2021年貿易収支は614億700万ドルの黒字(ブラジル)
新型コロナ禍の反動で大幅に増加

2022年6月8日

ブラジル経済省は2022年1月4日、2021年(通年)の貿易収支(国際収支ベース)を発表した。新型コロナウイルス禍からの経済活動の回復などにより、新型コロナ感染拡大による影響から脱却する兆しを見せるブラジル。貿易収支の結果を通して2021年のブラジルを振り返る。また、ロシア・ウクライナ情勢が2022年のブラジル経済に与える影響についても考えていく。

1月4日のブラジル経済省の発表によると、2021年の輸出(FOB)が前年比34.2%増の2,808億1,500万ドル、輸入(FOB)が38.2%増の2,194億800万ドルで、貿易収支は614億700万ドルの黒字となった(図1、2参照)。現行の方法で統計を取り始めた1989年以降、過去最高の黒字幅になった。輸出は主に、鉄鉱石(67.8%増)、原油(56.1%増)、燃料油(43.5%増)などの増加、輸入は主に、中間財(45.7%増)の増加などが押し上げ要因となった(表1、表4参照)。

輸出額と輸入額の増加は、新型コロナ禍で減少していた人の往来について、徐々に経済活動の制限措置などが解除されたことで、外出機会などが増え、内需、外需ともに増加したことによるものだと考えられる。ブラジルでは、中南米最大の経済都市であるサンパウロ市を含むサンパウロ州で、2021年8月には新型コロナ感染拡大防止対策として約1年4カ月続いた経済活動の制限措置(2020年3月22日付州政令64881号)が解除された。これにより、具体的には、州内のレストランやバー、ショッピングセンターなどの商業施設の収容人数が80%から100%に引き上げられるなど、経済活動の本格的な再開へ向けた動きがあった(2021年8月20日付ビジネス短信参照)。

図1:貿易収支の推移(単位:100万ドル)
2014年は、マイナス99億ドル、2015年は136.78億ドル、2016年は402.05億ドル、2017年は560.37億ドル、2018年は465.68億ドル、2019年は351.99億ドル、2020年は503.93億ドル、2021年は614.07億ドル。

出所:経済省データからジェトロ作成

図2:2020年・2021年の輸出入額(単位:100万ドル)
輸出は2020年2091.80億ドル、2021年2808.15億ドル。輸入は2020年1587.87億ドル、2021年2194.08億ドル。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

農畜産物の輸出増加は販売価格の上昇が要因

輸出を主要品目別に見ると、輸出額全体の14.5%を占める鉄鉱石(前年比67.8%増)をはじめ、大豆(同35.3%増)、原油(同56.1%増)など、多くの品目において前年比で大幅な増加を記録した(表1参照)。

表1:ブラジルの主要品目別輸出(通関ベース)
輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)
品目名 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
鉄鉱石 24,259 40,716 14.5% 67.8
大豆 28,561 38,629 13.8% 35.3
原油 19,614 30,609 10.9% 56.1
サトウキビ 7,379 7,955 2.8% 7.8
大豆油かす 5,909 7,343 2.6% 24.3
牛肉 6,663 6,956 2.5% 4.4
燃料油 4,371 6,274 2.2% 43.5
化学パルプ 5,571 6,229 2.2% 11.8
コーヒー豆 4,974 5,805 2.1% 16.7
鉄の半製品、非合金鋼の半製品 2,463 5,334 1.9% 116.6
合計(その他含む) 209,180 280,815 100.0% 34.2

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

輸出額の主な増加要因としては、まず、2020年に続く通貨レアル安による価格競争力の向上(図3参照)が挙げられる。加えて、ブラジルの市場価格の上昇に伴い、輸出額も比例して増加している。前年と輸出量が変わっていない場合でも、輸出額は前年比で大幅に増加している品目もある。さらに、主要輸出品目である鉄鉱石の大幅な需要増加なども輸出額全体の増加要因だ。表1に記載のとおり、鉄鉱石は前年比で輸出額が大きく増加している。その要因は中国の経済活動回復によるものという。実際に、2021年に中国国内で生産された鋼鉄生産量は16億トンと、過去最高を記録している〔1月18日付ブラジル鉱業ニュース(NMB)〕。

