ラテン系や中絶問題などがカギ
上院選を左右しうる10州(米国/前編)

2022年7月20日

2022年11月8日の米国の中間選挙では、34州で連邦上院議員が改選される。現有議席は民主党14、共和党20だ。

上院では現在、民主党と共和党の議席が各50と同数を占める。ただし、カマラ・ハリス副大統領が議長として、賛否同数の場合の最終的な議決権を有する。その結果として、民主党がかろうじて優位に立っている状況だ。バイデン政権が円滑に政策を推し進めるには、中間選挙で現有議席数を維持・拡大することが必須ということになる。

こうした中、今回の地域・分析レポートでは、各党の議席獲得を左右するとみられる10州(表1参照)の状況を取り上げる。前編では、現時点で民主党が議席を確保している5州(ジョージア、アリゾナ、ネバダ、ニューハンプシャー、コロラド)を見る。うち、ジョージア、ネバダ、コロラドの各州では、予備選が終了した。

共和党が議席を確保している5州(ペンシルベニア、ウィスコンシン、ノースカロライナ、フロリダ、オハイオ)については、後編「トランプ氏影響力なおも」を参照。

ジョージア州:トランプ氏支持候補者が、共和党予備選勝利

5月24日に実施されたジョージア州の上院予備選で、民主党は現職のラファエル・ワーノック氏が勝利した。他方の共和党で勝利したのは、ハーシェル・ウォーカー氏(元プロフットボール選手)。氏は、ドナルド・トランプ前大統領の支持を得ている存在だ。ただしウォーカー氏には、過去に女性に対する暴力問題があり、地元の共和党員から、上院選での勝利を危ぶむ声が上がっている(2022年5月26日付ビジネス短信参照)。 キニピアク大学が6月に実施した世論調査(注1)では、本選を想定した設問で、ワーノック氏はウォーカー氏を10ポイント上回った。そのほか、ワーノック氏は「正直さ」や「リーダーシップの資質」といった項目でもウォーカー氏より高い評価を得た(2022年6月30日付ビジネス短信参照)。しかし、ワーノック氏が2020年の上院の補欠選挙に立候補した際には、2021年1月の決選投票に持ち込まれた(注2)。同様に、今回も決選投票になる可能性が高いという見方もある。

なお、同州の知事と州務長官に関する共和党予備選では、トランプ氏が支持する候補者がいずれも敗北(2022年5月26日付ビジネス短信参照)。同氏の影響力が必ずしも一定の作用を及ぼすとは限らないことを示したかたちだ。

表1:2022年連邦上院選挙における注目州
党名 州名 候補者 対戦相手 選挙
予想
2016年大統領選挙の勝者 2020年大統領選挙の勝者 直近世論調査でのバイデン大統領支持率(%)
民主党 ジョージア ラファエル・ワーノック* ハーシェル・ウォーカー 接戦 トランプ バイデン 33
アリゾナ マーク・ケリー* 未定 接戦 トランプ バイデン 42
ネバダ キャシー・コルテス・マスト* アダム・ラクソール 接戦 クリントン バイデン 33
ニューハンプシャー マギー・ウッド・ハッサン* 未定 民主党やや優勢 クリントン バイデン 43
コロラド マイケル・ベネット* ジョー・オディア 民主党優勢 クリントン バイデン 40
共和党 ペンシルベニア メフメト・オズ ジョン・フェッターマン 接戦 トランプ バイデン 36
ウィスコンシン ロン・ジョンソン* 未定 接戦 トランプ バイデン 40
ノースカロライナ テッド・バッド シェリー・ビーズリー 共和党やや優勢 トランプ トランプ 33
フロリダ マルコ・ルビオ* 未定 共和党優勢 トランプ トランプ 34
オハイオ J.D.バンス ティム・ライアン 共和党優勢 トランプ トランプ 37

注1:*印は現職。
注2:選挙予想の出所は270toWin。
注3:直近の世論調査のバイデン支持率の出所は、Race to the White House(2022年7月14日現在)。
出所:各種報道に基づきジェトロ作成

ネバダ州:民主党、ラテン系の票獲得に注力

6月14日に実施されたネバダ州の上院予備選挙では、民主党候補として現職キャシー・コルテス・マスト氏が勝利。共和党では、トランプ氏が支持するアダム・ラクソール氏が勝利した。

ラクソール氏は、バイデン政権のウクライナへの400憶ドル支援法案(2022年5月20日付ビジネス短信参照)に反対姿勢を示す。インフレが続く中、ネバダ州民の経済状況を考慮して、「マスト上院議員は同法案を拒否すべき」と持論を展開した。これに対してコルテス・マスト氏は、「ラクソール氏がロシアのウクライナ侵攻に関してロシアのウラジーミル・プーチン大統領を擁護している」と非難した。

