米中間選挙、民主党は上院多数派を維持、州知事選では女性候補が躍進

2022年12月8日

2022年11月の米国の中間選挙は、経済の先行きへの懸念など、民主党に有利な状況ではないとの見方が大勢だった。共和党からはドナルド・トランプ前大統領の支持を受けた候補者が多数立候補する中、民主党は共和党候補との違いを強調する方向で選挙キャンペーンを展開した。その結果、民主党は連邦上院では50議席を維持することに成功し、連邦下院では失った議席数を小幅に抑えることになった。中間選挙と、同日に実施された州知事選の結果を概観する。

注目州の上院選でトランプ氏支持候補敗れる

今回の中間選挙で注目された対戦の1つは、ペンシルベニア州の連邦上院選だ。現職のパトリック・トゥ―ミー氏(共和党)が立候補しなかったため、民主党のジョン・フェッターマン氏(州副知事)とトランプ氏が支持するメフメト・オズ氏(テレビ司会者)との対戦となり、フェッターマン氏が過半数を獲得し勝利した。その結果、議席が共和党から民主党に移り、民主党が50議席を維持する大きな要因となった。トランプ氏は4月にオズ氏への支持を表明し、オズ氏はその後5月の同州共和党の予備選で勝利したが、その影響力は本選までは届かなった。

選挙戦では有権者の経済状況への懸念から、全体的には共和党有利とみられていたが(2022年11月2日付ビジネス短信参照)、CBSニュースがペンシルバニア州の上院選挙を対象に行った出口調査によれば、投票の決定要因として「人工妊娠中絶(以下、中絶)」が37%と、「インフレ」(28%)を上回った。「中絶」と回答した人の78%がフェッターマン氏に投票しており、中絶が大きな動機となった。他の州と比較しても、同州で中絶への関心が高かったことがうかがえる(注1、表1参照)。

接戦と予想されたアリゾナ州、ネバダ州の連邦上院選でも、民主党の現職候補者がトランプ氏支持の候補者を抑え、当選確実とした(2022年11月14日付ビジネス短信参照)。CBSニュースの出口調査によれば、上院選の投票要因上位2位は、いずれの州も「インフレ」「中絶」で、「インフレ」が上回った。ただし、両州とも「インフレ」を選択した人の4分の1は民主党候補に投票しており、共和党候補に極端に票が集中しなかった。一方、「中絶」を選択した人の約9割は民主党候補に投票しており、これが民主党候補の得票数が僅差で上回ることにつながったとみられる。

ジョージア州では民主党、共和党のいずれの候補者も過半数を獲得できず、12月6日の決戦投票で民主党現職のラファエル・ワーノック氏がトランプ氏の支持を受けた共和党のハーシェル・ウォーカー氏を破り、当選を確実とした。これにより、民主党が連邦上院で51議席を獲得することになる(2022年12月7日付ビジネス短信参照)。

また、アラスカ州の連邦上院選では、トランプ氏の弾劾裁判で有罪票を投じた共和党現職のリサ・マーコウスキー氏が、トランプ氏が支持する共和党のケリー・ツィバカ氏(元アラスカ州行政局委員)を接戦で抑え、当選確実となった。

表1:2022年連邦上院選と出口調査の関連性(単位:%)
所属政党 州名 当選確実 新任 政党交代 出口調査(投票要因)
1位 民主党候補に投票 共和党候補に投票 2位 民主党候補に投票 共和党候補に投票
民主党 アリゾナ マーク・ケリー インフレ(36) 28 68 中絶(32) 91 7
ネバダ キャシー・コルテス・マスト インフレ(36) 25 72 中絶(28) 89 9
ニューハンプシャー マギー・ハッサン インフレ(36) 27 69 中絶(35) 86 13
ペンシルベニア ジョン・フェッターマン 中絶(37) 78 21 インフレ(28) 27 72
共和党 フロリダ マルコ・ルビオ インフレ(39) 28 72 中絶(24) 81 18
ノースカロライナ テッド・バッド インフレ(32) 23 75 中絶(29) 78 21
オハイオ J.D.バンス インフレ(35) 25 75 中絶(26) 81 19
ウィスコンシン ロン・ジョンソン インフレ(34) 23 76 中絶(31) 82 18
ジョージア 決戦投票に持ち越し インフレ(37) 27 72 中絶(26) 77 21