図3:為替相場(ドルに対するレアル)の推移
2018年1月2日は1米ドル3.27レアル、1月23日は3.22レアル、2月15日は3.22レアル、3月8日は3.25レアル、3月29日は3.32レアル、4月20日は3.41レアル、5月14日は3.61レアル、6月5日は3.77レアル、6月26日は3.77レアル、7月17日は3.87レアル、8月7日は3.71レアル、8月28日は4.12レアル、9月19日は4.13レアル、10月10日は3.75レアル、11月1日は3.70レアル、11月26日は3.86レアル、12月17日は3.91レアル、2019年1月9日は3.69レアル、1月30日は3.71レアル、2月20日は3.71レアル、3月15日は3.83レアル、4月5日は3.86レアル、4月29日は3.94レアル、5月21日は4.08レアル、6月11日は3.87レアル、7月3日は3.85レアル、7月24日は3.76レアル、8月14日は4.01レアル、9月4日は4.12レアル、9月25日は4.18レアル、10月16日は4.17レアル、11月6日は4.03レアル、11月28日は4.25レアル、12月19日は4.06レアル、2020年1月13日は4.13レアル、2月3日は4.25レアル、2月26日は4.44レアル、3月18日は5.11レアル、4月8日は5.21レアル、5月4日は5.58レアル、5月25日は5.48レアル、6月16日は5.13レアル、7月7日は5.33レアル、7月28日は5.18レアル、8月18日は5.47レアル、9月9日は5.30レアル、9月30日は5.64レアル、10月22日は5.58レアル、11月13日は5.48レアル、12月4日は5.17レアル、12月28日は5.24レアル、2021年1月19日は5.29レアル、2月9日は5.42レアル、3月4日は5.60レアル、3月25日は5.66レアル。

出所:ブラジル中央銀行

鉄鉱石の輸出増加に加え、2021年は農畜産物の輸出額も増加した。前述した大豆の輸出額の増加をはじめ、サトウキビ(7.8%増)、大豆油かす(24.3%増)、牛肉(4.4%増)、コーヒー豆(16.7%)など、主要輸出品目の農畜産物の多くが大幅な輸出額の増加を記録した。ブラジル応用経済研究所(IPEA)によると、農畜産物の輸出額の増加は販売価格が上昇したためだという〔1月17日付ブラジル応用経済研究所(IPEA)プレスリリース〕。2021年は降雨量不足の影響などを受け、トウモロコシ、コーヒー豆などは不作だったため、生産量は減少し、販売価格が上昇した(2022年1月19日付ビジネス短信参照)。

輸出を地域別にみると、アジア(前年比31.3%増)、欧州(同29.4%増)、北米(同41.0%増)、南米(50.3%増)と、主要な輸出先地域の全てで大幅な増加となった(表2参照)。北米向け輸出額の増加は、輸出額全体の11.1%を占める米国が前年比で45.1%増加したことが影響した(表3参照)。新型コロナ感染拡大の影響を受け、2020年に前年比でマイナス27.7%となっていたが、2021年に米国での経済活動回復を受けた需要増などにより、2020年の減少の反動で大幅な増加につながったと考えられる。アジアへの輸出額が増加した主な要因は、前年に引き続き中国向け輸出が増加したためだ。中国は、2020年に多くの国が新型コロナ禍で輸出額が前年比で大幅に減少していた中でも、主要国の中で唯一増加し、同7.0%増だった。2021年はさらに同29.7%の増加を記録し、輸出全体の31.3%が中国向けとなった。ブラジルにおける中国の存在感が引き続き強まっている様子がうかがえる。

表2:ブラジルの地域別輸出入(通関ベース)(単位:100万ドル、%)