NALEOエデュケーショナル基金は2022年2月、各州で予想されるラテン系投票数が全投票数に占める割合について、調査結果を発表した。それによると、今回の注目10州の中で、ネバダ州はアリゾナ州とフロリダ州に次いで当該割合が高い(表2参照)。となると、民主党は上院での優位を維持・拡大するためにネバダ州やアリゾナ州の議席を守ることが必須ということになる。特に激戦州では、ラテン系票が中間選挙の結果を左右するとみられるからだ。そのため、民主党はその獲得に注力。対策として、スペイン語のテレビ・ラジオ向けに多額の広告資金を投入している。

表2:ラテン系有権者投票数(予想)が全投票数に占める割合が高い州 (単位:%、票)
順位 州名 ラテン系有権者投票数(予想)の全投票数に占める割合(2022年) ラテン系有権者投票数(予想、2022年) ラテン系有権者投票数増加率(2014~2022年)
1 ニューメキシコ 30.4 218,400 22.0
2 カリフォルニア 25.3 3,251,000 90.5
3 アリゾナ 22.8 644,600 77.1
4 テキサス 21.2 1,795,500 64.4
5 フロリダ 18.1 1,426,000 59.9
6 ネバダ 16.6 165,100 70.2
7 ニュージャージー 15.6 469,900 71.5
8 ニューヨーク 12.1 752,000 49.8
9 コロラド 10.9 282,000 29.4
10 イリノイ 7.9 353,500 62.2

出所:NALEOエデュケーショナル基金(2022年2月発表)

コロラド州:民主党現職と共和党の穏健派候補との戦いに注目

民主党は、現職のマイケル・ベネット氏が立候補する。他方の共和党は、6月28日の予備選の結果、ジョー・オディア氏(実業家)が候補になった。オディア氏は例外を認めない人工妊娠中絶禁止に反対するという穏健派だ。民主党にとって、中間選挙で政党の違いを鮮明に打ち出しにくい存在だ。

選挙予想では民主党優勢とされる。しかし、同州もラテン系有権者が選挙結果を左右する州の1つとして挙げられる。インフレが続く中、ラテン系有権者の動向が注目される。各州で予想されるラテン系投票数の割合をみると、コロラド州は全米で9番目に高い(表2参照)。

アリゾナ州、共和党候補者争いに変化

民主党は、現職のマーク・ケリー氏が再選を狙う。

片や共和党は、マーク・ブルノビッチ氏(州司法長官)や、ジム・レイモン氏(再生エネルギー企業元役員)、ブレーク・マスターズ氏(ベンチャーキャピタリスト)が主力候補だ。当初は、共和党候補としてブルノビッチ氏がリードする状況が続いた。しかし、6月にトランプ氏がマスターズ氏への支持を表明。その結果として7月に発表された共和党予備選を想定した世論調査(注3)では、マスターズ氏が他の候補者をリードしている。この調査では投票先を未定とする割合が35%と高いため、8月2日の予備選までは不透明な状況である(2022年7月12日付ビジネス短信参照)。

調査会社ブループリント・ポーリングが5月に発表した世論調査(注4)によると、ケリー氏と共和党の各氏との対戦では、ケリー氏が10ポイント以上上回った(2022年5月30日付ビジネス短信参照)。各州で予想されるラテン系投票数の割合で、アリゾナ州は全米で3番目に高い(表2参照)。民主党はアリゾナ州でもラテン系票の獲得に注力し、スペイン語の広告にネバダ州での支出を上回る資金を投入しているという。

また、非営利団体「Chicanos por la Causa(CPLC)」(注5)は、アリゾナ州でラテン系有権者の投票を促すキャンペーンを進める。そのために1,000万ドルを投じたという。CPLCが目指すのは、今回の中間選挙にとどまらない。両親が投票するのを見て、将来的に子供たちに投票してもらうことも視野に入れている。その狙いは、ラテン系有権者の意見を国政に反映させることにある。

ニューハンプシャー州:中絶問題を争点にできるか

民主党は、現職のマギー・ウッド・ハッサン氏が再選を狙う。

共和党の主要候補としては、チャック・モース氏(州議会上院議員)や、ケビン・スミス氏(ロンドンデリー市タウンマネジャー)、ドン・ボルダック氏(元陸軍准将)などが挙げられる。

