2024年米大統領選挙は、トランプ氏対バイデン氏の再現か

2023年5月15日

米国で2024年に予定される次期大統領選挙。共和党からは、主要候補としてドナルド・トランプ前大統領やニッキー・ヘイリー元国連大使らが、3月までに立候補を表明済みだ。片や民主党からは、ジョー・バイデン大統領が4月25日に立候補を正式に表明した(表1参照、2023年4月26日付ビジネス短信参照)。

共和党陣営の中では、トランプ氏が党予備選に関する世論調査で依然として首位を維持している。そうしてみると、前回2020年の大統領選挙と同じく、トランプ氏とバイデン氏の対戦の再現となる可能性もある。

党内のトランプ氏支持、起訴でかえって高まる

2024年大統領選挙の共和党予備選では、誰が最有力と言えるのか。 各州の大学などで実施した最近の世論調査では、ロン・デサンティス・フロリダ州知事がトランプ氏に次いで2位につけている(表2参照)。トランプ氏への支持は、2022年11月の中間選挙後に低下した。しかし、2023年3月、ニューヨーク州裁判所(マンハッタン大陪審)に起訴された後、共和党内ではむしろ同氏支持が高まった。4月にNBCニュースが実施した世論調査では、共和党支持者の68%が「トランプ氏の大統領選への立候補を阻止する政治的動機がある。同氏の代わりはいないので、支持しなければならない」と回答した(2023年4月24日付ビジネス短信参照)。

2位に付けたデサンティス氏は、まだ正式に立候補を表明していない。しかし、フロリダ州外を精力的に訪問し、非公式ながら選挙活動を続けている。トランプ氏が起訴されたことを受けて、ウォール街からの期待も高まった。例えば、大手投資ファンドの最高経営責任者(CEO)がデサンティス氏に期待を表明する動きも出ている。なお、同知事は、4月下旬に来日して岸田文雄首相と会談。日本とフロリダ州相互のビジネス利益や貿易関係について意見を交わした(2023年4月26日付ビジネス短信参照)。同氏の正式な立候補表明は、6月以降と見込まれている。

表1:2024年大統領選挙に正式に立候補表明した主な候補者
政党 立候補日 立候補者
共和党 2022年11月15日 ドナルド・トランプ前大統領
2023年2月4日 ニッキー・ヘイリー元国連大使
2023年4月2日 エイサ・ハッチンソン前アーカンソー州知事
2023年4月20日 ラリー・エルダー氏(保守系トークラジオ番組ホスト)
民主党 2023年2月23日 マリアンヌ・ウィリアムソン氏(作家)
2023年4月5日 ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(弁護士)
2023年4月25日 ジョー・バイデン大統領

出所:各種報道からジェトロ作成

表2:2024年大統領選の共和党予備選を想定した各州の世論調査結果(単位:%)(―は値なし)
州 名 ジョージア ニューハンプシャー テネシー フロリダ アイオワ
実施機関 ジョージア大学 ニューハンプシャー大学 バンダービルト大学 ナショナル・リサーチ ナショナル・リサーチ
実施時期 4月2~7日および10~12日 4月13~17日 4月19~23日 5月8~9日 5月9~11日
対象者 共和党予備選投票予定者983人 共和党予備選投票予定者818人 共和党を支持する登録有権者502人 共和党予備選投票予定者500人 共和党予備選投票予定者500人
ドナルド・トランプ前大統領 51 42 59 42 44
ロン・デサンティス・フロリダ州知事 30 22 25 34 26
クリス・スヌヌ・ニューハンプシャー州知事 0 12 1
マイク・ペンス前副大統領 2 3 5 2 4
ニッキー・ヘイリー元国連大使 4 3 4 2 6
エイサ・ハッチンソン前アーカンソー州知事 0 0 2 1
リズ・チェイニー前連邦下院議員(ワイオミング州) 2 4
ビベク・ラマスワミ氏(実業家) 3 2 3

注:主な候補者のみ記載。候補者には正式に立候補してない者も含む。
出所:各実施機関

バイデン氏の高齢に不安

バイデン大統領は4月25日に、2024年大統領選への立候補を表明した。バイデン氏の支持率は4割台前半にとどまる。経済、インフレに関しては、支持3割台が続く状況にある(注1)。

