中国ブランド車が拡大、中古は日本車のシェア低下(ロシア)
2024年の自動車生産・販売動向

2025年6月23日

ロシアでは、撤退した外国企業の旧工場を再稼働させ、ロシア国産車を生産する動きがみられる。中国企業も西側企業の旧工場を使用し始めており、自動車の生産と販売が勢いづいている。中古車販売では依然として西側ブランド車が多く買われているが、日本車のシェアはロシアによるウクライナ侵攻以前と比べて落ち込み始めている。また、リサイクル税(廃車税)の負担が年々増加しており、輸入が主な西側ブランドは、販売台数の低下が見込まれる。

乗用車生産台数は前年比45%増、侵攻前の6割弱

2024年のロシアの乗用車生産台数は前年比45.0%増の74万7,316台となった(図1)。ウクライナ侵攻前の2021年の55.4%にとどまった。

図1:ロシアの乗用車生産台数
2018年1,554,580台、2019年1,512,754台、2020年1,248,790台、2021年1,349,743台、2022年427,047台、2023年515,435台、2024年747,316台。

出所:アフトスタト「ロシアの自動車市場 - 2023」、「ロシアの自動車市場 - 2024」のデータを基にジェトロ作成

生産の増加要因は、撤退した西側企業からロシア企業が買い取った自動車製造工場を稼働させたことや、中国企業が現地での生産を進めたことだ。2024年に稼働した生産工場を見ると、ロシアの自動車メーカーAGRオートモーティブグループが3月11日、現代自動車の旧サンクトペテルブルク工場である「自動車工場AGR」から新ブランド「ソラリス」の出荷を開始した。ロシアの乗用車最大手アフトワズも同月、サンクトペテルブルクにある日産自動車の旧工場で生産する新ブランドXcite X-Cross 7を発表した(「ベドモスチ」3月13日)。アフトトルは2024年に70億ルーブル(約126億円、約1ルーブル=約1.8円)以上を投資し、電気自動車(EV)アンバーオートなどの生産に着手した(「アフトスタト」2024年8月28日、2025年2月18日)。中国のチェリーは2024年10月に日産、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツの撤退した工場で自動車の組み立てを開始した(「ロイター」2024年10月10日)(表1)。

表1:2021年(ウクライナ侵攻前)と2024年の乗用車生産台数の上位10社と合計の比較

2021年(ウクライナ侵攻前) (単位:台)
順位 社名 台数
1 アフトワズ 260,034
2 現代自動車 234,150
3 アフトトル 175,785
4 ラーダ(イジェフスク) 125,658
5 フォルクスワーゲン 120,640
6 ルノー 92,955
7 トヨタ自動車 80,813
8 日産自動車 53,744
9 ガズ 52,282
10 ハバルモータールス 39,663
合計 1,349,743
2024年 (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 社名 台数 前年比増減
1 アフトワズ 463,763 36.7
2 ハバルモータールス 131,173 36.6
3 アフトトル 29,656 6.2
4 マズ・モスクビッチ 23,874 3.9倍
5 自動車工場AGR(旧現代) 21,967 2,476倍
6 自動車工場サンクトペテルブルク(旧日産) 19,418 35.7倍
7 ウアズ 15,381 △ 13.5
8 AGK(旧フォルクスワーゲン) 12,453 78.8倍
9 チェリー自動車ルス 10,287 全増
10 ラーダ・スポルト 12,453 3.0倍
合計 747,621 45.0

注:2024年の表は、ロシア、カザフスタン、ベラルーシの生産台数が合算された表から、ベラルーシ製のベルジーの製造台数を除いた。合計値はロシア国内の生産台数を用いて作成した。

出所:アフトスタト「ロシアの自動車生産 - 2023」、「ロシアの自動車生産 - 2024」のデータを基にジェトロ作成

自動車市場調査会社アフトスタトは、2025年の乗用車生産の見通しを前年比8~19%増とした。理由として、政府による現地生産をしている自動車メーカーに対する支援や、メーカーが2024年と同程度、または拡大の生産計画を発表していることを挙げた。他方で、米国やEUをはじめとする各国のロシアに対する制裁圧力の継続と、ロシアの友好国や中立国に対する2次制裁のリスクを指摘した。

地場企業のトラック生産が増加

小型商用車(LCV)を含むトラック部門では、2024年は前年比14.5%増の20万4,146台で、ウクライナ侵攻以前の2021年の19万1,000台を上回った(図2)。

図2:ロシアのトラック(LCVを含む)生産台数
2018年165,899台、2019年166,200台、2020年153,357台、2021年191,007台、2022年154,054台、2023年170,568台、2024年204,146台。

