EVは前年から大幅に増加
2022年米新車市場と2023年見通し(後編)

2023年4月12日

米国の2022年のEV(BEV、PHEV)と燃料電池車(FCV)の合計販売台数は、前年比51.8%増の94万台で、全販売台数に占める割合は前年比2.6ポイント増の6.7%となった。テスラの販売増や、市場に出回るモデル数の増加、バイデン政権によるEV普及政策などが後押ししたとみられる。2023年のEV販売台数については、100万台を超えるとの見方もある。

EVシェアは前年を上回る6.7%

EVとFCVの合計販売台数は、前年比51.4%増の93万7,094台となり、全販売台数に占める割合は2021年の4.1%を上回る6.7%に増加した(図参照)。内訳をみると、バッテリー式電気自動車(BEV)が前年比65.3%増の81万466台と伸びを牽引した。一方、プラグインハイブリッド車(PHEV)は1.2%減の12万3,921台、FCVは19.0%減の2,707台と落ち込んだ。なお、ハイブリッド車(HEV)も4.3%減の77万751台と減少している。

BEVをメーカー別にみると、テスラが前年比48.2%増の52万2,444台で、全BEVの6割以上を占めている。ただし、フォード「マックE」、ゼネラルモーターズ(GM)「ボルト」、現代「アイオニック5」、起亜「EV6」など、各社がBEVを本格的に投入しており、2022年に販売されたモデル数は、2021年(40モデル)を大きく上回る54モデルとなった。消費者にとって選択肢が広がったこともBEVの普及を後押しした。自動車関連サービス企業のコックスオートモーティブは、2023年のEV販売台数は100万台を超えるとの予測を発表している。

図: EV及びFCVの販売台数の全車に占めるシェア
完全電気自動車とプラグインハイブリッド車の合計販売台数の推移をみると、販売台数は2018年に36万1,315台、2019年に32万6,644台、2020年に32万1,463台、2021年に61万9,065台、2022年に93万7,094台となった。全販売台数に対する完全電気自動車とプラグインハイブリッド車の合計の割合はそれぞれ、2.1%、1.9%、2.2%、4.1%、6.7%となった。

出所:2019年までエネルギー省、2020年~2022年はモーターインテリジェンスを基にジェトロ作成

EV普及を加速させる3つの法律

EV市場が徐々に拡大する背景として、連邦政府による積極的な取り組みが奏功しているとみられる。2022年9月に、2021年11月に成立したインフラ投資雇用法に基づき、連邦政府が5年間で合計50億ドルを全州に出資する、充電器設置プログラム(NEVIプログラム)が事実上始動した(2022年9月29日付ビジネス短信参照)。また、合計31億ドルのバッテリー材料および製造のための助成プログラムも動き出している(2022年5月10日付ビジネス短信参照)。2022年8月に成立したCHIPSおよび科学法では、自動車向けレガシー半導体の生産に5年間で20億ドルの助成金が盛り込まれたほか、同月成立したインフレ削減法では、EVとFCVの購入者に対する最大7,500ドルの税額控除が含まれており、既に運用が開始されている。

こうした中、自動車メーカーは2022年に入り、続々とEV関連投資計画を発表してきた。GMは2035年までに全ての新車をBEVとFCVとする目標の下、2022年1月にミシガン州デトロイトにおける生産拠点の建設などに70億ドルを投資すると発表。BEV「ボルト」をはじめ、3万ドル台の価格帯の車種の展開を視野に入れている。またフォードは、2030年までに40%をEV化することを目標に、2022年6月には中西部3州でEV増産に向けた37億ドルの投資計画を発表した。同社は2023年末までに、北米での「ライトニング」15万台を含む、世界で60万台のBEV販売を見込む。

韓国メーカーの現代も、ジョージア州に設立するEV専用工場に55億ドルを投資すると発表し、2025年上半期の操業開始を目指している。欧州メーカーに関しては、フォルクスワーゲン(VW)が2022年7月、メルセデスベンツが翌8月から、それぞれEVの生産を既に開始している。BMWも10月に17億ドルをかけてBEVとバッテリーの生産工場を設立すると発表するなど、目まぐるしい展開が続いている。日系メーカーについては、日産が2022年2月に、ミシシッピ州でEV生産に5億ドルを投資、ホンダが10月に、7億ドルをかけてオハイオ州の3工場をEV生産のハブ拠点にするため設備を更新すると発表している。

また、バッテリーの生産拠点の設立についても勢いづいている。GMは2022年2月、ミシガン州に全固体電池であるアルティウムバッテリーの第3工場設立を発表した。同社が2021年に発表した、テネシー州やオハイオ州におけるLGエナジーソリューション(LGES)との合弁会社の設立や、フォードが発表したテネシー州、ケンタッキー州、ジョージア州などにおけるSKイノベーションとの新工場設立など、韓国メーカーとの提携も進んでいる。欧州メーカーではメルセデスベンツがアラバマ州でバッテリーの生産を開始。日系メーカーについては、ホンダが2022年10月に、LGESとの合弁でオハイオ州に生産拠点を設立すると発表した。ノルウェーのフレイヤーやギリシャのコントルマティック・テクノロジーズといった、新たな外国メーカーが拠点の設立を発表するなど、米国のバッテリー市場はここ数年間で大きく変化することが予測される。トヨタが2021年に発表したノースカロライナ州の新拠点を含め、各社の発表通りに稼働すれば、米国におけるバッテリーの生産能力は、2025年までに現在の数倍に達する可能性がある。

2022年米新車市場と2023年見通し

  1. 2012年以来最低水準の新車販売
  2. EVは前年から大幅に増加
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 リサーチ・マネージャー
大原 典子(おおはら のりこ)
民間企業勤務を経て2013年からジェトロ・ニューヨーク勤務。自動車産業を柱に米国の産業調査を担当。