2012年以来最低水準の新車販売
2022年米新車市場と2023年見通し(前編)

2023年4月12日

米国の2022年の新車販売台数は、年初の予測を大幅に下回り、2012年以降最も少ない1,390万台だった。半導体不足による在庫不足や、車両価格の高騰、金利の上昇、広範なインフレによる需要の低迷などが影響した。2023年の販売に関して、専門機関は2022年を超える1,410万台から1,520万台を見込むが、新型コロナウイルス感染のパンデミック前への水準には遠い。

需給回復に遅れ、予想下回る結果に

モーターインテリジェンスの発表(2023年1月4日)によると、米国の2022年の新車販売台数は前年比7.8%減の1,390万3,429台で、2012年以降で最低となった。(図1参照)。専門家による2022年初めの予測では、下半期に在庫問題が改善するとして、1,540万~1,600万台まで回復すると見込まれていた。しかし、供給不足が長引いたことや、インフレや金利上昇などによって需要が低迷したことで、予測を大幅に下回る結果となった。新型コロナ禍により販売台数が大幅に落ち込んだ2020年比で4.6%減、新型コロナ禍前の2019年比で18.5%減だった。また、2022年の生産台数は前年比12.5%増の1,020万3,038台と回復基調にあるものの、2019年と比べれば4.5%減になった(表1参照)。 

図1: 新車販売台数と前年比の推移(2008~2022年)
新車販売台数は、リーマンショックの影響により2009年に1,043万台となったが、その後増加して、2015年以降5年連続で1,700万台台を維持した。しかしながら2020年は新型コロナウイルスの影響で1,458万台に減少。2021年は好調な需要が下支えし回復基調にあったものの、半導体不足などにより在庫が減少したことから、年初の予測を下回る、1,508万台となった。2022年は徐々に在庫状況は改善したものの、コロナ禍以前の水準には戻らず、さらにインフレや金利上昇により需要が落ち込んだことで、販売台数は前年比7.8%減の1,390万台にとどまった。

注:対象は乗用車と小型トラック〔バン、ピックアップトラック、SUV(スポーツ用多目的車〕。大型トラックは含まず。
出所:モーターインテリジェンスを基にジェトロ作成

半導体不足が長引く供給停滞に影響

新車の在庫状況は2022年後半にかけて徐々に好転しているものの、新型コロナ禍前の水準には至っていない。販売台数に対する在庫台数の比率(売り上げ在庫比率)を見ると、第1四半期(1~3月)に93%だったが、第4四半期(10~12月)には127%にまで回復した。しかし、年平均では104%で、2019年(267%)の半分以下にとどまっている。また、メーカー別の在庫日数を見ると、2022年12月時点でスバル9日、現代14日、トヨタ21日、ホンダ30日となっており、それぞれ2019年同月の24日、52日、59日、74日を下回った(注1)。フォードは 63日まで回復したが、同社の在庫日数はもともと長い傾向にあり、2019年(93日)と比較すると大きく下回ったままだ。ただし、いずれのメーカーも年初より在庫日数を増やしており、2023年以降の改善が期待される。

大方の見方として、こうした在庫不足には、自動車メーカーやサプライヤーが半導体を充分に調達できていないことが要因となっている。自動車メーカーは新型コロナ禍で組み立て工場を一時閉鎖するなどしたため、生産台数が減少した。そうした中、半導体メーカーが携帯電話など比較的高性能な製品に生産ラインを振り向けたという経緯がある。車両の生産は回復してきているものの、半導体メーカーにとって付加価値の低い車載用に再び生産ラインを戻すインセンティブは低い。また、車載用は安全基準などが厳しいため、自動車メーカーにとっても新たな製品への変更が難しく、調達をより複雑にしている。自動車業界への影響を調査するオートフォーキャスト・ソリューションズ(AFS)によると、2022年の初めから12月中旬にかけて、半導体不足によって生産計画から消失した車両数は、北米(米国、カナダ、メキシコ)で合計165万台に上った(オートモーティブニュース2022年12月18日)。消失した車両数は2021年(216万台)に比べて改善したが、依然として業界に与える影響は大きく、2023年末までに新たに91万台が消失すると予測されている(オートモーティブニュース2023年2月26日)。

