米中間選挙を占う州知事選挙、トランプ大統領支持は本選で有利か
2025年6月23日
2025年11月に、ニュージャージー(NJ)州とバージニア(VA)州で知事選挙が行われる。NJ州の6月の共和党予備選挙(注1)では、ドナルド・トランプ大統領の支持を得た候補者が勝利した。本選挙でトランプ氏支持が有利に働くのか注目される。NJ州の現職知事は民主党、VA州は共和党だ。11月に実施される州知事選挙は、トランプ政権への国民投票ともみなされ、選挙結果は2026年中間選挙の動向にも影響を与えるとみられる。
ニュージャージー州予備選挙でトランプ氏支持候補勝利
NJ州の知事選に向けた予備選挙が6月に行われ、共和党はトランプ氏が支持するジャック・チャタレリ氏(元州下院院内総務)が勝利した。民主党は連邦下院議員のマイキー・シェリル氏が勝利した(表参照)。
トランプ氏は自身のSNSで、チャタレリ氏についてMAGA(注2)の理解者で、トランプ政権と緊密に連携しMAGA政策を推進していくとし、同氏への支持を表明している。チャタレリ氏は2017、2021年にも州知事選に立候補しており、今回は3度目の立候補となる。2017年は予備選で敗退し、2021年は接戦で現職の民主党フィル・マーフィー氏に敗れた。予備選でトランプ氏の支持が役立ったチャタレリ氏は、本選ではトランプ氏の人気に左右される可能性もある。
5月の世論調査(注3)では、州知事選挙を想定した設問で、シェリル氏の支持率が51%とチャタレリ氏(38%)を上回った。
現職マーフィー氏は州知事を8年間務め、任期制限で11月に知事職を終えるため、民主党は知事の座を守るため、シェリル氏が後任になるよう注力する。
表:2025年11月実施の州知事選候補者
党名 | 候補者 | 世論調査(注) |
CPR選挙予想格付け (5月12日付) |
---|---|---|---|
共和党 |
ジャック・チャタレリ氏 (元州下院議会院内総務) |
シェリル氏:51% チャタレリ氏:38% |
民主党やや優勢 |
民主党 |
マイキー・シェリル氏 (連邦下院議員) |
党名 | 候補者 | 世論調査(注) |
CPR選挙予想格付け (5月12日付) |
---|---|---|---|
共和党 |
ウィンサム・アールシアーズ氏 (州副知事) |
スパンバーガー氏:43% アールシアーズ氏:26% |
民主党やや優勢 |
民主党 |
アビゲール・スパンバーガー氏 (元連邦下院議員) |
注:NJ州はUSAサーベイの世論調査。VA州は同州ロアノーク大学の世論調査。いずれも、州知事選挙における投票を想定した設問に対する回答。
出所:各種報道、クック・ポリティカル・レポート(CPR)
バージニア州で民主党の期待を背負うスパンバーガー氏
VA州の知事選では、立候補者は民主党、共和党とも1人で、6月に予定されていた予備選は行われなかった。VA州の現職知事グレン・ヤンキン氏(共和党)も11月に任期を終える。
民主党候補は元連邦下院議員のアビゲール・スパンバーガー氏だ。同氏は、政府効率化省(DOGE)による連邦職員削減や連邦政府予算案に盛り込まれたメディケイドの削減が国民に及ぼす影響を訴える。共和党候補は現副知事のウィンサム・アールシアーズ氏で、過去、下院選挙で激戦を制したスパンバーガー氏に出遅れているともいわれる。2025年第1四半期の選挙資金調達額は、スパンバーガー氏が1,630万ドルで、アールシアーズ氏の560万ドルを大きく上回った。いずれが勝利しても、VA州初の女性州知事となる。
VA州では、DOGEによる連邦政府職員の削減で、2025年に3万2,000人の雇用が失われると予想されている。アールシアーズ氏の雇用削減を軽視する発言に対して、スパンバーガー氏はSNSで、「VA州民は、常にVA州の雇用を擁護する知事を必要としている」と反論した。
現知事のヤンキン氏は4年前の選挙で、トランプ氏との距離を取ることで、無党派層も取り込み当選した経緯があり、アールシアーズ氏の戦略も注目される。
5月の世論調査(注4)では、州知事選挙を想定した設問で、スパンバーガー氏の支持率が43%とアールシアーズ氏(26%)をリードした。
地方選挙で民主党候補が勝利
