トランプ氏影響力なおも
上院選を左右しうる10州(米国/後編)

2022年7月20日

米国で11月に予定されている中間選挙。この連載では、その結果が連邦上院の議席構成にとくに影響を与えるとみられる10州(表1参照)の状況をみる。後編では、現時点で共和党が議席を有している5州(ペンシルベニア、ウィスコンシン、ノースカロライナ、フロリダ、オハイオ)を取り上げる(表1参照)。オハイオ、ペンシルベニア、ノースカロライナ各州では、予備選終了済みだ。この3州いずれでも、ドナルド・トランプ前大統領が支持する候補者が勝利した。

なお、民主党が現有議席の5州(ジョージア、アリゾナ、ネバダ、ニューハンプシャー、コロラド)については、前編「ラテン系や中絶問題などがカギ」を参照。

オハイオ州:トランプ氏支持のバンス氏が共和党候補に

5月3日に予備選が行われ、共和党では、トランプ氏の支持を受けたJ.D.バンス氏(作家、ベンチャーキャピタリスト)が勝利した。他方の民主党では、ティム・ライアン氏(連邦下院議員)が勝利。この両者で対戦することになる。現職のロブ・ポートマン氏は立候補しない。

予備選後にサフォーク大学が実施した世論調査(注1)では、中間選挙でバンス氏に投票すると回答した割合が41.6%。ライアン氏(39.4%)をわずかに上回った。インフレが進む経済状況とジョー・バイデン大統領のリーダーシップへの不満が募ると、ライアン氏がさらに劣勢になる可能性があるとみられる。

表1:2022年連邦上院選挙における注目州
党名 州名 候補者 対戦相手 選挙
予想
2016年大統領選挙の勝者 2020年大統領選挙の勝者 直近世論調査でのバイデン大統領支持率(%)
民主党 ジョージア ラファエル・ワーノック* ハーシェル・ウォーカー 接戦 トランプ バイデン 33
アリゾナ マーク・ケリー* 未定 接戦 トランプ バイデン 42
ネバダ キャシー・コルテス・マスト* アダム・ラクソール 接戦 クリントン バイデン 33
ニューハンプシャー マギー・ウッド・ハッサン* 未定 民主党やや優勢 クリントン バイデン 43
コロラド マイケル・ベネット* ジョー・オディア 民主党優勢 クリントン バイデン 40
共和党 ペンシルベニア メフメト・オズ ジョン・フェッターマン 接戦 トランプ バイデン 36
ウィスコンシン ロン・ジョンソン* 未定 接戦 トランプ バイデン 40
ノースカロライナ テッド・バッド シェリー・ビーズリー 共和党やや優勢 トランプ トランプ 33
フロリダ マルコ・ルビオ* 未定 共和党優勢 トランプ トランプ 34
オハイオ J.D.バンス ティム・ライアン 共和党優勢 トランプ トランプ 37

注1:*印は現職。
注2:選挙予想の出所は270toWin。
注3:直近の世論調査のバイデン支持率の出所は、Race to the White House(2022年7月14日現在)。
出所:各種報道に基づきジェトロ作成

ペンシルベニア州:共和党予備選は接戦で再集計

5月17日に実施された予備選挙では、民主党候補としてジョン・フェッターマン氏(同州副知事)が勝利した。

共和党側では、トランプ氏が支持するメフメト・オズ氏(テレビ司会者)と、投資管理会社で最高経営責任者(CEO)の経歴を持つデイブ・マコーミック氏とで接戦。再集計の結果、オズ氏が共和党候補に決定した。しかし、その票差はわずか1,000票未満。なお、現職のパトリック・トゥーミー氏(共和党)は引退を表明している。

予備選後に米国退職者協会(AARP)が実施した世論調査(注2)によると、フェッターマン氏に投票するという回答が50%。オズ氏(44%)を上回った。

ノースカロライナ州:トランプ氏支持候補がやや優勢

5月17日に実施された予備選挙では、共和党はトランプ氏が支持するテッド・バッド氏(連邦下院議員)、民主党はシェリー・ビーズリー氏(前州最高裁首席判事)がそれぞれ勝利した。現職のリチャード・バー氏(共和党)は立候補しない。

ビーズリー氏は、黒人女性として注目されている(2022年5月30日付ビジネス短信参照)。この点では、フロリダ州の連邦上院選への立候補を表明しているバル・デミングス氏同様だ。

調査会社トラファルガー・グループによる世論調査(注3)では、バッド氏に投票するという回答が47.6%と、ビーズリー氏(45.1%)を2.5ポイント上回った。ただし、その差は標本誤差(±2.7)の範囲にとどまる。有意差がないとも評価しうる。

