トルコにおける中国EVの動向
トルコと中国(2)

2025年10月15日

トルコでの中国の電気自動車(EV)の動向やトルコ現地での報道や有識者の見方をまとめる本連載の前編では、両国の貿易と、トルコへの中国企業の進出動向を概説した。後編となる本稿では、トルコの自動車産業に焦点を当て、中国EVメーカーのトルコへの進出状況とその影響を概説する。

トルコの自動車産業について

2024年のトルコの最大輸出品目は「自動車・同部品」で、全体の12.4%を占めている(2024年トルコの貿易投資年報)。そのうち、EU向けが68.2%を占め、国別では最大がドイツで、フランス、英国が続き、いずれも輸出額は 40 億ドルを超えている(2025年7月10日付地域・分析レポート参照)。トルコはEUとは関税同盟を、欧州自由貿易連合(EFTA)や英国とは自由貿易協定(FTA)を締結しており、自動車産業はこれらを活用した欧州向けの生産・輸出基地として、外資主導で発展してきた経緯がある。トルコの自動車産業の大半はイスタンブール近郊のコジャエリ、ブルサなどの工業地帯に集中しており、輸出港も近いことが特徴となっている。主な自動車メーカーでは、フォード・オトサン(コチ財閥)、トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・ターキー(TMMT)、ヒュンダイ・アッサン(キバル財閥)、ルノー(オヤク財閥)、フィアット(コチ財閥)、アナドル・いすゞ(アナドル財閥)などの主要工場がある。

トルコ自動車市場における中国車の動向

トルコ自動車販売代理店・モビリティー協会(ODMD)によると、2024年にトルコで自動車を販売している中国系メーカーは、外資との合弁企業を含むと12社(注1)となっている。同年の中国系自動車の総販売台数は8万8,287台で、トルコの総自動車販売台数の7.1%を占める。なお、これらは全て輸入車だ(表1参照)。

表1:トルコにおける中国車販売台数(2024年)(単位:台、%)(△はマイナス値、ーは値なし)
ブランド名 2023年 2024年 前年比
(%)
発売開始年 初販売モデル
ブランド(トルコ名) メーカー名 国産 輸入 合計 国産 輸入 合計
BYD 比亜迪 0 839 839 0 8,331 8,331 893.0 2023年 SUV型のEV
CHERY 奇瑞汽車 0 40,590 40,590 0 57,047 57,047 40.5 2008年※2017年撤退、2023年販売再開 ガソリン車※サムスン工場でEV車製造予定の報道あり
DFSK 東風小康汽車 0 11 11 0 1,179 1,179 10,618.2 2023年 ガソリン車、HV、EV
FARIZON 吉利汽車 0 0 5 5 2024年 商用車のEV
HONGQI 中国第一汽車集団 0 19 19 0 15 15 △ 21.1 2023年 ラグジュアリーSUV型のEV
JAECOO 奇瑞汽車 0 0 3,586 3,586 2024年 ガソリン車※2025年よりハイブリッド車販売開始予定
LEAPMOTOR 零跑汽車 0 355 355 0 218 218 △ 38.6 2023年 小型SUVのEV
MAXUS 上汽大通 0 112 112 0 302 302 169.6 2023年 商用車のEV
MG MG(上海汽車傘下) 0 14,458 14,458 0 17,162 17,162 18.7 2021年 SUV型のEV
NETA 合衆新能源汽車 0 0 53 53 2024年※現在販売終了 SUV型のEV
SERES 賽力斯集団 0 289 289 0 1 1 △ 99.7 2022年 SUV型のEV
SKYWELL 開沃新能源汽車 0 2,541 2,541 0 388 388 △ 84.7 2023年 SUV型のEV
合計(中国車) 0 59,214 59,214 0 88,287 88,287 49.1
(参考)全体における中国車の割合 7.4 4.8 9.1 7.1 47.9
(参考)合計(トルコ全体) 433,897 798,738 1,232,635 360,795 966,001 1,238,509 0.5

注:一部メーカーは含まれない〔例:嵐図汽車(Voyah)は2023年トルコでEV販売を開始しているがODMDに登録がない〕。ガソリン車、EVを含む。
出所:ODMDを基にジェトロ作成

