女性向けヘルスケア
D2C企業の戦略から読むインド市場(3)

2023年3月15日

インドのD2C企業がどのように現地トレンドやニーズに商機を見いだし、どのような戦略でアプローチしているのかを追う連載。今回は、ガイノベダ(Gynoveda外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )の共同創業者、ラチャナ・グプタ氏へのインタビュー結果を紹介する(実施日:2月9日)。

同社は、アーユルベーダ(Ayurveda、インド発の伝統医療)の考え方に基づき、女性向けヘルスケア商品を展開している。ブランド名は、「女性の」を意味するガイノ(Gyno)とアーユルベーダを組み合わせて作った。伝統医療を取り入れたフェムテック(注)企業であることは、ここからも知れる。インドでアーユルベーダは、人々の生活に根付いている。この点、日本や東アジアにおける漢方の位置付けにも近いところがある。同ブランド以外にも、アーユルベーダの要素を取り入れた富裕層向けブランドが多く存在している。

インタビューでは、トレンドや顧客対応(customer engagement)の高度化などを中心に聞いた。


左側が、ガイノベダの共同創業者、ラチャナ・グプタ氏(本人提供)
質問:
事業環境を取り巻くトレンド・ニーズは。
答え:
近年、消費者像が大きく変化した。
トレンドとしては、より高い透明性や、信頼できるブランドが求められるようになったと感じている。消費者はより賢くなり、どのように、どんな原料で製造されているかを確認して、良い商品だと思った場合にだけ購入するようになった。我々は、消費者に常に誠実であることが非常に重要と感じている。そのため、消費者のニーズに対して必要なものを届けるという方針を持っている。
特に、新型コロナ禍はデジタルコンテンツの位置付けを大きく変えた。過去、オンラインコンテンツは、あくまで単なる情報収集のためのものに過ぎなかった。しかし、コロナ禍でデジタルコンテンツを消費する時間が大きく伸びた。弊社がカバーする分野では、かつてなら良い産婦人科医の診察を受けなければ正確かつ必要な情報や物を入手できなかった。しかし今は、オンラインでも良い情報を入手できるようになった。
また、所得が高いほどオンラインプラットフォームを使い慣れている傾向がある。(高所得層では)オンライン取引に対する心理的抵抗が低いことが分かっている。

