ナイジェリアを取り巻く経済課題とは
石油依存体質脱却から外貨不足対策まで

2021年10月26日

ナイジェリアの国内総生産(GDP)は4,294億ドル(2020年)、人口は2億人超。ともにアフリカ最大だ。平均年齢は18歳。国連の中位推計では、少なくとも2100年まで人口ボーナスが継続し、2090年代には7億人を突破すると予測されている。1人当たりGDPは2,430ドルで、アフリカ54カ国中18位だ。ナイジェリア国家統計局(NBS)が8月に発表した2021年第2四半期の実質GDP成長率は5.0%で、2014年第4四半期以来の高水準となった(表参照)。

長らく低空飛行を続けてきたナイジェリア経済にとって、朗報ではある。しかし、以下の点を踏まえておく必要がある。

  • 前年同期の2020年第2四半期は、新型コロナウイルス禍で政府がラゴス州や連邦首都地区(FCT)など一部地域でロックダウンが実施されていた。これに伴い、大幅な経済活動の停滞があった。すなわち、当期のプラス成長は相対的な要因が大きい。
  • 外貨獲得手段の大きな柱が鉱業セクターだ。そのセクターが、前年同期比マイナス3%と大きく落ち込んでいる。

ナイジェリアは、「オランダ病」を経験し、食料品やガソリンなどの消費財の多くを輸入に頼る。外貨不足は頭の痛い問題だ。本稿では、コロナ禍以降、石油を巡る世界の潮流が、ナイジェリア経済にどう影響を与えているか、外貨不足に陥ったメカニズムをひもときながら見ていきたい。

表:ナイジェリアの主要産業別実質GDP成長率(前年同期比、%)(△はマイナス値)
産業 2020年 2021年
通年 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2
全体 △ 1.9 1.9 △ 6.1 △ 3.6 0.1 0.5 5.0
農業 2.2 2.2 1.6 1.4 3.4 2.3 1.3
卸・小売 △ 8.5 △ 2.8 △ 16.6 △ 12.1 △ 3.2 △ 2.4 22.5
情報通信 12.9 7.6 16.5 16.1 14.7 6.3 5.5
製造業 △ 2.8 0.4 △ 8.8 △ 1.5 △ 1.5 3.4 3.5
不動産 △ 9.2 △ 4.8 △ 22.0 △ 13.4 2.8 1.8 3.8
鉱業 △ 8.5 4.6 △ 6.6 △ 13.2 △ 18.4 △ 2.2 △ 12.3
建設 △ 7.7 1.7 △ 31.8 2.8 1.2 1.4 3.7
金融・保険 9.4 20.8 18.5 3.2 △ 3.6 △ 0.5 △ 2.5

出所:国家統計局(詳細な表から主な産業を抽出)

高油価下にもかかわらず、外貨準備高が減少

ナイジェリアでは、1956年に初めて油田の存在が確認された。1970年代のオイル・ブームを迎えると、軍事政権下で経済が大きく発展。1971年には石油輸出機構(OPEC)の加盟国になった。ところが、1970~1980年代に相次いで建設された日量計44.5万バレルの精製能力を持つ国内3カ所の製油所は、現在すべて稼働を停止している。オイル・ドゥーム期(石油価格の下落と石油生産の減少による経済不況)のメンテナンス不足がその原因だ。その結果、産油国にもかかわらず、ガソリンをはじめとする石油製品のほとんどを輸入に依存。現時点で、石油製品は輸入総額の2割近くを占めるに至っている。

ナイジェリアの主な外貨獲得手段は原油輸出のため、外貨準備高は油価と連動してきた。しかし、コロナ禍以降、OPECプラスでの減産合意に基づき産油量・輸出量ともに大きく減少。その結果、油価の急激な回復にもかかわらず外貨準備高に反映されていない。これまで見られた油価と外貨準備高の相関関係も覆されたかたちだ(図1参照)。

図1:原油価格とナイジェリアの外貨準備高の関係性
2019年1月から2021年9月の原油価格と外貨準備高を示したグラフである。新型コロナウイルスの感染拡大までは外貨準備高は原油価格に連動するように推移していたが、OPECプラスの減産合意後、油価は回復したが外貨準備高は減少を続けている。

出所:OPEC、ナイジェリア中央銀行(CBN)のデータからジェトロ作成

燃料補助金で外貨準備が目減り

石油の輸出減少や石油製品の輸入増加以外で、外貨不足に拍車をかけているのが燃料補助金だ。

燃料補助金は、ガソリンの小売価格安定を目的として、1970年代から導入された。その補助を反映したガソリンは、ナイジェリアでプレミアム・モーター・スピリット(PMS)と呼ばれる。ラゴス市内のガソリンスタンドで販価は、現在1リットルあたり162.5ナイラ(約45.5円、1ナイラ=約0.28円)だ。昨今のパンデミックや原油高でも、小売価格にはほとんど値動きがない。これは燃料補助金の投入額が増加していることを意味する。2021年3月のデータでは、図2のとおり、燃料補助金によってガソリン小売価格は商品代金を下回る水準に据え置かれている。

一方で、原油売却による収益は、国営石油公社(NNPC)が一括して管理している。燃料補助金はNNPCから支出されているため、獲得する外貨収益が目減りしてしまうのだ。

図2:ナイジェリアにおけるガソリン価格(プレミアムモータースピリット:PMS)の実態
内側の円グラフでは、ガソリンスタンドの小売価格と燃料補助金の割合を示している。外側のグラフはコストの内訳を示している。

出所:PPPRA Petroleum Products Pricing Template 2021 March, 国家統計局(NBS) PMS price watchを基にジェトロ作成