輸出(FOB)
国・地域名 2020年 2021年 伸び率
アジア(中東除く) 99,253 130,336 31.3%
階層レベル2の項目 ASEAN 14,183 19,330 36.3%
欧州 37,317 48,295 29.4%
北米 29,530 41,628 41.0%
南米 22,659 34,052 50.3%
合計(その他含む) 209,180 280,815 34.2%
輸入(FOB)
国・地域名 2020年 2021年 伸び率
アジア(中東除く) 57,930 78,158 34.9%
階層レベル2の項目 ASEAN 7,276 9,536 31.1%
欧州 39,342 51,483 30.9%
北米 33,662 46,521 38.2%
南米 18,180 26,617 46.4%
合計(その他含む) 158,787 219,408 38.2%

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

表3:ブラジルの主要国・地域別輸出(通関ベース)
輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)
国名 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 67,788 87,908 31.3% 29.7
米国 21,471 31,145 11.1% 45.1
アルゼンチン 8,489 11,878 4.2% 39.9
オランダ 6,705 9,316 3.3% 38.9
チリ 3,850 7,019 2.5% 82.3
シンガポール 3,671 5,821 2.1% 58.6
韓国 3,762 5,671 2.0% 50.7
メキシコ 3,829 5,560 2.0% 45.2
日本 4,127 5,539 2.0% 34.2
スペイン 4,057 5,433 1.9% 33.9
ドイツ 4,124 5,043 1.8% 22.3
カナダ 4,230 4,922 1.8% 16.4
インド 2,885 4,799 1.7% 66.4
マレーシア 3,203 4,675 1.7% 46.0
イタリア 3,055 3,861 1.4% 26.4
合計(その他含む) 158,787 280,815 100.0% 76.9

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

内需増加で中間財の輸入が大幅増

輸入を主要品目別にみると、輸送機器用部品(前年比37.6%増)を含む中間財(同45.7%増)が大幅に増加した(表4参照)。中間財の増加は、新型コロナ感染拡大防止対策として行っていた経済活動への制限措置の解除によって経済活動が再開し、乗用車や商用車の需要が増加し、それに伴って生産量が増加したことが主な要因とみられる。全国自動車製造業者協会(Anfavea)によると、2021年の自動車生産・販売・輸出はいずれも増加しており、乗用車・商用車の生産は前年より11.6%増加した。一方で、Anfaveaのルイス・カルロス・モラエス会長は生産台数について「2021年は前年比増加したものの、予想よりも30万台少なかった」と説明している。その理由として「世界的な半導体と電気電子部品不足により、幾つかの工場が生産を一時停止しなければならなかったためだ」と分析している(2022年1月7日付Anfavea公式プレスリリース)。同日付の現地紙「バロール」でも、2021年は半導体不足の影響を最も受けた乗用車や商用車の生産台数が前年比で微増(8.7%増)だったことが報じられていた。他方で、農産品輸出やEコマース市場が好調だったことから輸送需要が増え、トラック需要が増加した(2022年1月13日付ビジネス短信参照)。Anfaveaによると、2021年のトラックの生産台数は前年比74.6%増と急増しており、中間財の輸入の大幅増につながったとみられる。

輸入を地域別でみると、アジアが前年比34.9%増、欧州が30.9%増、北米が38.2%増、南米が46.4%増と、全ての主要輸入相手地域で増加した(表2参照)。また、輸入を主要国別にみると、最大の輸入相手である中国(輸出額全体の21.7%)が37.0%増加した(表5参照)。引き続き中国が輸入額構成比では最も多く、ブラジルでの存在感の強さがうかがえる。2020年では前年比マイナス19.8%と大幅な減少を見せた米国も、2021年は前年比41.3%増と大幅に増加した。

表4:ブラジルの主要品目別輸入(通関ベース)
輸入(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目名 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
資本財 24,174 24,368 11.1% 0.8
階層レベル2の項目資本財(輸送機器除く) 20,946 20,208 9.2% △ 3.5
階層レベル2の項目工業用輸送機器 3,228 4,160 1.9% 28.9
中間財 99,416 144,851 66.0% 45.7
階層レベル2の項目工業用資材(加工品) 58,026 89,368 40.7% 54.0
階層レベル2の項目資本財部品および付属品(輸送機器用部品除く) 19,894 25,842 11.8% 29.9
階層レベル2の項目輸送機器用部品 14,787 20,344 9.3% 37.6
階層レベル2の項目工業用資材(原料) 2,432 3,571 1.6% 46.8
消費財 21,201 24,017 10.9% 13.3
階層レベル2の項目非耐久および半耐久消費財 17,646 18,682 8.5% 5.9
階層レベル2の項目耐久消費財 3,555 5,335 2.4% 50.0
燃料及び潤滑油 13,935 26,093 11.9% 87.3
合計(その他含む) 158,787 219,408 100.0% 38.2

