1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. 中国製ワクチンの海外展開を読み解く

中国製ワクチンの海外展開を読み解く

2021年8月4日

中国では、新型コロナウイルスの累計ワクチン接種回数が15億6,500万回を超えた(2021年7月26日時点)。国内での接種が進む中で、海外へのワクチン提供も加速している(2021年6月30日付ビジネス短信参照)。世界各国・地域でワクチン接種の進展が、経済回復に向けた重要な鍵となる中で、中国製ワクチンの輸出や現地生産の動向にも注目が集まる。

本稿では、世界各国・地域での中国製ワクチンの貢献を把握するため、中国政府のワクチンの海外供給に関する方針や、実際の供給状況について、政策文書や統計などを基に整理する。

早期から一貫して海外供給に積極姿勢

中国政府が新型コロナのワクチン開発に関する方針を初めて示したのは、武漢市で都市封鎖が実施された2日前の2020年1月21日にさかのぼる。同日、科学技術部が専門家らを招集し、「新型コロナの共同予防抑制メカニズム科学研究グループ第1回会議」を開催した。この会議で、感染ルートの追跡や、迅速な免疫学的検査方法、重症者に対する適切な治療方針などとともに、国家レベルで迅速なワクチンの研究開発を各関連部門がただちに進めるよう要求された。

中国は、開発したワクチンを国内への供給だけでなく、海外へ積極的に提供する意思があることについても早期から言及してきた。

2020年5月に開催された全国人民代表大会の閉幕式後の記者会見では、李克強首相が「ワクチンや有効な薬剤、試験試薬の研究開発における飛躍的進歩を加速する必要がある」と強調。「これらの製品は世界的な公共財であり、人類が最終的にウイルスという敵に打ち勝つことができるよう、中国はそれらを共有する用意がある」と発言した。中国政府は、その後もワクチンは「公共財」であると一貫して発言している。また、製品の提供に加えて技術の供与についても言及がされるようになった。

最近では、世界保健サミットでの習近平国家主席の発言がある。同サミットは2021年5月21日、20カ国・地域(G20)を中心に、新型コロナ対策の国際協力を議論する場としてオンラインで開催された。この場で習主席は、「中国は『ワクチンナショナリズム』を放棄し、ワクチンの生産能力と分配の問題を解決し、開発途上国のアクセシビリティを向上させる必要がある」「中国は、中国のワクチンメーカーが開発途上国に技術移転を進め、協力して生産を行うことを支持する」と述べた。

なお、ワクチンを含め、新型コロナ対応に必要な医療製品・技術に関する知財保護の一時的な免除は2020年10月、インドや南アフリカ共和国によってWTOに提案されていた(注1)。中国や途上国を中心に、これまでに60以上のWTO加盟国がこの提案に支持を表明している。ただし、この提案が実現するためには全ての加盟国の賛成が必要で、議論が継続されている(2021年6月14日付ビジネス短信参照)。

海外供給先の比重はアジアや中南米が大きい

中国国内で承認済みの新型コロナワクチンを製造する事業者としては、(1)中国医薬集団(シノファーム)北京生物研究所、(2)中国医薬集団(シノファーム)武漢生物製品研究所、(3)北京科興中維生物技術(シノバック・バイオテック)、(4)康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)、(5)安徽智飛竜科馬生物製薬がある(ただし、(5)は緊急使用として承認)。中国政府が2021年6月22日に公表した「対外輸出できる新型コロナウイルスワクチン製品リストの公布に関する公告」には、(1)~(4)のワクチンが盛り込まれた。中国政府は、改めてリストに掲載されたワクチンの生産企業が自社で輸出することを支持すると表明した。

これまでの新型コロナワクチンの海外供給実績について、中国外交部は2021年7月12日の記者会見で、「中国は100を超える国と国際機関に対し、5億回分以上のワクチンとその原液を提供した。これは全世界の新型コロナワクチンの総生産量の6分の1にあたる」と発言した。