注:2021年以前の数値は、トラックとLCVの合算値だったため、2022~2024年の数値はLCVとトラックを合算して作成した。
出所:アフトスタト「ロシアの自動車生産 - 2023」、「ロシアの自動車生産 - 2024」のデータを基にジェトロ作成

国家プロジェクトによる自動車産業への支援に加え、トラックの軍事需要の増加、LCVは国内の小売業の拡大を背景に、侵攻以前から生産台数の上位を占めていたロシア地場ブランドが首位を占めた(表2、3)。

表2:2024年のトラック生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 社名 2022年 2023年 2024年 伸び率
1 カマズ 12,900 13,104 10,067 △ 23.2
2 TTMツェントル 1,764 2,992 6,076 103.1
3 自動車機械工場 1,563 2,606 4,340 66.5
4 ナズ(自動車工場「ガズ」) 1,757 2,307 3,137 36.0
5 ルイドル 1,904 2,353 2,819 19.8
合計 62,289 63,368 74,736 17.9

注:合計はロシアの生産台数。個社ごとの数値にはベラルーシ製、カザフスタン製が一部含まれる可能性がある。
出所:アフトスタト「ロシアの自動車生産 - 2024」のデータを基にジェトロ作成

表3:2024年のLCV生産台数(単位:台、%)
順位 社名 2022年 2023年 2024年 伸び率
1 ナズ 37,669 44,455 50,804 14.3
2 ウアズ 20,079 20,428 20,458 0.1
3 ソレルス 4,448 11,058 11,510 4.1
4 ルイドル 6,457 8,000 9,445 18.1
5 アフトマシ 3,029 5,544 7,532 35.9
合計 91,774 107,200 129,410 20.7

注:合計はロシアの生産台数だが、個社毎の数値はベラルーシ製、カザフスタン製が一部含まれる可能性がある。
出所:アフトスタト「ロシアの自動車生産 - 2024」のデータを基にジェトロ作成

乗用車新車販売、ロシアと中国ブランド車が上位を占める

2024年の乗用車新車販売台数は前年比48.4%増の157万1,272台だった。ロシアと中国ブランド車の販売台数の伸びが増加に寄与したが、ウクライナ侵攻以前の水準には達しなかった。ブランド別の首位は地場のラーダ(アフトワズ)で、43万6,155台だった(前年比34.4%増)。前年同様、新車販売台数の2位以下は中国勢が占めた(表4)。

表4:2024年の乗用車新車販売台数(ブランド別) (単位:台、%) (△はマイナス値)
順位 国名 ブランド名 台数 前年比増減
1 ロシア ラーダ 436,155 34.4
2 中国 ハバル 190,624 70.6
3 中国 チェリー 157,040 32.0
4 中国 ジーリー 149,118 59.4
5 中国 チャンガン 106,105 2.2倍
6 中国 オモダ 49,533 18.0
7 中国 エクシード 40,878 △ 3.0
8 中国 ジェツアー 35,095 3.9倍
9 ベラルーシ/中国 ベルジー 34,637 29.7倍
10 中国 タンク 28,488 2.2倍
合計 1,571,272 48.4

出所:アフトスタト「ロシアの乗用車新車市場 - 2024」のデータを基にジェトロ作成

西側ブランド車は、トヨタ(2万775台、前年比10.9%減)、韓国の起亜(1万6,798台、前年比50.0%減)、現代(1万4,749台、前年比40.2%減)、BMW(1万1,781台、前年比28.9%増)、メルセデス・ベンツ(6,994台、同2.1%増)だった。ロシアの自動車販売店のサイトでは、非友好国(注)の制裁対象となっている新車が販売されている。現地の報道によると、2022年以降もロシアの輸入業者が並行輸入で新車の西側ブランド車を輸入し続けている(「オートニュース」2025年1月23日)。欧州製の自動車は制裁導入以降も東欧などを経由してロシアに輸入されていた(「 Auto.ru 」2024年7月1日)。

乗用車輸入、中古車は西側が人気、日本車のシェアは減少

アフトスタトのセルゲイ・ウダロフ常務取締役によると、2024年の乗用車輸入台数は新車、中古車を合わせて合計131万9,400台だった。新車の輸入台数は前年比31%増の92万4,600台で、中国が84.5%を占めた。中古車は前年比2%増の39万4,800台が輸入された。上位5ブランドを見ると、最も輸入された中古車はトヨタでシェア23.4%、次いでホンダ17.7%、BMW7.8%、起亜5.7%、日産5.1%だった。国別では、上から日本57.2%、韓国14.1%、ベラルーシ11.6%だった。その他の国のシェアは10%未満だった(「アフトスタト」2025年2月13日)。

