米議会予算局、「大きく美しい1つの法案」に伴う財政への影響試算を発表

(米国)

ニューヨーク発

2025年06月06日

米国議会予算局(CBO)は6月4日、減税や歳出削減、債務上限引き上げなどをまとめた、いわゆる「大きく美しい1つの法案(OBBB)」について、下院で可決した案(2025年5月23日記事参照)が実施された場合の財政への影響試算を発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。

同試算によると、2025年から2034年の10年間で歳入が約3兆7,000億ドル減少し、歳出が約1兆3,000億ドル削減される結果、財政赤字は2兆4,000億ドル増加するという。これらの額には利払い費やマクロ経済上の変動は加味されていないが、利払い費も含めた場合はこの額は3兆ドルに拡大するという。これに伴い、財政赤字のGDP比は123.8%に達する見込みだ。

この試算により、上院でのOBBBの修正協議に当たり、党内の緊張をさらに高め得るとの見方もなされている(「ウォールストリート・ジャーナル」紙6月4日)。上院共和党内には、メディケイド(低所得層のための医療保険制度)やインフレ削減法(IRA)の税額控除の削減幅の縮小、減税幅の拡大や恒久化を志向する議員がいる一方、下院案よりもさらに踏み込んだ歳出削減を志向する議員も存在しており、このうち数人は現在の下院案のままの場合には、反対票を投じると発言している。CBOの試算はこうした歳出削減強化の主張に一定の根拠を与えるものになり得る。

こうした点を踏まえ、トランプ政権や共和党指導部はさまざまなかたちで、財政赤字の拡大を否定しようと試みている。ドナルド・トランプ大統領は自身のSNSで、「CBOは関税によって、少なくとも2兆8,000億ドルの赤字が削減されると発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。この情報がもっと早く公表されていれば、人々が故意に虚偽を言うことを防げたはずだ」と述べ、関税収入が財政赤字の拡大を相殺するとの考え方を示した。また、キャロライン・リービット報道官らは、CBOの試算自体の信頼性に疑問を投げかけることで結果を否定したい考えだ(政治専門誌「ポリティコ」6月5日)。その他にも、スティーブ・スカリス下院多数党院内総務(共和党、ルイジアナ州)は、減税に伴う潜在成長率上昇の効果を過小評価していると批判している(ABCニュース6月4日)。しかし、これらの主張がどの程度功を奏するかは不明だ。財政赤字の削減や歳出削減幅の縮小などを重視した修正がなされる場合には、減税規模の縮小や富裕層増税をはじめとする新たな財源確保策の検討なども必要になる可能性があり、今後、どのような調整がなされていくのか、全く不透明な状況が続きそうだ。

(加藤翔一)

(米国)

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