供給先の内訳についてより詳しくみるため、ブリッジコンサルティング(注2)の「中国COVID-19ワクチントラッカー」を参照する。2021年7月19日時点の同ウェブサイトによると、中国の海外への新型コロナワクチン供給数は、102カ国向けに累計約4億7,680万回分だ。この数字は、中国政府による公式発表に近い。また、購入契約ベース(供給予定分を含む)の数量をみると8億8,451万回分に上る。無償提供分(2,763万回)の30倍以上の規模になっている。購入契約ベースの提供先を地域別にみると、中南米とアジア大洋州で8割強を占める。無償提供分は、アジア大洋州が7割弱を占め、アフリカが4分の1弱で続く。ワクチンの深刻な不足が伝えられるアフリカなどへの無償提供分は、現段階でごく一部にとどまることがわかる。

ただし、シノファームとシノバック・バイオテックのワクチンは、それぞれ2021年5月と6月に世界保健機関(WHO)の緊急使用リストに追加され、これにより「COVAXファシリティー」を通じた供給が開始されることになる。なお、「COVAXファシリティー」とは、新型コロナワクチンの公平な配分を目指す国際的な共同購入の枠組みだ。当ファシリティーは、GAVIワクチンアライアンス(途上国のワクチン普及を支援する国際組織)、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)、WHOの3者が主導して運営される。GAVIワクチンアライアンスは7月12日、「COVAXファシリティー」向けに、2022年半ばまでに両社合わせ最大5億5,000万回分のワクチンを調達する事前契約に調印したと発表した。

「一帯一路」参画国に向け、ワクチン協力を提唱

次に、中国の輸出統計から提供先について、国レベルでの動向をみる。ジェトロが、各国統計を基に作成されたグローバル・トレード・アトラスに基づき、中国の2021年1~6月累計のワクチンの輸出額を計算したところ、50億ドルに達した(注3)。国・地域別にみると、輸出額の多い先には、アジアや中南米などの新興国が目立つ(表1参照)。この結果は、先述したブリッジコンサルティングによる供給先地域の調査とも合致する。また、上位10カ国のうち8カ国は、中国政府が提唱する「一帯一路」構想への参画国(注4)だ。

表1:中国の人用ワクチン輸出先上位10カ国(2021年1~6月累月金額順)(△はマイナス値)
順位 輸出先上位10カ国
(1~6月累月金額順)
2021年1~6月
(累月)
2021年6月
(単月)
金額
(千ドル)
シェア
(%)
金額
(千ドル)
伸び率
(前月比、%)
シェア
(%)
1 インドネシア* 668,643 13.3 145,204 53.4 10.3
2 アラブ首長国連邦* 341,468 6.8 40,957 △ 54.3 2.9
3 ブラジル 339,893 6.8 75,382 111.1 5.4
4 トルコ* 300,992 6.0 47,769 168.4 3.4
5 パキスタン* 285,211 5.7 156,776 136.8 11.1
6 メキシコ 271,409 5.4 60,569 44.6 4.3
7 チリ* 221,853 4.4 21,039 △ 54.8 1.5
8 マレーシア* 210,564 4.2 129,414 228.6 9.2
9 モロッコ* 208,647 4.2 14,550 △ 90.0 1.0
10 ドミニカ共和国* 196,366 3.9 99,000 82.5 7.0
輸出額合計(対世界) 5,019,824 100.0 1,406,254 25.7 100.0

注1:HSコード300220 類に属する人用ワクチンのデータを抽出。
注2:*印は、中国政府が提唱する「一帯一路」構想への参画国。
出所:グローバル・トレード・アトラスよりジェトロ作成

実際に、中国は「一帯一路」のパートナーシップ関係において、ワクチン協力を重要なテーマの1つとして取り組む姿勢を示してきた(2020年6月25日付ビジネス短信参照)。最近では、2021年6月23日に開催された「一帯一路」アジア太平洋地域国際協力ハイレベル会議の共通認識として、ワクチンの共同開発や技術交流の促進などを含む7項目を重点として進める旨が提唱された(参考参照)。なお、この会議は王毅国務委員兼外交部長(外相)が議長を務め、コロンビアの大統領を含む合計29カ国の政府要人や国連など国際組織の関係者らが参加した(2021年6月24日「新華網」)。