痛み止めやアーユルベーダオイルなどの代表的な商品(ガイノベダのウェブサイトからジェトロ作成)
質問:
ターゲットにしているセグメントや、販売戦略は。
答え:
弊社は「アーユルベーダ・フェムテック」の会社だ。事業目的は、女性の健康という非常に基本的なニーズの充足ということになる。特に、月経や妊娠・出産に関する問題解決を図るのが主なので、対象セグメントは思春期から閉経期までの女性。大きくくくると、インド人女性6億人になる。実績として、顧客の85%が20~35 歳の女性、15%が35 歳以上の女性だ。地域別には、60%が都市圏、40%が非都市圏だ。特にインドでは、女性が家族のケアの役割を担うことが多い。自分のことはおろそかになりがちだ。ある調査によると、インドでは女性の5人に1人が多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に罹患(りかん)している。特に20~35歳の年代に多く、様々な合併症やメンタルヘルスへの悪影響になっているという。これまで一般的には、ピルやホルモン剤など副作用の多い対症療法が用いられてきた。換言すると、有効な代替療法としてアーユルベーダが存在していたにもかかわらず、顧客ニーズに合う形で提供されてこなかった。
我々の販売戦略の根幹にあるのは、我々の商品が効果的で本当に良いものであることだ。そのうえで、顧客へのリーチを高めるため、グーグルのSEO対策(検索結果最適化)を進めている。また、当社ウェブサイトだけでなく、「アマゾン」「フリップカート」「ナイカ」などのプラットフォームや、オンライン薬局でも購入可能にした。なお、当社ウェブサイトでは、人工知能(AI)を使ったシステムを構築。顧客が簡単に正しい解決策にたどり着けるようにしている。
さらに、顧客に必要な情報を知ってもらうため、デジタルコンテンツも重要だ。具体的には、YouTubeやインスタグラムで、どのように弊社の商品を使い問題を解決できるかや、一般的な食事や健康的な習慣について、動画や情報を発信している。アーユルベーダは自然のものなので、効果を得るために6~12カ月続ける必要がある。そのためには、正しい情報を知ってもらうことが大切だ。
弊社商品の性質から、顧客対応は非常に重要だ。医師による診療サービスのほか、顧客にとってアクセスしやすい状態にするため、メール、チャット、ワッツアップ、電話でカスタマーサービスを実施している。特にインド非都市圏の女性は、電話での会話を好む傾向にある。こちらからも、既存顧客に対し、メールやワッツアップでの定期的なフォローアップやリマインドを欠かさないようにしている。
質問:
販売上の工夫や差別化の工夫は。
答え:
弊社のユニークな取り組みとして、7万5,000人の女性が参加するフェイスブックグループを運営している。特に生殖に関する保健・衛生(reproductive health)については、他人に話すことをためらう女性も多い。そのため、健康関連の話題やうれしかったこと・悩みなどを全ての女性が安心して共有でき、心理的なサポートを得られる空間をつくることは、私の情熱にかなう。また、これは販売戦略にもなっている。顧客との関係はとても個人的なもので、弊社の商品を使って不妊を克服した顧客が子供の写真を送ってくれた時は、私達も涙を流して喜んだ。
弊社の商品は、正統なアーユルベーダに基づいて製造されている。正統性を保ちつつ、現代の女性のためにパッケージや入手方法だけを現代化している。こうした商品は、(意外と)これまでになかった。特に品質には、非常に気を配っている。毒性試験、成分、製造方法、全製造工程上の品質管理などを含めて、だ。
特に妊娠を望む女性には、解決策だけでなく、心理的・精神的なサポートが必要だ。そのような女性のため、ガイダンスやカウンセリング、前述したコミュニティを提供している。これらは、他社にはないと思っている。経営者として重視しているのは、消費者と顧客の声に耳を傾けることだ。そのため、このプロセスは外注していない。フィルタリングされていない情報を知り、自分の目で確かめるようにしている。
質問:
販売チャネルをどのように使い分けているか。
答え:
現時点では、100%オンライン販売。リアル店舗での販売はしていない。
ただし、3~4カ月以内に、産婦人科やスーパーマーケットなどでの販売を考えている。あらゆるチャネルで、全ての女性へのアクセシビリティに注力していきたい。
質問:
販売上の課題は。
答え:
(最も大切な)課題は教育だ。全ての女性が十分な知識を持っているとは言えない。教育から最終的に購入に至るまでのプロセスが非常に長い。それだけに、啓発に一番のコストをかけている。
扱う商品は、誰もがすぐ気に入って、すぐ購入してもらえるようなものではない。そのため、弊社は「新しいカテゴリーを創造している」と自負している。
弊社は2020年3月、新型コロナ禍に伴う最初のロックダウン直前に創業した。コロナ禍では困難が多く、どうなるかと思った。しかし、これまでの2年間、立て続けに売り上げが前年比3倍を記録している。
質問:
今後の見通しは。海外への事業展開や連携ニーズはあるか。
答え:
現在はインド国内の事業に集中している。
一方で、来年には海外展開も考えている。特にアーユルベーダや自然療法などになじみがあるエリア、また女性の生理に関するトラブルが多いエリアとして、まずインドネシアと南アフリカを狙いたい。そしていつかは、日本や北米、中東などにも展開できればと考えている。
海外との連携や調達については現在、特定のニーズはない。とはいえ、何か良い縁があれば、オープンに考えている。ジェトロの「Japan Street」も活用してみたい。

調査協力:グローバル・ジャパン・コンサルティング


注:
フェムテック(fem tech)は、女性(female、feminine)とテクノロジーをかけあわせた造語。女性ならではの健康上の課題を解決できる先進的な製品・サービスなどを意味する。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
酒井 惇史(さかい あつし)
2013年、ジェトロ入構。展示事業部、ものづくり産業部、ジェトロ京都、デジタル貿易・新産業部を経て、2020年12月から現職。