ジョン・ロック財団が6月に実施した世論調査(注4)で、ガソリン価格高騰の要因を聞いたところ、「連邦政府の政策」(60.7%)が「ロシアとウクライナの戦争の影響」(32.3%)を大きく上回った。すなわち、現政権の責任とする意識が強いことが示されたかたちだ。

一方で、中間選挙の重要な争点の1つとして、人工妊娠中絶の権利が注目されている。同財団が5月に実施した世論調査(注5)で、中絶の権利を認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を最高裁が破棄するとの観測について聞いたところ、破棄することに「反対する」という回答が51.0%と半数強を占めた。「賛成する」(34.2%)を大幅に上回ったことにも注目される。また銃規制についても、「強化すべき」(42.3%)が「緩めるべき」(18.9%)を大きく上回っている。

こうしてみると、これら争点の帰趨によって投票行動が両方向に触れる可能性が示されているといえそうだ。有権者の関心が民主党への追い風となるのか注目される。

ウィスコンシン州:民主党候補争いは混戦か

共和党ではトランプ氏が支持する現職のロン・ジョンソン氏が再選を目指す。

民主党候補としては、マンデラ・バーンズ氏(州副知事)が当初リードしていた。しかし、アレックス・ラスリー氏(プロバスケットボールチーム幹部)が追い上げる。同州のマーケット大学ロースクールが6月に実施した民主党予備選に関する世論調査(注6)では、バーンズ氏に投票するという回答が25%、ラスリー氏21%、サラ・ゴドルスキー氏(州財務長官)9%。バーンズ氏がラスリー氏をわずかに4ポイント上回る結果だった。

現職のジョンソン氏と民主党各候補との直接の対戦を想定した設問では、バーンズ氏は46%、ジョンソン氏が44%、ゴドルスキー氏も45%で、ジョンソン氏43%だった。他方でラスリー氏(42%)は、ジョンソン氏(45%)をわずかながら下回る結果だった。

ジョンソン氏は、最高裁の「ロー対ウェイド判決」破棄を支持している。そうした中、ゴドルスキー氏は2022年5月、そうしたジョンソン氏を非難する広告を最初に放映。民主党の他候補者と距離を置いて、自身の立場を明確にした。

同州の予備選は、8月9日に実施される予定だ。

フロリダ州:民主党はラテン系票獲得に注力

共和党では、トランプ氏が支持する現職のマルコ・ルビオ氏が再選を目指す。

他方の民主党では、バル・デミングス氏(連邦下院議員、元オーランド市警察署長)が最有力候補とみられる。ちなみに、同州の予備選は8月23日に予定されている。

同州での前回中間選挙(2018年)では、知事選、連邦上院選ともに民主党候補(注7)が敗北した。その敗因として、ラテン系有権者の獲得票が予想より少なかったことが指摘されていた。予想されるラテン系投票数の全投票数に占める割合をみると、フロリダ州は全米で5番目に高い(表2参照)。

そこで、デミングス氏の選挙運動では、「Todos con Demings(Everyone with Demings)」というキャンペーンを展開。ラテン系の票獲得に注力している。ちなみに、同氏はバイデン大統領の副大統領候補として名前が挙がっていたほどの存在だ。しかし、2020年の大統領選で共和党候補として立候補したルビオ氏に、知名度では及ばないとみられる。知名度を上げることが、デミングス氏の課題だ。

また、中絶問題についてデミングス氏は、「中絶を禁止する法律は、女性から憲法上の権利を奪うことになる」として、女性は中絶の権利を保持すべきと主張している。

フロリダ州では、妊娠15週目以降の人工妊娠中絶を原則として禁じる法律が2022年4月に成立。同年7月から施行予定だった。しかし、同州判事が6月30日、プライバシー保護に違反するとして差し止めの判断を示した。

表2:ラテン系有権者投票数(予想)が全投票数に占める割合が高い州 (単位:%、票)
順位 州名 ラテン系有権者投票数(予想)の全投票数に占める割合(2022年) ラテン系有権者投票数(予想、2022年) ラテン系有権者投票数増加率(2014~2022年)
1 ニューメキシコ 30.4 218,400 22.0
2 カリフォルニア 25.3 3,251,000 90.5
3 アリゾナ 22.8 644,600 77.1
4 テキサス 21.2 1,795,500 64.4
5 フロリダ 18.1 1,426,000 59.9
6 ネバダ 16.6 165,100 70.2
7 ニュージャージー 15.6 469,900 71.5
8 ニューヨーク 12.1 752,000 49.8
9 コロラド 10.9 282,000 29.4
10 イリノイ 7.9 353,500 62.2