中古車販売台数の上位10ブランドは、ラーダがトップで、19.2%増の149万9,213台(前年比19.2%増)だった。日本勢はトヨタ61万9,546台(7.6%減)、日産28万2,667台(同4.8%減)と減少した。韓国は販売台数を増やし、起亜34万9,518台(前年比9.6%増)、現代33万2,167台(5.4%増)だった(表5)。

表5:2024年の中古車販売台数(ブランド別) (単位:台、%) (△はマイナス値)
順位 国名 ブランド名 台数 前年比増減(%)
1 ロシア ラーダ 1,499,213 19.2
2 日本 トヨタ 619,546 △ 7.6
3 韓国 起亜 349,518 9.6
4 韓国 現代 332,167 5.4
5 日本 日産 282,667 △ 4.8
6 ドイツ フォルクスワーゲン 252,562 1.4
7 米国 シボレー 219,432 2.7
8 フランス ルノー 209,921 6.2
9 日本 ホンダ 194,710 △ 0.2
10 米国 フォード 184,845 △ 7.2
合計 6,036,636 6.0

出所:アフトスタト(2025年1月21日)のデータを基にジェトロ作成

アフトスタトのセルゲイ・ツェリコフ社長によると、2022年以降、外国メーカーによる公式な新車供給が停止されたため、左ハンドルの中古車の需要が高まっているという(「イズベスチヤ」3月13日)。

中古車の輸入に占める日本車のシェアは制裁前と比べて減少した。ツェリコフ社長は5月8日、日本車は2022年まで中古車輸入全体の85%以上を占めていたが、2023~2024年には55~57%に減少したと自身のSNSで説明した。2025年1~4月に10万5,000台の中古車が輸入されたが、日本車は5万3,900台でシェアは51.3%だった。韓国車のシェアは2023~2025年はそれぞれ7.3%、14.1%、22%だった。中国車もシェアを伸ばしており、2024年は6%、2025年は12.5%だった。

日本の財務省貿易統計によると、2024年の日本の対ロシア中古乗用車輸出は前年比6.3%減の19万9,085台だった(図3参照)。

図3:日本からロシアへの中古乗用車輸出台数
2023年1月14187台、2024年1月9510台、前年同月比-33.0%、2023年2月14985台、2024年2月14317台、前年同月比-4.5%、2023年3月19697台、2024年3月16685台、前年同月比-15.3%、2023年4月20214台、2024年4月20052台、前年同月比-0.8%、2023年5月22533台、2024年5月17605台、前年同月比-21.9%、2023年6月27693台、2024年6月17798台、前年同月比-35.7%、2023年7月32116台、2024年7月21086台、前年同月比-34.3%、2023年8月12062台、2024年8月15153台、前年同月比25.6%、2023年9月9396台、2024年9月21799台、前年同月比132.0%、2023年10月12702台、2024年10月18525台、前年同月比45.8%、2023年11月13745台、2024年11月14750台、前年同月比7.3%、2023年12月13168台、2024年12月11805台、前年同月比-10.4%。

出所:財務省貿易統計のデータを基にジェトロ作成

トラック市場も中国車のシェア拡大

トラックの販売台数は、中型車2万1,965台(前年比22.2%増)、大型車10万2,041台(18.8%減)だった(図4)。中型車ではロシアのガズ7,402台(7.5%増)、カマズ5,520台(7.5%)だった。中国車の販売も増えており、江淮汽車(JAC)が3,659台(前年比49.9%増)、フォトン1,697台(同2.2倍)だった。大型車では中国企業が初めて地場企業の販売台数を上回った。トップは中国重汽集団のシトラックで1万9,411台(前年比18.5%減)、次いでロシア最大のトラックメーカーのカマズ1万7,254台(前年比33.1%減)だった。

図4:トラック販売台数の推移
2019年中型19,359台、大型61,286台、2020年中型17,525台、大型57,253台、2021年中型21,646台、大型78,023台、2022年中型14,900台、大型69,167台、2023年中型17,968台、大型125,673台、2024年中型21,965台、大型102,041台。

出所:アフトスタト「ロシアの商用車市場 - 2024」のデータを基にジェトロ作成

中国勢がトラック市場で地場企業を圧倒している面が見られ、民間の市場では中国製が3分の2以上を占めた。カマズは2024年の決算で、防衛産業への大型トラックの納品を増やした一方、中国車との価格競争などの影響による売り上げの減少、制裁圧力や融資コストの上昇により、利益は7億3,100万ルーブル(前年比96.4%減)だったと報告した。(「モスクワ・タイムズ」2025年4月2日)。

