湖北省日系企業、事業拡大意向は強いが新型コロナ規制の影響に懸念(中国)

2022年12月21日

ジェトロでは年に数回、中国の武漢日本商工会の協力の下、湖北省進出日系企業を対象に、同省のビジネス環境に関する実態把握を行っている。今回は2022年11月21日から28日にかけて実施、77社から回答を得た[武漢日本商工会の会員企業は162社(11月時点)、回答率約47.5%]。本稿では、7月に行った調査結果と今回の結果を比較しつつ(2022年8月17日付地域・分析レポート参照)、11月時点の同省日系企業の実態や事業展開の意向などを紹介する。

湖北省日系企業、中期事業は45.5%が拡大と回答

今回の回答企業の属性をみると、企業所在地別では武漢市が多く、全体の83.1%を占めた(図1参照)。業種別では製造業が59.7%(図2参照)、企業規模別では、大企業が66.2%を占めた(図3参照)。

図1:企業所在地(n=77)
武漢市83.1%、孝感市5.2%、襄陽市2.6%、その他9.1%。

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

図2:業種(n=77)
製造業59.7%、非製造業40.3%。

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

図3:企業規模(n=77)
大企業66.2%、中小企業32.5%、その他1.3%

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

「2022年の事業について」は、54.5%の企業が「おおむね年初計画通り」(7月時点55.0%)、35.1%が「当初予定から規模を縮小」(7月時点37.0%)と前回並みにとどまる。また、6.5%が「当初予定から規模を拡大」(7月時点3.0%)と回答し、小幅な増加となった(図4参照)。

図4:2022年の事業について
おおむね年初計画通り54.5%(7月時55.0%)、当初予定から規模を拡大6.5%(7月時)、当初予定から規模を縮小35.1%(7月時37.0%)、その他3.9%(7月時5.0%)

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

「2025年以降の中期事業展望について」は、回答企業の45.5%が「規模を拡大する(見込み)」(7月時点37.0%)、27.3%が「現状を維持する(見込み)」(7月時点41.0%)と回答した(図5参照)。7月時点と比較して、今後規模の拡大を見込む企業の割合が8.5ポイント高くなっている。また、同質問に「まだ分からない」と回答している企業が19.5%と7月時点(6.0%)より13.5ポイント増加した。今後の事業展開について約5割が拡大と回答しているものの、新型コロナ関連規制の今後が見通しづらい点は、事業計画に大きく影響しているようだ。

図5:2025年以降の中期事業展望について
現状を維持する(見込み)27.3%(7月時37.0%)、規模を拡大する(見込み)45.5%(7月時37.0%)、規模を縮小する(見込み)6.5%(7月時15.0%)、まだ分からない19.5%(7月時6.0%)、その他1.3%(7月時1.0%)

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

「今後の中国事業での改善・見直しについて」(複数回答可)では、「工場の自動化、倉庫の自動化」「現地調達率のさらなる引き上げ」「部品や部材などの調達先のさらなる多様化」と回答した企業はいずれも41.6%で最も高かった(7月時点それぞれ、47.0%、42.0%、43.0%、図6参照)。

また、「新型コロナなどによる隔離対策の強化(敷地内の宿泊整備、食糧備蓄など)」と回答した企業が、7月時点は0%だったのにもかかわらず、今回の調査では40.3%と大きく増加した。湖北省では武漢市を中心に、2022年10月以降、各所で断続的な封鎖管理措置が続いており、それに伴い新型コロナ関連規制が強化されている。武漢市周辺では、オフィスビルの多くで出入りが禁止となり在宅勤務を強いられているケースや、製造業企業では工場敷地内に従業員を寝泊まりさせ、操業を継続させているといったケースなどが報告されている(2022年11月28日付ビジネス短信参照)。このほか、別の場所にオフィスを開設して、そこで一部業務を行うケースなども確認された。

図6:今後の中国事業での改善・見直しについて(複数回答可)
工場の自動化・倉庫の自動化41.6%(7月時47.0%)、現地調達率のさらなる引き上げ41.6%(7月時42.0%)、部品や材料などの調達先の更なる多様化41.6%(7月時43.0%)、新型コロナ等による隔離対策の強化(敷地内の宿泊施設整備、食糧備蓄等)43.0%(7月時0.0%)、カーボンピークアウト・カーボンニュートラルへの対応(工場のグリーン化等)37.7%(7月時51.0%)、新型コロナに伴う隔離リスク回避等を理由とする駐在員の現地職員への切替え23.4%(7月時25.0%)、在庫水準の引き上げ15.6%(7月時7.0%)、その他14.3%(7月時16.0%)