出所:NALEOエデュケーショナル基金(2022年2月発表)

両党とも、自党に有利な政策課題の争点化を狙う

モンマス大学が6月に実施した世論調査(注8)では、「直面する最大の懸念事項」が設問に取り上げられた。そこで上位に挙がったのが、「インフレ」(33%)と「ガソリン価格」(15%)だった。同大学でポーリング研究所所長を務めるパトリック・マレー氏は「経済的な問題が懸念事項の上位に挙げられる。この痛みのため、ほとんどの国民が現政権を非難している」と指摘。中間選挙への影響が少なくないことを示唆したかたちだ。

また、同調査によると、「バイデン政権から恩恵を全く受けていない」者が54%に及ぶ。そういった中流層が過半に達したのは、過去の政権と比べても極めて高いと評価せざるを得ない。ちなみに、トランプ政権時には32%(2021年1月)、オバマ政権時は33%(2017年1月)だった。一方、「連邦議会で民主党と共和党、いずれが多数派になるのが望ましいか」という問いには、民主党が47%、共和党が47%と二分する結果だった。

他方、2022年5月にテキサス州ユバルディで起こった銃乱射事件を契機として、銃規制論争が盛り上がりを見せる。連邦議会では6月25日、「銃規制法」が28年ぶりに成立。危険人物と見なした人物から銃器を取り上げることができる「レッドフラッグ法」を、各州で制定するよう後押しする内容などが盛り込まれた(注9、2022年6月27日付ビジネス短信参照)。これらは、人工妊娠中絶問題と並んで基本的に民主党にとって追い風になる論点だ。

銃乱射事件を防止する上で有効な対策は、支持政党別にかなりの相違がある。CBSニュースと調査会社ユーガブが6月に実施した銃規制に関する世論調査(注10)によると、民主党支持者は「銃購入者の背景確認の徹底」(74%)や「半自動式銃の購入禁止」(72%)など、銃購入に厳しい制限を求める傾向がある。これに対し共和党支持者は、あくまでも銃所有を前提として対策強化を求める傾向にある。例えば「メンタルヘルスのさらなる検査や治療」(60%)、「公共の場所での警官や銃器を所持する警備員の配置強化」(59%)などの比率が高い。

経済の悪化により、バイデン大統領の支持率は4割を下回る(注11)。11月の中間選挙に向けて、共和党側では経済やインフレなどの政策課題に関して、政権与党・民主党に対する批判を高めるもようだ。一方、民主党側では人工妊娠中絶や銃規制などを争点に、票の獲得を目指すものとみられる。


注1:
サフォーク大学の世論調査の実施時期は5月22~24日。対象者はオハイオ州の予備選投票予定者500人。
注2:
AAPRの世論調査の実施時期は6月12~19日。対象者はペンシルベニア州で中間選挙に投票する予定の有権者1,382人。
注3:
トラファルガー・グループの世論調査の実施時期は6月29日~7月1日。対象者はノースカロライナ州の投票予定者1,068人。
注4:
ジョン・ロック財団の6月の世論調査の実施時期は6月17~19日。対象者はノースカロライナ州の有権者600人。
注5:
ジョン・ロック財団の5月の世論調査の実施時期は5月21~22日。対象者はノースカロライナ州の有権者600人。
注6:
マーケット大学ロースクールの世論調査の実施時期は6月14~20日。対象者はウィスコンシン州の登録有権者803人。
注7:
2018年選挙当時の知事選の共和党候補はロン・デサンティス氏、民主党候補はアンドリュー・ギラム氏。上院選の共和党候補はリック・スコット氏、民主党候補はビル・ネルソン氏。
注8:
モンマス大学の世論調査の実施時期は6月23~27日。対象者は全米の成人978人。
注9:
ただし、当該銃規制法に「銃購入年齢制限を18歳から21歳に引き上げる」条項を盛り込むことは、かなわなかった。
注10:
CBSニュースとユーガブの世論調査の実施時期は6月1~3日。対象者は全米の成人2,021人。
注11:
政治専門サイト、リアル・クリア・ポリティクスは、大統領に対する支持・不支持状況を随時発表している。7月18日時点でバイデン大統領の平均支持率は38.6%、非支持率56.4%。

上院選を左右しうる10州(米国)

  1. ラテン系や中絶問題などがカギ
  2. トランプ氏影響力なおも
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。

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