80歳のバイデン氏が大統領職を継続することを不安に思う人も多い。ハーバード大学アメリカ政治研究センターとハリス・インサイト・アンド・アナリティクスが4月に実施した世論調査(注2)によると、バイデン氏が2024年大統領選挙で再選された場合、「(副大統領候補の)カマラ・ハリス氏がどこかの時点で後を継ぐことになると思う」という回答が6割を超えた(63%)。これは、「バイデン大統領がもう1期務めることができる」(37%)を大きく上回る結果だ。

一方でバイデン氏は、(1) 2020年大統領選挙でトランプ氏に勝利した、(2)共和党圧勝が予想された2022年の中間選挙で、民主党が下院で失う議席数を小幅にとどめた、(3)同じ中間選挙結果として、上院で民主党の多数派を維持した(2022年12月8日付地域・分析レポート参照)という結果に導いた。こうした功績は過少評価すべきでない、という見方もある。エマーソン大学は、4月に実施した世論調査(注3)で、「大統領選挙の民主党予備選で誰に投票するか」という問いを設けた。その回答結果では、正式に立候補を表明した3人の中で、バイデン氏の回答が70%で圧倒的だった。

経済状況によっては、バイデン候補を揺るがす可能性も

3月に起訴されたトランプ氏は、立候補を取り消す意思を今のところ示してない。むしろ、起訴されたことで注目を集め、共和党内で支持が高まっていることに乗じているようにも思える。この点、バージニア大学のジェニファー・ローレス教授は「トランプ氏の場合、起訴は『魔女狩り』として、支持者の間で熱狂を生み出すことができる」と説明した。一方で、序盤では注目を集めなかったにもかかわらず、選挙で勝利することも考えられる。ジミー・カーター、バラク・オバマ両元大統領などは、まさにその実例だ。すなわち、トランプ氏が現在注目を集めていても、今後の展開はわからないとも言える。2024年11月の大統領選挙まで、十分時間があるのだ。

デサンティス氏は40代で、年齢的には有利とみられる。だが、大統領選挙という大舞台の経験がない。そのため、予備選でトランプ前大統領、本選で現職のバイデン大統領を破って大統領選を制することの困難さも指摘されている。

バイデン氏には、2020年大統領選挙でトランプ氏に勝利した実績がある。加えて民主党側には、デサンティス氏に対しても優位に対戦できると見る向きがある。デサンティス氏は過去、社会保障(メディケアを含む)の民営化や、引退年齢引き上げを主張したことがある。こうした言動に対して、確実に説得力ある追求ができるとみている。外交面では、トランプ氏とデサンティス氏そろって、ロシアへの侵攻が続く中、ウクライナへの支援を抑制する意向を示している。これに対し、バイデン大統領は民主主義の闘いで世界的なリーダーシップを打ち出してきたことができる立場だ。すなわち、共和党候補の孤立主義的傾向との違いをアピールすることも期待できる。

もっとも、4月にCNBCが実施した世論調査では、経済状況について「現状と見通しともに悲観的」と69%が回答した(2023年4月19日付ビジネス短信参照)。経済状況の行方が、バイデン氏の評価に大きく影響しかねないとみられる。

得票数を直接反映できない現行選挙人制度

現行の大統領選挙のシステム(注4)では、選挙人の数を州別に集計する。得票数を選挙結果に直接反映できるわけではない。すなわち、有権者の投票が必ずしも候補者に届くわけではないことになる。実際、2016年の大統領選挙のヒラリー・クリントン氏とトランプ氏の対戦では、トランプ氏の得票数6,299万票に対して、クリントン氏は6,585万票。得票では上回りながら、獲得した選挙人ではトランプ氏を下回って敗れた(306人対232人)。

米国のシンクタンクのピュー・リサーチ・センターが2022年6~7月に実施した世論調査(注5)では、63%が「選挙人制度を変更すべき」と回答している。直接選挙による方式を望む人が多数との結果だった。ただし、支持政党別に温度差もある。民主党支持者では80%が選挙制度を変更すべきという結果だったのに対し、共和党支持者は42%と半数に満たなかった。 選挙制度については、今後も議論が起こると思われる。


注1:
リアルクリアポリティクスによると、5月12日付の平均支持率は42.1%。「経済」では38.1%、「インフレ」では34.3%だった。
注2:
実施時期は2023年4月18~19日、対象者は全米の登録有権者1,845人。
注3:
実施時期は2023年4月24~25日、対象者は全米の登録有権者1,100人。
注4:
大統領選挙は、州ごとに割り当てられた538人の「選挙人(elector)」によって選ばれるシステム。
注5:
実施時期は6月27日~7月4日、対象者は全米の成人6,174人。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。