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

表5:ブラジルの主要国・地域別輸入(通関ベース)
輸入(FOB)(単位:100万ドル、%)
国名 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 34,778 47,651 21.7% 37.0
米国 27,876 39,385 18.0% 41.3
アルゼンチン 7,897 11,949 5.4% 51.3
ドイツ 9,369 11,346 5.2% 21.1
インド 4,167 6,728 3.1% 61.5
ロシア 2,747 5,699 2.6% 107.4
イタリア 4,077 5,479 2.5% 34.4
日本 4,191 5,146 2.3% 22.8
韓国 4,497 5,108 2.3% 13.6
フランス 4,151 4,813 2.2% 15.9
メキシコ 3,862 4,561 2.1% 18.1
チリ 2,896 4,421 2.0% 52.7
パラグアイ 2,972 3,598 1.6% 21.1
スペイン 2,633 3,317 1.5% 26.0
サウジアラビア 1,528 2,881 1.3% 88.6
合計(その他含む) 158,787 219,408 100.0% 38.2

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

存在感増す中国、ブラジル牛肉輸出増のカギは所得増加

2021年の国別の輸出入構成比をみても分かるが、ブラジルの貿易における中国の影響は大きく、その影響力は年々増している。2021年のブラジルと中国の貿易額は1,300億ドルを超え、過去最高を記録した。例えば、ブラジルの主要輸出品目のうち、輸出構成比の13.8%を占める大豆の輸出先の70.4%が中国だ。また、牛肉も輸出額全体の62.8%が中国向けである。米国は輸出全体の構成比でみると11.1%、輸入全体の構成比で18.0%と低くはないが、これまでの中国と米国の輸出入額の推移をみてみると、中国と米国の差が年々拡大していることが分かる(図4、5参照)。中国と米国向け輸出額の推移をみると、2009年に輸出額で中国が初めて米国を上回ってから、2021年まで中国が連続して米国を上回っている。さらに、2021年から過去5年のブラジルと中国の貿易額をみると年々増加傾向にある(図6参照)。

前述のとおり、現在も牛肉の主要輸出先国の中国だが、IPEAによると、中国の所得増加によってさらなる需要の増加が見込めるという(1月17日付IPEAプレスリリース)。同発表によると、1日当たりの中国国民のタンパク質摂取量は6.6グラムだという。米国の38.6グラム、ブラジルの36.3グラム、EUの14.7グラムと比べても低い数値だ。所得が増えることにより、現在は植物性タンパク質を取っている低所得者層も、高付加価値製品の動物性タンパク質の購入が可能になる。中国国内の所得増加により、ブラジルの牛肉輸出はさらに増える可能性があるということだ。加えて、牛肉と同様にブラジルの主要輸出品目である鶏肉(注1)も、同じ動物性タンパク質を含む食品という意味で、既に主要な輸出先国が中国ではあるものの、今後、さらなる輸出増加が見込まれると考えられる。こういったことからも、今後もブラジルにとって輸出先としての中国の存在感はさらに強まっていくだろう。

図4:中国・米国の輸出額の推移 (単位:100万ドル)
中国への輸出は、2008年165.20億ドル、2009年209.95億ドル、2010年307.48億ドル、2011年443.05億ドル、2012年412.26億ドル、2013年460.23億ドル、2014年406.12億ドル、2015年351.55億ドル、2016年351.33億ドル、2017年474.88億ドル、2018年639.30億ドル、2019年633.58億ドル、2020年677.88億ドル、2021年879.08億ドル。米国への輸出は、2008年265.47億ドル、2009年155.99億ドル、2010年193.00億ドル、2011年257.76億ドル、2012年266.46億ドル、2013年246.44億ドル、2014年270.17億ドル、2015年240.37億ドル、2016年231.55億ドル、2017年268.72億ドル、2018年286.97億ドル、2019年297.16億ドル、2020年214.71億ドル、2021年311.45億ドル。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

