音楽イベントと日本アニメの影響力
拡大するインドエンタメ市場(2)
2026年1月21日
インドの音楽イベントが活況を呈している。人気ロックバンドの公演が記録的な聴衆を集めるほか、野外フェスティバルにもインド初出演の海外アーティストが参加するようになった。インドのエンターテインメント市場レポートの後編では、音楽イベント関連市場の現状と、アニメソングを中心とした日本の音楽の影響力や企業にとっての参入機会を探る。
世界的アーティストによる音楽イベントが活況
昨今、インドでは世界的に知られる有名アーティストの音楽イベント開催が増えている。英国の有名ロックバンドであるコールドプレイ(Coldplay)は2025年1月、世界ツアー「Music Of The Spheres」の一環として、インド西部のムンバイ、アーメダバードの2都市で計5回の公演を行った。同アーティストのインド公演は2016年以来約9年ぶりで、チケットの発売直後には予約用オンラインサイトへのアクセスが集中してサーバーが一時停止したほか、公演回数が当初予定の3回から5回に増えるなど、開催前から大きな話題となった。その結果、ムンバイの「DYパティル・スタジアム」で3日間にわたり行われた公演の平均来場者数は、約7万5,000人となった。また、アーメダバードの世界最大のクリケットスタジアム「ナレンドラ・モディ・スタジアム」で開催された公演は、2日間で延べ22万3,000人を超える来場者数を記録し、21世紀で世界最大のスタジアムコンサートとしてギネス世界記録に認定された。
2025年3月8日~9日には野外音楽フェスティバル「ロラパルーザ」がムンバイで開催され、2日間で延べ約6万人の来場者を集めた。約30組のアーティストが出演し、米国のロックバンド、グリーン・デイ(Green Day)と、元ワン・ダイレクション(One Direction)のメンバーであるルイ・トムリンソンが、インドで初めてパフォーマンスを行った。また、カナダのポップスター、ショーン・メンデスや、英国のロックバンド、グラス・アニマルズ(Glass Animals)、米国の元アウトキャスト(OutKast)のメンバー、ビッグ・ボーイなど、著名アーティストらが出演した。なお、同フェスティバルの次回開催は2026年1月に同じくムンバイで予定されており、日本からは藤井風が参加を発表している。
インド国内では従来、インド人アーティストによる音楽が人気を集めていた。しかし前述のように、海外アーティストによる音楽の人気が高まっている。背景として、1990年代以降、欧米の音楽を主に扱う番組「MTV」や「Channel V」などがインドのケーブルテレビでも放送されたことや、音楽ストリーミングサービスやSNSの普及により海外音楽の浸透が進んだことが挙げられる。2010年代以降に音楽ストリーミングサービスが普及したことで、インド国民が海外音楽に触れる機会が増加した。ボリウッド音楽をはじめとしたインド人アーティストの人気も引き続き根強いが、若者を中心に楽しむ音楽の選択肢が増えている。また、インスタグラムなどSNSの普及により、自分の体験を動画でシェアする行動様式も生まれた。一部の若者の間では、海外アーティストの音楽フェスティバルに参加したことを自分のアカウントに投稿することがある種のステータスになり、その投稿を見た人々から口コミで話題が広がる現象も出てきている。
日本発のアニメソングがインド市場で人気
日本発のアニメ人気の高まりによって、アニメソングをはじめとした日本人アーティストにも注目が集まりつつある。2024年に続き、2025年9月には、日本のアニメを中心としたイベント「メラ!メラ!アニメジャパン!!(MMAJ)」が首都ニューデリーで催された。会場では、日本企業によるさまざまなコンテンツ関連の展示や、日本人アーティストによるライブイベントが行われ、2日間で延べ6万人以上が来場した。イベントステージでは「金色のガッシュベル!!」「デジモンテイマーズ」「ドラゴンボール改」など、多数のアニメ主題歌を手掛けるシンガー・ソングライターの谷本貴義や、数々のアニメソングで注目を集めてきた春奈るななど日本人アーティストによるライブパフォーマンスが披露された。インド人来場者らも日本語の歌詞を口ずさむなど、日本のアニメソングの認知度の高さが垣間見えた。

近年のインターネット普及と配信サービスの利用者増加によりインド国内で日本のアニメや映画の視聴者が増え、それに伴い日本のアニメソングの認知度も上がっている。インド国内で開催されるコンテンツ関連イベントでも、アニメソングを取り扱ったライブパフォーマンスが行われることが多い。
