打ち上げ拠点が生む産業集積
米フロリダ州宇宙産業(1)

2026年7月15日

米国フロリダ州は、米国航空宇宙局(NASA)のケネディ宇宙センター(KSC)を核とした打ち上げ機能に加え、州政府による制度支援や大学を中心とした研究・人材基盤が連動することで、米国有数の宇宙産業クラスターを形成している。本連載では、インフラ、政策、研究・人材の三層構造に着目し、その形成メカニズムと競争力の源泉を分析する。本稿では、近年の商業宇宙市場の拡大を背景としたロケット打ち上げ動向を概観するとともに、KSCを中核とした発射場主導型の産業集積について整理する。

打ち上げ需要が拡大、米国が主導

近年、米国の宇宙企業スペースX(本社:テキサス州スターベース)が提供する衛星通信サービス「スターリンク」向け小型衛星などの打ち上げが活発化しており、米国を中心にロケットの打ち上げ回数は飛躍的に増加している(図参照)。2006年には全世界で66回だった打ち上げ回数は、2025年には329回へと大幅に増加した。特に、2019年5月にスターリンク向け小型衛星打ち上げが開始されて以降、打ち上げ回数は急増しており、2019年から2025年までの7年間で約3.2倍に拡大している。

図:国別の打ち上げ回数の推移(2006~2025年)
2006年には全世界で66回であった打ち上げ回数は、2025年には329回へと大幅に増加した。とりわけ、2019年5月にスターリンク関連の打ち上げが開始されて以降 、打ち上げ回数は急増しており、2019年からの7年間で約3.2倍に拡大している。 2006年から2025年までの期間では、米国、中国、ロシアの3カ国による打ち上げが全体の81.9%を占めた。特に近年はロシアの打ち上げ回数が減少する一方、米国および中国は増加傾向にある。2021年から2025年の期間においては、米国が48.6%、中国が30.3%を占めている。

出所:宇宙打ち上げデータベースJonathan McDowell「Launch Log」(2026年6月26日閲覧)を基にジェトロ作成

2006年から2025年までの期間では、米国、中国、ロシアの3カ国による打ち上げが全体の81.9%を占めた。近年はロシアの打ち上げ回数が減少する一方、米国と中国は増加傾向にある。2021年から2025年までの期間では、米国が48.6%、中国が30.3%を占めている。

米国では、ケープカナベラル宇宙軍施設および隣接するKSCを擁するフロリダ州ケープカナベラルと、カリフォルニア州サンタバーバラ郡のヴァンデンバーグ宇宙軍基地から主にロケットが打ち上げられている(表1参照)。2025年の米国における打ち上げ回数のうち、これら2拠点が96.7%を占める。このうち、ケープカナベラルからの打ち上げ回数は全体の60.2%を占めており、同地は米国最大のロケット打ち上げ拠点となっている。

表1:米国におけるロケット打ち上げ回数(2025年) (単位:回、%、個)(ーは記載なし)
打ち上げ場所 回数 割合 スターリンク関連
回数 割合 小型衛星
平均搭載個数
ケープカナベラル(FL州) 109 60.2 73 70.0 26.1
ヴァンデンバーグ(CA州) 66 36.5 49 74.2 25.8
その他 6 3.3 0 0 0
全米 181 122 67.4

出所:宇宙打ち上げデータベースJonathan McDowell「Launch Log」(2026年6月26日閲覧)を基にジェトロ作成

2025年の米国における打ち上げ回数の67.4%は、スターリンク関連のものだ。スターリンク関連の打ち上げはケープカナベラルとヴァンデンバーグの両拠点から行われており、1回当たり平均約26個の小型衛星が搭載される。そのほか、アマゾンの「プロジェクト・カイパー」関連の打ち上げなどがある。スターリンク関連のヴァンデンバーグからの打ち上げは2021年から始まり、2025年にはスターリンク関連の打ち上げの40.2%を占める。これには、両地域の特性が影響している。

ケープカナベラルおよびヴァンデンバーグは、それぞれの地理的条件に応じて異なる打ち上げ需要を担っている。NASAによれば、東海岸に位置するケープカナベラルは、地球の自転による加速効果を利用できる西から東方向への打ち上げに適しており、赤道付近の低傾斜軌道や静止軌道(GEO)へのミッションに主として利用される。一方、西海岸のヴァンデンバーグは、海上の安全区域を確保しながら南北方向へ打ち上げることができ、極軌道や高傾斜軌道へのミッションに適している。

