中国・高品質データセット戦略の現在地
AI競争を支える政策整備とデータ資産化
2026年10月9日
2026年、中国のデータ経済は一つの転換点を迎えている。米国による対中半導体輸出規制が続く中、中国では人工知能(AI)基盤の国産化と並行して、高品質データ資産の整備・活用が進められている。国家データ局は高品質データセットの構築を重点政策として位置付けており、データ要素の価値化や資産化に向けた取り組みも加速している。中国のAI戦略は、計算能力の強化に加え、高品質データ資産を新たな競争力の源泉として活用する段階に入りつつある。
本稿では、中国における高品質データセットの定義、政策動向、整備状況、価値化事例を紹介する。
米国の対中規制と中国側の対応
米国は、先端半導体の対中輸出規制や、半導体・AIなどを対象とする対外投資規制を講じている。こうした外部制約が続く中、中国では国産計算基盤の整備やアルゴリズムの効率化とともに、AIの開発・利用を支える高品質データセットの整備が進められている。
高品質データセットとは何か
データはそのままでは活用できる範囲が限られるが、収集・加工などを経ることで利用価値が高まる。国家データ局は、業界における高品質データセットについて、AIモデルの開発・学習に直接利用できる基礎的かつ重要なリソースと位置付けている(国家データ局ウェブサイト、2026年6月20日)。生データが原油だとすれば、高品質データセットは精製された燃料に相当すると例えられる(「南方日報」2026年7月14日)。国家データ局の指導の下、関係機関が2025年8月に公表した「高品質データセット構築指引」は、説明文書、データ品質、モデル応用の3側面からデータセットを評価する枠組みを示している。データ品質については、構造完全性、内容真実性、多様性、時効性などの評価指標を設けている。
政策フレームワーク—国家戦略としての位置付け
中国における高品質データセットの整備は、既に構想段階から実践段階に入っている。
2024年11月、国家データ局は「信頼できるデータ空間(可信數據空間)発展行動計画(2024-2028年)」を公布した。同計画は、信頼できるデータ空間を「共通ルールに基づき多様な主体をつなぎ、データ資源の共有・共用を実現するデータ流通インフラ」と定義し、2028年までに100以上の整備を目標としている。
国家データ局が公表した情報によると、2026年8月まで、全国の高品質データセットは12万6,000件超、総容量は1,815PB(ペタバイト)超に達した。また、AIの利用状況を示す指標として、1日平均のトークン呼び出し量は2026年3月時点で140兆を突破している(Token:文章の生成や処理における基本単位。処理件数。2026年7月1日付地域・分析レポート「中国「算力網」とは何か?—AI時代の国家インフラ戦略」参照)。データセットの整備とAI利用のいずれも急速に拡大しているが、流通ルールは依然として十分に統一されておらず、権限・責任の明確化とセキュリティー対策の強化が課題となっている。このため、「第15次5カ年規画」では、信頼できるデータ空間の整備を国家戦略上の重要施策の一つとしてあらためて位置付け、制度設計と基盤整備をさらに加速させる方針だ。
その上で、国家データ局は2026年6月、「業界における高品質データセット構築行動の推進に関する実施プラン」を正式に公布した。同プランはデータセットの供給、流通、応用の全プロセスにわたり6つの重点行動を定めている。中国を代表するAI訓練データサービス企業、北京海天瑞声科技の崔向雨副総裁は、同プランを中国で初めて業界向け高品質データセット構築を体系的に推進する国家レベルの行動指針と評価している。
国際面では、2026年3月に北京で、非政府・非営利団体の世界データ機構(World Data Organization、WDO)が設立された。40カ国超から200を超える会員機関が参加しており、データの利用やガバナンスを巡る国際協力を掲げている。
金融イノベーション—青島の純データ資産ABS(価値化事例)
2026年3月、国家データ局の劉烈宏局長は、トークンの公式中国語訳を「詞元」とする方針を示した。
同年、青島ではデータ資産化に向けた制度整備が進展し、データ財産権登録や純データ資産担保証券(ABS)の発行が行われた。2026年5月20日、深セン証券取引所で5億3,200万元(約122億3,600万円、1元=約23円)規模のABSが発行された。投資家からの応募額は19億8,000万元に達し、応募倍率は3.72倍となった(「中華網」2026年5月27日、「新浪財経」2026年5月22日)。一方、同月28日には、青島華大基因研究院が保有する「青島華大千種海洋生物基因測序データ資源集」が、トークンを核心計量単位とする全国初のデータ財産権登録を完了した(「青島新聞網」2026年5月29日)。
これはデータ資産を活用した資金調達の先行事例として注目されており、データ資産の価値評価から流通、金融活用に向けた取り組みの一例といえる。
おわりに
中国は「データ大国」から「データ強国」へと歩みを進めている。高品質データセットはAI実用化競争の勝敗を分けるカギだ。もちろん、データの品質ばらつき、分野ごとのデータフォーマットの差異、越境データ移転やプライバシー保護に係る安全性・コンプライアンス上の課題など、多くの障害が依然として存在する。しかし、かつて日本製造業が「品質立国」で国家競争力を築いたように、中国の高品質データセットの進化はAI経済時代の中核的な競争力の一つとなりつつある。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・青島事務所
李 燕(り えん) - 2015年、ジェトロ入構。青島事務所総務・経理(2015~2019)、サービス産業部サービス産業課(2015~2017年)、農林水産・食品部農林水産・食品課(2018~2019年)を担当。





閉じる