参考:「一帯一路」アジア太平洋地域国際協力ハイレベル会議におけるワクチン協力に関する共通認識

  1. ワクチンの監督管理政策に関するコミュニケーションを強化し、ワクチンの安全性と有効性を共同で確保する。
  2. 条件が整うワクチン生産国は、企業がWHOのCOVAXプログラムにより多くのワクチンを提供することを支持する。
  3. 各国の政府や企業が途上国に対しワクチンの無償提供を行うことや、負担可能な価格でワクチンを輸出することを支持する。
  4. ワクチンの共同開発や技術交流を促進し、途上国に対する関連技術の移転を奨励する。
  5. ワクチン生産企業が途上国とワクチン共同生産パートナーシップ関係を構築し、世界におけるワクチン生産を拡大することを推進する。
  6. 各国がワクチンを選択する権利を尊重しつつ、地域および多国間の開発銀行が途上国のワクチン調達および生産に際しより多くの融資を提供することを奨励する。
  7. 「一帯一路」における相互協力を強化し、ワクチンの国境を越えた円滑な輸送を確保する。

出所:2021年6月24日「新華網」よりジェトロ作成

UAEやブラジルなどでは欧米メーカーからの調達も進む

中国からのワクチン供給が多い国でも、中国への依存度が突出して高まっているとは必ずしも言えない点には、留意が必要だ。各国の状況により、中国製ワクチンへの依存度合いはさまざまだ。

中国の輸出額が最も多いのはインドネシアだ。そのインドネシア側の統計で2021年1~5月(累計)の人用ワクチンの輸入額(注5)をみると、全体に占める中国のシェアは91.0%と圧倒的だ。同国での新型コロナワクチンの接種状況をみても、公的接種ではシノバック・バイオテック製に、民間接種ではシノファーム製に頼る状況がうかがえる。また、輸出額7位のチリでも、7月2日時点の使用状況でシノバック・バイオテック製の割合が約8割にぼる(ジェトロ「海外主要国・地域のワクチン接種状況(2021年7月6日時点)PDFファイル(1.05MB)」参照)。

他方で、輸出額が2番目に多いアラブ首長国連邦(UAE)では、状況が異なる。同国では10月にドバイで万国博覧会を控え、ワクチンの接種を急ピッチで進められている。2020年12月11日に、シノファーム製ワクチンによる接種を開始した。それからほどなく、12月23日には米国のファイザーとドイツのビオンテックが共同開発したワクチンの接種も開始された。接種希望者は、いずれかを選択できるようになっている(2020年12月28日付ビジネス短信参照)。

また、3位のブラジルでもワクチンの使用状況をみると、英国のアストラゼネガ製(46.2%)とシノバック・バイオテック製(45.3%)がほぼ並ぶ(ジェトロ「海外主要国・地域のワクチン接種状況(2021年7月6日時点)PDFファイル(1.05MB)」参照)。

海外生産を開始も、現時点ではパッケージング工程が中心

海外からワクチン提供を受ける各国にとって、ワクチンの安定的な調達につながる有効な手段の1つが自国内でのワクチン生産の実現だ。中国政府も、既述のとおり中国のワクチンメーカーが開発途上国に技術移転を進め、協力して生産を行うことを支持すると表明している。そうした中、シノバック・バイオテックやシノファームを中心として、海外での生産を計画する動きがみられる。一部では、実際に生産の開始も伝えられている(表2参照)。

表2:中国メーカーによる新型コロナウイルスワクチンの海外生産計画および生産状況
地域 中国メーカー 提携先 計画年間生産力(推計)
(単位:100万回分)
現時点までの生産量
(単位:100万回分)
アフリカ エジプト* シノバック Vacsera 80 1
モロッコ* シノファーム Sothema 60 n.a.
アルジェリア* シノバック Saidal n.a. n.a.
アジア インドネシア* シノバック Bio Farma 250 n.a.
マレーシア* シノバック Pharmangia 2 2
アラブ首長国連邦* シノファーム Gulf Pharmaceutical Industries & Group 42 200 0
パキスタン* カンシノ National Institute of Health 36 0
バングラデシュ* シノファーム n.a. n.a.
欧州 セルビア* シノファーム 24 0
トルコ* シノバック n.a. 0
中南米 アルゼンチン シノファーム n.a. 0
ブラジル シノバック Butantan Institute n.a. 21
ブラジル シノバック Butantan Institute 100 0
メキシコ カンシノ Drugmex 85 n.a.