2025年6月、サウスカロライナ州の州下院議会の特別選挙(注5)で、民主党の24歳のキーシャン・スコット氏(ビショップビル市議会議員)が7割超の得票率で共和党のビル・オデン氏(サムター郡共和党元議長)を破り勝利した。サウスカロライナ州は共和党の勢力が強い州で、州議会の上院、下院とも共和党が多数派となっている中での民主党議員の勝利だった。州知事も共和党のヘンリー・マクマスター氏だ。
共和党が優勢なミシシッピー州でも、6月に行われたジャクソン市長選挙で民主党のジョン・ホーン氏(州上院議員)が7割近い得票率で勝利した。
民主党は、トランプ政権への反発が地方選挙の結果に現れていると捉え、中間選挙に向けてはずみをつけたい意向だ。
リーダー不在の民主党
6月の世論調査(注6)では、民主党の支持率は42%と最低レベルを記録した1月(36%)からやや回復した。しかし、共和党の支持率は47%と5月(52%)から低下したものの、民主党を上回っている。
民主党には、明確なリーダーが存在しないことが指摘されている。バーニー・サンダース・バーモント州知事とアレクサンドリア・オカジオ・コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州)は、労働者階級の有権者の支持獲得を目指して経済問題に重点を置いたメッセージを発信し、トランプ政権を批判する集会を各地で開催している。同世論調査によれば、両氏のような過激な活動をする民主党議員への支持率は45%と、より穏健な民主党議員を支持する割合(55%)を下回り、より穏健なリーダーの登場が期待されているとみられる。
連邦予算案の影響に高まる懸念
連邦議会で審議中の2026年度(2025年10月~2026年9月)予算案(いわゆる「大きく美しい1つの法案」)には、低所得層への補助の削減(2025年5月22日付ビジネス短信参照)が盛り込まれ、減税による財政赤字の悪化も懸念されている(2025年6月6日付ビジネス短信参照)。米国の財政赤字の悪化を見越して、米国の大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズは5月に米国債の格付けを1段階引き下げAa1とした(2025年5月21日付ビジネス短信参照)。
トランプ氏は同予算が7月4日までに成立することを望むという発言もしていたが、6月の世論調査(注7)では同予算案への不支持が過半(51%)になるなど、予算案の見直しを迫られる。予算案の科学研究費削減を問題視する向きもあり、最終的な歳出額の合意は難航し、2025年度末である9月30日までに合意に達しないという見方も出てきた。
選挙情報サイト、リアルクリアポリティクスが発表する各種世論調査のトランプ氏支持率平均値は、4月に低下し5月にいったん上昇したが、6月には再び低下傾向を示し、6月21日時点で46.9%だ。同氏の支持率は今後の予算案を巡る議論の行方に左右される可能性もあり、州知事選への影響も不透明だ。
- 注1:
- 各党において、2025年11月の本選に向けて候補者を選出する予備選挙が事前に実施される。
- 注2:
- 「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」の略称で、トランプ氏の選挙キャンペーンのスローガン。
- 注3:
- USAサーベイの世論調査。実施時期は2025年5月28~30日。対象者は、NJ州の成人785人。
- 注4:
- VA州のロアノーク大学の世論調査。実施時期は2025年5月12~19日。対象者は、VA州の成人658人。
- 注5:
- サウスカロライナ州下院議会の民主党のウィル・ウィーラー議員(第50区)が2025年1月辞任したため、特別選挙が実施された。
- 注6:
- ハーバード大学米国政治研究センターとハリス・インサイト・アンド・アナリティクスの世論調査。実施時期は6月11~12日。対象者は、全米の登録有権者2,097人。
- 注7:
- エコノミストとユーガブの世論調査。実施時期は6月13~16日、対象者は全米の成人1,512人。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ) - 展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。