アニメーション業界の現状と展望
拡大するインドエンタメ市場(1)

2026年1月21日

近年の経済成長に伴い、インドのエンターテインメント市場は拡大を見せている。インド商工省傘下のIndia Brand and Equity Foundation(IBEF)によると、インドのメディア・エンターテインメント産業の市場規模は2023年時点で約300億ドル、2030年には約1,000億ドルに達すると予想されている。本レポートでは、中でも日本との関わりの深いアニメーション制作と音楽イベントに焦点をあてる。前編では急速に発展するアニメーション業界から、国内を代表する制作会社グリーン・ゴールド・アニメーション(Green Gold Animation)とリライアンス・アニメーション(Reliance Animation)を取り上げ、業界の現状や課題、そして日本企業との連携の可能性について考察する。鍵となるのは国内外企業との連携、デジタルプラットフォーム活用による多角的な成長だ。

制作・配信に加えてSNS・対面型イベントでファン獲得

グリーン・ゴールド・アニメーションは、2004年に設立されたインド南部ハイデラバードに拠点を置くアニメーションスタジオだ。創業者のラジブ・チラカ最高経営責任者(CEO)にヒアリングを行った(ヒアリング日:2025年3月4日)。


創業者ラジブ・チラカ氏(グリーン・ゴールド・アニメーション提供)

同社は当初、2Dアニメーションを中心に制作していたが、2008年以降はデジタルへと移行した。2016年にはCG(3D)アニメーションを導入し、新型コロナ禍以降はVFX(視覚効果)や実写のコンテンツ制作にも事業を拡大している。少年ヒーローの「チョータ・ビーム(Chhota Bheem)」や「マイティ・ラジュ(Mighty Raju)」などインド国内で絶大な人気を誇る国民的キャラクターを生み出した先駆的な企業だ。

ファンを獲得するために、SNSを活用したコンテストやクイズ企画、対面式イベントの開催、キャラクターIPを活用したマーチャンダイジングによるブランド展開など、多面的なアプローチを採用している。同社の公式YouTubeチャンネルのうち、「Green Gold TV外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」は2025年11月現在で登録者数が2,200万人を超えている。同チャンネルでは今後、宣伝用動画に限らず、フルエピソードの配信を通じて海外での視聴者獲得も強化していく方針だ。

都市部はOTT需要増、地方はテレビ視聴が根強い人気

チラカ氏によると、インドのアニメーション市場では、年齢別に、0~10歳は10~20分程度の短編、10代はストーリー性があり特徴のあるキャラクターが登場する作品を好む。また、18~34歳の層は日本のアニメや長編のコンテンツを好む傾向があるという。エリア別では、都市部でオーバー・ザ・トップ(OTT)(注)の需要が高い一方、地方ではケーブルテレビの視聴が依然として根強い人気を誇っている。

0~10歳向けとして同社の中で最も人気の高い作品は、インドの神話や文化を取り入れたチョータ・ビームで、同社以外の作品で同年代に人気のものは2人組の男性キャラクターのドタバタ劇を描く「モトゥ・パトゥル(Motu Patlu)」だ。国外作品については、欧米のアニメーションは短期の人気で終わる傾向がある一方で、日本の「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」「ポケットモンスター(ポケモン)」などは長期での人気獲得に成功している。これらの作品は、若年層のファンを中心に幅広い世代に知られる存在となっている。

言語面では、視聴者の年齢が低いほど英語よりもヒンディー語など現地の言語が好まれる傾向にある。チカラ氏は、国外作品を配信するにあたってタミル語、テルグ語、ベンガル語、マラーティー語、グジャラート語などへの吹き替えも進めているが、各言語における声優の質にばらつきがあるなど、多言語国家ならではの課題も指摘している。

インド市場に向けたローカライズにも注力

ラジブ氏は「言語のみならず、食文化やジョーク、童謡などをインドの文化に合わせてコンテンツを調整することで、視聴者の共感を得やすくなる」と語る。グリーン・ゴールド・アニメーションは日本企業との提携にも積極的で、教育分野のコンテンツを含む共同制作やIP(知的財産)を活用したグッズ開発・販売など、多様な形態での連携を模索している。最近ではテレビ朝日と協力してアニメ「おぼっちゃまくん」のリメイクを行うなど(2025年12月10日付地域・分析レポート参照)、国外作品のローカライズにも注力している。

日本のIP以外にも、同社は英国の児童向け小説である「トム・ゲイツ」のIPを活用し、インド市場でグッズの開発や販売、書籍展開をしている。国外企業との協力は、新型コロナ禍の影響で一時的に中断した時期もあったものの、海外の人気作品をインド市場に取り入れるプロジェクトに積極的に取り組んでいる。

国外コンテンツのローカライズでは、インド市場向けに文化的要素や暴力描写の調整が必要であり、特にテレビで放送される子供向けコンテンツには厳格な規定が存在する。一方で、青年層に対しては流血シーンや戦闘アクション、豊かな感情表現などが求められる傾向が強く、ターゲット層に応じた演出の工夫が求められる。

独自のコンテンツ開発に乗り出し事業多角化

リライアンス・アニメーションは、大手財閥リライアンス・グループ傘下のメディア部門リライアンス・エンターテインメントの一部門として2005年に設立された。同社CEOのテジョニディ・バンダール氏にヒアリングを行った(2025年2月26日)。