出所:選挙結果は、CNN。出口調査は、CBSニュース(「犯罪」「中絶」「インフレ」「銃政策」「移民」の5項目から1つ選択)

下院は共和党が多数派に

連邦下院選では、11月下旬までに共和党が221議席、民主党が213議席の獲得を確実にし、共和党が多数派となり、民主党は9議席を失った。ただ、政権党が中間選挙で失った議席数でみると、トランプ政権(2018年)での40議席、オバマ政権(2014年)での13議席と比べて、バイデン政権が失った議席数は少なかった。

上院で民主党が多数派、下院では共和党が多数派と、2023年1月から始まる第118議会ではねじれ議会になることにより、バイデン大統領は難しい政権運営を迫られることになる。共和党主導の下院からは、連邦政府支出の削減に向けて圧力がかかることが予想され、予算審議が難航するとみられ、景気刺激法案の可決も厳しくなる(注2)。また、下院主導の国会議事堂襲撃事件(2021年1月)の調査委員会は、2023年1月3日に解散する予定であり、トランプ氏への責任追及も終了することになる。

記録的数となる女性州知事

中間選挙と同日に行われた州知事選では女性候補が目立ち、2023年1月には過去最多の12州(注3)で女性知事が就任(再任)する見通しである。メイン、アラバマ、ミシガン、アイオワ、サウスダコタ、カンザス、ニューメキシコの各州では、現職の女性知事が再選を確実にした(表2参照)。

なお、ニューヨーク州では、アンドリュー・クオモ前知事の後任であったキャシー・ホークル氏が、選挙で選出された同州初の女性知事となる。

マサチューセッツ州では民主党のモーラ・ヒーリー氏が、メリーランド州では民主党のウェス・ムーア氏が当選確実とし、両州では知事の所属政党が、共和党から民主党に移る。アーカンソー州では、トランプ政権でホワイトハウス報道官を務めたサラ・ハッカビー・サンダース氏が当選確実とし、同州初の女性知事となる。

トランプ氏支持候補との対戦が注目されたアリゾナ州では、民主党のケイティ・ホッブス氏が接戦を制し当選確実となり、オレゴン州でも民主党のティナ・コテック氏が当選確実となった。両州では、民主、共和両党の候補ともに女性であったことも注目される。

また、ミシガン州で再選を確実にしたグレッチェン・ホイットマー氏は、ジョー・バイデン大統領が再立候補しない場合、2024年大統領選挙の民主党候補として注目されている、と複数メディアが報じている。CBSニュースのミシガン州知事選の出口調査では、投票の決定要因として「中絶」が45%と「インフレ」(28%)を上回った。同州では「中絶」への関心がペンシルベニア州よりさらに高く、「中絶」と回答した人の77%が、ホイットマー氏に投票した。選挙結果と出口調査との関連性をみると、アリゾナ州とウィスコンシン州を除き、「インフレ」を重視する傾向が高い州では、共和党候補が当選確実となっている(表2参照)。

表2:2022年州知事選挙結果(単位:%)
所属
政党
州名 当選確実 新任 政党交代 出口調査(投票要因)
1位 2位
民主党 アリゾナ ケイティ・ホッブス* インフレ(36) 中絶(32)
カリフォルニア ギャビン・ニュ―サム
コロラド ジェアド・ポリス
コネチカット ネッド・ラモント
ハワイ ジョシュ・グリーン
イリノイ J.B. プリッツカー
カンザス ローラ・ケリー*
マサチューセッツ モーラ・ヒーリー*
メリーランド ウェス・ムーア
メイン ジャネット・ミルズ*
ミシガン グレッチェン・ホイットマー* 中絶(45) インフレ(28)
ミネソタ ティム・ワルツ
ニューメキシコ ミシェル・ルーハン・グリシャム*
ニューヨーク キャシー・ホークル*
オレゴン ティナ・コテック*
ペンシルベニア ジョシュ・シャピロ 中絶(37) インフレ(28)
ロードアイランド ダニエル・マッキー
ウィスコンシン トニー・エバース インフレ(34) 中絶(31)
共和党 アラスカ マイク・ダンリービ
アラバマ ケイ・アイビー*
アーカンソー サラ・ハッカビー・サンダース*
アイダホ ブラッド・リトル
アイオワ キム・レイノルズ*
フロリダ ロン・デサンティス インフレ(39) 中絶(24)
ジョージア ブライアン・ケンプ インフレ(36) 中絶(26)
ネブラスカ ジム・ピレン
ネバダ ジョー・ロンバルド インフレ(36) 中絶(28)
ニューハンプシャー クリス・スヌヌ インフレ(36) 中絶(35)
オハイオ マイク・デワイン インフレ(35) 中絶(26)
オクラホマ ケビン・スティット
サウスカロライナ ヘンリー・マクマスター
サウスダコタ クリスティ・ノーム*
テネシー ビル・リー
テキサス グレッグ・アボット インフレ(28) 中絶(27)
バーモント フィル・スコット
ワイオミング マーク・ゴードン