さらに、燃料補助金は、安価なガソリンが隣国に密輸出を促進されるなどの弊害をももたらす。推計によると、ナイジェリアは1日あたり約1億リットルのガソリンを輸入している。片や、国内での消費量は同6,000万リットルと推定される。となると、残り4,000万リットルは、隣国のベナンやニジェールなどガソリンがより高く販売されている国に密輸されていることなりそうだ。政府は、密輸防止に向け国境警備などに注力してはいる。しかし、警備員が賄賂によってブローカーに買収されるなど、いたちごっこが続く。

外貨不足が物価上昇を誘発

以上のように、石油をめぐる複合的な要因によって外貨不足がもたらされているのが現状だ。さらに、外貨不足はナイジェリア特有の複雑な為替制度にも影響し、物価上昇を招いている。

ナイジェリアでは多重為替制度を採用されている。具体的には、中央銀行(CBN)の定める公定レート、投資家ならびに輸入業者用(NAFEX)レート、公認両替商の市中為替(BDC)レート、ブラックマーケットレートが存在する。コロナ禍以前、管理フロート制のもとでCBNは手元の米ドルを売却しナイラを買い支えることで、公定レートを1ドル=約305ナイラ前後で安定させていた。ところが、2020年3月下旬以降、外貨不足によりCBNは公定レートを切り下げた。さらに2021年5月には、NAFEXレートと統一させた(2021年5月27日付ビジネス短信参照)(図3参照)。相次ぐ公定レートの切り下げは、実勢レート(BDCレート)の下落を招いた。2021年7月、CBNがBDCへの外貨供給を停止すると(2021年7月30日付ビジネス短信参照)、流通量の少ない外貨をめぐって中小輸入業者間で争奪戦が発生。2021年9月末時点で1ドル=570ナイラまで続落した。また、国内で約5,000人存在していたBDCトレーダーは、廃業に追い込まれるなど苦境に立たされている。

CBNは、外貨のすべては商業銀行に分配されると発表してはいる。しかし、銀行への外貨供給が大幅に増幅したという動きが、現状では見られない。輸入業者にとって外貨取得は、なおも非常に頭の痛い問題だ。

図3:ナイジェリアの対米ドル為替相場(1米ドルあたり)
2019年1月から2021年9月までのナイジェリアの対米ドル多重為替相場を示したグラフである。コロナ以前は公定レートと実勢レートの差は約55ナイラだった。しかし、2021年7月に中央銀行がBDCへの外貨供給を停止したことで公定レートと実勢レートの差は160ナイラまで広がった。

出所:CBNデータなどを基にジェトロ作成

ナイジェリアでは、消費財の多くも輸入に依存する。為替レートの切り下げはインフレ率の上昇を招き、2021年8月の物価上昇率は年率17.0%、食料品に限れば20.3%に達した。

長期的には経済体質の変革、短期的には外貨対策が課題

ナイジェリア政府も、不足する外貨に対して無策ではない。2021年だけでも、国際金融機関や中国政府系金融機関から、合計160億ドルの新規融資を取り付けた。その結果、外貨準備高は2021年7月下旬の331億ドルから9月末には364億ドルへと回復した。また、ナイジェリアの公的債務額は、対外・対内合計で約33兆ナイラ。GDP比に占める割合は約32%と、いまだ世界的に低い水準にとどまる。CBNの公認両替商向け外貨供給の停止で、現在は公定と実勢のレート差が開いた状態だ。しかし、外貨供給が増えていけば、長期的にはレートの安定化と統一化に向けて収束していくと考えられる。

また、ムハンマド・ブハリ政権は川上統合プログラム(Backward Integration Program、BIP)を掲げ、輸入制限と国内生産体制の強化によって外貨流出に歯止めをかけようとしている。その手段はかなり強硬で、柔軟性に欠ける印象はある(注)。だとしても、人口が増え続ける将来を見据えた策として、方向性は正しいといえる。

汚職の温床とされた石油セクター改革も、ブハリ政権が主導した目玉政策の1つと言えるだろう。20年以上の歳月を経て、2021年8月に発効したのが石油産業法(PIA)だ。経済における天然資源の重要性を強調した上で、石油探査の強化やロイヤルティー率の引き下げなどを規定した(2021年8月23日付ビジネス短信参照)。

これまで見てきたとおり、現在のナイジェリア経済は、以下のとおり、原油の影響を大きく受けてしまう体質から抜け出せていない。

  • 原油輸出量の減少による歳入減、油価上昇による石油製品などの輸入と燃料補助金の増大による外貨不足。
  • CBNによる外貨供給量の絞り込みとそれによる需給バランスの崩壊、ナイラの価値低下。
  • 通貨下落が輸入品を中心にインフレを引き起こし、国民の可処分所得が減少、消費に悪影響を与える。

持続可能な成長のためには、中・長期的に天然資源異存体質から脱却していく必要がある。燃料補助金の廃止も同様だ。もっとも、当補助金は過去にも廃止しようとしては大規模なデモ・暴動が発生し実現できなかった。経済のありようは、一朝一夕に転換できるものではない。他方で、短期的な課題としては、多重為替レートの統一化、輸入企業に対する外貨の安定供給などがある。こうした面では、柔軟な金融政策が政府に求められていると言えるだろう。

あわせて、外国人投資家に魅力的な市場づくりができるかどうかが、ナイジェリアの持続的な発展に向けたカギと言えそうだ。


注1:
具体的に取られた施策としては、例えば、隣国ベナンとの国境封鎖(2019年10月10日付ビジネス短信参照)や、特定業者だけに対象を限った輸入ライセンス付与(2021年7月28日付ビジネス短信参照)がある。
執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所
谷波 拓真(たになみ たくま)
2013年、ジェトロ入構。知的財産課、ジェトロ金沢、ジェトロ・アジア経済研究所を経て、2019年12月から現職。