図5:中国・米国の輸入額の推移(単位:100万ドル)
中国からの輸入は、2008年200.35億ドル、2009年159.05億ドル、2010年255.91億ドル、2011年327.86億ドル、2012年342.45億ドル、2013年373.25億ドル、2014年373.49億ドル、2015年307.14億ドル、2016年233.50億ドル、2017年275.54億ドル、2018年351.57億ドル、2019年360.28億ドル、2020年347.78億ドル、2021年476.51億ドル。米国からの輸入は、2008年256.19億ドル、2009年200.28億ドル、2010年270.38億ドル、2011年339.73億ドル、2012年324.83億ドル、2013年360.16億ドル、2014年350.15億ドル、2015年264.80億ドル、2016年238.16億ドル、2017年278.10億ドル、2018年328.31億ドル、2019年347.74億ドル、2020年278.76億ドル、2021年393.85億ドル。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

図6:過去5年間の中国との貿易額の推移 (単位:100万ドル)
2017年は750.42億ドル、2018年は990.87億ドル、2019年は993.86億ドル、2020年は1025.67億ドル、2021年は1355.59億ドル。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

対ロシア経済制裁しないブラジルでもロシア・ウクライナ情勢の影響出始める

ブラジル政府は3月2日、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて開催された国連総会の緊急特別会合で「ロシアに対して軍事行動の即時停止を求める決議案」に賛成票を投じた。その一方で、ジャイール・ボルソナーロ大統領はウクライナおよびロシアとの関係について「ブラジルはバランスの取れた立場を維持する。」と述べ(3月3日付現地政府系メディア「アジェンシア・ブラジル」)、一部の民間企業の個別の対ロシア制裁措置を除き(2022年3月8日付ビジネス短信参照)、政府としての経済制裁措置は行っていない。

ブラジルは国内で使用している肥料の85%を外国からの輸入に頼っており、その主要な輸入相手国はロシアだ。ブラジル経済省貿易統計(COMEXSTAT)のデータによると、2021年のブラジルの対ロシア輸入額は約56億9,900万ドルで国別6位(表5参照)。ロシアからの輸入品目は上位3品目が「肥料関連(HSコード3104、3105、3102)」で、その輸入額は合計で約35億3,100万ドル(ロシア輸入額全体の62%)。同品目の輸入合計額では、ロシアがブラジルにとって最大の輸入相手国だ(2022年2月24日付ビジネス短信参照)。ウクライナ情勢により肥料の供給不足が懸念される中、ブラジル政府は3月11日、同日付で「国家肥料計画2022-2050」(政令第10,991号、注2)を施行した(2022年3月22日付ビジネス短信参照)。また、ブラジルの食肉加工大手JBSは3月22日に同日付自社の公式リリースで、肥料の国内生産と販売を開始したと発表している。同社のこの事業はロシア・ウクライナ情勢の悪化の前から開始していたもので、ウクライナ情勢をきっかけとしたものではないとしている。

5月13日時点のCOMEXSTATのデータによると、ロシア、ウクライナ両国からの輸入額の推移は図7と図8のとおりで、現在のロシア・ウクライナ情勢によるとみられる大きなマイナスの影響は確認できない。ウクライナからの輸入は前年同期比で見ると大幅に減少しているものの、ロシア・ウクライナ情勢の悪化が武力行使などで顕在化した2022年3月以降の輸入額に大幅な変動はみられない。また、ロシアからの輸入額については、4月は前月比でむしろ大幅に増加している。これらの結果をみると、現時点ではブラジルがロシアやウクライナから輸入している肥料などの産品が突然輸入できなくなっているという状況ではないのかもしれない。一方で、ブラジルからロシア、ウクライナへの輸出額の推移を確認すると、両国ともに2022年は輸出額が減少している(図9、10参照)。特に、ロシアの武力行使により両国の状況が悪化した3月以降、大幅にブラジルからの輸出額が減少している様子が確認できる。