注:*印は、中国政府が提唱する「一帯一路」構想への参画国。
出所:ブリッジコンサルティング「中国COVID-19ワクチントラッカー」および各種報道よりジェトロ作成(2021年7月19日時点)

例えば、エジプトでは、シノバック・バイオテックが現地国営医薬品企業VACSERAとの協力により、2021年6月から現地でのワクチン生産を開始した。エジプト政府は2021年末までに4,000万回分の製造を計画し、国内のほか、ワクチン接種が遅れるアフリカ諸国に向けた供給も目指すという(2021年6月10日付ビジネス短信参照)。シノバック・バイオテックは、2020年7月に第3期の治験を実施したブラジル、トルコ、インドネシアなどでも生産計画を進めているとされる。

シノファームも、アジア、アフリカ、欧州、中南米の各地で生産を計画している。UAEでは、アブダビのテック企業「グループ42(G42)」との合弁により、生産工場が建設された(2021年3月30日付ビジネス短信参照)。2021年内の生産開始が予定されており、年間生産能力は2億回分となる見込みだ。中国メディアは、アブダビのテック会社との合弁事業の一部として、現地製薬企業のGulf Pharmaceutical Industries PSCが設立する臨時の生産ラインで小規模の生産を2021年4月からはじめた、と伝える(2021年3月30日「環球時報」)。

ただ、ワクチン生産の核となる技術の移転が、どの程度進められているかは不透明だ。ワクチンの製造は、原液を製造する工程と、充填(じゅうてん)と包装を行う工程の大きく2段階に分かれる。これまでに発表された中国のワクチンメーカーの海外生産では、目下のところ中国から原液を輸入。現地での生産活動は充填と包装の工程に限られている。

2021年5月21日付の「環球時報」で、同紙が取材した有識者は「シノバック・バイオテックとシノファームによる新型コロナワクチンはいずれも不活化ワクチンで、バイオセーフティーレベルの要件が非常に高い。現地で原液を生産する場合は、鑑定、分析、品質管理などの技術を確保しなければならない。その上、技術の成熟度や人材のレベルといった問題も考慮しなければならない。短期間で(原液から生産する)生産工場を建設し、現地生産を実現するのは困難」と指摘する。

中国国内のワクチン需要が、ワクチン接種が進展するについて落ち着く中で、今後、中国から海外向けの供給が拡大するとみられる。「COVAXファシリティー」を通じた供給、中国のワクチンメーカーの海外工場も立ち上がることで、今後ますます中国ワクチンが海外に普及することが予想される。

中国政府の主張のとおり、ワクチンを「公共財」として多くの人々が制限を受けることなく利用できる状況を実現するためには、なおも課題含みだ。まずは、経済力や国家間の政治的関係などに左右されないCOVAXのような枠組みを通じた供給の比重を高める必要があるだろう。一方で、途上国での中国製ワクチンの普及について、欧米など諸外国は、中国の影響力の高まりと捉え、警戒する向きが強い。この点については、ワクチンを必要とする途上国の個別の事情を踏まえながら、注意深く観察する必要もあるだろう。


注1:
インドや南アフリカ共和国の提案は、ワクチンの生産技術など新型コロナ感染の予防と抑制、対応に必要な医療製品・技術などを対象とする。
注2:
米国のコンサル会社Global Health Strategiesとの合弁により設立された中国のコンサル企業(本社:北京)。
注3:
HSコード300220(人用のワクチン)に属するもの。本統計には、新型コロナウイルスワクチン以外の人用ワクチンも含まれる。もっとも、統計データの推移をみる限り、多くが新型コロナウイルスワクチンと推測される。
注4:
中国「一帯一路」網で協力文書を締結したと記載のある国を、本稿では「参加国」とした。
注5:
グローバル・トレード・アトラスで抽出可能なインドネシアの2021年1~5月累計の輸入額から算出した割合。2021年7月28日時点のデータで計上。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
小林 伶(こばやし れい)
2010年4月、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、企画部企画課事業推進班(北東アジア)、ジェトロ名古屋などを経て2019年6月から現職。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