トルコのEV市場と中国自動車メーカー

トルコは、最大の輸出市場であるEUにならい近年、EVへかじ取りを行い、2024年のEVとハイブリッド車(HEV)の合計販売台数は全体の約30%まで増加した。2025年にはEVだけで30%を占めると予測する専門家もいる。また、トルコの消費者はモビリティーの新技術への関心が高く、適応も早いことが急成長の背景にあるとの指摘もある。トルコにおける充電ステーションについて、ライセンスを付与するエネルギー市場規制庁(EPDK)によると、国内のEV用充電器は2024年12月時点で2万6,046カ所と前年同月の1万1,812カ所から急増している。

トルコ初の国産EVメーカーであるTOGGは、2023年から販売を開始し、2024年の国内販売実績は約3万台と、国内で最多販売台数をほこるEVメーカーとなっている。トルコからの移民が多く、自動車市場における需要拡大も見込まれるトルコ最大の自動車輸出相手国であるドイツへの輸出を、TOGGは2025年末に開始する予定といわれている。レジェップ・タイップ・エルドアン大統領をはじめトルコの政府高官も各国を訪問する際に、TOGG車の紹介に力を入れている(2025年7月10日付地域・分析レポート参照)。現在、トルコに進出している他の自動車メーカーもEV、HEVの製造や販売に力を入れている。

一方で、トルコではガソリン車に根強い需要があり、EVへの完全移行は難しいとする見方もある。まず、イスタンブールなどの都市部と内陸部の地方では、設置数や普及率に大きな差がある。地方を中心に充電ステーションが十分でないため、現状ではEVが地方や国内の長距離移動には不向きとなっている。また、トルコ人は耐久消費財購入の際に、特にメンテナンスの保証範囲・期間、サービスネットワークにセンシティブだ。高額な車体価格に対して、バッテリー交換など中古販売を見込んだランニングコストが割に合わないとの見方もある。

トルコ政府は2024年、トルコを2030年までにハイテク分野の生産拠点化するため、優先度の高い技術分野に300億ドル相当の補助金を割り当てる「HIT-30プログラム」を発表した。バッテリーとEVの開発、生産、販売にそれぞれ45億ドル、50億ドルの補助金を設け、税制優遇措置や補助金の割り当てなどをおこなっている(2025年7月10日付地域・分析レポート参照)。トルコは、これらのインセンティブを通じ、新たな外資自動車企業、特に中国のEVメーカーの投資を呼び込むことで、トルコの自動車生産・輸出拠点としての位置づけをさらに強化させる狙いがある。

一方、近年、トルコ政府はEVの輸入や販売に関する新たな規制を矢継ぎ早に発表している(表2参照)。2023年11月に、輸入EVのアフターサービス店舗やコールセンターの設置、バッテリーシステムの監視・管理・検査や認定証明書の取得を義務化した。2024年6月には、中国からの輸入自動車に対し、40%の追加関税措置を課した(2024年6月11日付ビジネス短信参照)。ただし、同年7月にはトルコに投資する企業にはこの措置を免除することを発表している〔2024年7月4日官報(トルコ語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(95.7KB)〕。トルコは、慢性的な貿易赤字の解消と国内産業保護などを目的に、中国をはじめ日本を含むFTAなどを締結していない国からの多くの輸入品に対し、追加関税を課している。同年9月には、輸入EV販売に関する規制対象にプラグインハイブリッド車(PHEV)を含めた。2025年1月には自動車向け関税率を50%に引き上げた(2025年1月14日付ビジネス短信参照)。また、同年7月には一部の輸入車やEVに対する特別消費税率を引き上げた(2025年7月31日付ビジネス短信参照)。

なお、トルコは他にも2024年10月には、中国、インド、日本、ロシア産の鉄鋼製品の一部(2024年10月17日付ビジネス短信参照)に、2025年7月には、中国、ロシア、エジプト産の包装用プラスチックフィルムに、アンチダンピング措置を発表している。

こうした一連のEV輸入に関連する規制強化措置は、中国からトルコへの直接投資を間接的に促す一因にもなる。2024年7月、比亜迪(BYD)がエーゲ地方マニサ工業団地に、EV(のちに、PHEVも追加)の生産工場、モビリティー技術開発センターを設立する約10億ドルの投資を発表した。

2025年7月には、SWM(斯威汽車)が中部エスキシェヒルで、中国メーカーとして初めて生産を開始する予定である(2025年5月21日付ビジネス短信参照)。また、現在(2025年9月時点)、奇瑞汽車が黒海地方サムスンの工業団地で生産工場を設立するという報道もある。