今後も、ロシア・ウクライナ情勢による影響は不透明さを増す可能性があり、この情勢にかかわらず、いつどのような理由でブラジルの貿易に影響が出てくるかは分からない。そういった意味で、ロシア・ウクライナ情勢による輸入への影響が今回出なかったとしても、前述した肥料の国内自給率を上げる活動は必要といえるだろう。ロシア・ウクライナ情勢の先行きは見通せない中だが、引き続き2022年のブラジル経済への影響について注視していきたい。

図7:過去5年間の1~4月のロシアからの輸入額の推移
2018年1月は277,814,197ドル、2月は195,866,194ドル、3月は218,141,001ドル、4月は230,686,346ドル。2019年1月は297,489,850ドル、2月は241,256,946ドル、3月は270,895,438ドル、4月は232,985,589ドル。2020年1月は192,696,600ドル、2月は162,740,117ドル、3月は241,806,218ドル、4月は212,003,380ドル。2021年1月は298,069,016ドル、2月は346,452,562ドル、3月は345,599,639ドル、4月は272,474,904ドル。2022年1月は529,983,810ドル、2月は485,307,906ドル、3月は565,229,201ドル、4月は805,925,691ドル。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

図8:過去5年間の1~4月のウクライナからの輸入額の推移
2018年1月は2,847,740ドル、2月は6,606,706ドル、3月は4,608,798ドル、4月は2,905,882ドル、2019年1月は6,829,333ドル、2月は8,249,817ドル、3月は8,379,689ドル、4月は12,062,730ドル。2020年1月は4,942,368ドル、2月は7,806,233ドル、3月は9,612,772ドル、4月は3,347,814ドル。2021年1月は12,235,803ドル、2月は24,812,066ドル、3月は12,402,963ドル、4月は26,753,392ドル。2022年1月は7,372,638ドル、2月は4,966,017ドル、3月は6,026,559ドル、4月は5,411,060ドル。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

図9:過去5年間の1~4月のロシアへの輸出額の推移
2018年1月は111,604,685ドル、2月は132,345,635ドル、3月は153,837,199ドル、4月は167,506,974ドル。2019年1月は146,007,078ドル、2月は81,088,379ドル、3月は153,482,553ドル、4月は153,148,655ドル。2020年1月は125,987,900ドル、2月は115,404,086ドル、3月は137,450,021ドル、4月は100,898,980ドル。2021年1月は71,316,865ドル、2月は80,365,615ドル、3月は118,042,526ドル、4月は139,155,162ドル。2022年1月は225,835,364ドル、2月は250,906,164ドル、3月は172,805,791ドル、4月は91,981,328ドル。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成

図10:過去5年間の1~4月のウクライナへの輸出額の推移
2018年1月は7,711,628ドル、2月は10,387,229ドル、3月は10,898,473ドル、4月は8,314,363ドル。2019年1月は7,454,971ドル、2月は12,211,097ドル、3月は7,517,791ドル、4月は7,251,712ドル。2020年1月は14,675,747ドル、2月は7,751,711ドル、3月は11,337,210ドル、4月は9,559,485ドル。2021年1月は11,992,726ドル、2月は22,995,459ドル、3月は35,222,960ドル、4月は18,578,639ドル。2022年1月は24,597,368ドル、2月は18,645,718ドル、3月は13,645,555ドル、4月は1,255,472ドル。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)からジェトロ作成


注1:
2021年の冷凍鶏肉(HSコード:020714)の中国への輸出額は約12億7,235万ドルで、中国が最も多い。
注2:
肥料の国産化を促進し、外国からの輸入依存度を下げる目的で施行した。具体的には、2050年までに肥料の輸入割合を45%に低下させるという。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
髙氏 朋佳(たかうじ ともか)
2020年、ジェトロ入構。2020年4月から現職。