一方、需要サイドでも、車両価格や自動車ローンの金利上昇が販売台数を押し下げたとみられている。トゥルーカー・ドット・コムによると、2022年の平均車両価格は、データが確認できる2014年以降で最高水準の4万4,678ドルとなり、前年(約4万545ドル)を10.2%上回った。半導体不足に加え、電子機器など高付加価値な部品の増加や、アルミニウムを含む金属など資源価格の高騰などが影響したとみられる。さらに、供給台数が限られる中、メーカーが提供する販売促進のための割引が限定的だったことも、価格の高止まり要因となった。割引額は1台当たり平均1,274ドルで、2021年比で5割以下、2019年比で約3分の1だった(注2)。メルセデス・ベンツやレクサスなどのプレミアムクラスの販売台数が2019年を超え、高級車の販売が好調だったことも、平均車両価格が高騰する要因になった。

価格上昇に加え、政策金利の引き上げに伴う自動車ローンの高騰も、販売台数の減少に影響した。セントルイス連邦準備銀行によると、市中銀行の48カ月自動車ローンの金利は2022年11月時点で、2008年11月(7.06%)以来の高水準となる6.94%まで上昇し、年平均では2012年以降最高の5.62%となった(図2参照)。さらに、1ガロン(約3.8リットル)5ドル超まで一時高騰したガソリン価格や、広範囲にわたるインフレが家計を圧迫した。

図2:市中銀行48カ月自動車ローンの金利と販売台数の推移(2007~2022年)
2022年の市中銀行48カ月自動車ローン金利は、平均で5.62%となった。これは、2012年以降最高水準であった。

出所:モーターインテリジェンス、セントルイス連邦準備銀行データからジェトロ作成

SUVシェアが過去最高

2022年の年間販売台数を車種別に見ると、乗用車は前年比12.6%減、小型トラックは6.4%減だった(表2参照)。他方、小型トラックが全販売台数に占める割合は、データの確認できる1980年以来最高の78.5%となった。中でも、スポーツ用多目的車(SUV)は全体の54.4%を占め、車両の大型化が進んでいることが分かる(表2、図3参照)。

表2:2022年の新車販売台数の内訳(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年
販売台数 販売台数 前年比 構成比
乗用車小計 3,417,072 2,985,388 △ 12.6 21.5
ミニバン、フルサイズバン 695,863 614,400 △ 11.7 4.4
ピックアップトラック 2,833,500 2,733,760 △ 3.5 19.7
SUV(スポーツワゴン、CUVを含む) 8,134,682 7,569,881 △ 6.9 54.4
小型トラック小計 11,664,045 10,918,041 △ 6.4 78.5
合計 15,081,117 13,903,429 △ 7.8 100.0
図3:車種別新車販売台数の推移(2007~2022年)
乗用車は、リーマンショックの影響により2009年に541万台にまで減少し、その後、2014年には771万台にまで増加したが、その後減少が続き、2021年には342万台、2022年は299万台となった。他方で、小型トラックは2009年以降増加を続け、2019年は1,224万台となった。2020年は新型コロナウイルスの影響で1,106万台に落ち込んだものの、2021年には1,166万台にまで回復。しかしながら2022年は再び1,092台に落ち込んだ。

出所:モーターインテリジェンスを基にジェトロ作成

個人向け販売、テスラと韓国メーカーが好調

表1の主要メーカー別販売台数を見ると、ゼネラルモーターズ(GM)と、電気自動車(EV)専業のテスラ以外は軒並み減少した。シェア首位のGMは乗用車「マリブ」やSUV「エクイノックス」の販売が好調で、前年比2.5%増だった。2位のトヨタはSUV「ハイランダー」やミニバン「シエナ」が減少して9.6%減、フォードはピックアップトラック「Fシリーズ」や「レンジャー」が落ち込んで2.2%減、ステランティスはピックアップトラック「ラム」やSUV「チェロキー」が減少して13.0%減だった。いずれも人気モデルで販売台数が減少した。5位のホンダは乗用車「シビック」やSUV「CR-V」が落ち込み、前年比の減少率は全メーカーの中で最大の32.9%減だった。半導体不足やサプライチェーンの混乱が大きく影響したとみられる。現代は0.9%減、日産はSUV「ローグ」や乗用車「セントラ」が減少し、25.4%減となった。起亜は1.1%減、スバルはSUV「フォレスタ―」や乗用車「インプレッサ」が落ち込んで4.7%減となった。テスラは乗用車「モデル3」やSUV「モデルY」が押し上げ要因となって48.2%増加し、メーカー別シェアは2021年の12位から10位に浮上した。11位のフォルクスワーゲン(VW)は乗用車「ジェッタ」や「パサート」が不調で、14.3%減だった。

