貿易関係とトルコにおける中国企業の動向
トルコと中国(1)

2025年10月15日

近年、トルコと中国との経済的な結びつきが強まりつつある。両国の関係は、貿易、投資、産業協力といった多方面に広がっており、特に電気自動車(EV)分野では新たな展開が見られる。そこで本連載では、トルコにおける中国EVの動向や今後の展望をまとめる。前編となる本稿ではまず初めに、両国間での貿易と、トルコにおける中国企業の進出動向を概説する。

トルコと中国の関係

近年、世界各地で中国が存在感を増しているが、トルコでも同様に、小米(シャオミ)や華為技術(ファーウェイ)の家電、中国工商銀行(ICBC)の支店など、至るところに中国企業や中国製品が浸透している。トルコの産業技術省が発表した資料によると、2025年6月時点でトルコの中国企業数は1,400社以上とされている。また、トルコで開催される国際見本市でも、中国企業の出展数は多い。

トルコと中国のビジネス関係は、2000年代以降、トルコが西欧諸国以外の国との経済関係の構築を積極的に追求したことや、中国が経済大国になったことなどを背景に、トルコがこれまで主に消費財などを輸入していたが、現在はあらゆる分野で中国と貿易関係の強化を図っている。さらに、2012年の上海協力機構の対話パートナー合意や、2013年に中国が発表した「一帯一路」構想が、戦略的な関係発展を目指す契機となったとする見方もある。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は2015年以降、中国を5回訪問している。また、大臣など両国の高官の間でも、過去2年の往来を見ると、中国側からは外相などに限られる一方、トルコからは産業技術相、外相、エネルギー・天然資源相、国庫・財務相などが訪中するなど、トルコ側からの往訪がより積極的に見られているのが特徴といえる。また、両国の関係構築における課題として、トルコと米国、EU、NATOの外交関係や安全保障における立ち位置という外的要因、トルコにとって中国が最大の貿易赤字国であるという内的要因が絡んでいるといえる。

トルコの対中貿易は赤字

トルコ統計機構(TUIK)によると、2024年のトルコの対中貿易は、輸入額が前年比0.3%減の449億2,800万ドルに対し、輸出額が前年比2.4%増の33億8,800万ドルで、貿易赤字額は415億4,000万ドルに上る(表1参照)。対中貿易赤字額は2022年以降大きく増加しており、2024年はトルコの貿易赤字全体822億3,000万ドル(2024年トルコの貿易投資年報)の半分以上を占めるに至っている。トルコの貿易赤字額が100億ドルを超える国は中国とロシアのみで、トルコにとってエネルギー輸入相手国で、制裁で輸出が制限されているロシアと比較しても対中貿易赤字額は多い(表2参照)。このため、トルコは対中貿易の不均衡解消を大きな課題と位置づけている。

表1:トルコの対中貿易収支(単位:100万ドル、△は貿易赤字)
輸入額 輸出額 貿易収支
2024 44,928 3,388 △ 41,540
2023 45,048 3,306 △ 41,742
2022 41,355 3,281 △ 38,073
2021 32,238 3,663 △ 28,575
2020 23,041 2,866 △ 20,175
2019 19,128 2,726 △ 16,402
2018 21,506 3,079 △ 18,427
2017 23,754 3,038 △ 20,716
2016 24,852 2,379 △ 22,474
2015 25,284 2,501 △ 22,783
2014 25,733 2,971 △ 22,762
2013 25,261 3,756 △ 21,505

出所:トルコ統計機構(TUIK)を基にジェトロ作成

表2:トルコの国別貿易収支(2024年、輸入額上位国順)(単位:100万ドル、△は貿易赤字)
輸入額 輸出額 貿易収支
中国 44,928 3,388 △ 41,540
ロシア 44,018 8,562 △ 35,457
ドイツ 27,084 20,431 △ 6,653
イタリア 19,311 12,947 △ 6,363
米国 16,226 16,351 125
フランス 12,500 10,043 △ 2,456
スイス 11,174 1,585 △ 9,588
スペイン 9,363 9,781 419
韓国 9,246 971 △ 8,274
アラブ首長国連邦 7,363 8,296 932
インド 7,021 1,517 △ 5,504
英国 6,846 15,289 8,443
ポーランド 5,575 6,262 687
オランダ 5,021 8,567 3,546
日本 4,737 717 △ 4,020
マレーシア 4,667 449 △ 4,218
エジプト 4,411 4,176 △ 235
ルーマニア 3,984 7,780 3,795
ベルギー 3,874 4,362 487
ブラジル 3,864 1,008 △ 2,857

出所:トルコ統計機構(TUIK)を基にジェトロ作成

表3:トルコの中国からの輸入上位品目(2024年)(単位:100万ドル、%)
順位 HS
コード
品名 金額 割合
1 85 電気機器およびその部分品ならびに付属品 11,098 24.7
2 84 原子炉、ボイラーおよび機械類ならびにこれらの部分品 9,624 21.4
3 87 鉄道用および軌道用以外の車両ならびにその部分品および付属品 (自動車も含まれる) 3,008 6.7
4 72 鉄鋼 2,967 6.6
5 29 有機化学品 2,313 5.1
6 39 プラスチックおよびその製品 1,811 4.0
7 90 光学、写真用、映画用、測定、検査、精密、医療用機器ならびに部分品および付属品 1,106 2.5
8 73 鉄鋼製品 982 2.2
9 54 人造繊維および人造繊維製品 692 1.5
10 64 履物および類する物品ならびにこれらの部分品 504 1.1
11 48 紙および板紙ならびに製紙用パルプ、紙または板紙の製品 472 1.1
12 32 なめしエキス、染色エキス、染料、顔料その他の着色料、インク 467 1.0
13 38 各種の化学工業生産品 446 1.0
14 95 がん具、遊戯用具および運動用具の部分品および付属品 382 0.9
15 96 雑品 343 0.8
16 76 アルミニウムおよびその製品 338 0.8
17 94 家具、寝具、マットレス、照明器具、プレハブ建築物など 316 0.7
18 70 ガラスおよびその製品 314 0.7
19 62 衣類および衣類付属品 303 0.7
20 55 人造繊維の短繊維およびその織物 280 0.6

