米国で不確実な通関実態が継続、通関書類の5年間の保存が重要に

(米国)

ニューヨーク発

2025年10月14日

米国トランプ政権による日本に対する相互関税率は、9月16日以降、一般関税率(MFN税率)を含めて15%などと確定したが(2025年9月16日記事参照)、1962年通商拡大法232条に基づく分野別の追加関税措置は、詳細なガイダンスがない中、調査対象、対象品目が拡大され、予見可能性の低い状態が続いている。そうした中では、今後起こり得る関税還付手続きや税関による事後調査へ対応するため、可能な限り全ての通関書類を保存しておくことが重要となっている。

232条に基づく調査は2025年3月以降、ほぼ毎月発表されており、調査対象はこれまで12分野に上る(注1)。直近では9月に、ロボット・産業機械、個人用防護具(PPE)・医療機器に対する調査が開始された(2025年9月26日記事参照)。また、既に232条関税が課されている鉄鋼・アルミニウム(2025年9月17日記事参照)、自動車部品(2025年9月17日記事参照)では、定期的に対象品目を拡大するプロセスが確立され、8月には初めて同プロセスを通じて約400品目の鉄鋼・アルミの派生品が対象品目として追加された(2025年8月19日記事参照)。

ジェトロに対しては特に、この鉄鋼・アルミ派生品への232条関税に関する質問が、日本企業から多く寄せられている。鉄鋼・アルミ派生品は原則、輸入する製品に含まれる鉄鋼やアルミの価値に対してのみ追加関税が課されるが、計算方法などが明示されていないためだ。具体的には、「調達元が鉄鋼やアルミの購入価格を開示しない場合に、市場参考価格を基に算出してよいのか」といった質問が寄せられている。米国税関・国境警備局(CBP)は、貨物サービス・メッセージング・サービス(CSMS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます鉄鋼・アルミに関する232条関税のFAQ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどを通じて情報発信をしているが、詳細なガイダンスは発表しておらず、当局による明示的な回答は現時点ではない(注2)。そのため、各社が「合理的な」判断の下で計算した鉄鋼やアルミの価格を基に、通関申告しなければいけない状況が続いている(注3)。

こうした状況で重要となるのが、通関書類の適切な保管だ。輸入申告が適切だったかどうかを調査するCBPによる事後調査の期限は5年と定められているため、輸入通関から5年間は、どのような根拠・手続きに基づき「合理的に」価格を算定し申告したかを説明できる書類を保存しておくことが重要となる。また、通商に詳しい弁護士事務所は、今後、仮に詳細なガイダンスが発表され、関税の過払いがあると判断できる際、迅速に還付手続きを行うためにも、通関関係書類を保管しておくべき、とアドバイスしている(注4)。

そのほか、複数の追加関税措置が継続している状況では、合法的に関税コストを削減する取り組みも重要となる。トランプ政権2期目の追加関税措置には、1期目でみられたような国別・製品別の適用除外は設けられていない一方で、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の原産地規則を満たした場合には、特定の追加関税の対象外あるいは緩和の対象になるため、USMCAの積極的な利用が重要だ(注5)。そのほか、完成品ではなく部品の段階で輸入し、最終組み立てのみ米国で行うなど、関税率がより低く設定された製品群に分類されるよう調整する「タリフエンジニアリング」(2025年7月22日記事参照)、輸入取引の過程で複数の取引が行われた場合、米国向けに行われた最初の取引におけるインボイス価格を関税評価額として申告する「ファースト・セール・ルール」の利用なども選択肢となる。

(注1)232条に基づく調査、措置決定などの手続きの詳細は、2024年12月10日付地域・分析レポート参照。トランプ政権2期目での232条の調査対象分野は、商務省産業安全保障局(BIS)のウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

(注2)取引価格での評価が難しい場合は、WTOの関税評価協定に沿って、代替評価方法を用いた算定が可能とする見解もある。

(注3)例えば、米国スポーツフィッシング協会(ASA)は、鉄鋼・アルミ含有量の申告に必要と思われる要素をまとめたワークシートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を公開している。

(注4)ジェトロによる2025年9月16日のヒアリングに基づく。

(注5)自動車・同部品への232条関税、フェンタニルなどの流入阻止を目的とする国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくメキシコとカナダに対する追加関税。

(赤平大寿)

(米国)

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