テジョニディ・バンダール氏と同社が持つIP(リライアンス・アニメーション提供)

バンダール氏によると、同社設立当初は欧米のスタジオ向けにアニメーション制作を請け負っていたが、近年では独自のIP開発も行うようになった。現在は、独自IPの開発、国内外の他社IPの収益化サポートサービス、教育事業の3本柱で事業を展開している。

他社IPの収益化サポートサービスについては、IPをインド国内テレビ向けに配給することに加え、リライアンス・グループのYouTubeチャンネルで配信している。最近では、人気アニメ「スポンジ・ボブ」で知られる米国の子供向けテレビチャンネル「ニコロデオン(Nickelodeon)」のインドにおけるパートナーとなり、テレビアニメーションシリーズ「サミー・アンド・ラジ(Sammy and Raj)」の制作において中心的な役割を果たした。

現在同社が手掛けているコンテンツは主にアニメーションであり、子供向けのテレビチャンネルでは一定の成功を収めている。ボリウッド映画に着想を得たアニメーション「リトル・シンガム(Little Singham)」も、インド国内で子供に人気を博している。他方、インドでは大人向けの一般娯楽チャンネルで日本のようにアニメーションが放送されることはほとんどなく、認知向上に取り組んでいる。大人向けにはコメディーとアクションのジャンルが人気を取りやすく、特にコメディーは長期的な視聴者獲得が期待できるとしている。言語面については、同社がケーブルテレビで放送するアニメーションではヒンディー語と英語での視聴が中心であった。一方で、YouTubeによる配信では言語別の視聴数を細かく分析でき、その結果、インド南部、東部を中心にマラヤーラム語、カンナダ語、ベンガル語で視聴するユーザーが増加傾向にあるということが判明していると話す。

クリエイティブ人材育成にも取り組む

教育分野では、2009年にクリエイティブ人材を育成する「リライアンス・アニメーション・アカデミー」を設立し、業界が求めるスキルレベルと、仕事に従事する人材のギャップを埋める取り組みを行っている。日本の専門学校に近い位置付けだが、インドの他大学とも連携した学士取得コースなども提供している。2020年以降に新型コロナ禍の影響で一部を閉鎖したものの、現在も14のアカデミーが稼働中だ。

2024年からは「スクール・コンタクト・プログラム」を開始し、同アカデミーを通じて外部の学校向けのセミナーなどキャリア形成に役立つ活動を実施している。インドにおけるコンテンツ制作においては、物語構成力と創造力に富んだ人材の不足が課題だ。バンダール氏は「教育機関との連携による人材育成が必要だ」と強調した。

同時に、学生向けに自社IPのプロモーションも行っている。対象は主に西部マハーラーシュトラ州と北部ウッタル・プラデシュ州の8~13歳の学生で、2024年は計20校で延べ5,000~6,000人と交流し、2025年は50~60校での展開を計画している。

海賊版対策にコンテンツ監視専任チーム

インドではIPの不正流通が課題になっているが、同社はYouTube上での無許可コンテンツ掲載を最大の課題として認識している。これに対応するため、同社は専任の管理チームを設置し、違法アップロードされたコンテンツの監視と削除依頼を行っている。また、最近ではYouTubeにおけるガイドラインや規則の策定が進んでおり、YouTubeの運営側が無許可コンテンツを自動で削除する仕組みを導入している。また、正規コンテンツと類似するものが第三者によってアップロードされた場合、そのコンテンツの収益化はできない仕組みとなった。

市場参入のポイントは市場理解と人材育成

2社へのヒアリングを通じて、インドのアニメーション市場参入のポイントとして、市場理解とローカライズ、そして現地企業や人材を活用した作品制作の重要性が挙げられる。

インドのアニメーション市場に参入を検討する日本企業にとって、第1のステップとなるのはインド文化への深い理解に基づくコンテンツのローカライズを目指すことだ。食文化やジョーク、視聴習慣など現地の価値観に即したコンテンツの調整や、ヒンディー語を中心に、タミル語、テルグ語、ベンガル語など多言語への対応力も重要であり、吹き替え版の品質向上も視聴者を獲得する鍵となってくる。そのために、地場企業との連携や現地スタッフの雇用を通じ、インド人から見た視点を取り込んだコンテンツ制作や事業戦略を考えていく必要があるだろう。

また、インド市場での長期的な展開においては、現地人材の育成が肝となる。現地スタジオや教育機関との連携を通じて、インドでクリエイティブ人材を育成することで、作品制作やローカライズ体制の強化、そしてコスト対策にもつながる可能性がある。将来的には、日本の技術力とインドの人材や文化的資源を組み合わせることで、相互補完的な価値創出を目指すことが期待される。

調査協力:Nomura Research Institute Consulting and Solutions India Pvt Ltd


注:
インターネットを通じて映像や音声コンテンツを配信する動画配信などのサービス。本文に戻る

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執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
川崎 宏希(かわさき ひろき)
2020年、ジェトロ入構。総務部総務課を経て、2023年6月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
ジェニカ・カルラ
2022年からジェトロ・ニューデリー事務所に勤務。特許、知的財産部門の担当を経て、2024年9月より映画・映像、アニメ、音楽、ゲーム、マンガなどの日本コンテンツのインド展開支援やプロモーションを担当。