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

「湖北省政府、地元政府への要望」(複数回答可)については、7月時点と同様、「新型コロナ感染症対策(隔離措置など)の緩和」(90.9%、7月時点80.0%)、「日本との定期航空便の早期再開」(84.4%、7月時点88.0%)と回答する企業が圧倒的に多かった(図7参照)。

図7:湖北省政府、地元政府への要望(複数回答可)
新型コロナ感染症対策(隔離措置等)の緩和90.9%(7月時80.0%)、日本との定期航空便の早期再開84.4%(7月時88.0%)、外国人の中国駐在にかかる就労許可、査証・居留証取得にかかる柔軟な対応46.8%(7月時45.0%)、日本国総領事館の設立にかかる支持46.8%(7月時45.0%)、人件費上昇に対する支援(減税、補助金等)44.2%(7月時57.0%)、工場運営、生活維持のための電力等エネルギーの安定供給42.9%(7月時37.0%)、法規執行の安定性・透明性・利便性の維持・確保33.8%(7月時38.0%)、工場のグリーン化、スマート化に伴う湖北省の助成政策(補助金等)の説明会開催36.0%(7月時20.8%)、現地職員確保に対する支援16.9%(7月時37.0%)、鄂州花湖空港(アジア最大の貨物空港)の早期利用開始15.6%(7月時16.0%)、武漢新港(陽羅港)の取扱い貨物の範囲拡大(電池、化学品等)14.3%(7月時19.0%)、夏季集中豪雨に伴う浸水被害防止の徹底11.7%(7月時29.0%)、その他0.0%(7月時10.0%)

出所:「湖北省のビジネス環境に関する実態把握」からジェトロ作成

「新型コロナ感染症対策(隔離措置など)の緩和」については、12月6日現在、海外から湖北省に来訪する場合も、5日間の集中隔離と3日間の自宅隔離のみとなるなど一部緩和されつつあるが、企業からは、一部の国で入国時の隔離措置が撤廃されている状況と比較すると、依然厳しいとのコメントがあった。また、湖北省から他省を訪問する場合、多くの省市では48時間以内のPCR検査の陰性証明や到着時のPCR検査が求められるのに加え、来訪後5日間はスーパーマーケットなど公共の場への出入りができないといった行動制限が課される。湖北省外から武漢市への移動にあたっては、湖北省内各市へ事前に個人情報の登録が求められるほか、湖北省内でのPCR検査の徹底(24時間以内のPCR検査陰性証明がないとスーパーマーケットでの買い物も不可)や、湖北省到着から5日間は省内の公共の場に立ち入ることができなくなる(同期間中は陰性証明書を提示しても出入り不可)。省をまたぐ移動は非常に煩雑かつ困難だ。

自由な往来ができてこそ新たな投資につながるが、新型コロナ規制が長引くと日本からの投資先が中国から他国に移行してしまうといった意見が寄せられており、新型コロナ関連規制の緩和を求める声は今なお根強い。

また、「日本との定期航空便の早期再開」については、武漢市から海外への直行便は再開しつつあるが(2022年10月26日付ビジネス短信参照)、日本との直行便は2020年に新型コロナの感染拡大を受けて運休して以降、今なお再開していない。2022年12月6日現在も7月と同様、日本から武漢市へ移動する場合、広東省広州市や山東省青島市、遼寧省大連市など中国の他都市を経由する必要がある。もしくは香港やシンガポール、ソウルなどを経由した上で武漢市への直航便に搭乗する必要があり、コストや所要時間の増加が依然として大きな足かせとなっている。

自由形式のコメント欄でも、回答の大半は、日常生活や出社勤務、物流、流通、出張、生産、営業活動に影響を与える「新型コロナ関連規制」の改善、緩和、適正化であった。新型コロナ以外では、電力などエネルギーの安定供給、人材確保、半導体など部品確保、物流の拡充、為替対策などを求める声が見受けられた。

懸念される新型コロナ関連規制の影響

前述の通り、湖北省での「2022年の事業について」は、35.1%の企業が「当初予定から規模を縮小」と回答した。日系企業は縮小の理由として、新型コロナ関連規制や部品の調達難などを挙げている。一方、「2025年以降の中期事業展望について」は45.5%が「規模を拡大する(見込み)」と回答している。この回答を踏まえると、2022年の事業については一定の企業が規模縮小と回答したものの、湖北省での今後の事業拡大意欲が後退したわけではなく、同省ビジネスの可能性に引き続き期待していると考えられる。ただし、現行の新型コロナ規制が今後も継続する場合、本社の意向により中期的な事業や拠点は軌道修正せざるを得なくなる可能性があるとのコメントも寄せられた。新型コロナ関連規制の緩和が望まれている。

執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・ワルシャワ事務所、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課などを経て2021年10月から現職。