中国にとって、トルコに生産拠点の橋頭堡(ほ)を築くことは、すでに進出している外資自動車メーカーと同様に、いくつかの利点がある。例えば、トルコEU関税同盟やEFTAとの枠組みを生かし、欧州市場向けに無税で輸出でき、トルコ国内市場向けにも関税など輸入規制措置を回避して販売できる。また、トルコの地理的優位性を生かし、その他の周辺国への輸出を可能にするという点なども挙げられる。

中国EVメーカーのトルコにおける進出先(候補)

今回、中国EVメーカーの投資先に挙がった3つの地域は、イスタンブール近郊の、自動車産業が集積している中心地ではない。まず、マニサは、エーゲ海最大の都市イズミルの内陸部にあり、車で約1時間の距離に港湾があるなど欧州に近い立地となっている。マニサ工業地域には日系企業の製造拠点もある。次に、エスキシェヒルは、輸出の約33%をハイテク製品が占めているとされ、同地域には航空・防衛関連産業が集積し、家電なども製造されているため、熟練した労働力が確保しやすいという利点があるとされる。また、同地はレアアースの埋蔵地としても知られており、2024年10月、トルコと中国はレアアースおよび鉱業分野での協力に関する覚書(MOU)を締結し、関連の投資が行われている。最後に、黒海沿岸のサムスンは、中国にとって一帯一路の拠点になりうる好立地の1つといわれている。港湾を有していることから、海路はジョージア・ロシア・クリミア・ウクライナ・ルーマニアなど、鉄道ではトルコのアンカラ、シバス、カルスまでつながっている。かつて、同地の最大の輸出入相手国はロシアだったが、ロシアのウクライナ侵攻後は、コーカサス、中央アジア、イラク、イランなどとの輸送上の重要拠点になっている。ロシアとの物流の利便性は、ロシア国内の自動車市場でシェアが大きい奇瑞汽車が、同地を進出先として検討している背景にあるとみられている(2025年6月23日付地域・分析レポート参照)。

表2:トルコ自動車業界におけるトルコ政府と中国企業の主な動向(2023年以降)

2023年(ーは項目なし)
トルコによる輸入車措置 中国自動車関連企業 その他
1月 トルコ・トヨタがHEVおよびPHEVの製造開始を発表
2月
3月 中国からの輸入EVに追加関税40%課税
4月 TOGGとファラシス・エナジー(孚能科技)合弁の自動車バッテリー会社シロ(Siro)が建設開始
5月
6月 スカイウェル汽車とトルコのウルバシュラルは、2024年トルコでEVバッテリー工場設立合意
7月 トルコ海外経済関係評議会(DEIK)、トルコ工業・企業家協会(TUSIAD)は、中国国際貿易促進委員会(CCPIT)と「トルコ・中国ビジネス会議」を開催
EVメーカー嵐図汽車(ただしODMDには登録なし)がトルコでEV販売開始
8月
9月
10月 DFSKがトルコでガソリン、EV 、HEV販売開始
11月 輸入EVに対してアフターサービスなどを要件化する規制を設置 スカイウェル汽車がトルコにEV工場設立の計画に言及
12月
2024年(ーは項目なし)
トルコによる輸入車措置 中国自動車関連企業 その他
1月 シロは中国工商銀行(ICBC)と約5,620万ドルの融資契約を締結
2月 哪吒汽車(NETA)がトルコでEV販売開始
3月
4月 イスタンブールで中国中車株洲電力機車調査研究所の電気メトロバスの試運転開始
5月 ルノーと吉利汽車の合弁ホースが、ハヴァシィにディーゼルエンジンを供給決定 トルコと中国間で「エネルギー転換」協定に署名、トルコでのバッテリー貯蔵工場設立などについて協議
6月 中国からの輸入HEV、PHEV、エンジン車にも追加関税40%(下限7,000ドル)課税
7月 トルコに投資する中国企業に輸入車に対する追加関税の適用を免除 NETA、トルコでの販売を停止
BYDが10億ドルを投資しトルコで生産拠点設立を発表
8月 中国のガンフォン・リチウムがイェト・アキュと合弁で初期投資5億ドルのリチウム電池工場をトルコに設立すると発表
9月 輸入PHEVに対してもアフターサービスなどを要件化する規制を拡大
10月 トルコと中国間でレアアースなどについての協定に署名
11月
12月
2025年(ーは項目なし)
トルコによる輸入車措置 中国自動車関連企業 その他
1月 中国からの輸入HEV、エンジン車の追加関税を50%(下限9,500ドル)へ引き上げ
2月
3月 トルコ大統領は、奇瑞汽車の15億ドル投資のトルコ生産拠点設立を発表(奇瑞汽車は否定) トルコ中銀と中国人民銀行の2国間で、1,890億トルコ・リラ(または350億中国元)の通貨スワップ協定を更新
4月 米国トランプ大統領が、対トルコ相互関税を10%にすると発表
5月
6月 BYD「SEAL U」、2025年のトルコ「カー・オブ・ザ・イヤー」受賞
7月 自動車の特別消費税率が一部輸入車やEVに対しては引き上げ SWMが中国メーカーとして初めて、トルコで生産を開始
8月