こうした地理的特性を背景に、通信衛星や有人宇宙飛行など低傾斜軌道を利用するミッションは主としてケープカナベラルから実施される一方、地球観測衛星や軍事衛星などが利用する極軌道ミッションはヴァンデンバーグから打ち上げられている。さらにスペースXは、スターリンクの通信遅延を抑えることなどを目的に、2021年から極軌道向け小型衛星の配備に取り組んでおり、これがヴァンデンバーグにおける打ち上げ回数の増加要因となっている。

KSCを核に広がる産業集積

ケープカナベラルに位置するKSCは、約14万エーカー(約567平方キロメートル)の敷地(注1)に発射施設、オービタ処理施設(注2)、シャトル着陸施設などを備えたNASAの主要拠点の1つで、1万人以上の雇用を支える米国の宇宙開発を象徴する拠点だ。KSCは1962年に設立され、アポロ計画における月面着陸ミッションの打ち上げ拠点として整備された。その後、1970年代には米国初の宇宙ステーション計画であるスカイラブ計画や、米露の共同飛行プロジェクトであるアポロ・ソユーズ実験計画を支えた。さらに、1981年から2011年までのスペースシャトル計画では135回の打ち上げを担うなど、長年にわたり米国の有人宇宙飛行の中心的役割を果たしてきた。

2011年のスペースシャトル退役後、KSCは大きな転換期を迎えた。従来の政府主導型の運用から脱却し、民間企業との連携を強化する「マルチユーザー型宇宙港」への転換を進めている。現在では約100の民間パートナーと250件近い提携協定を締結し、NASAの月探査計画「アルテミス計画」に加え、スペースXやブルーオリジン(注3)などによる商業打ち上げや宇宙機開発の拠点として活用されている。こうした取り組みにより、政府機関、民間企業、研究機関が共存する宇宙産業拠点としての機能は年々強化されている。

こうした高頻度の打ち上げ能力と制度的転換を背景に、同地域では打ち上げサービス、ロケット開発、宇宙機製造、地上支援など多様な分野において企業の集積が進展している。その結果、ケープカナベラル地域では、KSCおよび隣接する宇宙軍施設に集約された「打ち上げ・統合拠点」と、ブレバード郡を中心とする周辺地域に広がる「製造・研究開発拠点」が相互に連携する二層構造が形成されている。すなわち、発射場を核として周辺地域へ産業活動が波及する包括的な宇宙産業エコシステムが構築されている。このような構造は、発射場を起点とした宇宙産業クラスターの代表的な事例と位置付けられる。近年は、打ち上げ能力そのものが企業立地を誘因するインフラとして機能している。フロリダ州の競争力は、発射場の存在だけでなく、その周辺に製造、研究開発、試験・統合機能が集積するエコシステム全体にある。

表2は、KSCおよびその周辺地域に立地する主要企業について、その立地と機能の対応関係を整理したものだ。KSC敷地内には、ロケット打ち上げや宇宙機の組み立て・試験を担う主要事業者が集積しており、発射施設や組み立て棟などの大規模インフラを活用しながら、打ち上げ前の統合・試験から実際の打ち上げまでの工程を担っている。

一方、KSC周辺には商業活動を目的とした施設が整備されており、その代表例として「エクスプロレーションパーク」が挙げられる。同地区は、NASAとフロリダ州政府機関のスペース・フロリダが2011年に共同で整備した研究開発・製造エリアだ。宇宙機製造や研究開発、オフィス機能を担う施設が整備されており、スタートアップを含む多様な企業が参入できる環境を提供している。

(2)では、フロリダ州政府における宇宙分野の支援機関であるスペース・フロリダを取り上げる。


注1:
打ち上げ施設のみならず、安全確保のための緩衝地帯や自然保護区域も含む。 本文に戻る
注2:
スペースシャトルが宇宙から帰還した後、次の飛行までの間に整備や点検を受けるための格納庫のこと。 本文に戻る
注3:
アマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス氏が設立した宇宙企業。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・アトランタ事務所
檀野 浩規(だんの こうき)
2015年、ジェトロ入構。ジェトロ福岡、特許庁(出向)などを経て、2023年6月から現職。