GMの販売台数が増加した背景として、2021年の大幅な落ち込みからの反動に加え、レンタカーや政府調達用を含むフリート向けの販売強化がある。トゥルーカー・ドット・コムによると、GMのフリート向けの販売台数は前年比44.0%増の11万4,496台に上った(注3)。新型コロナ禍以後に車両の供給が滞る中、業界全体として採算性の低いフリート販売を縮小する傾向にあったが、GMなどの米系メーカーは個人向け需要の減速に伴い、2022年後半にかけてフリート販売を積み増した。これにより、業界全体のフリート向け販売台数は前年比1.8%増となった。

一方、フリートを除く個人向けの販売では、テスラが54.4%増、韓国メーカーの現代と起亜がそれぞれ前年比4.4%増、3.7%増と伸びた。現代はピックアップトラック「サンタクルス」やバッテリー式電気自動車(BEV)の「イオニック5」、起亜はSUV「スポーテージ」やBEV「EV6」が好調で、大型車両やEV市場への参入が顕著だった。両社が全車の販売台数に占める割合は、2019年比でそれぞれ1.5ポイント、1.4ポイント増加しており、米国市場で存在感を高めていることが分かる。

モデル別に見ると、データが確認できる1978年以降、フォード「F-150」の首位が続いているが、2022年はテスラのSUV「モデルY」が6位に浮上。前年比32.4%増と大きく伸びている。

2023年の販売予測は新型コロナ禍以前には届かず

2023年の新車販売台数に関する主な調査機関の発表を見ると、2022年をやや上回る1,400万台前半から1,500万台前半と予測しているところが多く、新型コロナ禍前の水準に回復するとの見方は少ない(図4参照)。保守的な予測(1,410万台)を公表したコックスオートモーティブは、米国経済が不況に陥るとの懸念から、自動車メーカーが在庫を積み上げたり、インセンティブを過剰支出したりする可能性は低いとみている。同社のチーフ・エコノミストのジョナサン・スモーク氏は「われわれは自動車メーカーが保守的になると想定している。彼らは大幅に値引きして1,500万台販売するよりも、利益を上げて1,300万台売りたいと考えている」と述べ、2022年とほぼ同水準にとどまるとの見方を示した。また同氏は、増加分の大半はフリート向けの販売によるもので、個人向けの販売は横ばいで推移するとみている(ワーズオート1月19日)。一方、北米トヨタのエグゼクティブ・バイス・プレジデントのジャック・ホリス氏は「われわれは将来について慎重でありながら楽観的だ。2023年はわれわれが望むほど高水準ではないが、正しい方向に進んでいる。需要はまだ供給を上回っている」として、需要増加への期待感から1,500万台を予測している(CNBC1月6日)。

図4:主な調査機関期間の2023年の新車販売予測台数の予測
販売台数の実績は、2019年1,706万台、2020年1,458万台、2021年1,508万台、2022 年1,390万台となった。2023年の予測販売台数は、センターフォーオートモーティブリサーチが1,520万台、北米トヨタが1,500万台、LMC オートモーティブが1,490万台、エドマンズドットコムとIHSマークイットが1,480万台、全米ディーラー協会が1,460万台、コックス・オートモーティブ1,410万台となった。

注:CAR: センターフォーオートモーティブリサーチ、LMC: LMCオートモーティブ、IHS:IHS マークイット、NADA:全米ディーラー協会、COX: COXオートモーティブの略。いずれも2023年1月上旬に発表された予測値。
出所:各社発表を基にジェトロ作成


注1:
適正在庫日数は60日程度といわれる。GMなど一部のメーカーは発表していない。
注2:
データが確認できない2022年9月、2021年10月を除いた月の平均。
注3:
2022年12月のデータは暫定値。

2022年米新車市場と2023年見通し

  1. 2012年以来最低水準の新車販売
  2. EVは前年から大幅に増加
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 リサーチ・マネージャー
大原 典子(おおはら のりこ)
民間企業勤務を経て2013年からジェトロ・ニューヨーク勤務。自動車産業を柱に米国の産業調査を担当。