注:計画段階の案件も含む。
出所:各種報道を基にジェトロ作成

中国EVメーカー進出に対するトルコでの反応

今後、トルコにとって中国自動車メーカーとの関係では、国内産業保護と外国企業による直接投資促進のバランスを取ることが課題となっていくと見られる。前述のように、中国EVへの高関税措置をとる一方、トルコ国内で生産を約束した企業には関税免除などの優遇措置を認めるなど、トルコ政府は規制強化と投資誘致促進両方の対応をとっている。この優遇措置をトルコ市場でBYDの売り上げが急増した要因とする報道もある(表3参照)。BYDは、欧州事業でEVだけでなくPHEVの提供も開始しているが、トルコのEV、HEV市場が急速に拡大し、同社にとってトルコ市場が欧州市場の中で最も売り上げを伸ばした重要市場と位置付けられているとする報道もある。BYDは新設予定のハンガリー工場を延期させ、人件費がハンガリーに比べて安いトルコでの生産に比重を移すとの計画も報道されている(注2)。

ただし、BYDのトルコへの投資が遅延しているという一部報道もある。また、奇瑞汽車もトルコへの進出を否定しており、投資が見られないという声もある。理由は定かではないが、トルコでの人件費を含む生産費の上昇や米国関税の影響を注視しているものとみられる。また、生産拠点設置にあたりさらなるインセンティブの確保や製造・輸出環境の整備など、両国間での調整に時間を要していることなども背景にあるものとみられている。

こうした中、米国の対トルコ相互関税が2025年8月に15%に引き上げられた(2025年8月6日付ビジネス短信参照)。当初は10%といわれていたが、この引き上げの背景には、トルコに対する貿易措置という観点だけでなく、中国がトルコへの投資計画を明らかにしている中、間接的な中国の経済的影響力を制限する目的もあったという見方もある。

また、トルコ政府主導の国家プロジェクトであるトルコ国産車TOGGにとって、BYDによる年15万台の生産ラインは、国内外市場の双方で脅威となる可能性が指摘されている。一方、 TOGGの事業継続や技術革新には中国系企業を含めた外国企業との協業が必要という意見もある。また、中国EVメーカーが欧州に生産拠点を持った場合、トルコが関税障壁を設けても解決策にならないと述べる有識者もおり、トルコにおける中国EVの動向について引き続き注視が必要だ。

表3:トルコにおける中国車販売台数(2024年8月と2025年8月の比較)(単位:台数、%)(△はマイナス値)
ブランド名 2024年
8月
2025年
8月
伸び率
ブランド(トルコ名) メーカー名(中国名)
BYD 比亜迪 69 2,600 36.7
CHERY 奇瑞汽車 3,643 2,349 △ 0.4
DFSK 東風汽車 103 97 △ 0.1
FARIZON 吉利汽車 1 0 △ 1.0
HONGQI 中国第一汽車 1 3 2.0
JAECOO 奇瑞汽車 621 817 0.3
LEAPMOTOR 零跑汽車 14 13 △ 0.1
MAXUS 上汽大通 2 14 6.0
MG MG(上海汽車傘下) 1,470 89 △ 0.9
SKYWELL スカイウェル汽車 23 23 0.0

注:一部メーカーは含まれない。ガソリン車、EVを含む。
出所:ODMDを基にジェトロ作成


注1:
2024年に撤退した企業も含む、ODMDで登録されていない企業は含まない。
注2:
本稿は2025年9月16日時点での情報をもとに執筆。2025年9月22日には、トルコ政府が自動車輸入の新規制と対米追加関税撤廃を決定した(2025年9月26日付ビジネス短信参照)。

トルコと中国

執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ)
日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。