リアルの体験を商品理解と眠りの深化に
D2C企業の戦略から読むインド市場(5)

2023年3月16日

インドのD2C企業がどのように現地トレンドやニーズに商機を見いだし、どのような戦略でアプローチしているのかを追う。連載の最後は、ザ・スリープカンパニー(The Sleep Company外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。共同創業者のハシル・サロット氏に聞いた(実施日:2月8日)。

同社は健康や睡眠の質向上のニーズに着目し、高機能性寝具を取り扱うD2Cブランドだ。オンライン販売に加え、自社店舗も擁する。自社店舗を設けたのは、単に販売拠点にするためだけでない。顧客に商品理解を高めてもらうためのコンタクトポイントにするという狙いも込めてのことだ。同社が当該店舗を「エクスペリエンス(体験)センター」と呼ぶのは、そのためだ。


左側がザ・スリープカンパニー共同創業者ハシル・サロット氏(本人提供)
質問:
事業領域を取り巻くトレンドやニーズは。
答え:
特に健康関連品に対しては、原料や商品特性などが考慮されるようになったと感じている。その上で、「何を買うか」という消費者の関心が高まってきたというのが、トレンドだ。その対象は、パーソナルケアや食品、弊社が扱うマットレスなど、健康に関するあらゆる商品に及ぶ。
また、近年、デジタルコンテンツの進化にあわせ、オムニチャンネル化(販路の複線化)が急速に進んでいる。さらに、傾向として、ティア2都市、ティア3都市(注1)で消費者のブランド意識が今までになく高まってきていると感じている。

同社の代表的な商品、スマートリクライニングベッドとフレーム(同社ウェブサイトより)
質問:
ターゲットとしているセグメントや販売戦略は。
答え:
ミレニアル世代、特に結婚や転居、住居購入など、人生の節目を迎えるタイミングの人々がターゲットになる。弊社は、デジタル・ファースト・ブランド。またマットレスは、明確な購入意思を持って購入される。そうしたことから、様々なデジタルマーケティングプラットフォームから顧客へリーチできるよう、工夫している。グーグル検索でのSEO対策も、その一環だ。また、テック系やライフスタイル系のインフルエンサーを起用して、商品を開梱しながらレビューしてゆく動画を数多く作成。YouTubeでも公開している。
また、商品特性を理解してもらった上で購入してもらうためには、消費者側でも知識が必要だ。そのため、ウェブサイトで弊社の技術を理解してもらうコンテンツ作成やレビューの公開もしている。
顧客へのリーチを拡大するため、自社ウェブサイトのほか、様々なプラットフォームを積極的に活用している。例えば、(1)アマゾン、(2)ペッパーフライ〔Pepperfry、家具類に特化した電子商取引(EC)サイト〕などだ。(1)は膨大な数のアクセス数があり、(2)はターゲット層がマッチしている。
同時に、オフライン店舗で顧客が実際に製品を見て触れることも、非常に重要だ。マットレスを自分の目で見て買いたい顧客のために、現在7都市に11店舗(エクスペリエンスセンター)を開設している。今後は25都市で、さらに25店舗広げる計画だ。
質問:
販売上の工夫や差別化の工夫、課題は。
答え:
他社との差別化という点では、やはり商品の質が重要。弊社の商品には、特許を取得した技術を使用している。その結果、価格が他社より高めになっている。この点が弊社ブランドの商品の一番のセールスポイントだ。同時に、課題にもなっている。また、顧客のニーズに対応するため、商品のバリエーションを意識している。
また、顧客に購入してもらうには、弊社の商品の質を理解してもらう必要がある。弊社の技術を理解してもらうには知識が必要になる。そのための情報を伝え、受け入れてもらうことが、一番の課題かもしれない。エクスペリエンスセンターは、顧客に弊社の商品がどのようなものか知ってもらうという役割も担っている。
質問:
今後の見通しは。また、海外への事業展開や連携・調達は考えているか。
答え:
海外展開としては、半年前に、アマゾンを通じて日本での販売を始めたのが皮切りだ。また、英国での販売もちょうど開始したところ。既に述べたとおり、インドでは店舗をさらに開いていく。国内では、プレゼンスを高めることに尽力していきたい。しばらくは、これらインド・日本・英国の3カ国に注力する考えだ。
海外企業との連携については、日本での展開時にパートナーとなれる企業があると、ありがたい。例えば、家具店やマットレスブランドなどと連携ができると良い。しかし、どのような形にせよ、良い話があればオープンに考えている。

現地D2C企業事例からインド市場開拓の糸口を

これまで、4社の個別聴取結果を踏まえ、インドのD2C企業の戦略と課題を垣間見てきた。そのいずれでも、消費環境の変化やトレンドを読み取ることができる。その上で、各社とも(1)デジタルマーケティングの活用、(2)現地化(インド製造によるコスト低減も含む)、(3)複数の販売チャネルの活用など、戦略を組み合わせている。

こうした事例がインド市場展開のための情報収集の一助となれば幸いだ(注2)。

調査協力:グローバル・ジャパン・コンサルティング


注1:
インドでは、人口が400万人以上の大都市が「ティア(tier)1都市」とされる。100万~400万人の中規模都市が「ティア2都市」、50万~100万人規模が「ティア3都市」だ。
注2:
ジェトロでは、(1)進出や市場情報調査時のサポートとして、「中小企業海外展開現地支援プラットフォーム」、(2)海外バイヤーとのマッチングを期して、「Japan Street」、(3)そのほか海外企業との協業・連携を通じた新規事業創出の支援では「J-Bridge」など、多様なサービスを実施している。ご関心に応じて、ぜひご活用を。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
酒井 惇史(さかい あつし)
2013年、ジェトロ入構。展示事業部、ものづくり産業部、ジェトロ京都、デジタル貿易・新産業部を経て、2020年12月から現職。