物価などを総合的に判断して指定される都市区分。最も大都市の分類であるTier1都市には、デリー、ムンバイ、コルカタ、ベンガルール、チェンナイ、ハイデラバード、アーメダバード、プネの8都市が指定されている。
出所:ウィンゾ・ゲームズおよびジェットシンセシスへのヒアリングを基に作成(2025年7月時点)
突然の法改正でリアルマネーゲームが規制対象に
2025年、法改正によってインドのオンラインゲーム市場に大きな変化が生じた。2025年8月のインドの連邦議会でオンラインゲーム新興・規制法(Promotion and Regulation of Online Gaming Bill, 2025)が成立し、同年10月1日から施行されたのだ。同法はeスポーツやオンラインソーシャルゲーム(教育、娯楽、コミュニティーベースのゲーム)を促進する一方、若年層のゲーム依存や金銭トラブルを防ぐ目的でリアルマネーゲームに対する規制を定めた。上述のとおり、インドのオンラインゲーム市場で大きなシェアを占めていたリアルマネーゲームだが、同法案によりオンラインで金銭を賭け、勝敗により利益を得るかたちのゲームがインドで禁止されることとなった。
これにより、各社の戦略に変化が生まれつつある。新たな規制を受け、前述のドリーム・イレブンおよびMPLはゲーム内からリアルマネーゲームの要素を排除したと報道されている(2025年8月21日付「ミント」紙など)。
ウィンゾ・ゲームズは新法施行後のジェトロのヒアリング(2025年11月)に対し、提供サービスの大幅な見直しや社内の構造改革が必要となり、先行きが厳しくなっているとコメントした。まずは新たな収益モデルを安定させ、将来的には日本を含む海外ゲーム開発会社との提携を通じて操作がシンプルなハイパーカジュアルゲームや、RPG、アニメキャラクターを活用したゲームの供給を強化したいと語る。同社が提供していたオンラインゲーム「ラミー」のウェブサイト
では、2026年2月23日執筆時にはサービス終了の旨と出金の案内が表示されている。一方のジェットシンセシスは、元々リアルマネーゲームに重点を置かないビジネスモデルだったため、他社に比べて影響は小さく、事業方針の大きな変更は必要ないとジェトロに対してコメントした(2025年11月)。
インドゲーム市場への事業展開を考えるにあたって
インドは、言語や文化、規制が多様で難解なため、現地有力企業との提携を強化し、市場知見やユーザーネットワークを活用することが望ましいと考えられる。また、インド政府はコンテンツ産業振興に前向きではあるが、同時に社会福祉を優先するという考え方に則った規制も少なくない。今回の新法のように、発表から施行までの期間が短いケースもある。日本企業としては、法務面に精通した現地弁護士やコンサルタントを起用し、タイムリーな対応、さらには州ごとの規制差や検閲制度への適合などコンプライアンス体制を整えることが重要だろう。
調査協力:Nomura Research Institute Consulting and Solutions India Pvt Ltd
拡大するインドエンタメ市場
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューデリー事務所
川崎 宏希(かわさき ひろき) - 2020年、ジェトロ入構。総務部総務課を経て、2023年6月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューデリー事務所
ジェニカ・カルラ - 2022年からジェトロ・ニューデリー事務所に勤務。特許、知的財産部門の担当を経て、2024年9月より映画・映像、アニメ、音楽、ゲーム、マンガなどの日本コンテンツのインド展開支援やプロモーションを担当。






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