音楽チャート「ビルボードジャパン」の「Japan Songs(インド版)」トップ10を見ると、映画やアニメの主題歌などが上位にランクインしている。『すずめの戸締まり』の主題歌である「すずめ (feat. 十明)」や、『鬼滅の刃』第1期オープニングテーマであった「紅蓮華」はインドのアニメファンからも人気だ。
| 順位 | タイトル | アーティスト名 |
|---|---|---|
| 1位 | 「死ぬのがいいわ」 | 藤井風 |
| 2位 | 「IRIS OUT」 | 米津玄師 |
| 3位 | 「すずめ(feat.十明)」 | RADWIMPS |
| 4位 | 「TOKYO DRIFT(FAST & FURIOUS)」 | TERIYAKI BOYZ |
| 5位 | 「Bling-Bang-Bang-Born」 | Creepy Nuts |
| 6位 | 「JANE DOE」 | 米津玄師、宇多田ヒカル |
| 7位 | 「NIGHT DANCER」 | imase |
| 8位 | 「KICK BACK」 | 米津玄師 |
| 9位 | 「スパークル」 | RADWIMPS |
| 10位 | 「紅蓮華」 | LiSA |
出所:「ビルボードランキング」公開情報からジェトロ作成
チケット販売プラットホームの競争も激化
近年、多くの音楽ライブが開催されるようになり、インドのオンラインチケット市場も急成長している。インドのチケット販売プラットホーム「ブックマイショー(BookMyShow)」は、映画やコンサート、スポーツイベントなどのチケットをオンラインで取り扱っており、2023年度(2023年4月~2024年3月)にはオンラインチケット販売で約648億ルピー(約144億円、1ルピー=約1.8円)の売上高を記録し、前年度比で228%の増加となった。同社の主力事業はオンラインチケット販売だが、近年ではライブイベントを主催するなど、事業の多角化にも注力している。
インドの食品宅配大手「ゾマト(Zomato)」も、オンライン決済を手掛ける「ペイティーエム(Paytm)」のチケット事業を204億ルピーで買収し、新たなプラットホーム「ディストリクト(District)」を立ち上げた。飲食、エンターテインメント、ライブイベント、スポーツ、チケット販売を1つに集約した「ディストリクト」を通じて、レジャー分野でのブックマイショーの独占的な地位に対抗する姿勢を示している。
インドの音楽イベント市場における課題および展望
インドで音楽イベントが盛り上がりを見せる一方で、運営面に関する課題も顕在化している。上述したコールドプレイのツアーでは、元々1枚当たり2,500~1万2,000ルピーで販売されていたチケットが、転売サイトでは1枚最大96万ルピーで取り引きされ、物議を醸した。インドのライブエンターテインメントプラットホームを管理するスキルボックス(SkillBox)は、ジェトロのヒアリングに対し、「チケット購入者の情報管理や、公式アプリでのチケット譲渡機能の導入、購入可能な枚数制限などを実施しているが、転売対策の抜本的な解決には至っていない」とコメントした。
課題はありつつも、急成長するインドのメディア・エンターテインメント市場は、日本企業にもビジネスチャンスが見込まれる。上述のとおり、インドではアニメソングが人気となっており、関連イベントも盛況だ。インドで音楽イベントを行う場合には、アニメと関連させることでファンからの認知が期待できる。イベント実施に当たっては、配信サービス、イベント運営、チケット販売など幅広い分野でインド地場企業がビジネスを拡大させており、現地パートナーとの協業が有効な手段となるだろう。
調査協力:Nomura Research Institute Consulting and Solutions India Pvt Ltd
拡大するインドエンタメ市場
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューデリー事務所
川崎 宏希(かわさき ひろき) - 2020年、ジェトロ入構。総務部総務課を経て、2023年6月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューデリー事務所
ジェニカ・カルラ - 2022年からジェトロ・ニューデリー事務所に勤務。特許、知的財産部門の担当を経て、2024年9月より映画・映像、アニメ、音楽、ゲーム、マンガなどの日本コンテンツのインド展開支援やプロモーションを担当。




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