連邦最高裁は6月24日、人工妊娠中絶の権利を認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆した(2022年6月27日付ビジネス短信参照)。ハッサン氏は最高裁の決定後、テレビ向けキャンペーン広告を制作。「この決定は私たちを後退させる。この目的は全国的に中絶を禁止することが明らかだ。私は闘い、決して後退しない」と有権者に訴えている(注6)。

同州の予備選は、9月13日。

「ロー対ウェイド判決」破棄に、民主党反発

最高裁が「ロー対ウェイド判決」を破棄したことで、人工妊娠中絶を認めるかどうかは各州の権限に委ねられることになる。この決定を受けて、既述の民主党連邦上院議員はそれぞれコメントを発表した(表3参照)。

また、西海岸3州(カリフォルニア、オレゴン、ワシントン)の知事(いずれも民主党)は6月24日、中絶や避妊薬を含む生殖医療へのアクセスを守るためのコミットメント外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を発表。他州がこれら3州に中絶禁止措置を持ち込もうとする動きから、患者や医師を守ることを約束した(2022年6月28日付ビジネス短信参照)。

また、民主党の連邦上院議員34人は6月25日、連名でバイデン大統領宛ての書簡を発出。中絶の権利を保護するために、政府として直ちに行動を起こすよう求めた。

当年の選挙で中絶問題は争点になる可能性がある(2022年6月3日付地域・分析レポート参照)。上院選でもその影響が注目される。

表3:連邦最高裁の「ロー対ウェイド判決」破棄に対する連邦民主党上院議員のコメント(抜粋)
州 名 連邦上院議員 コメント(抜粋)
ジョージア ラファエル・ワーノック 最高裁の判決に憤慨する。中絶の権利を認める牧師として、私はこの闘いから決して引き下がらない。自分自身の医療に関して決定できるのは、政治家ではなく、女性でなければならない。
ネバダ キャシー・コルテス・マスト 今日は、米国の女性にとって壊滅的な日だ。全国の数十の州の人々は、極端な中絶禁止の下で生活し、救命救急へのアクセスは、米国全土で脅かされている。これは絶対に受け入れられない。 女性は、身体的および精神的健康、身体、経済的将来、家族の幸福について重要な決定をするために、あらゆる種類の生殖医療サービスを必要とする。(この決定を)全く受け入れることはできない。
コロラド マイケル・ベネット (この決定は)女性の個人の自由を剥奪し、自由と平等に関する憲法上保護された権利を損なう。ここでいう憲法上の権利とは、自分の体と未来について強力で個人的な決定をすることだ。
アリゾナ マーク・ケリー この決定は、わが国にとって大きな後退だ。女性は中絶について自分で決定する権利がある。次世代の女性が私の祖母よりも自由が少なくなるのは間違いだ。アリゾナ州の女性が自分で医療に関する決定をする権利を擁護し、保護することを決意した。
ニューハンプシャー マギー・ウッド・ハッサン 女性には、自分の健康と生活について、困難で複雑な決定をする能力と良心の両方がある。最高裁判所の過半数がその提案に同意しないことは、非常に憂慮すべきことだ。現在、女性とこの国が直面している危険は現実のもので、深刻だ。女性が政治家の干渉を受けずに自分で決定する権利を否定することで、私たちは50年前に引き戻された。

出所:各種報道からジェトロ作成


注1:
キニピアク大学の世論調査の実施時期は6月23~27日。対象者はジョージア州の登録有権者1,497人。
注2:
2020年11月の連邦議会選挙で、得票率が過半数に達した候補者はいなかった。
注3:
調査会社OHプレディクティブ・インサイツの世論調査の実施時期は、6月30日~7月2日。対象者はアリゾナ州の共和党予備選投票予定者515人。結果は、マスターズ氏25%、レイモン氏18%、ブルノビッチ氏14%。
注4:
調査会社ブループリント・ポーリングによる世論調査の実施時期は、5月12~16日。対象者はアリゾナ州の有権者608人。
注5:
メキシコ系アメリカ人コミュニティーへの差別をなくすことを目的とする団体。英語では「Chicanos for the Cause」。「Chicano」はメキシコ系米国人の意味。アリゾナ州以外にも、ネバダ、ニューメキシコ、テキサスの各州に事務所を置く。
注6:
もっとも、ニューハンプシャー州では、妊娠24週目までの中絶の権利が認められている。リベラルな州でもあり、これを禁止する方向に向かうのは当面のところ考えにくい。クリス・スヌヌ州知事(共和党)も、「最高裁の決定後も状況は変わらない」と改めて強調した。

上院選を左右しうる10州(米国)

  1. ラテン系や中絶問題などがカギ
  2. トランプ氏影響力なおも
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。

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