出所:トルコ統計機構(TUIK)を基にジェトロ作成

表4:中国への輸出上位品目(2024年) (単位:100万ドル、%)
順位 HS
コード
品名 金額 割合
1 26 鉱石、スラグおよび灰 1,174 34.7
2 25 塩、硫黄、土石類、プラスター、石灰およびセメント 538 15.9
3 28 無機化学品、貴金属、希土類金属、放射性元素または同位元素の無機・有機の化合物 439 13.0
4 84 原子炉、ボイラーおよび機械類ならびにこれらの部分品 116 3.4
5 75 ニッケルおよびその製品 111 3.3
6 52 綿および綿織物 99 2.9
7 20 野菜、果実、ナットその他植物の部分の調製品 73 2.2
8 8 食用の果実およびナット、かんきつ類の果皮 63 1.9
9 90 光学、写真用、映画用、測定、検査、精密、医療用機器ならびに部分品および付属品 50 1.5
10 27 鉱物性燃料および鉱物油ならびにこれらの蒸留物、歴青物質ならびに鉱物性ろう 45 1.3
11 32 なめしエキス、染色エキス、染料、顔料その他の着色料、インク 37 1.1
12 19 穀物、穀粉、でん粉またはミルクの調製品およびベーカリー製品 35 1.0
13 74 銅およびその製品 34 1.0
14 40 ゴムおよびその製品 28 0.8
15 85 電気機器およびその部分品ならびに付属品 27 0.8
16 61 衣類および衣類付属品 27 0.8
17 73 鉄鋼製品 23 0.7
18 39 プラスチックおよびその製品 23 0.7
19 62 衣類および衣類付属品 18 0.5
20 55 人造繊維の短繊維およびその織物 16 0.5

出所:トルコ統計機構(TUIK)を基にジェトロ作成

また、TUIKによると、2024年のトルコの中国からの輸入上位品目は、電気機器およびその部分品が110億9,800万ドルで、全体の24.7%を占め最多。原子炉、ボイラー、機械類・同部品が96億2,400万ドル(21.4%)、車両ならびに部分品が30億800万ドル(6.7%)と続いた(表3参照)。同年のトルコから中国への輸出上位品目は、鉱石が11億7,400万ドルで、全体の34.7%を占め最多。塩や硫黄、セメントなどが5億3,800万ドル(15.9%)、貴金属・希土類金属など(13.0%)が4億3,900万ドルで続いた(表4参照)。

トルコにおける中国企業の動向

2000年から2024年までの中国の対トルコ直接投資額は12億2,900万ドルで、2024年の受け入れ投資額だけでみると、中国はトルコにとって0.7%を占める投資元である(図参照)。中国のトルコ向け投資大型案件では、2015年のICBCのトルコのテクスティルバンク7億9,843万リラ(2億9,571万ドル、1リラ=約0.37ドル、当時のレートで換算)の買収による進出を皮切りに、中国の中遠太平洋(コスコ・パシフィック)のイスタンブールのアンバルリ港クムポートの買収(2015年、9億4,000万ドル)、上海電力によるトルコ南部アダナのフヌトゥル火力発電所(同年、17億ドル)建設などの案件がある。ほかにも、大連金馬硼素科技集団によるトルコ中部エスキシェヒルの炭化ホウ素生産工場建設(2019年、8,000万ドル)、アリババによる2018年以降のトルコ大手EC(電子商取引)トレンドヨル(Trendyol)への追加投資(2023年までの累計額14億ドルとの報道)などがある。直近では2024年2月、中国のハルビン電気国際工程(ハルビン・エレクトリック・インターナショナル)がトルコのプログレスィヴァと、1ギガワット容量のエネルギー貯蔵施設と250メガワット容量の風力発電所の建設に係る3億ドルの投資に合意した。2025年に入ってからは、鉄鋼企業ヨンジン・テクノロジー・グループ(甬金科技集団)がトルコに2億5,700万ドル投資し、ステンレス鋼の生産工場を設立する報道も見られた。また、トルコ政府が力を入れている原子力発電の分野では、2026年稼働を目標に建設中のトルコ南部地中海地域のアックユ原子力発電所に関連し、当初予定されていたシーメンス社の機器の代替として中国からの機器の採用のほか、新たな原発プロジェクトについても中国が関心を示しているとされている。その他、ICBCをはじめ中国系の銀行によるトルコへの融資も近年急増しており、融資案件も多岐の分野にわたる。

図:トルコと中国の直接投資額の推移
2024年の中国からトルコへの投資額が4,700万ドル、トルコから中国への投資額は2,800万ドルであった。2000年以降では、2015年に中国からトルコへの投資額が4億5,000万ドルで最多であった。

出所:トルコ中央銀行を基にジェトロ作成

トルコと中国

シリーズの次の記事も読む

(2)トルコにおける中国EVの動向

執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ)
日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。