ムーディーズ・インベスターズが米国債の格付けを1段階引き下げ、今後の減税法案への影響に注目

(米国)

ニューヨーク発

2025年05月21日

米国の大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズは5月16日、米国の長期発行体格付けなどに対して最上位のAaaから1段階引き下げAa1とした。なお、見通しはネガティブから安定的に修正された。今回の格下げの要因として、ムーディーズは「米国政府と議会が、巨額の財政赤字と金利コストの増大という傾向を反転させるための措置について合意に至っていないこと」を挙げており、現在下院で審議中の「大きく美しい1つの法案」において、財政赤字の大幅な削減が見込み難いことがその背景にあるもようだ。

同社は、トランプ減税が延長された場合には、今後10年間で債務が4兆ドル増加し、これに伴って歳出における義務的経費の割合の上昇(2024年の73%から2035年は78%に増加)、GDP比での財政赤字の増大(同6.4%から9%に増加)、GDP比での債務残高の増大(同98%から134%に増加)が見込まれると試算している。

他の大手格付け2社は過去に米国債の格付けを最上位から1段階引き下げており(2023年8月3日記事参照)、今回の格下げによる市場への影響は限定的との見方が多い(アクシオス5月20日付)。一方で、「大きく美しい1つの法案」の審議において、下院共和党内の財政保守派(フリーダム・コーカス)がメディケイド(低所得者層向けの公的医療保険)をはじめとする歳出をさらに削減するよう要請するなど、法案の調整が難航する中での格下げとなったことから、政治的には一定のインパクトを与えることになりそうだ。

下院ではなお、州税に対する税額控除幅(SALT)の拡大などをめぐって調整が続けられているが、今回の格下げにより米国財政の先行きに対して債券市場の注目が集まったことに伴い、今後の法案の議論を進めるにあたり、財政赤字の削減にも一定程度配慮せざるを得なくなる可能性がありそうだ。他方で、上院は下院よりも歳出削減幅はより少なく、減税幅はより大きい法案を望んでおり、下院がさらなる財政赤字の削減に踏み切った場合に、上下院間の調整のハードルは高くなることにもなりそうだ。スコット・ベッセント財務長官は、5月9日に議会に宛てて出した書簡PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の中で、8月には現金および臨時資金が枯渇し、連邦政府の債務上限に達すると述べており、これが法案の事実上のタイムリミットとなる見込みだ。こうした中で、「大きく美しい1つの法案」がどのような内容となるのか、その調整の行方が注目される。

(加藤翔一)

(米国)

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