米最高裁、女性の人工中絶権を認めた1973年の判例を破棄

(米国)

ニューヨーク発

2022年06月27日

米国最高裁判所は6月24日、女性の人工妊娠中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を破棄した。これにより人工中絶を認めるか否かは、各州の権限に委ねられることになる。

最高裁による同判決破棄の判断は、ミシシッピ州保健局と同州ジャクソン女性健康機関の間で争われていた訴訟案件(注1)の最終判決の中で行われた。判決文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は「ロー対ウェイド判決」について「甚だ誤ったものであり、その判断が下された日から憲法と衝突していた」としている。なお、最高裁判事の構成は現在、保守派6人、リベラル派3人と保守派が優勢で、5月には今回の判決文草案が米メディアにリークされ、「ロー対ウェイド」判決が破棄されることは見通されていた(2022年5月13日記事参照)。

ジョー・バイデン大統領は最高裁の判決を受けて、同日に記者会見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを開き、最高裁判決は「米国民の憲法上の権利を奪った」「最高裁による悲劇的な過ちだ」と強く批判した。その上で、女性の権利を保障するには「ロー対ウェイド判決」を法制化する連邦法が必要とし、その実現は11月の中間選挙にかかっていると有権者に呼び掛けた。また、バイデン政権として、女性が人工中絶を受けるために人工中絶を認めている州に移動する権利を徹底的に守っていくとした。既に米国の大手企業の中には、従業員が人工中絶を行う場合に備えた医療保険の拡充や、人工中絶が可能な州への渡航費を補填(ほてん)するといった取り組みを進めている企業も出ている。今回の判決を受けて、口コミサイト大手イェルプのジェレミー・ストップルマン最高経営責任者(CEO)は自身のツイッターで「ビジネス界のリーダーは今こそ声を上げて、議会に対して『ロー対ウェイド判決』の法制化を求めるべきだ」と、バイデン大統領と同様の呼びかけを行っている。「ニューヨーク・タイムズ」紙(電子版6月24日)は判決を受けて、直ちにまたは近く人工中絶が禁止される13州(注2)に本社を構える企業は特に今後の対応について圧力を受けることになるだろうとしている。人工中絶問題は中間選挙の争点になるとともに、企業にとっても重要な経営課題になりつつある。

(注1)2018年に成立したミシシッピ州の法律で、妊娠15週目以降の人工中絶を禁止する州法の合憲性が争われていた案件。これまでの下級裁判所の判決では、州法が違憲だとしていたが、ミシシッピ州側が不当として上訴していた。

(注2)グットマッハー研究所の調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを基にしており、アーカンソー、アイダホ、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリ、ノースダコタ、オクラホマ、サウスダコタ、テネシー、テキサス、ユタ、ワイオミングの13州。

(磯部真一)

(米国)

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