注:*は、女性。「-」欄は、データなし。
出所:選挙結果は、CNN。出口調査は、CBSニュース(「犯罪」「中絶」「インフレ」「銃政策」「移民」の5項目から1つ選択)

投票数は2018年の中間選挙より減少

NBCニュース(電子版11月27日)によれば、中間選挙の投票数は1憶959万票に達したが、2018年の中間選挙(1憶5,550万票)と比較すると低調であった。連邦上院選あるいは州知事選が行われなかったミシシッピー州、ニュージャージー州、ウェストバージニア州などでは投票数が20%超減少した。ニューハンプシャー州(2018年比8.3%増)、アリゾナ州(7.9%増)、ペンシルベニア州(6.9%増)、ハワイ州(6.4%増)、ミシガン州(5.3%増)では投票数が増加したことで、民主党に良い結果をもたらしたとみられる。また、人口の多いカリフォルニア州(3.6%減)、テキサス州(3.4%減)、フロリダ州(5.1%減)、ニューヨーク州(5.5%減)では投票数が減ったが、選挙が接戦でなかったことが原因とされている。

2024年大統領選に向けてのトランプ氏

トランプ氏は、中間選挙後に2024年大統領選挙への立候補を表明したが(2022年11月16日付ビジネス短信参照)、中間選挙および州知事選の結果では共和党の勢いが予想されたほどでもなかったため、党内では、トランプ氏が支持した候補者の質が疑問視され、同氏の責任を問う声も大きい。

ハーバード大学アメリカ政治研究センターとハリス・インサイト・アンド・アナリティクスが2022年11月の中間選挙後に実施した世論調査では、もし今日2024年の大統領選挙が実施されるとしたら誰に投票するか、という設問において、トランプ氏は共和党で首位(46%)であったが、2022年10月の同センターの調査結果から9ポイント減少した。一方、2位のフロリダ州知事のロン・デサンティス氏(28%)は11ポイント上昇した(2022年11月24日付ビジネス短信参照)。デサンティス氏は大統領選挙への立候補の意向を明らかにしていないが、今後は知事再選を確実にした同氏に注目が集まるとみられる。

マイク・ペンス前副大統領は、中間選挙後のインタビューで、次の大統領選挙では新しいリーダーシップが求められると、トランプ氏立候補への牽制とみられる発言を行った。中間選挙の結果は、2024年大統領選挙の行方を占うことにもつながる。


注1:
「犯罪」「中絶」「インフレ」「銃政策」「移民」の5項目から1つ選択。1,134人回答。また、中絶について「全ての場合で合法とすべき」(32%)と回答した人のうち88%、「ほとんどの場合で合法とすべき」(30%)と回答した人の64%がフェッターマン氏に投票。「ほとんどの場合で非合法とすべき」(26%)では88%がオズ氏に投票。
注2:
中間選挙後の米国政治・経済見通しウェビナー(11月22日)は、2023年1月29日までオンデマンド配信中。
注3:
今回、改選されなかったデラウェア、インディアナ、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピー、ミズーリ、モンタナ、ニュージャージー、ノースカロライナ、ノースダコタ、テネシー、ユタ、ワシントンの各州知事は男性。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。