リサイクル税引き上げが輸入車に逆風か

ロシアでは自動車のリサイクル税(廃車税)が2014年から導入された。この税は国内で製造または輸入される自動車が対象で、環境保護と廃車処理費用の確保を目的としている。国内で生産された自動車であれば初回登録時に生産者が、輸入車であれば通関時に輸入者が支払う必要がある一度限りの税金だ。エンジン容量が3リットル未満などの条件付きで、個人による輸入や利用ならば、負担が大幅に軽減される。

2023年8月1日から物価に連動する制度が導入され、2024年10月1日にも税率が引き上げられた。今後も毎年1月に税率が引き上げられていく予定だ(表6)。アフトスタトによると、乗用車市場は2024年10月1日の税率引き上げの影響を受けた。増税分が販売価格に転嫁されたと思われる11月以降は乗用車新車の販売台数が減少した(図5)。

表6:新車乗用車のリサイクル税とその見通し

係数(2024年10月1日時点)
エンジン容量
(リットル)
2024年
9月末まで
2024年
10月1日以降
1未満 4.06 7.51
1–2未満 15.3 27.81
2–3未満 42.24 78.14
3–3.5未満 48.5 89.73
3.5以上 61.76 114.26
廃車税(単位:ルーブル)
エンジン容量(リットル) 2024年
9月末迄
2024年
10月1日
2025年 2026年 2027年 2028年 2029年 2030年
1未満 81,200 150,200 180,200 216,400 238,000 261,800 288,000 316,800
1–2未満 300,600 556,200 667,400 800,800 880,800 969,000 1,065,800 1,172,400
2–3未満 844,800 1,562,800 1,875,400 2,250,600 2,475,600 2,723,200 2,995,400 3,295,000
3–3.5未満 970,000 1,794,600 2,153,400 2,584,000 2,842,400 3,126,800 3,439,400 3,783,400
3.5以上 1,235,200 2,285,200 2,742,200 3,290,600 3,619,600 3,981,600 4,379,800 4,817,800

注1:廃車税は基本税額2万ルーブルに係数をかけて算出される。
注2:廃車税は係数の変更により変わるため、2026年以降は現時点の見通し。
注3:製造から3年以上経過した中古乗用車の場合は係数が異なる。
出所:2013年12月26日付ロシア政府決定第1291号(2024年12月27日に改正)と各種報道からジェトロ作成

図5:新車乗用車販売台数 推移
2023年1月45.2千台、2024年1月80千台、2023年2月56.2千台、2024年2月104千台、2023年3月70千台、2024年3月146千台、2023年4月75.7千台、2024年4月137千台、2023年5月72.2千台、2024年5月127千台、2023年6月82.4千台、2024年6月124千台、2023年7月95.7千台、2024年7月136千台、2023年8月109.8千台、2024年8月148千台、2023年9月110.4千台、2024年9月150千台、2023年10月112.3千台、2024年10月171千台、2023年11月109.7千台、2024年11月121千台、2023年12月119.5千台、2024年12月123千台。

出所:財務省貿易統計のデータを基にジェトロ作成

廃車税には、国産車の生産や販売促進の支援と、外資企業の生産拠点をロシア国内に誘致する狙いがある。アフトスタトによると、政府は2025年連邦予算で、現地生産者に対する生産の補助金8,189億ルーブルを計上している。国内の自動車製造・組立工場は、政府から廃車税の補填(ほてん)として補助金を受けるため、ロシア製自動車や国内で組み立てられているハバル、チェリー、チャンガンなどの中国ブランド車の大幅な値上げは予想されていない(「アルファ・ストラホバニエ」2024年11月13日)。アフトワズのマクシム・ソコロフ最高経営責任者(CEO)は、廃車税の値上げは中国車メーカーの現地生産化を促進するとの見方を述べた。ロシア地場大手自動車ディーラーのアフトドムのアンドレイ・オルホフスキー社長も、廃車税により国内で生産される自動車の価格が大幅に上昇する心配はないと指摘する(「Auto.ru」2024年9月18日)。

輸入される自動車の価格が廃車税の負担によって上昇し、今後の販売台数に影響を及ぼす可能性がある。


注:
欧米諸国や日本など、ロシア政府やロシアの個人、法人に対して非友好的行為を行う国・地域。連邦政府指示第430-r号(2022年3月5日付)で規定し、その後数度にわたって改定(追加)している。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課ロシアCIS班 リサーチ・マネージャー
小野塚 信(おのづか まこと)
2021年、民間企業勤務を経て、ジェトロ入構。